―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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1-12:「町と山賊Ⅱ」

 町の中心部には、この昇林の町の役所があった。

 とても豪華と言うわけではないが、左右対称でそれなりに整った作りのその建物の元には、複数の人間の姿があった。

 

「く……はぁ、はぁ……」

 

 一人は動きやすい服装にジャケットを羽織い、弓を背負っている男性。この世界で一般的に見られる猟師の格好であった。猟師の格好をした彼は、役所の建物を背にし、その手には斧を握って構えている。

 そして彼の足元には、五人分の人間の死体が転がっていた。

 彼の息は荒く、そして苦し気だった。

 

「チ、厄介なヤツだな。一人で五人も伸してくれやがって……!」

 

 そしてそんな彼を、10人近い数の人間が取り囲んでいた。彼等はいずれもあまり身綺麗とはいえない恰好の上から、軽装の鎧を纏い、その手には剣や斧などの得物を手にしている。

 彼等は皆、山賊であった。

 この町を略奪目的で襲撃し、奪い、火を放ち、そして今はそれを邪魔立てする目の前の猟師の男性を排除すべく、それぞれ手にした得物の切っ先を向けていた。

 

「うらぁッ!」

 

 猟師の男性を取り囲んでいた男の内の一人が、その手に握った斧を振り上げて、猟師の男性に襲い掛かる。しかし男の攻撃は躱され、攻撃が空振りに終わり隙のできた男の体を、反対に猟師の男性の斧が切り裂いた。

 

「ぎぁッ!」

 

 襲い掛かった男は背中を諸に切り裂かれ、先に倒れていた五人の山賊の躯へ仲間入りを果たした。

 

「糞、またやられた!」

「あぁ……だが奴の体に傷が増えたぜ」

 

 山賊の一人が仲間がまた一人やられた事に悪態を零すが、同時に別の山賊が笑みを浮かべて、猟師の男性を見る。

 

「ッ……!」

 

 猟師の男性は先の一太刀を完全に避け切る事はできていなかった。彼の腕には斧による切り傷が出来ている。いや、それだけではなく彼の体のあちこちには、山賊から受けた物と思われる傷ができていた。

 

「へへ、そろそろ限界みてぇだな。傷も痛ぇだろ?」

 

 山賊達の中でもリーダー格らしき男が、猟師の男性に言葉を投げかける。

 

「どうせ逃がしたあのガキも今頃捕まってる頃だろう、こっちもいい加減終わらせてもらうぜ!お前等、一斉にかかれ!」

 

 リーダー格らしき男は、周りの山賊達に命じる。そして周りの山賊達は、猟師の男性に一斉に襲い掛かろうとする。

 しかし山賊達が猟師の男性に襲い掛かろうとした直前、その場に居る全員が、奇妙な唸り声のような音をその耳に捕らえた。

 

 

 

 小型トラックは町内の小道を右に左に曲がり進み、この町の役所の近くまでたどり着いた。そして乗車している各員は視線の先に、役所の元で多数の人間が一人の男性を囲んでいる様子を確認した。

 

「あ、あれです!あの真ん中にいるのが猟師のお兄さんです!」

 

 そして、それまで荷台で初めての自動車に驚き若干怯えていた少年は、猟師の男性の姿のその目で確認すると、運転席と助手席の間から身を乗り出して、河義に訴えた。

 

「あれか――鳳藤、一度停車しろ」

「は!」

 

 鳳藤がブレーキを踏み、小型トラックは集団から数十メートル程距離を取った位置で停車する。そして河義は助手席で拡声器を手に取り、視線の先にいる集団に向けて言葉を発し始めた。

 

《こちらは、日本国陸隊です!全員、その場で停止し、武器を置きなさい!》

 

 拡声器越しの独特な音声が、山賊達に向けて響き渡った。

 

 

 

「何だぁ?アイツ等!?」

 

 突然現れた奇怪な荷車と、それに乗る奇妙な恰好の者達に、山賊達の注意は猟師の男性から反れてそちらへと向く。

 

《こちらは、日本国陸隊です!全員、その場で停止し、武器を置きなさい!》

「うわ、なんだこの声!?」

 

 そして響き渡った異質な音声に、山賊達は驚き狼狽える。

 

「何だぁ?何かわけの分からん事言ってやがるぞ?」

「おい、さっき逃げてったガキがいるぜ?追っかけた連中は何やってんだ?」

 

