―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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13-3:「第21観測壕、抵抗戦」

「………!」

 

 眼下の、自身を庇い代わりに痛ましい姿と成り果てた麻掬の姿に、美斗知は目を剥き言葉を失っている。

 

「ぁぁぁ……嫌……!こんな……!」

 

 一方の祝詞は、惨劇を目の前に、悲鳴と狼狽の声を上げ零している。

 

「祝詞ッ!」

 

 しかし祝詞のその身体は、次の瞬間には崖胃により塹壕内へと押し込まれた。

 

「塹壕の外に身を出すな!誉士長、奴の姿を確認できるか!?」

「後ろです、後ろにいます!」

 

 崖胃の尋ねる声に、塹壕の後方を示して誉が答える。

 塹壕の後方少し先に、ちょうど着地した傭兵の姿が見える。それこそ、今、麻掬の身を裂き命を奪った、下手人の姿であった。

 

「野郎ッ!」

 

 崖胃は着地した直後のその無防備な姿を狙い、すかさず小銃を構えて向け、発砲。しかし傭兵は振り向きもせずに大剣だけを振るう動きを見せる。

 そして聞こえ来る微かな金属音。それは、大剣により銃弾が弾かれた音であり、その傭兵は負傷した様子も見せず、健在であった。

 

「銃弾が通用していない――誉士長、てき弾だ!炸裂火器を使え!」

「了!」

「鈴暮一士ッ!無線で応援を要請しろ!」

「はい!」

 

 それぞれへ指示を飛ばす崖胃。

 それを受け、誉は小銃てき弾の容易に掛かり、鈴暮は無線機に飛びつく。

 

「すべてのユニットへ、こちらスナップ21!応援を要請する!現在当ユニットは強力な敵の襲撃を受けている!攻撃により麻掬三曹が死亡!敵は人間離れした動きでこちらを撹乱し、さらに銃弾を剣で弾いて無力化して来る!送れッ!」

 

 無線に飛びついた鈴暮は、通信回線を開き、そして一気にまくし立てた。

 

《スナップ21、もう一度言え。麻掬三曹が死亡したといったか?》

「そうです!戦死ですッ!未だに脅威は健在、至急応援をッ!」

 

 返される、長沼の声での確認の通信。それに対して鈴暮は、叫び繰り返す。

 一方その傍らで、崖胃は小銃てき弾の準備ができるまでの時間稼ぎとして、傭兵に向けて牽制射撃を行っていた。

 

「美斗知士長、祝詞士長!大丈夫か、動けるか!?」

 

 弾を視線の向こうの脅威へとばら撒きながら、崖胃は武器科の両名に呼びかける。

 

「麻掬三曹……!こんな、こんな……ッ!」

 

 祝詞は、切断された麻掬の上半身を膝の上で抱え、嗚咽を漏らしている。

 

「しっかりしろ!嘆くのは後だ、今すべき事をするんだぁッ!」

「ッ――了……ッ!」

 

 その彼女に飛ぶ、崖胃の叫ぶような訴え。それを受け、祝詞はなんとか返事の声を絞り出す。

 

「よし、武器を取れ!前方からも敵は迫ってる、奴らに向けてばら撒き続けろ!」

 

 自身も射撃を続ける傍らで、指示を出してゆく崖胃。

 

「美斗知士長!お前も大丈夫なら武器を取れ、あの大剣持ちの傭兵に向けて牽制射撃だ!」

 

 続けて美斗知へ指示を出す中崖胃。しかし、美斗知からの返答は返ってこない。

 

「美斗知どうした!負傷したか?なら――」

 

 返答の無い事に美斗知の負傷を疑い、その上での呼びかけを発し上げようとした崖胃。

 

「――あいつ……あいつァァッ!」

 

 その崖胃の言葉を遮り、濁りドスの利いた言葉が上がったのは、その瞬間であった。

 

「美斗知!?」

 

 声の主は美斗知。

 それまで塹壕の底に座り込み呆然としていた美斗知は、しかし驚きそちらを向いた崖胃等の前で、跳ね上がるような動きを見せた。

 血走った眼で、落ちた小銃を掴み拾う彼。そして直後、美斗知は塹壕を飛び出す。そしてあろうことか、大剣を持つ敵傭兵の真正面に向かって吶喊を仕掛けてた。

 

「美斗知ッ!?何を――!」

 

 美斗知の突然の狂行に、誉が声を上げる。

 

