―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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フラストレーション、気持ち悪さを特に煽る回です。ご注意ください。


13-6:「エンピ換装完了、激昂博打敢行」

 第21観測壕の跡地から少し行った地点。

 クラレティエ率いる剣狼隊本隊が谷間の衛狼隊へと応援に向かい、ロイミと彼女の率いる3名の傭兵がその場に残っていた。そして彼女たちは今、囚われの身となった鈴暮を取り巻いている。

 

「ねぇ、それでこいつどーすんの?」

「ぐッ!」

 

 セミショートの女が、言いながら地面に這いつくばる鈴暮の背中を踏みつける。

 

「この子、容姿は悪くないけど、ちょっと悪い子過ぎるみたいだし。厳しく躾けなきゃいけないんじゃない?」

 

 長い髪の女が、鈴暮の姿を覗き込みながら続けて言う。

 

「当然よ。噛み癖のある野犬など論外だわ。まずは身の程をわきまえさせて、従順にさせる。それから情報を聞き出すわ。リル、あなたは周りを見張っていなさい」

「う、うん」

 

 ロイミはリルに指示を出すと、鈴暮の顔の前に立つ。

 

「分かったかしら?」

 

 そして鈴暮の顔を見下ろしながら言った。

 

「ふざけんなぁッ!」

 

 好き勝手にのたまう女達に対して吐き捨て、鈴暮は眼前まで近づいたロイミに掴みかかろうと手を伸した。だが目の前のロイミは素早く身を引き、悠々とそれを避けて見せた。

 

「おっとぉ!」

「いい加減学習しなさいな、おばかさん」

「うぐッ!」

 

 そして二人の女が鈴暮の体や手を踏みつけ、彼の体を鈍い痛みが襲う。

 

「……お前らぁ――痛ッ!?」

 

 なおも抵抗を諦めず、目の前のロイミを睨みつける鈴暮。だがその彼の頬に、突如鋭い痛みが走った。

 

「まったく、本当に覚えの悪い野犬ね」

 

 鈴暮の頬に、赤く細長い内出血の跡が痛々しく浮かび上がる。そしてロイミの手には乗馬鞭が握られている。鈴暮の頬に走った痛みは、彼女が鞭を振るったことによるものだった。

 

「いい?最後にもう一度説明してあげるわ」

 

 ロイミは手元で乗馬鞭をしならせながら、年端もいかない少女の見た目と不釣り合いな、妖艶な声色で話し始める。

 

「本当なら、躾のなっていない犬はこの場で駆除してしまうところなのだけれど――今ここで私に対する従属を誓い、すべてを洗いざらい話しなさい。そうすれば慈悲として、私の玩具として生かしておいてあげる。あなたには私の気が向いたときは、それなりに愛してもあげるわ。――どう?おバカな野犬のあなたでも、これでどうするべきかは分かったでしょう?」

「……分かった、分かったよ」

 

 観念したかのように声を絞り出した鈴暮。それを見て、ロイミはクスリと口元を歪める。

 

「――君達がそろいも揃って、碌な脳みそをしてないってことがね!」

 

 だが次の瞬間、鈴暮はロイミに笑顔を浮かべ罵倒を吐きつけた。いくら自分の生殺与奪の権を相手に握られていようとも、ここまで頭のおかしい降伏勧告を承諾するほど鈴暮は愚かではなく、弱い精神の持ち主でもなかった。

 

「………ふん」

「ヅゥ!」

 

 その直後、鈴暮を再び鞭の鋭い痛みが襲う。二度目の鞭を振るったロイミは、降伏勧告を拒絶した鈴暮を、冷たい目線で見下ろしていた。

 

「はぁ……人間ってほんと愚かなのね」

 

 そして彼女は冷たい表情のまま諦めたように呟き、鈴暮の額に指先をかざす。

 

「ッ!」

 

 何気ない物のはずのその動作。しかし、それを前にした鈴暮の背中に悪寒が走る。

 

「な、何を――!?」

「甘美なる我が愛の鞭の虜となり、従属の喜びで体を染めよ」

 

 鈴暮の叫び声を遮り、ロイミの口から魔法詠唱が紡ぎ出された。

 

「……う……ぁ?」

 

