―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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15-3:「Heat Down」

「うぅっ……」

 

 地面に倒れる一人の剣狼隊の女傭兵が、苦しげな声を漏らしている。

 隊長であるクラレティエの元へと向かうための進路を妨害する敵を排除すべく、仲間たちと共に攻撃を試みた彼女は、しかし敵の奇妙な炸裂攻撃を受けてなぎ倒され、今の状態に陥った。全身の痛みに苛まれながらも、首を動かして顔を起こす彼女。

 

(くっ、そんな……)

 

 目に映った光景に、彼女は心の中で悲観の声を漏らす。

 周囲には、敵の攻撃の餌食となった仲間の傭兵達の亡骸がいくつも見える。そしてその先に、彼女達をこの凄惨な状況においやった、敵の禍々しい姿があった。巨大な体躯を持つ、亜人の一種と思われる敵。その敵が掲げる太く強靭な片腕には、果敢に挑んだが力及ばず倒された傭兵の体が、頭部を掴まれてぶら下がっていた。

 

(こんな……こんな敵がいるなんて……)

 

 敵の姿とその凄まじさに、恐怖の感情を覚える彼女。

 

(……でも……!)

 

 しかし彼女は歯を食いしばり、そして落ちていた剣の柄を握り直す。

 

(私たちは隊長と共に、どんな時も乗り越えて来た……隊長がいる限り私たちは負けない……諦めないッ!)

 

 意を決し、視線の先に居る巨体の敵に立ち向かうべく、彼女は立ち上がる――

 ゴリュと、彼女の後頭部が金属の感触を感じ取ったのは、その瞬間だった。

 

「?――びょッ」

 

 乾いた破裂音が響き、女の額が内側から突き破られて穴が開いた。その額の穴からは鮮血が吹き出し、女の口からは妙な音が漏れる。そして支えを失った彼女の身体は、再び地面に沈み込んだ。

 

「しつけぇっつの」

 

 死体の後ろからウンザリとした声が上がる。そこに立っていたのは他でもない竹泉だった。彼の手に握られる9mm拳銃からは、微かに硝煙が上がっている。

 

「ったく、ようやく静かんなったか?」

 

 竹泉は呟きながら、他に抵抗を試みる敵がいないか周囲に視線を向ける。

 

「コースはこれで終わったっぽいなぁ。デザートのさぁびすが無けりゃだけどヨォ」

 

 岩場に足を掛け立っていた多気投が、竹泉の言葉に返しながら、掴み上げていた傭兵の死体をほっぽり投げる。そして弾薬の連なった新たな給弾ベルトを取り出して、弾切れとなっていたMINIMI軽機への再装填を始めた。

 竹泉は周囲に敵の動きが見られない事を確認すると、警戒の意識を保ちながらも、近くの岩場に腰を降ろして「ぼへぇ」と品の無いため息を吐く。

 傭兵隊の波状攻撃を全て撃退した竹泉と多気投。そんな二人の周囲には、両手で収まらない数の傭兵達の死体が、そこかしこに倒れていた。

 襲い来た傭兵隊はおよそ小隊規模。獣人を含む傭兵達はいずれも人並み外れた身体能力を見せ、苛烈な攻撃を仕掛けてきたが、今は一人残らず撒き散らした血と肉で、竹泉達の周囲を血生臭く彩っていた。

 

「にしてもホンマに妙ちくりんなタイツ共だったわなぁ。みいんなお遊戯みたいに声高らかでよ」

「自分達がお話の主役とそのお仲間達のつもりだったんだろぉよ。実態は飼い主に飼いならされた、とんだ異常性癖迷惑千万変態の群れだったがよぉ、うっすら寒い台詞をしこたま吐いてやがってよぉ!キレそうだしゲロ出そうだ!」

「少なくとも、とうにキレとった気がするじぇえ?」

 

 竹泉の悪態にそんな疑問の声を返す多気投。

 

「マヂで喉の奥酸っぺぇ……!」

 

 竹泉は岩場の影に置いておいた装備の中から水筒を拾い上げ、喉奥の不快感を洗い流すべく水を含んでうがいを始める。

 

《ジャンカーL1より全ユニットに告ぐ。停戦だ、これより自衛行動以外の戦闘を停止しろ》

 

 インカムから命令が飛び込んで来たのはその時だった。

 

《繰り返す、停戦だ。傭兵組織の代表から停戦の合意が得られた。全ユニットは自衛行動以外の戦闘を控えろ》

「ペーェッ――あぁん?今なんつったぁ?」

 

 通信の内容に、口を濯いだ水を吐き出した竹泉は怪訝な声を上げ、ハテナといった表情を浮かべる多気投と視線を合わせた。

 

「今度はどうしたほい?」

 

 

 

「あぁ?」

「………停戦って言ったか?」

 

 睨み合う制刻と鳳藤の元へ、突如飛び込んで来た通信。その内容から二人はそれぞれ怪訝な声を零し、険しい顔を作ったまま、続く通信に注意を向ける。

 