「俺が行く!」

 

 しかし直後には、横から崖胃の声が飛ぶ。誉が視線を移せば、美斗知を追いかけ、崖胃が塹壕から飛び出す崖胃の姿が移った。

 

「崖胃三曹!?」

「美斗知をなんとかあの敵から引き離す、隙があったら撃て!」

 

 誉等に向けて指示を発し上げながら、崖胃は先に向けて駆けた。

 

 

 

 大剣を手にする女傭兵、すなわち剣狼隊長クラレティエは、己の大剣を操り迫りくる銃弾をいとも容易く跳ねのけている。

 

「ふむ、どうするか」

 

 突破口を開くべく、部下の傭兵に先んじて塹壕の後ろへ回り込んだ彼女は、敵の目を引き付けながら、次の手を考えていた。

 

「敵の風変りな投射器は排除した、いずれ猟犬達が追いつくだろう。それまでここで敵の注意を引き続けてもよいが……」

 

 しかしその時、クラレティエの目が、塹壕から飛び出て来る人影を捉えた。

 

「敵はあまり、のんびりさせてはくれないようだ」

 

 その人影の正体は、他でもない美斗知だ。

 

「ォオオオオオオッ!」

 

 彼は引き金に指をかけ、小銃を撃ちっ放しにしながらクラレティエへ向けて突撃する。

 

「っと」

 

 襲い来る銃弾を、クラレティエは大剣を盾の代わりにして防ぐ。

 

「ふむ――む?」

 

 銃弾を防ぎ切り、構えを解いたクラレティエ。

 ――その目の前に、美斗知の姿があった。クラレティエの僅かな動作の隙に、彼は小銃に着剣された銃剣の、刺突攻撃の有効範囲まで接近していた。

 

「――死ねェァ!」

 

 間合いに踏み込み、吐き上げる美斗知。同時に彼は、小銃を握り潰さんがばかりの力で握り、銃剣の切っ先を突き出した。

 

「――ッ!」

 

 しかし――銃剣は空を切る。正面にいたはずのクラレティエの姿が、突如消えた。

 

「勇敢だが――愚かだな」

 

 否、クラレティエは頭上にいた。風に舞うような後方転回(バック転)で上空へ逃げ、水美斗知の放った刺突を回避したのだ。

 

「考えのない行動は、隙を産むぞ」

「あ――」

 

 そして空中に浮いたまま、美斗知目がけて大剣が振り下ろされる。迫る大剣の刃を前に、しかし美斗知は反応が取れずに、声だけが零れる。

 

「――美斗知ッ!」

 

 だが、大剣が振り下ろされる直前、声と共に別の人影が割り入った。

 

「何?」

 

 現れた人影は美斗知の体を掻っ攫い、その場から消える。そしてクラレティエの斬撃もまた、空を切る事となった。

 

「ヅ――!」

 

 突然のタックルに、再び地面へ倒れ込む事となった美斗知。

 

「無茶をッ!あいつのヤバさが見えてないのか!?」

 

 彼の危機を救ったのは、他でもない崖胃だ。崖胃は美斗知に発しながらも、片手で構えた小銃をクラレティエへ向け、牽制のために弾をばら撒く。そして美斗知の服を掴み、彼を引きずりながらその場から退避を始めた。

 

「ふむ、今の動きは悪くなかったぞ」

 

 一方のクラレティエは襲い来た銃弾を大剣で凌ぎ、そしてまるで生徒に指導をする教師のような口調で呟きながら、地面へと着地する。

 

「だがその後の動きも、もう少し考えるべきだな」

 

 自分から距離を取る崖胃等へ視線を向け、剣を動かそうとするクラレティエ。

 ――しかしその瞬間、彼女を包むように爆炎が上がった。

 

 

 

「どう!?」

 

 崖胃等が敵傭兵から離れたタイミングを見計らい、鈴暮が傭兵に向けて小銃てき弾を撃ち込んだ。爆炎に包まれる敵影。だが数秒後に爆炎が晴れるとそこからは、大剣を盾とし、攻撃を物ともしていない敵の姿が現れた。

 

「嘘でしょ……」

「ふざけてやがる――鈴暮、二発目急げ!」

「ッ、はい!」

 

 鈴暮を次弾装填のために塹壕に引き込ませ、誉はMINIMI軽機を用いて足止めのための射撃を再開する。

 

「ありえない、ふざけてる!なんなのよこいつ等は!」

 

