―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》 作:えぴっくにごつ
「あらあら、これは……」
ここまで戦いの様子を見守っていたセフィアが、ここで初めて言葉を漏らす。
「手を出すなって言われたけどぉ……そういう訳にもいかなくなってきたわねぇ」
口調こそ普段と変わらぬ緊張感の無い物だが、その表情は面白くなさそうであった。
腰掛にしていた男傭兵達から腰を上げると、セフィアは新たに香を炊き、それを少しだけ吹いている生暖かい風に乗せる。
「「「あ、ひぃぃ……」」」
零れて周りにも流れた香の香りが作用し、セフィアに下で虐げられていた男傭兵達がまたも嬌声を上げる。
「セフィアさん。あたし達も行きますかぁ?」
「こっちの男共は役に立たないもんねー。それに調子に乗ってる男は、身の程を分からせなきゃ」
女傭兵達はそんな男傭兵達を嘲笑い甚振りながら、そんな言葉を上げる。
「うふふ、ありがとう。でも大丈夫よぉ、皆はこの子達をイジメててあげて」
セフィアは虐げられている男傭兵達を視線で示しながら、そんな台詞を返す。
「ロイミちゃんに酷い事をした悪い子だしぃ、この手できっちり躾けておきたいの」
「うわっ、こわーい」
「あいつ調子に乗り過ぎたねー。セフィアさんを怒らせちゃったわ」
「どこまで悲惨な目に遭わされるのか楽しみっ」
女傭兵達は文字道理尻に敷いている男傭兵達を甚振りながら、笑い合う。
そんな女傭兵達にセフィアも「クスクス」と笑いを返すと、篭絡し甚振るべき敵の姿へ、視線を向ける。
そしてその身を跳躍させた。
(ちょっとおいたが過ぎたわねぇ。お仕置きに、とびっきり無様な姿にしてあげる――)
香の効果と、背徳的な魅力を醸すセフィアの姿や振る舞いを利用した篭絡の技は、屈強な戦士ですら抗う事を許さず、尊厳も何もかも全部奪い、彼女の忠実な僕としてきた。
今回もそれを信じて疑わず、セフィアはその妖しい瞳の中に、敵の姿を捉える。敵の動く様子は見られず、セフィアは香の効力を確信する。
そして香の香りを振りまきながら、優雅に背後に着地。
(さぁ、悪い子は――)
耳元で篭絡のための言葉を囁くべく、その艶やかで豊満な体を密着させようとした。
ザグッ、と――
セフィアが体を密着させる前に、鈍い音が彼女の耳に届いた。
そして同時に、セフィアは自身の胸元に違和感を覚える。胸元が奇妙に軽く、そして冷たさを感じる。
「―――え?」
彼女が視線を落とすと、彼女の自慢の豊満な二つの乳房が――そこになかった――。
あるのは胸全体に広がる赤黒く平らな〝切断面〟。
そして彼女の目に映ったのは、憎き敵の持つ血のこびり付いた鉈。
ボチャリ――とセフィアの足元に重量のある二つの肉の塊が落ちる。それは、切断されたセフィアのご自慢の二つの乳房。
セフィアの乳房は、鉈で付け根から切断され、削ぎ落されていた。
「は――?え……あ……いぎゃぁああああああああああッ!?」
状況を理解すると同時に、胸の切断面からブシュリと血が噴出する。
そしてセフィアの妖艶な表情が崩壊し、彼女はおっとりとした瞳をかっ開き、これまで艶のある加虐の声を奏でていた口を、顎が外れんまでに開口して、野生動物のような絶叫を上げた。
そんな悲鳴も束の間、彼女の鼻に指が掛かり、顔面の上半分が手に覆われる。掴んだのは他でもない策頼の腕。策頼の背後を取っていたはずのセフィアは、いつの間にか背後に回られていた。策頼はセフィアの背後から頭頂部を越えて、彼女の顔面を覆い掴んでいた。そして――
「ぎゃッ――!?」
絶叫の最中のセフィアから新たな悲鳴が上がる。見れば、彼女の頭部は鼻から頭頂部に掛けて皮を剥がされていた。顔面の鼻から上半分の肉が向き出しになり、頭頂部は禿げ上がりまるでグロテスクな落ち武者のようだ。
「いびゃぁぁぁぁぁッ!?」
新たな痛みに新たな悲鳴を上げ、ついにセフィアはその場に崩れ落ち、倒れて藻掻き出す。
「いぎゃぁぁぁぁぁッ!熱い、痛い、あづい、いだい、イダイィィィィィ!!!?」
艶と妖しさで男を支配して来た、穏やかさと加虐性を併せ持つ恐怖の女王、セフィア。しかし今、地べたを転げのたうち回る今の彼女に、これまでの女王のような振る舞いの面影は欠片ほども無かった。
無様な姿へと成り果てる運命にあったのは、他でもないセフィア自身であった。
「え……?」
「は……?」
配下の女達は何が起こったのか分からず目を丸くしている。
女傭兵達は、セフィアの手にかかった獲物が、いかに哀れな末路なを迎えるのか、笑いながら鑑賞していた。しかし哀れな末路を迎えたのは彼女達の敬愛するセフィアであり、セフィアは無様な姿で地面に転がり、獣のように叫び声をあげている。
「「「ごぼぉッ!?」」」
「ぎぇぼぇ!」
「ぎゅごぼッ!」
「ぐぉぼぉッ!?」