《繰り返す、停戦だ。傭兵組織の代表から停戦の合意が得られた。全ユニットは自衛行動以外の戦闘を控えろ》

「少し遅かったな、たった今脅威を潰した所だ。あぁ、こちらエピックヘッド」

 

 長沼からの発信が一区切りした所で、制刻はふてぶてしい口調でインカムに向けて発した。そして言葉の最期に、思い出したように無線識別を付け加える。

 

《何、待て――潰した?砲撃支援もまだだぞ?そちらだけで脅威存在を排除できたのか?》

「ええ。脅威が隙を見せたんで、そこにぶっ込んだらぶっ飛ばせました。制刻、鳳藤共に健在です」

 

 返って来た長沼の驚き混じりの疑念の声に、制刻は変わらぬ調子で返答した。その報告に対してすぐには返す言葉が思いつかないのか、長沼からの返信の気配が途切れる。そこを狙ったかのように、別の声が通信へ割り込み響き出した。

 

《あぁー、失礼しますよ?こっちはエピック2ぅ。大っ変不本意だがエピックヘッドに同じぃ!たった今、取り巻き共約一個小隊を蹴散らし終えたトコだっつーの!》

 

 舞い込んだ声は竹泉の物だった。隠す気すらないイラ立ちがダダ漏れの声色で、彼等側の状況を捲し立てる。

 

「竹泉、そっちもうまくやったようだな」

《ヨーぉ!お前等も無事だったかフリィーダァム&ブレェィドッ!よかったぜぇ!》

 

 制刻が呼びかけると、多気投の陽気な大声が返って来た。

 

(ふ、フリーダム&ブレイド……?)

《ぬぇッ――横ででけぇ声だすんじゃねぇよ!自分のインカム使えや……ッ!》

 

 鳳藤が内心で訝しむのをよそに、間髪入れずに竹泉の文句が通信から流れて来る。どうやら多気投は、竹泉の装着するインカムに向けて間近で声を上げたらしい。

 

《固いコト言うなよグッドガァイ》

《人をホラー人形みてぇに呼ぶんじゃねーよ。――とにかく、こっちゃぁ大体そんな感じだ!》

 

 割り込んで来た竹泉等の騒ぎ声がそこで一区切りつくと、再び長沼からの通信が開かれる。

 

《あー、エピック各員。そちらの状況は把握した。脅威を無力化したのはよくやってくれた、皆無事なのもなによりだ。しかし言った通り停戦だ、これ以降は自衛行動以外の戦闘は控えてくれ。今現在、傭兵隊側からも停戦の伝令を走らせてもらっている》

《相手の伝令って馬だろ?ラグがどんだけできんだよ。だいたいヤバイ戦闘の真っ最中だったらどうするつもりだったんだよ?》

《バトルは急には止めらんねーんだずぇ?》

《反吐ぶっ吐きそうな状況の中にあるってのに、綺麗事押し付けられても正直迷惑なんですがね!?》

 

 しかし長沼の声に対して、竹泉の悪態や多気投の軽口が遠慮なく垂れ流されて来る。

 

《エピック……ッ!厳しい状況下で、突然な事を言っているのは理解している。だが愚痴は後にしてくれ!――他、展開中の各ユニットも了解か?ただちに戦闘停止が困難な場合は、その旨を報告してくれ》

 

 長沼は、流れ聞こえて来るそれ等を苦々しい声色で塞き止めた。そして各隊に向けて呼びかける。

 

《ジャンカー1-2、問題なし》

《ハノーバー、了解》

《1-3》

 

 各ユニットから報告が上がり、無線越しに二人の耳にも届く。制刻等の位置が最前線だったようで、幸いにも他の隊からの戦闘報告は無かった。

 

「長沼二曹。一応聞きますが。まだ襲って来る奴がいた場合は、ぶっ飛ばしても問題ありませんね?」

《あぁ。今は不安定な状況だ、その時の判断は各員に任せる。だが、くれぐれも慎重に行動してくれ》

「いいでしょう。エピックチームは再編し、ジャンカー主力に合流復帰します。エピック2、竹泉、投。まずオメェ等んトコで合流して、再編成しよう」

《へぃへぃへぃ》

「エピックヘッド、終わり」

 

 制刻は無線通信を終えると、鳳藤へと視線を向ける。

 

「長沼二曹が連中とうまい事話をつけたらしい。そいつを尊重して、スマートに行くよう心がけるとしよう」

「………期待しないで見させてもらう」

 

 制刻の相変わらずの淡々とした言葉に、鳳藤は険しい表情のまま一言発する。

 未だに二人の間には良くない雰囲気が漂っていたが、停戦の報がクールダウンを促したのか、互いの仇敵を見るような眼と一触即発の空気は、一応の鳴りを潜めていた。

 

「行くぞ。竹泉と投を拾って、分隊に合流復帰する」

「……あぁ」

 

 鳳藤は立ち上がり、両名は戻るべく来た方向へ向かった。

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