―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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16-5:「処理戦」

 数分前。

 

「く……」

「っつぅ……!」

 

 地面に倒れ、苦悶の声を漏らすシノとカイテ。ダメージにいばらく起き上がる事のできなかった二人は、今ようやく半身を起こした。

 

「シノさん!カイテさん!」

「二人とも、大丈夫!?」

 

 そこに駆け付けたのは侍女のミルラと護衛の少年リート。

 突然の敵の強襲に呆気に取られていたミルラだったが、尊敬するシノの危機に気が付き、仕置きの拘束を受けていたリートを解いて解放し、今この場に駆け付けたのだ。

 二人はシノやカイテに駆け寄り、手を貸そうとする。

 

「ふん、この程度……」

「ッ、大丈夫ですよ……」

 

 シノやカイテは掛けられた言葉に返しながらも、貸された手を断り、視線を敵のいる方向へと向ける。

 

「あぁ……!」

「セフィアさんに、皆が……」

 

 二人の視線を追って顔を上げたミルラとリートが、驚愕の声を上げる。

 散らばる仲間、セフィアがのたうち、配下の傭兵達が触手に串刺しにされる姿が見えた。その中にはセフィアの取り巻きの姿もあった。

 

「アイツ……絶対に、切り裂いてやる……!」

 

 それを目にしたカイテは怒りを再燃させ、感情に任せてその場から飛び出した。

 

「カ、カイテ!」

 

 リートは飛び出したカイテを呼び止めようとするも、彼女は行ってしまう。追うべきかと迷うリートだが、その時、彼は横から強い怒りの気配を感じ取った。

 

「み、みなさん……許しません――」

「ミ、ミルラ?」

 

 怒気の発生源はミルラだった。普段大人しい彼女が見せない雰囲気に、それを見たリートはたじろぐ。

 

「躾では済みませんね……奴には、徹底した仕置きを与え、屠らねばならないようです……」

 

 そしてシノも冷たい表情に怒りを宿らせ、冷酷な台詞を口にする。

 

「二人とも落ち着いて!」

 

 そんな二人を冷静にさせようと、声を上げるリート。

 

「ふん、豚が偉そうに指図ですか」

「う……うぅ」

 

 しかし怒りに駆られる女達に、その言葉は一蹴されてしまった。

 

「……ううん、リートさんの言う通りかもです……敵を倒すならば、それこそ協力しないといけません」

 

 だが、ミルラがリートの提案に賛同した。彼女は強い怒りの感情を孕みながらも、その内には冷静さを残しているようだった。

 

「………」

 

 ミルラのその言葉に、怒りの感情の中にあったシノにも、少しの冷静さを取り戻す。

 

(この子は私よりもずっと肝が据わっているのかもしれないですね)

 

 怒りに囚われていた自身を自嘲するように、そんなことを思い浮かべるシノ。

 

「何か――考えはあるのですか?」

 

 そしてシノは、二人に向けてそう尋ねた。

 

 

 

 飛び出したカイテは、目にも止まらぬ速度で触手を潜り抜けて策頼に肉薄、襲撃を仕掛けた。その彼女の目は、怒りのあまり酷く充血している。

 

「――死ね」

 

 最早多くの煽りや罵倒の言葉は無い。

 跳躍で策頼の斜め上空に位置取った彼女は、最高潮に達した怒りを冷酷なその一言と、手の中のナイフに込め、それを策頼に向けて振り下ろした。

 しかし、策頼の一歩横にずれるだけの動作で、カイテの一振りは空しく空振りに終わる。

 

「このッ――」

 

 これまでも見た不可解なまでの敵の回避行動に悪態を吐きながらも、カイテは身を反転させて、再度攻撃を仕掛けようとした。しかし、彼女が己の右腕の違和感に気が付いたのは、その時だった。

 

「――は?」

 

 見れば、右腕に握っていたはずのナイフがそこに無い。否、ナイフを握っていた〝右腕が無い〟。カイテの右腕は、肘から先が切断されていた。

 

「あ……あぁぁ――ッ!?」

 

 理解した瞬間、カイテは悲鳴を上げかける。

 

「――ごぅッ?」

 

