―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

14 / 223
1-13:「町と山賊Ⅲ」

 町の北側の区画は、臨時の町人の避難所が設けられていた。

 避難区画の境目として、道には突貫的なバリケードが築かれ、境目に面する家屋の上階を見張り櫓代わりに、衛兵や有志の住人が見張りについていた。

 

「どうだ?様子は?」

 

 見張りに付く衛兵に、屋内から声が掛けられる。衛兵が振り向くと、少し肥満気味だが温和な表情の壮年男性が立っていた。

 

「あ、町長」

 

 衛兵は発する。壮年の男性は、この町の町長であった。

 

「先程まで、妙な破裂音のようなものが聞こえていたのですが、それが鳴り止んでからは、静かな状態が続いています」

「あぁ、それは私も聞いたよ」

「山賊どもが、また何かしでかしたのでしょうか?」

「分からんな……それより、エティラさんやロナは戻って来ないか?」

「えぇ……」

「そうか……」

 

 衛兵の報告に、町長は落胆する。

 

「な、なんだあれ!?」

 

 その時、窓際で見張りに付いていた有志の住人が声を上げた。

 

「どうした?」

「みょ、妙なものがこっちに向かってきます!」

「妙な物?」

 

 訝しみながら、町長と衛兵は窓際に駆け寄り、外を見る。

 

「な!?」

 

 そして目に飛び込んで来た物に、彼等は驚愕した。

 バリケードから伸びる道の先から、異質な物体がこちらに向けて近づいてきていた。

 一つは異質な者達の乗った、馬も無く勝手に動く荷車。そしてその後ろには、さらに異質な形状をした巨体の怪物が、不気味な音を立てて迫って来る姿があった。

 

「あれはなんだ……」

「山賊共の用意した怪物でしょうか……?」

「なんということだ……く!攻撃に備えろ!女子供を奥へ隠し、動ける者は武器を取るように伝えろ!」

 

 異質な一団の接近を前に、町長は衛兵や住人達に備えるように命じる。

 

「……あ!待ってください町長!」

 

 しかしその時、見張りの住人が再び声を上げた。そして住人は奇怪な荷車を指し示す。荷車の上に、立ってこちらへ手を振る人影があった。

 

「おーい町長さん!俺だ、エティラだ!」

 

 そして人影はこちらへ向けて大声で呼びかけてくる。

 

「あれは……エティラさん!それにロナも!」

 

 それにより町長は、異質な荷車の上で手を振る存在の正体に気付き、先とは別種の驚きの声を上げた。町長を始めとした彼等が驚いている間に、異質な荷車はバリケードの近くまで接近して停止。そしてその荷車からロナ少年が、続いてエティラが飛び降り、バリケードの元まで駆け寄って来た。

 

「エティラさん、ロナ!」

 

 町長は家屋上階の窓から身を乗り出し、二人に向けて声を掛ける。

 

「町長さん、心配かけてすまない。ロナ君は無事だ、あなた方の元へお返しするよ」

 

 そんな町長へ、エティラはロナの肩を一度ポンと叩きながら発する。

 

「とんでもない、二人とも無事でよかった……所で、彼等は?……それにあの怪物は……?」

 

 二人の無事に一度は胸を撫でおろした町長だったが、しかし二人の背後にいる異質な一団の存在を思い出し、その目に警戒の色を宿しながら尋ねる。

 

「あぁ……俺にも正直さっぱりなんだが……。だが、彼等が俺やロナ君を、山賊から救っくれたんだ」

 

 エティラは言いながら背後へ振り向き、町長達の視線がそちらへ集中する。異質な荷車から降りて、こちらへ歩いて来る異質な恰好の人物の姿がその先にあった。

 異質な恰好の人物は、エティラ達同様バリケードの元まで来ると、町長達を見上げて声を上げた。

 

「はじめまして。私はニホンコクリクタイのカワギと言います。物資の調達、取引が目的でこの町を訪ねさせていただきました」

 

 

 

 偵察分隊は初めは町長を始めとする町人たちに、その存在を訝しまれ、警戒されたが、エティラの口添えもあり、どうにか町に脅威を与える存在では無い事を納得してもらえた。そしてバリケードの内側へ入る事を許可されたが、さすがにバリケードを全撤去して小型トラックや装甲戦闘車を通すわけにはいかなかった。