 詠唱開始と同時に、鈴暮に異常が現れた。ロイミ達に対する敵意に満ちていた鈴暮の顔が、見る見るうちに覇気を失ってゆき、瞳からは光が消えてゆく。

 

「この哀れな子犬は我が足元にすがりよる。従順たる僕をわが手に」

「ぁ……」

 

 そして詠唱が終わる頃には、鈴暮は呆けたような顔になり、目の前のロイミをぼーっと見つめていた。

 

「よく聞きなさい。今からあなたはあたしの僕よ。徹底的に使われて、惨めに果てていくただの道具となるの、分かったかしら?」

 

 詠唱が終わると、ロイミは冷酷な目つきと冷たい口調で鈴暮にそう言い聞かせる。

 

「ぁ……ぅ……」

 

 ロイミの言葉に対して、鈴暮の口からは肯定とも否定ともつかない声が返って来た。

 

「ふん、まぁいいわ。それじゃあ四つん這いになって、私の椅子になりなさい」

「ぁ……く……」

 

 ロイミが命令すると、鈴暮は言われるがままに手足を地面に付き、彼女に対して背中を差し出す。そしてロイミは鈴暮の背中に、何の臆面もなく腰を掛けてみせた。

 

「あはは、おっもしろい」

「相変わらず怖い力ねぇ」

 

 セミショートの女と長い髪の女は、その様子を面白がりながら取り巻き眺めている。ロイミが鈴暮に対して使用したのは、マニヒスレイムと呼ばれる人の精神に作用する魔法であり、掛けた対象の敵対心を奪い、あらゆる命令に従順に従う操り人形としてしまう恐ろしい物だった。

 

「ね、お嬢。あたしもこいつ使っていい?」

「好きにしなさい」

「へへ」

 

 ロイミの許しを得ると、セミショートの女は空いている鈴暮の尻側に体重をかけた。

 

「ぐぅ……」

 

 二人分の体重は鈴暮の華奢な体に負担をかけ、鈴暮は口から苦悶の声が漏らして身悶えをする。

 

「誰が動いていいといったの?」

「うぐぁッ!?」

 

 鈴暮の身悶えによる揺れを不愉快に思ったロイミは、叱咤と共に彼のわき腹付近に鞭を振り下ろした。

 

「ぷッ、それ使い物になるの?惨めに体を震わせちゃって」

「使ってみる?座り心地は悪くないよぉ?」

 

 身悶えする苦痛に身じろぎする鈴暮の姿を可笑しく思ったのか、長い髪の女は吹き出しながら発する。それに対してセミショートの女は、いたずらにでも誘うかのような調子で返した。

 

「さて、それじゃあ教えてくれる?あなた達は一体なんなの?」

「うぁ……くぅ……」

 

 鈴暮の後頭部の髪の毛を掴み上げ、鈴暮から情報を聞き出そうとするロイミ。だが鈴暮は苦しげにうめくも、質問に答えようとはしなかった。

 

「あら……まだ心のどこかで抗ってるわね」

「うっそぉ、どこまで往生際が悪いんだよ」

 

 ひどく面倒臭そうな声で呟くセミショートの女。

 

「かわいらしい見た目の割に、それなりにしぶとい心を持ってるみたいね。まぁ、それでも無駄なあがきだけれど。最初の内は術に抵抗できたとしても、すぐに従順になるわ」

 

 言い終えると、ロイミは魔法詠唱を始めた。

 

「魅惑に覆われし我が庭。これに踏み入るは皆割れの虜――」

 

 詠唱呪文が彼女の口から紡ぎ出されると同時に、彼女らの足元周辺にリング状の光が浮かび上がる。そして詠唱が終わると同時に、魔力の光は波紋のように周辺に広がり、そして消えた。

 

「プリゾレイヴ・ガーデを使ったの?」

 

 長い髪の女が、ロイミが発動させた魔法の名を口にする。この魔法は先のマニヒスレイム同様、人の精神に作用し、発動者へ一定の距離まで近づいた敵対心を持つ人間を無力化する効果があった。ロイミはこの魔法で自分の周辺に安全地帯を作り出したのだった。

 

「これで邪魔は入らないわ。一息つきながら、この野良犬をじっくり躾け直すとしましょう」

 