 塹壕の反対方向へは、祝詞が小銃をフルオート射撃で撃ち、前方から迫る傭兵達を食い止めている。

 

「こっちが知りてぇよッ!」

 

 祝詞の泣き叫ぶような声に、荒げ返す誉。

 

「ッ!弾切れ、再装填!」

「再装填、了!急げよ、余裕は――」

 

 そこで祝詞の小銃の弾倉が底を付きる。

 再装填作業に入る事を告げる祝詞の言葉に、誉は返答。そして急かす言葉と共に、一瞬だけ彼女の様子を確認しようと振り返る。

 ――その彼の目に、異様な光景が映った。

 

「――祝詞?お前……首のそれ、なんだ……?」

「え?」

 

 突然かけられた、誉の要領の得ない言葉。祝詞は言葉の意味を理解できないまま、示された自身の首元に視線を落とす。

 

「――は?」

 

 そして彼女、自身の体に起こる異様な光景に気付いた。

 彼女の首周りを、濃灰色のモヤのような物体が、まるで土星の環のような形を作り、回っていた。

 

「――嘘……え!な……何これッ!?」

 

 自身の首元を渦巻く、謎の物体を目にして。祝詞は声を上げる。正体不明のモヤを掴もうとしたが、モヤは彼女の手をすり抜けた。

 そして、回転するモヤは次第にその速度を速め始めた。

 

「やだ……!なにこれ、嫌だよ!」

 

 モヤは体積を減らしながら動き、次第に彼女の首元へと収束してゆく。正体不明の物体に恐怖を感じ、祝詞は叫ぶ。

 

「落ち着け祝詞!」

 

 誉が叫ぶも、彼にも未知の現象へ対応手段は浮かばず、狼狽だけが塹壕内に広がる。

 必死にモヤを掴もうともがくも、祝詞の手は空を切り続ける。雲状だったそれは、まるで鉄製の首輪のように変質してゆく。回転速度もさらに加速し、ついに内径がチリチリと、祝詞の首に切り傷をつけ出す。

 

「ひッ!嫌、やだッ!」

 

 顔面蒼白になり、悲鳴を上げる祝詞。

 

「首を守れ!何かで遮――」

 

 そこへ誉が咄嗟の対応策を浮かべ、発し上げる――

 

「――ぁ――」

 

 ――しかし、誉の言葉が紡がれ切る前に、零れたのは掠れ声。

 異質なリングは瞬間に、祝詞の首へと一気に収束。そして無慈悲にも、彼女の首を音も無く切断した――

 

「――小夜濃――」

 

 口の中で、声にならない声で、彼女にとって近しい者の名を紡いだ祝詞。

 その彼女の頭部が切断面を滑り、塹壕の底にごとりと落下する。次いで、頭部を失った体が音を立てて倒れ、首部の切断面から大量の血を噴き出す。最後に、首と共に切断された彼女の髪が、はらりと塹壕内に舞い落ちた。

 

「な――」

「あ、あ……」

 

 目の前の光景に、驚愕し動きを止める誉と鈴暮。

 

「とりあえず一匹ね」

 

 その二人の頭上を、塹壕の上を、声と共に何者かが通過した。

 

「ッ!」

 

 その動きと気配を追い、両名は塹壕の背後へ視線を向ける。先の大剣を持つ傭兵の横に、別の人影が降り立った。

 

「ロイミか」

「遊びすぎよ、クラレティエ」

 

 新たに現れた人影は、子供だった。十代半ばにも満たないと思われる背格好と、夜闇でもひどく目立つおさげの金髪。

 

「はぁ、躾の行き届いてない野良は見れたものではないわね」

「では、お前に躾を手伝ってもらうとしよう」

 

 だが、大剣を持つ傭兵と同じ真っ黒な恰好。そして吐き出され聞こえ来る言葉と、今しがた祝詞を襲った現象。敵である事は明らかだった。

 

「あいつ等ァッ!」

 

 目の前の存在に全身が警告を発していたが、それ以上の煮えたぎる怒りが、誉を動かした。

 

「わ!せ、先輩!?」

 

 鈴暮の持っていた、小銃てき弾が装着された小銃を奪い取り、発砲。撃ち放たれた小銃てき弾が爆煙を上げる。しかし爆煙が晴れると、その場に敵の姿はなかった。視線を上空へ移せば、二人の敵は上空へ跳躍し、爆炎を優々と回避していた。