 結果、装甲戦闘車は砲手の髄菩と操縦手の藩童を残してバリケードの外で警戒しつつ待機。小型トラックはその傍らに停車させておき、河義等4分隊の各員と、この場の先任者である穏原が避難区画内へ入ることとなった。

 

「そうですか……そんな事が……」

 

 隊員等は避難区画内にある町長の住宅へと招かれていた。

 机を挟んで町長が椅子に腰かけ、反対側では河義と穏原が同様に椅子に座っている。そしてその背後では、制刻等が姿勢を崩して雑把に並んでいた。

 

「今考えてみれば、あんた達が駆け付けてくれなければ、俺もロナ君も危なかった。お礼をいわせてくれ」

 

 両者の脇にはエティラの姿があった。状況が少し落ち着いて気持ちが落ち着いたのか、彼は警戒の色を消して、頭を下げた。

 

「よしてください。私たちは自分にできる事をしたに過ぎません」

 

 それに対して、河義が代表して言葉を返した。

 

「しかし……物資調達や取引が目的で訪れられたとは……」

「恩人のアンタ等に言うのもあれだが、正直悪い時に来たな……」

 

 町長とエティラは苦い顔を作って言う。

 

「えぇ、私達もまさかこんな事態になっているとは……」

「申し訳ございません、せっかく足を運んでくださったのに。こんな状況でなければ、ご期待に沿う事もできたでしょう……」

「よしてください!町長さんが謝ることではありません!」

 

 謝罪の言葉を述べた町長に、河義は慌てて町長の非を否定する言葉を返す。

 

「そうだ、町長さん!悪いのは山賊共だ。奴らが襲ってこなければ、こんな事にはならなかった!あんたの責任じゃない!」

 

 そしてエティラも町長を庇う言葉を発した。

 

「――ちょっといいかい?そもそも、あの山賊達はどこから湧いて出たんだ?」

 

 そこへ言葉を挟んだのは、穏原だ。

 

「あぁ、それはおそらく、この町の南東にある山からでしょう」

 

 穏原の質問に、町長は答える。

 

「南東の山――こっから見えるあれか」

 

 立ち構えている制刻が窓の外に視線を送りながら発する。町の南東方向には、連なる山々の姿が見て取れた。

 

「目と鼻の先だな」

 

 穏原が同様に窓の外に視線を送りながら呟く。

 

「えぇ、無事だった衛兵から、山賊達は南東の山の方向から攻めて来たと、報告を聞いております」

 

 さらに町長は、南東の山の頂上には、元々山師たちが拠点として使っていた小さな廃村があること。そしておそらく山賊達は国境を越えて流れて来た者達であり、廃村に住み着きそこを根城にしたのであろう事を説明した。

 

「俺達が戦ったのは、そのほんの一部だ。その廃村には、まだ連中の仲間がゴロゴロしてるだろう」

「そんなにいるのか……」

 

 付け加えられたエティラの説明に、穏原は呟いた。

 

「さらに悪い事に、少なくない数の女子供が、山賊の根城に攫われてしまったんです……」

「最悪だな」

 

 拳を握りしめて苦々しく発せられた町長の言葉を聞き、穏原は再び呟いた。

 

「あの、いいですか……?」

 

 そこで口を挟んだのは鳳藤だ。

 

「どこかに……例えば国とかに救援を求められないんですか?」

「もちろん、襲撃と同時に伝令を出しました。一番近い騎士隊のいる町まで、馬を飛ばして丸一日かかります。そして騎士隊が準備を完了して、こちらに到着するまでの時間を考えると……」

「……その間に、さらなる襲撃があるかもしれない……」

 

 鳳藤の言葉に、町長は静かに頷く。

 

「助けてもらったあんた達に素っ気ない事は言いたくないが……悪い事は言わない、なるべく早くこの町を離れたほうがいい」

 

 エティラの発した言葉に合わせて、町長は再び静かに頷いた。

 

 

 

「――以上が、町の状況です」

《また、厄介な事になっているな》

 

 河義は一度小型トラックに戻り、大型無線機を用いて高地の野営地と通信を行っていた。

 現在の通信の相手は、相手は他ならぬ井神だ。

 