 おかしな者等の登場と 異質な音声を前に、山賊達は口々に発する。

 

「は!よく分からんが、獲物が増えたぜ。先に奴らをやっちまえ!」

 

 しかしリーダー格の男の言葉を皮切りに、彼等は標的を猟師の男性から奇妙な一団へと移し、それぞれの得物を手に駆け出していた。

 

 

 

「――やはり警告ではダメか……」

 

 河義は助手席で苦々しく言葉を零し、手にしていた拡声器を足元へ置く。

 警告の言葉も空しく、山賊の集団は得物を手に、明確な殺意を持ってこちらへと迫っていた。

 

「だが調度いい。あの兄ちゃんから離れてくれた」

 

 制刻が言う。

 制刻は荷台のベンチシートに仰向けに寝そべるように座り、その姿勢で小銃を構えていた。

 

「河義三曹、いいですね?」

 

 そして制刻は河義に攻撃の許可を求める。

 

「仕方がない……彼等を無力化する!各個に撃て!」

 

 河義が命令を下し、車上の各員はそれぞれの装備する銃器を構え、発砲を開始した。

 まず策頼の操るMINIMI軽機が再び唸り、真正面から突撃して来た山賊達に5.56㎜弾の雨を浴びせる。機関銃弾の猛攻を真正面から諸に受けた山賊達は、「ぎゃぁ!」「ガハッ!」といった悲鳴を上げて、次々に倒れて言った。

 

「な、なんだぁ!?何が起こってやがる!?」

 

 突然の事態に、リーダー格の男は声を荒げて狼狽する。

 

「な、なんだよコレ!?どうなって――ぎぇッ!?」

「当たった……!」

 

 鳳藤が汗を一筋垂らしながら零す。

 MINIMI軽機の掃射を逃れた山賊も、各員の小銃射撃により倒されてゆく。

 

「糞、ふざけんなよ!こんなの聞いてね――ぐぁッ!」

「うまく命中った」

 

 そしてリーダー格の男も、制刻の小銃から放たれた5.56㎜弾に胴を貫かれ、亡骸の仲間に加わる事となった。

 

 

 

 山賊の一団の無力化が完了し、周辺に響くのは小型トラックのエンジンの回転音のみとなった。

 異質な荷車に乗る異質な者達に、猟師の男性は半ば呆然しながら視線を送っていた。

 突然合わられた彼等は、つい先程まで自分を囲っていた山賊の一団を、武器なのか魔法なのかも分からない不可解な術により、瞬く間に殲滅してしまった。

 

「一体……なんなんだ……?」

 

 思わず零した彼の耳が、何か唸り声のような音を捉える。

 

 そして異質な荷車が馬やロバに引かれる事も無く、こちらに向かってくる様子が彼の目に映った。

 

「ッ……」

 

 山賊に追い詰められていた状況を、彼等に救われたことは事実であったが、しかしその正体や目的、彼我は未だ不明だ。猟師の男性は、近づいて来る奇怪な荷車に警戒の姿勢を取る。

 しかし彼は、近づいてきて停止した荷車から、飛び降りて来た存在に驚くこととなった。

 

「お兄さん!」

「!、ロナ君!?」

 

 異質な荷車から飛び降りて来たのは、先程自分が山賊達の手から逃がした少年であった。

 

「お兄さん、大丈夫?」

「あ、あぁ……でも、なんでロナ君が……?」

「あの人たちが助けてくれたんです」

 

 ロナと呼ばれた少年の視線を追いかけ、猟師の男性はこちらへ近づいて来る人物に気が付く。

 緑を基調としたこれまた異質な服に身を包んだ男。その体の前には、黒色の杖のようなものを下げている。不可思議な人物の接近に、猟師の男性は再び警戒の色を見せる。

 

「大丈夫ですか?」

 

 しかし、近づいて来た男からはそんな言葉が発せられた。

 

「あぁ、心配しないで下さい。私たちはニホンコクリクタイの者です。あなたに危害を加えるものではありません」

 

 そして異質な恰好の男は、不可解な自己紹介をしてみせた。

 

 

 

 河義は飛び出して行った少年を追って、猟師の男性の前に立つと、自己紹介と危害を加える者では無いという旨を彼に伝える。

 

「何者なんだ……アンタ等……?」

 