 

 

 潰された塹壕から少し離れた所の崖際。その陰から突如、ぬっと人の腕が伸び現れた。まるで妖怪のごとき不気味さで現れた何者かの腕は、崖際に生える草を掴み、地面をかきむしりながら這い上がって来る。

 

「ヅァァッ……畜生がぁ……」

 

 悪態と共に這いあがってきたのは、他でもない誉だ。傭兵の放った落雷攻撃を受けて、崖から落下していった誉だったが、幸い落雷攻撃は彼に直撃はしていなかった。そして落下の途中で、崖の突起部を利用してどうにか踏みとどまったのだった。

 

「奴等……第2攻撃壕のほうに飛んでいきやがった」

 

 誉は崖をよじ登る最中に、人間離れした身のこなしで対岸へと向かう傭兵達の姿を目撃していた。

 

「まずいぞ、向こうに伝えないと……」

 

 その時誉は、視線の先の人影に気付いた。

 

(ッ、やばい!)

 

 すかさず身を低くし、近くの魔法攻撃によってできた鉱石柱に這いより、身を隠す。

 

(畜生、見張りを残してやがった!)

 

 心の中で悪態を吐きながら、様子を伺うために鉱石柱から顔を覗かせて目を凝らす。

 

(せいぜい3~4人か、殺れるか……?さっきのヤバい奴が混じってなければ――ッ!?)

 

 観察のために目を凝らしながら考えを巡らせていた誉だったが、次の瞬間、目に飛び込んで来た光景に彼は絶句した。敵の内、真ん中に位置する二名が何かに腰かけている。遠目に見た時には岩か何かと思った誉だったが、信じ難いことにそれは岩などではなく、両手両足を地に着かされた鈴暮だった。

 

《――が動いていいといったの?》

《うぐぁッ!?》

 

 驚愕したのも束の間、インカムから何者かの声と悲鳴が聞こえて来た。

 

(!、今の――ッ!?)

 

 誉は、悲鳴は鈴暮のものだと気づく。そしてその前に聞こえた女の台詞は、察するに視線の先でたむろしている敵のものだ。どうやら鈴暮の付けているインカムが、傭兵達の会話の内容を拾ったらしい。

 

《ぷッ、それ使い物になるの?惨めに体を震わせちゃって》

《使ってみる?座り心地は悪くないよぉ!》

 

 さらに続けて聞こえてきたのは、また別の敵傭兵のものと思われる複数の女の笑い声。敵は鈴暮を捕虜に取り、あろうことか彼をいたぶることを楽しんでいた。

 

(あ………あの、ゴミ女共ォッッ!!)

 

 状況を把握したと同時に、誉の全身を激しい怒りと殺意が走り抜けた。頭に血が登り、目は血走り、握った拳から血がしたたり落ちる。

 

(ッ!落ち着け………冷静になれ………)

 

 今すぐにでも、鈴暮を足蹴にする女共を殺すべく、飛び出して行きたい衝動を、しかし誉は必死で押し込めた。闇雲に出て言って敵に飛び掛かっても、先の戦闘の二の舞になるだけだ。

 

(畜生……!どうする?敵のうち一匹は、さっきのふざけたガキだ……)

 

 最悪の状況から鈴暮を救い出すべく、誉は考えを巡らせる。

 観察により確認できた敵は四人。そのうちの一人は、先の戦闘で超人的な動きを見せ、そして魔法により祝詞を死に追いやった金髪の子供だ。

 できれば奇襲による強力な一撃を、それが無理なら短時間でも敵を怯ませて無力化し、鈴暮を回収する隙を作る必要がある。

 しかし、それを実行するための物が、今の誉の手元には一つも無かった。先の襲撃で、重機関銃を始めとする重火器はほとんどが失われ、先ほどまで使っていた小銃すら、落下時の衝撃で破損し使用不可能となっていた。そもそも鈴暮が捕らわれている以上、巻き込む危険のある火力の大きい兵器は使えない。そして少数あったフラッシュグレネード等の非殺傷兵器も、今は塹壕と共に土の中だ。

 

「………直接殴るしかねぇ」

 

 誉は接近戦を決断した。しかし殴ると言っても、当然闇雲に拳を振り回して突撃するわけにはいかない。

 