「この世界は、私達の想定よりも遥かに物騒な攻界の様です……」

 

 河義は表情を顰めて、無線に声を送る。

 

「河義三曹、いいですか」

 

 そこへ鳳藤が横から割って入り、無線に向けて声を発する。

 

「町の町長さんや助けた猟師の男性からは、危険が及ばないうちに町から去るように促されましたが、私としては彼等を見捨てることはできません……。井神一曹、私達の手でなんとか彼等を守れませんか?」

 

 鳳藤は懇願するように言った。

 

「私としても同じ考えだよ、鳳藤士長。それにどちらにせよ、その山賊集団は放っておけば、我々にっても脅威となる。増援を編成して、そちらへ向かわせよう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 鳳藤は表情をパァと明るくして、無線に向けて発した。

 

 

 

「何だって?」

 

 装甲戦闘車の操縦席から、操縦手の藩童がハッチをくぐって這い出して来る。彼は、砲搭に腰掛けてチョコレートバーを齧っている、砲手の髄菩を見上げて尋ねた。

 

「増援が来るらしい。俺等が山賊からこの町を守るんだとよ」

 

 髄菩は、端から聞いていた無線の内容を藩童に伝える。

 

「成程、現地住民の保護活動ってわけだ」

 

 それを聞き、飄々とした口調で発する藩童。

 

「は、冗談じゃない、首を突っ込み過ぎだ。俺は早く帰りたいよ」

 

 言いながら、髄簿は再びチョコレートバーを乱暴に齧った。

 

 

 

 避難区域内にある町の広場。そこにエティラの姿があった。彼は周囲をきょろきょろと見渡しながら歩き回っており、何か、いや、誰かを探している様子だった。

 

「エティラさん、何かお探しですか?」

 

 そこへ町長が声を掛ける。

 

「あ、えぇ……町長さん、セネの姿を見なかったか?」

 

 周囲を見回しながら、町長に尋ねるエティラ。セネとは、彼の旅の仲間である剣士の女性の名だった。

 

「セネさんですか?彼女でしたら、怪我人の手当てを手伝ってくれているはずですが?」

「そうか、ありがとう――ん?」

 

 エティラは、視線の先にロナ少年がいる事に気付く。

 ロナは、山賊達の根城がある山を見つめ、拳を握りしめていた。

 

「ロナ君、どうした?」

 

 ロナは話しかけて来たエティラに少し驚いた様子を見せたが、すぐにその表情を神妙な物へと戻し、再び山を睨む。

 

「……ニナが……ニナがあいつ等に……」

 

 そしてそんな言葉を零した。

 

「ニナ?」

「山賊にさらわれた、その子の友達です。そして……私の娘でもあります」

 

 エティラの疑問の声に、答えたのは町長だった。

 

「そんな……じゃあ、ロナ君が町中に一人でいたのは……」

「えぇ、ニナを取り戻すため、飛び出して行ったのです……」

「無茶をしたな……だが、気持ちは分かるよ……」

 

 エティラは言いながら、ロナの肩に手を置いた。

 

「町長さんも、つらいだろうに」

「えぇ……ですが家族をさらわれた者は他にも多くいます……私だけがつらい顔はできません」

 

 エティラの同情の言葉に、町長はそう返した。

 

「ロナ!」

 

 その時、ロナ少年の名を呼ぶ声が背後から響いた。

 ロナ当人と、エティラ達が振り向くと、こちらに駆けてくる一人の女性の姿があった。

 

「!、母さん……」

「よかった!もう、心配かけて……!」

 

 女性はロナ少年の母親だった。彼女はロナへと駆け寄ると、屈みこんでロナを抱きしめた。

 

「母さん……僕、何もできなかった……ニナが……!」

 

 抱きしめられたロナは、悔しそうに声を零す。

 

「大丈夫よ……ニナちゃんはいい子だもの。きっと神様が守って下さるわ」

 

 ロナの母親は、ロナを少しでも安心させようと、彼の頭を撫でながら言い聞かせる。

 

「ほら、あなたも大変だったでしょう。お母さんはまだ怪我をした人たちの手当てに戻らなきゃならないから。先に帰って、少し休んでいなさい……」

「うん……」

 

 母親に言われ、ロナは気落ちした表情のまま、家路へと着いた。

 