 しかしそれだけで彼の疑問を解決することは、やはりかなわず、猟師の男性は河義に向けて以前警戒の視線を向けながら、そんな言葉を発した。

 

「山賊どもを一瞬で蹴散らしてみせたな……あんな魔法は見た事がないぞ。それに……なんだい?その勝手に動き回る荷車は?」

 

 続けて質問の言葉を発する猟師の男性。

 

「それを全て説明するには長くなるのですが……」

 

 河義は何から説明すべきか、少し困りながら言葉を発そうとする。

 

「河義三曹!」

 

 しかしその時、車上でMINIMI軽機に付く策頼、河義を呼ぶ声が響いた。

 

「前方からこちらに迫る人影があります!数は分隊規模!」

 

 策頼は続いて報告の言葉を発する。小型トラックの進行方向、100m程先にある曲がり角から、10人近い集団がこちらに迫って来る姿が見えた。

 

「こっちだ!」

「あれだ、妙な奴らがいやがる!」

 

 そして集団から上がる声が微かに聞こえてくる。おそらく騒ぎを山賊の仲間が騒ぎを聞きつけ、駆け付けて来たのだろう。

 

「糞……奴らの仲間だ……!」

 

 猟師の男性は、山賊の集団を目にして苦し気な声で零す。

 

「ッ、増援か。あなたはこの子と一緒に隠れていて下さい」

 

 河義は猟師の男性に促す。

 

「だが……!」

「大丈夫、我々で対応します」

 

 策頼がMINIMI軽機の引き金を引き、新たに現れた山賊の集団に向けて発砲。集団に撃ち込まれた5.56㎜弾の群れが、山賊達をなぎ倒す。そして掃射を逃れた者達を、各員の小銃が狙い、倒してゆく。

 新たに現れた集団の無力化は、早々に完了したかに見えた。

 

「――ッ!河義三曹、また敵の増援です!」

 

 しかしその時、鳳藤が叫ぶ。前方からさらに分隊規模の山賊の集団が現れる。

 

「河義三曹、後ろからも来ます」

 

 さらに、制刻が小型トラックの後方に視線を送りながら発する。言う通り、背後にある交差路の影からも別の集団が現れた。

 

「ッ、発砲音が奴らを集めてしまったのか……!」

 

 河義は悪態を吐く。

 

「策頼、引き続き前方の集団に撃て!制刻と鳳藤は後方の集団に対応しろ!」

「了」

「了解」

「は、はい!」

 

 河義は各員に指示を送ると、指揮官用無線で通信を開き、ハンズフリーマイクを口元に寄せて発し出す。

 

「エンブリー、こちらはジャンカー4ヘッド!こちらは目標人物と接触、保護するも敵性集団からの波状攻撃を受けている!そちらの現在位置を知らされたい!」

《ジャンカー4、こちらはすでに先に知らされた役場らしき建物の真下にいる。発砲音も聞こえている、おそらくそちらの反対側だ》

「エンブリー、こちらに合流できませんか?こちらはあまり余裕のある状況ではありません!」

《待ってくれ、この近辺は装甲戦闘車が通れそうな道が無い……。ッ、仕方がない――》

 

 そこで無線が一度途切れる。

 河義が通信を行っている合間も、山賊達はこちらへと迫り、それに対する各員の激しい銃撃は続いていた。

 その時、銃撃音に鈍いエンジンの唸り声と、履帯独特の鉄の擦れるような音か混じるのを、各員の耳が捉えた。それが装甲戦闘車の物であろう事を各員は瞬時に察したが、しかし音がするのみで肝心の姿が見えない。

 

「一体どこから――」

 

 疑問の声を上げた河義だが、その彼の耳が今度はミシ、グシャリといった何かの壊れる音を捉える。そして、小型トラックの横に位置していた役所の正面玄関が、内側から勢いよく倒壊したのは次の瞬間だった。

 

「ッ!」

 

 上がった砂埃に、思わず河義は片手で顔を覆う。

 倒壊した役所の正面玄関。その先の空間から現れたのは、他ならぬ89式装甲戦闘車であった。

 

「派手にやったな」

「建物を壊して、現れるなんて……」

 

 制刻と鳳藤は装甲戦闘車の登場の仕方を見て、それぞれ呟く。

 一方、驚愕していたのは猟師の男性とロナ少年だ。

 

「う、うわぁ……!」

「な、なんだこの魔物は!?」

 