 

「おああああッ!」

 

 誉はそれを追うように塹壕から身を乗り出し、雄叫びを上げながら引き金を引き絞った。フルオートで弾がばら撒かれ、弾倉はものの数秒で空になる。撃ち出された弾頭群は空中に逃れた傭兵達へ突き進むも、大剣を持つ傭兵の手で、儚くも退けられてゆく。そして大剣を持つ傭兵は、そのまま流れるように大剣を振りかぶった。それは先ほど、12.7mm重機関銃を破壊し、麻掬の体を切り裂いた斬撃を放つための動き。

 

「ッ!」

「きゃッ!」

 

 しかし斬撃が振り下ろされる直前、敵の正面で爆発が起こった。

 

「ッ!」

 

 誉の目に、突然巻き起こった爆発で大勢を崩すのが傭兵達の姿が映る。

 

《誉ッ!何してる、死ぬ気か!》

 

 そして同時に、誉の耳にインカム越しの怒号が飛び込んで来た。

 

《美斗知と言い、お前らイカれかッ!冷静になれ!》

 

 今の爆発は、崖胃が時間調節を行い投擲した手榴弾の炸裂だった。致命弾にこそならなかったが、炸裂により敵の体勢を崩すことに成功。同時に、崖胃等のいる方向から銃火が上がり出した。

 

《下手に一撃を狙おうとするな!継続攻撃で動きを封じろ!》

「ッ――了!」

 

 崖胃等にならい、誉等も銃撃を開始した。

 

 

 

 手榴弾の炸裂により体勢を崩したクラレティエとロイミは、攻撃を中断し守りの体勢を取った。撃ち上げる砲火をそれぞれの得物で振り払いながら、体勢を立て直す。

 

「ッ……鬱陶しいわね」

「あぁ、少々周囲が騒がし過ぎるな」

 

 自分等に向けて行われる十字砲火に、二人は不快そうな表情を作った。

 

「静かにさせましょう」

「そうだな」

 

 重力に引かれ、空中へ舞っていた二人は一度地面へと足を着く。そして着地と同時に足に力を込め、再び跳躍。

 

「大地に眠りし時と命の現れよ。猛々しい姿を愚者の前へと見せよ――」

 

 クラレティエは再び空中へ舞うと同時に、詠唱を始めた。

 

 

 

 崖胃と美斗知は退避した先で、敵に向けて銃撃を続ける。敵は人間離れした跳躍を続けながら、こちらが撃ち込む弾をことごとく弾き返していた。

 

「どうすんだ、あんなんッ!」

「火力投射を続けろ!防御の姿勢を取らせ続けて、隙を与えるな!増援が来るまでこらえるんだ!」

 

 声を荒げる美斗知に、同様の荒げた声で返す崖胃。交わしながらも、敵の動きを封じるべく、銃撃を続ける両名。しかしその時、突然の振動が二人を襲った。

 

「――ッ!地震か!?」

「こんな時に……いや――」

 

 突然の地面の振動に、地震を疑う二人。しかし直後に崖胃は、地震としては揺れが異質である事に気付く。

 

「何か妙――ッ!?」

 

 瞬間、発しかけた崖胃のそれを遮るように、地面がまるで爆発でもするかのように隆起した。

 

「おぁ――痛ッ!」

 

 その衝撃で崖胃は吹き飛ばされ、視界が大きく揺れ、そして地面に投げだされた。

 

「……ッ、畜生ッ!何だって……美斗知、無事かぁ!?」

 

 幸い、大事には至らなかった崖胃。

 体に走る鈍い痛みをこらえ、飛ばされた先で起き上がる。そして視界から消えた美斗知の名を叫びながら、背後へ振り返る。

 

「美斗――」

 

 瞬間に、崖胃は絶句した。

 見れば、周囲の光景が一変していた。

 彼の眼前、それまで平坦な地であったその場には、しかし巨大な鉱石の柱が群をなしていた。先の振動と衝撃は、この鉱石群が地中から突き出してきたために起こったものであった。

 だが、今の崖胃に、そんな事実はどうでもよかった。見上げる彼の視線の先、一つの鉱石の柱の鋭利な頭頂部。

 

「が――ぁ……!?」

 

 ――そこに、背中から腹部を貫かれた美斗知の姿があった。

 

「ふむ?取りこぼしか」

 