「……あの、エティラさん!大事なお話が……!」

「はい?」

 

 ロナを見送った母親は、エティラに振り返ると、それまでの落ち着いた態度を崩し、エティラに向けて焦った様子で訴えだした。

 

「セネさんが……セネさんが、ニナちゃんやさらわれた人達を助けるために、一人で山賊達のいるあの山に……!」

「な、なんだって……!?」

 

 母親のその言葉に、エティラの表情がこれまで以上に険しくなる。

 

「あいつ……ここを守るよう言っておいたのに、なんだってそんな無茶を……!」

「私のせいなんです……私がロナやエティラさんがなかなか帰らない事を心配して、弱音を吐いたりしたから……!」

 

 今にも泣き崩れそうな声色で、ロナの母親は事情を話す。

 

「俺がやられて、ロナ君までさらわれたと考えたのか……ッ、あいつは事態を悪い方向に早とちりするきらいがあるから……」

 

 苦虫を噛み潰したように発したエティラは、町長に向き直る。

 

「町長さん、借りられる馬はないか?」

「馬ですか……厩舎に行けば何頭か……」

「よし、一頭借りるよ!」

 

 言うと、エティラは駆けだそうとする。

 

「待ってください!エティラさん一人で行く気ですか!」

 

 町長は慌てて制止の言葉を発する。

 

「放っておくわけには行かないんだ!」

 

 しかしエティラがそれで止まる事は無く、彼は厩舎の方向へと駆けて行った。

 

 

 

 偵察分隊が高地に連絡を取り、増援を要請してから数時間程が経過していた。

 避難区画内と外を隔てるバリケードの近くでは、制刻と策頼がたむろしている。

 制刻はバリケードに隣接する家屋の壁に背を預け、策頼は玄関口の段差に腰掛けている。家屋の上階で見張りをしている衛兵や住人が、訝しむ視線を向けて来ていたが、制刻等に特に気にした様子は見られなかった。

 

「ヤバイ世界ですね、ここ」

「まぁな」

 

 真顔で淡々とそんな会話を交わす二人。

 

「おいお前達。少しは人目を気にして――」

 

 そんな二人の様子を見かねたのか、鳳藤が咎める声を上げながら二人に近づこうとする。しかし、隣接するバリケードが開かれ、両者の間を割って一頭の馬が勢いよく駆け抜けて行ったのは、その時だった。

 

「ひゃッ!」

 

 危うく跳ね飛ばされかけた鳳藤は、素っ頓狂な声を上げながら飛び退いた。

 

「今のは、エティラさん?」

 

 立哨に付いていた河義は、その馬に跨っていたのが、エティラであることに気付いた。

 

「え、エティラさん……!」

 

 そして少しの間をおいてから、町長が息を切らしながらバリケードの向こうから出て来た。

 

「町長さん?一体何があったんです?」

「あぁ、皆さん……それが……」

 

 町長は事の仔細を河義等に説明する。

 

「エティラさんの仲間が一人で……!?なんて無茶を……!」

「そしてエティラさんも単騎でそれを追いかけて言ったのか……」

 

 説明を聞いた鳳藤が険しい顔で声を上げる、河義が苦い表情で呟く。

 

「どうするんだ?放っておくにはいかない雰囲気だが」

 

 傍らにいた穏原が発する。

 

「追いかけて連れ戻しますか」

 

 そこへ制刻が進言の言葉を発した。

 

「山の偵察もできて、丁度いいでしょう」

「丁度いいって、お前な……!」

 

 制刻のいささか不謹慎にも思える発言に、鳳藤は咎める声を上げる。

 

「いや、だがエティラさんの事は追いかけた方がいい」

 

 しかし河義は制刻の発案を受け入れた。

 

「穏原さん、4分隊でエティラさんを追いかけます」

「俺等は同行しなくていいのか?」

「まだ山賊の襲撃がある可能性は捨てきれません。 装甲戦闘車は、増援が到着するまでは、ここで待機警戒をお願いします」

「ん、了解」

「4分隊各員、乗車しろ。これより偵察行動に出る。間もなく日が落ちる、夜間装備も確認しておけ」

 

 河義の指示を受けて、制刻等4分隊の各員は小型トラックに乗車。エティラを追いかけ、出発した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。