 突然現れた、彼等にとっては正体不明の巨大な動く物体に、二人は驚きそして身構える。

 

「大丈夫、落ち着いて。あれは私たちの味方です!」

 

 そんな二人を、河義は宥めるように説明する。

 

「味方、あれが……?」

 

 河義の言葉に、猟師の男性は訝しむ顔を作りながら、再び現れた装甲戦闘車に視線を向けた。

 

 

 

 装甲戦闘車は役所の建物内部を倒壊させながら突っ切り、反対側に出て先行した小型トラックとの合流を果たした。

 

「当たりだ、見つけた」

 

 車長の穏原はキューポラのペリスコープ越しに小型トラックと各員の姿を確認し、声を上げる。

 

「これ、後で問題になりませんか?」

 

 隣で砲手席に座る砲手の髄菩陸士長が、穏原に向けて発する。

 

「仕方がないだろう、緊急事態だ……!」

 

 髄菩の言葉に、穏原は苦々しい口調で返す。

 

《エンブリー!敵性集団は道の前後から迫っています!そちらは、北側の集団に対応してください》

 そこへ、河義からの通信が両者の耳に届く。

 

「了解。藩童(はんわらし)、まず道に出ろ」

《了解》

 

 穏原の指示を受け、藩童と呼ばれた陸士長の操縦手は、アクセルを軽く踏み、徐行速度で装甲戦闘車を前進させる。そして装甲戦闘車の車体は、役所の前を走る小道を、その巨体で塞ぐように鎮座した。

 

「髄菩、砲搭を左旋回させろ。その後に同軸機銃を用意」

「……了解」

 

 砲手の髄菩の操作で装甲戦闘車の砲塔は旋回して左を向く。

そして砲身が微弱に俯角を取り、砲手用の照準器越しに、髄菩の目がこちらへ迫る山賊の集団を捉えた。

 

「……穏原車長、本当にいいんですか?」

「あぁ……すでに4分隊が交戦してる。彼等は明確な脅威だ、交戦しろ」

「ッ……了解」

 

 砲手の髄菩は、89式装甲戦闘車の各装備の中から、74式7.62㎜機関銃を選択。少しのためらいを見せた後に、射撃装置のトリガーをその指で引いた。

 撃ち出された7.62㎜弾が、装甲戦闘車が姿を現したことにより、狼狽え浮足立っていた山賊達をなぎ倒してゆく。

 薙ぎ倒され、散らばった山賊達の奥から、また別の山賊の集団が現れたのは、その時だった。山賊達は鎮座している装甲戦闘車の姿と、横たわる仲間の姿に驚きながらも、内何名かは果敢にこちらへと向かってくる。

 

「車長、新手です。およそ2個分隊規模」

「多いな。そして密集してる――髄菩、機関砲を使用しろ」

「……生身の人間相手ですよ?」

「あぁ……許可する」

「……了解」

 

 穏原の言葉を受け、髄菩は89式装甲戦闘車の主砲である90口径35㎜機関砲KDEを選択。

新手の山賊集団を照準に収め、トリガーを引いた。

 二発の35㎜機関砲弾が撃ち出され、機関砲弾はこちらへ果敢に迫っていた山賊達の足元へ着弾。着弾と同時に炸裂し、数人の山賊達を爆発と飛び散った破片で弾き飛ばした。

 

「今度は奥の方のやつ等だ」

「ッ……了解」

 

 髄菩の操作により、砲搭と砲身は微弱な修正動作を行う。そして髄菩が三度トリガーを引き、装甲戦闘車の主砲は再び火を吹いた。今度は三発の撃ち出された35㎜機関砲弾が、小道の奥で狼狽えていた山賊達の足元に着弾。再び爆発と飛び散った破片が、10人近い山賊達を次々に吹きとばし、四散させた。

 

「――アクティブな敵影無し。髄菩、よくやった」

「そりゃ、どうも……」

 

 穏原の言葉に答えた髄菩。しかしその顔は、酷く青く染まっていた。

 

 

 

 装甲戦闘車との合流により、状況は再び偵察分隊側に好転した。

 装甲戦闘車が、小道の前後から迫る山賊の片方を抑えてくれた事により、4分隊の各員は、もう片側に集中することが出来るようになった。

 車上の策頼はMINIMI軽機を180°旋回させ、小型トラックの後方から迫る山賊達に向けて、弾幕を形成していた。そしてそれまでのセオリー通り、MINIMIが撃ち零した山賊を各員の小銃が狙う。