(問題はどうやってギリギリまで近づくかだ……)

 

 土砂降りであったならば、音と夜闇に紛れて容易に白兵距離まで接近できただろう。しかし間の悪いことに雨は小降りになっていた。今の環境でも一定距離までは接近できるだろうが、敵の懐まで飛び込むにはいささか不十分だった。

 

(せめて足音を消せる何かがいる……何かないか……)

《こち……モータ……。座標2-3-……ドロー……2へ砲撃――。着弾ま――》

 

 考えていた誉の耳に、突然雑音混じりの音声が飛び込む。突然の音声に、誉は驚きの声が漏れそうになるのを堪えて、音声の発信源に視線を向ける。そこには一部が土にめり込んだ、大型無線機が鎮座していた。地中から突き出て来た鉱石柱が塹壕を襲った時、上空に巻き上げられて放り出されたのだろう。

 受信音声には雑音が混じっているものの、まだ機能は生きているようで、迫撃砲の砲撃座標と弾着までの時間が伝えられる。そしてその予告どうり、数秒後に谷間で着弾音が聞こえた。

 

《モーターよ……L2へ。……止砲撃継続……座標3-1-4。座標変……次第砲――》

(砲撃音……使えるか)

 

 誉は迫撃砲支援による砲撃音を利用して、足音を隠すことを思いつく。

 

(タイミングを合わせて敵の懐に踏み込み、殴りつける……はっ、どれを取ってもひでぇ博打だ)

 

 自分の立てた作戦の漠然具合に、誉は苦笑いを浮かべる。

 

(待ってろよ、鈴暮)

 

 無線機の傍には、同様に鉱石柱に巻き上げられて落下したものであろう、エンピが落ちている。誉はそのエンピを掴み寄せると、前進を開始した。

 

 

 

 女達にそういった直後、彼女の耳に遠くからの爆音が届いた。

 

「はぁ、にしても耳障りね」

 

 聞こえて来た爆音に対してロイミは不快感を示す。

 

「あれ、敵の魔術かなぁ?変な武器も使って来たし、こいつらなんなんだろうねー?」

「見るに、どこか僻地の傭兵部族か何かじゃないかしら?標的の村が雇い入れたんじゃないの?」

 

 長い髪の女とセミショートの女が鈴暮の姿を見下ろしながら話す。

 

「なんでもいいわ。久しぶりの戦いでクラレティエが張り切ってるし、そう時間もかからずに全部片付くわよ」

「あらあら、人間嫌いのロイミ様だっていうのに、クラレティエ隊長のことは随分信頼してるのね?」

「信頼かどうかはともかく、ある程度評価はしているわ。あの子は他の人間と違って良い身のこなしをするし 教えた魔法の飲み込みも早かったから」

 

 仏頂面で、しかしクラレティエに対する高評価を口にするロイミ。700歳を超える彼女にとって、周りの傭兵達は皆、未熟な子供も同然だったが、秀でた能力とカリスマを持つクラレティエに対しては友として一目置いていた。

 

「……ふん」

 

 人を褒めることをあまりしない彼女は、自分の柄にもない発言にむず痒さを覚えたのか、仏頂面を続ける。その時、ロイミは自分に向けられる視線に気づいた。

 

「リル、見張りを怠って何をぼーっと見ているの?」

 

 視線の正体はリルだ。見張りを命じられていたリルだったが、彼はこっそりと振り返り、ロイミ達の様子を盗み見ていた。

 

「うぁ!ご、ごめん」

 

 叱責されると感じ、体をびくりと震わせるリル。

 

「あら、ご主人様が隊長や新しい僕にお熱だから、嫉妬しちゃったのかしら」

 

 しかし、長い髪の女がからかうようにそんな言葉を発した。そしてロイミもそれに同調。先ほど仏頂面一転、彼に向けて怪しい笑みを浮かべる。

 

「クスクス、なあにリル?ひょっとしてかまってほしいのかしら?」

「え……!いや、そんな……」

 

 顔を赤くする少年を見て、むず痒さのはけ口を見つけたロイミはさらに口角を上げる。

 

「プリゾレイヴ・ガーデを張ったし、見張りももういいわ。それより……あなたも私に奉仕なさい」

 