そして理解する間も無く、傭兵達を惨劇が襲った。
触手だ。
傭兵達は、突如地中から突き出して来た触手に、ことごとくその体を串刺しにされた。
骨抜きになり、女に乗られてた男傭兵達と、男の顔に乗り笑っていた女傭兵達。それぞれが皆一様に、突き出して来た触手に股間部から口までを、串に刺さった魚のように貫かれていたのだ。
貫かれた女達を見れば、触手が貫通している影響で胴体は膨れ上がり、者によっては一部が裂けて内臓が飛び出し、手足はピクピクと痙攣している。しかし誰も即死はできなかったらく、触手の突き出す口からは、苦し気な声とも付かない音がコポコポと漏れ聞こえている。眼球はことごとく飛び出し、目や鼻、耳からは残らず血や涙、鼻水などが噴き出ていた。
男傭兵達を甚振り、嘲笑っていた先程までとは一転した、凄惨で惨めな姿だ。最も、同様に貫かれた男傭兵達も状況は同じだったが。
周囲には触手の刺突の難を逃れたセフィア配下の傭兵達もいた。だが触手達は、運無き傭兵達の体を串刺しにしたまま、初撃の難を逃れた傭兵達へと牙を剥いた。
「は――ぎゃぶぉッ!?」
一匹の触手がその体をしならせ、近くにいた女傭兵をその身で叩き潰す。
打ち飛ばされたのは、最初に男傭兵達を踏んで甚振り出し、情けないと罵っていた女傭兵だ。
地面に叩き付けられる女傭兵。触手がその体を持ち上が手どけると、その下から触手の巨体の圧で潰れた女傭兵の死体が現れた。
「あぼ……びぇッ……ギェッ……」
女の全身の骨は折れて捨てられた人形のように四肢がおかしな方向に曲がり、口や体に出来た深い裂傷からは臓物が飛び出している。目は白目を剥き、体はピクリピクリと痙攣して、臓物の飛び出ている口からは声とも知れない音が零れ聞こえてくる。
顔も体もグチャグチャの状態で痙攣している女傭兵の姿は、まさに潰された虫のように無様であった。
「ぎゃぁッ!?」
「びょげッ!?」
「ごぶッ!?」
さらに、そこかしこで傭兵達の悲鳴が上がる。
へたり込み、虐げられていた男傭兵達や、それを取り囲んで虐げていた女傭兵達がことごとく触手に打たれ、投げ散らかされ、あるいは潰される。
「「「ぎゃぼぉッ!?」」」
セフィアの腰かけや足置きとなり、四つん這いになっていた男傭兵達が、身を打った触手に押しつぶされている。
香の影響とセフィアからの甚振りの余韻で、碌に動くこともままならなかった傭兵達は、触手にことごとく無惨に投げ散らかされ、快楽にだらしなく緩ませていた顔を、死の形相に変えていった。
「ぱぁッ!?」
「びょっ!?」
そして身を打った触手に貫かれていた男女の傭兵は、その衝撃で内側から限界の圧が掛かっていた体が爆ぜ飛び、細切れの肉片と化して仲良く周囲に四散した。
その調子で、セフィア配下の傭兵達は次々に同じ境遇を辿った。触手に弾き飛ばされ、あるいは踏みつぶされてゆき、そしてそのたび、触手に貫かれていた男女の傭兵達は、体を爆ぜ、四散させる最期を迎える。
男を虐げていた気色悪い女達と、虐げられ気色悪く喘いでいた男達は、最後には仲良く凄惨な末路を迎えたのだった。
「うぁぁッ!よくもセフィアさんをッ!」
「男の癖にぃッ!」
しかし中には難を逃れた女達がいた。
女達は怒りを露わにし、触手を潜り抜けて策頼に向けて襲い掛かって来た。
敬愛するセフィアと仲間を屠った策頼に、憎しみと殺意を向けて、各々の得物を振り降ろす女傭兵達。
「ぎぇッ!?」
しかし策頼は一人の剣を避けると、警棒を前頭部に叩き付け、女の頭をたたき割った。
「この――」
立て続けに二人目が剣を手に襲い掛かって来たが、その手の剣が振り降ろされる前に、策頼は脚を思い切り真上に蹴り上げ、女の顎を蹴とばした。
「ぎゃぢッ!?」
女は運悪くガヂリと自分の舌を噛み千切り、死体となってもんどり打ち倒れた。
「………」
セフィア配下の襲撃が返り討ちにした所で、敵の攻勢が途絶え、周囲に一時だが静寂が戻る。
暴れまわっていた触手達はそこでその動きを止める。それまでの暴虐的なまでの働きに反して、触手達の様子は酷く苦しそうだった。
内、一匹の触手が限界を迎えたのか、ゆらりとその巨体を倒しかけた。しかし、突如伸びた人の腕が、触手の表面の一部を、肉が千切れんばかりに鷲掴みにした。
触手を掴んだ腕の主は、他ならぬ策頼だ。大木のような巨体の触手を、策頼は軽々とした動きで引き寄せる。
「まだだ、倒れるな。ちゃんと言う事聞けよ」
そして触手に対して冷たく囁いた。
触手達は策頼の配下に完全に下っており、策頼の意思に呼応し、セフィア配下の傭兵達を襲っていたのだ。そして触手は、新たな主人である策頼の言葉に、承諾か、はたまた恐怖によるものなのか、弱々しい身悶えで答えた。
策頼はそんな触手をほっぽり出すと、別の目標を探すため、視線を周囲へ走らせようとする。
「――死ね」
しかしそこへ真横から、目を血走らせたカイテの襲撃があった――