 言葉を失っていた崖胃のすぐ側で、声が聞こえた。崖胃が背後に目を向けると、そこに降り立つ一人の人影。他でもないクラレティエだ。この鉱石群は、彼女の魔法詠唱によるものだった。

 

「やはりグラウラスピアは精度にかける、少数相手には向かないな」

 

 呟きながら、鉱石の頭頂部に貫かれた美斗知の体を見上げるクラレティエ。まるで狩の成果の感想でも述べるかのように。

 

「――ッ、てめェッ!」

 

 崖胃は即座にクラレティエへ向け小銃を構え、引き金を絞った。だが放たれた弾が到達する直前、クラレティエはすかさず頂上へ跳躍。後方転回で銃撃を交わす。そして先で着地すると、そこより反転。驚くべく速さで崖胃との間合いを詰め迫って来た。

 

「ッ!」

 

 敵影を追いかけ崖胃は発砲するが、それはことごとく大剣に弾かれ、あるいは身の動きで回避される。そして目前まで迫ると同時に、クラレティエの姿が消えた。

 

(違う、上――!)

 

 崖胃は察し、銃口を真上に向けようとする。だが、瞬間に銃の先端に生じた違和感が、それを阻害した。

 

「――な!?」

 

 またも驚愕の声を上げる崖胃。

 構えた小銃の、照門の先に見えるはずの照星が見えず、代わりにそこに人の脚部が見える。

 

「ふむ、悪くない動きだ」

 

 視線を上げると、崖胃の構えた小銃の、銃身部の上に立つクラレティエの姿があった。

 

「おもしろい武器を使う。そして、武器に合わせたであろうその動作も、また興味深い」

「――ッ!」

 

 評するようなクラレティエ。崖胃はそのクラレティエを振り下ろすべく、銃を振るい上げた。

 

「だが個人的な好みを言わせてもらえば……無粋だな」

 

 だがそれよりも先に、クラレティエは飛び空中へと逃れる。そして体をくるりと半回転させ、地面へ着地。

 

(背中を――!?)

 

 しかしそこで、崖胃は別の驚愕を覚える。

 着地直後のクラレティエが、あろうことか崖胃に背後を見せていたからだ。

 

「――ッ!」

 

 格好の的だ。崖胃は着地したクラレティエ向けて小銃を構え、そして引き金に掛ける指に力を込める。

 

「――がッ!?」

 

 そして叫び声が上がった。

 クラレティエ――ではなく、崖胃の口から。

 

「か……ぁ……?」

 

 崖胃の体には、正面より巨大な戦斧が振り下ろされていた。崖胃の右肩から、腹筋部分までが両断されている。

 

「フッ、良い太刀筋だぞクリス」

 

 クラレティエは、崖胃と彼女の間に立つ戦斧の主の少女、クリスに向けて言った。

 

「もう隊長ー!わざとらしく隙見せてェ」

 

 クリスはクラレティエに振り向いて言いながら、得物の戦斧を引き抜く。支えを失った中崖胃の体が音を立てて倒れ、地面を血で染める。

 

「たまにはお前に背中を守られるのも、悪くないと思ってな」

「!、えっへへ。そう言われると、悪くないですね!」

 

 クラレティエが隙を見せたのは、クリスの接近に感づいていたからだった。いや、崖胃も冷静であったならば、新手の接近に気付いていたであろう。だが目の当たりにした美斗知の凄惨な死が、彼を煮えたぎらせ、神経を鈍らせた。

 

「クラレティエ隊長!」

 

 そこへ別の方向から、クラレティエの名を呼ぶ声がする。振り向けば、こちらへ向かってくるクラレティエ配下の傭兵他が見えた。塹壕からの銃撃が止んだことにより、釘付け状態から解放された剣狼隊の傭兵達が追いついたのだ。クラレティエの周辺に、傭兵達が次々と集まってゆく。

 

「遅いのよ、あんた達」

 

 一番乗りを決めたクリスが、追いついた傭兵達に向けて言う。

 

「偉そうに言うなよ!お前だって、隊長が敵を仕留めるまで動けなかったくせに」

「い!う、うるさいーいッ!」

「うぎゃ!」

 

 ランスの言葉に図星を着かれたクリスは、腕を振り上げランスに拳骨を食らわせた。

 

「皆無事なようだし、元気も有り余っているようだな。何よりだ」

「あはは……」

 

 クラレティエがさわやかな表情で発した言葉に、ヨウヤは困り笑いで返した。

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