 

「ひぃぃ!バケモノだ!なんなんだよあいつ等!」

「に、逃げ――ぎゃッ!」

 

 装甲戦闘車の登場。そして合流を果たした偵察分隊からの苛烈な攻撃に、山賊達はついにパニックに陥る。そして再編も逃走もままならないまま、ついに彼等は殲滅され、動く者は一人としていなくなった。

 

「……各員、報告してくれ」

「動くやつぁ、いません」

「同じく」

「こちらもです……」

 

 河義の報告を求める声に、制刻を始めとする各員は返答を返す。

 

「エンブリー、そちらはどうなってます?」

 

 河義は装甲戦闘車に通信で尋ねる。

 対して無線越しの返答は無く、かわりに装甲戦闘車の砲塔上に設けられた、車長用ハッチが開く様子が、河義の目に映る。

 

「こちら側の敵性集団は全て沈黙した。動く奴は見えない」

 

 そしてそこから半身を出した穏原が、そこから河義を見下ろして、直接伝えて来た。

 

「了解です」

 

 河義はそれに手を上げる動作と共に返事を返す。そして、役場の影に隠れている猟師の男性とロナ少年へ視線を向けた。

 

「すごい……」

「ふわ……」

 

 二人は、呆気に取られた様子で周辺と、そして偵察分隊に視線を送っていた。

 

「二人とも、大丈夫ですか?」

 

 河義はそんな二人に歩み寄り、安否確認の言葉を再び投げかける。

 

「あ、あぁ……」

 

 その言葉に、猟師の男性は戸惑いながら返す。

 

「あんたら……本当に何者なんだ……?山賊共の仲間じゃない事は分かったが……何が目的でこの町に……?」

 

「あぁ……先ほども言った通り、我々については話すと長くなるのですが……」

 

 猟師の男性の質問に、再び困り顔を浮かべる河義。

 

「先程も名乗らせてもらいましたが、私達は日本国の陸隊です。私達は、物資の調達、取引ができないかと思い、この町を訪問させていただいたんです」

「ニホン国の……陸上部隊?軍隊か?だが、ニホンなんて国は聞いたことがないぞ?」

「まぁ、遠くの国なんです……。そこの、軍隊と言うか、防衛組織と言いますか……」

 

 不可解な境遇にある自分達の事を、どう説明したものかと苦悩する河義。

 

「よぉ、いいか?」

 

 しかしその時、両者の間に制刻が割って入った。

 

「ッ!」

 

 禍々しい姿顔立ちの制刻の登場に、猟師の男性の表情が強張り、そして再び警戒の色が浮かぶ。

 

「あぁ……心配しないで下さい、私の部下です。――で、何だ制刻?」

 

 河義は警戒の色を見せた猟師の男性に説明してから、少し呆れた様子で制刻に問う。

 

「えぇ、俺等からも聞きたい事は山程あるでしょう。それを聞くべきかと思いまして」

 

 制刻はやや礼節を欠いた態度で、河義に進言。そして河義の返事も待たずに、猟師の男性に向けて発した。

 

「この町の生存者は他に居ないのか?まさか、アンタ等が最後の住人ってわけではないだろう」

「あ、あぁ。生き残った人たちは北側の区画に避難して立て籠ってる」

「んじゃ、まずそこに案内してくんねぇか?」

 

 まだ山賊の仲間が残っているかもしれず、少しでも守られてる場所の方が話もしやすいだろうと、制刻は猟師の男性を説く。

 

「………いいだろう。あんた達は俺やこの子を助けてくれた。信じよう」

 

 猟師の男性はすこし考える様子を見せたが、その後に制刻の発案を受け入れた。

 

「制刻、お前勝手に……」

「町のど真ん中より安全かと思いまして。それにコミュニティと接触もできる」

 

 河義の言葉に、制刻は悪びれず答える。

 

「まぁ、いいだろう……では乗って下さい、えぇと……」

「あぁ、俺はエティラ。旅の途中の猟師だ」

「こちらも申し遅れました、河義と申します。ではエティラさん、それとロナ君だったかな?二人もトラックに乗って下さい。エティラさんは、怪我の手当ても必要でしょう」

 

 偵察分隊は二人を小型トラックに乗せ、エティラの案内で、この町の住民が避難しているという区画を目指した。


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