 言いながらロイミは、組んでいた足の片方をリルンに向けて突き出した。

 

「は……はい」

 

 命じられたリルは、ロイミに近づいて彼女の足元に傅く。そして目の前に差し出されたロイミの足を手に取り、泥で汚れた彼女の足を拭き始めた。

 

「ふふ」

 

 ご満悦といった笑みを浮かべるロイミに見下ろされながら、リルは彼女の足を拭き終える。

 

「下僕くーん、次はあたしの足を揉んでくれよぉ」

 

 それを見計らったかのように、セミショートの女が口を挟んで来た。

 セミショートの女はヘラヘラと笑いながら、ブーツを脱ぎさった自分の片足を揺らしている。

 

「え、で……でも……」

 

 主人であるロイミ以外の命令の、戸惑いを見せるリル。

 

「やりなさい、リル」

「は、はい……!」

 

 しかしその主人に命じられ、リルはセミショートの女の足を揉み始めた。セミショートの女は最初の内は面白そうにリルを見下ろしていたが、やがてその表情は退屈そうな物へと変わった。

 

「へっただなー、ぜんぜん気持ちよくなーい。もういいや」

「むぷっ」

「おらっ、今度は足舐めろよぉ」

 

 セミショートの女は足先をリルの頬に押し付けと、そんなことを強要してきた。

 

「あう……そ、そんな……」

 

 戸惑いを見せたリルだったが、ロイミが変わらず笑みを浮かべているのを見ると、大人しくセミショートの女の足を舐めだした。

 

「んぅ……ぷぁっ……」

 

 しばらく命じられるがままに女の足をしゃぶっていたリルだが、やがて呼吸が苦しくなり、女の足から口をはなす。するとセミショートの女の足に代わり、今度はロイミの足先がリルの顎へと延びて来た。

 

「なぁに?頬を赤らめて惚けた表情して。こんな事させられて笑われてるのに、喜んでるわけ?」

 

 ロイミは足先でリルの喉元を弄びながら、少年の顔を見つめて言葉を紡いだ。

 

「あぁ……あぅぅ……」

「クスクス、物欲しそうな顔しちゃって」

 

 女達の加虐心は熱を上げ、足元の少年にその牙が向けられる。

 

(はぅぅ、笑われてる。みんな冷たい目で僕を見てる……うぅ、でも……)

 

 一方、女達に加虐的な笑みを向けられている少年はといえば、先ほどから続けられる行為の数々に戸惑い恥じらいこそすれど、抵抗を見せる様子は一切なかった。

 成り行きを話せばこのリルという少年は、半ば強引に魔女ロイミの使役魔としての契りを結ばされた身だった。しかし、契りを結んで以来行われてきた、魔女が躾と称する体罰の数々によって、少年の心身は歪な物に染め上げられていた。今やこの少年は、この魔女に使われることを幸福とすら感じていた。

 

「ほぉらぁ、恥ずかしがってるだけじゃ駄目よ。鞭を与えて欲しいのなら、ちゃんと奉仕なさい」

「は、はい……」

 

 遠くに爆音を聞きながら、倒錯的なやり取りは続く。ロイミはリルにさらなる奉仕を要求し、少年は笑みを浮かべる魔女を見上げながら、魔女の足を再び手に取ろうとする。

 

(恥ずかしいけど、ロイミ……ううん、ロイミ様の与えてくださる痛みと嘲笑が、僕の喜……)

 

 

 ゴギャ、と――

 倒錯的な空気と思念が支配する空間に、肉と骨がぶつかる暴力の音が割り込んだ。

 

 

「――ぎょぶぉッ!?」

 

 そして同時に響く奇妙な悲鳴。悲鳴の主は他でもない魔女ロイミだ。何者かのつま先が、彼女の顔面に叩き込まれていた。

 

(え?)

 

 何が起こっているのか分からず、リルは呆けた表情を浮かべている。少年の目の前で、ロイミは顔面を潰され、舌を突き出しながら宙へと吹き飛んでゆく。

 

「――きったねぇ畜生ケツで――他人様に乗っかってんじゃねェェッッッ!!」

 

 そして鬼神のごとき表情で脚撃を放つ、誉の姿がそこにはあった。

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