 しかし彼女のそれは強引に中断され、代わりに鈍い叫び声が彼女の口から上がる。彼女の顔面には、横から振るわれた警棒が叩き込まれている。

 それを握るのは他ならぬ策頼。

 そして策頼のもう片方の手には、切断されたカイテの腕が掴まれている。カイテの物だったその腕は、愛用のナイフを握ったまま硬直している。

 警棒に打たれたカイテはもんどり打ち、大きく仰け反っている。策頼はそんなカイテの横を抜けながら、切断された腕に握られたままの彼女の愛用ナイフを、彼女の顔面に叩き込んだ。

 

「びょッ!?」

 

 顔面に自身の愛用ナイフが突き立てられ、彼女の口から短い悲鳴が上がる。愛用のナイフと、それを握ったままの腕が、彼女の顔面の上にそびえ立つ。カイテの体は膝を付き、やがて全身が崩れ落ちるように地面に沈んだ。

 まだ息があるのか、顔から血を噴き出しながら、彼女の身体は痙攣していた。

 襲撃者を一人屠った策頼だが、息つく間もなく新たな襲撃者をその目に捉えた。

 

 

 

 濡れた地面を跳ぶように駆け、敵の傍まで接近したシノ達三人。その三人の目に映ったのは、悠然と佇む敵と、無残に倒れるカイテの体だ。

 

「ッ――カイテ……!」

 

 ライバル的存在であったカイテの無惨な姿に、顔を険しくするシノ。

 ミルラやリートもカイテの姿に、顔を悲愴に染める。

 しかし三人はその顔から悲観の念を振り払い、凛々しい傭兵としての顔を作り出す。今は目の前の敵に集中し、仇敵を討ち果たすことが、仲間への弔いだと己に言い聞かせて。

 そしてシノが先陣を切り、策頼に向けて飛び込んだ

 

「はッ!」

 

 ナイフで敵に切りかかるシノ。しかし敵は斧を掲げて易々とシノの攻撃を受け流した。しかしそれを予想していたシノは、受け流されたのを利用してそのまま敵の懐から離脱。

 

「やぁぁッ!」

 

 そして入れ替わりに、今度は剣を手にしたリートが敵に向けて切りかかった。彼の攻撃はまたも受け流されるが、リートはシノの同じようにそのまま離脱する。

 そしてまたも入れ替わるように、反転し戻って来たシノが敵に攻撃を仕掛ける。

 二人は幾度も入れ替わりに一撃離脱と反転を繰り返し、敵を翻弄する。これにより、敵は二人に向けて決定的な有効打を打てていなかった。

 しかしそれはシノ達も同じであり、このままでは両者共に疲弊する一方に思えた。

 

「お二人とも、お待たせしました!」

 

 だがその時、背後から声が響いた。

 声の主はミルラ。彼女は得意とする槍をその手に持ち、上空に跳躍していた。ミルラのその姿を確認したシノとリートは、反復攻撃を中止して飛び退き、敵との距離を取る。

 

「落ちよ!雷の柱ッ!」

 

 そしてミルラが通る声で発した瞬間、敵の周囲にいくつもの稲妻が落ちた。

 さらに、通常の稲妻であれば発生した直後に消滅するはずであったが、この稲妻は、閃光を迸らせながらもその姿を維持し、敵の周囲を囲い、まるで周囲に壁を作るようにして、包囲する。

 二人が浅い攻撃を繰り返していたのは、ミルラの魔法発動準備の時間を稼ぐためだった。

 

「よし、相手の行動を封じた!」

 

 リートが上げた声の通り、敵は周囲を囲った稲妻の柱により、動きを制限されたようだ。

 

「〝雷槍――<<サーディル・ピェリシア>>……ッ!〟」

 

 そして、敵を包囲することに成功したことを確認したミルラは、続けて詠唱を行う。すると彼女の構える槍に、電流が走り出した。パチリパチリと小気味良い音の放電現象を纏う槍。ミルラはしっかりと構え直すと、眼下の倒すべき敵に向けて突貫を開始した。

 

(敵の行動の自由を奪った所への、雷槍による突貫。単純ですが、有効なはずです――)

 

 シノは作戦を分析しながら、急降下するミルラの姿を見守っている。

 

「ミルラ、お願い!」

「そのまま、行きなさいッ!」

 

 そしてリートとシノはそれぞれ思いを込めた一声を発し、ミルラに一撃を託す。

 二人の声を受けたミルラは、やがて敵へのリーチ内へ降り立った。すかさず槍を放つための予備動作に入るミルラに対して、敵は動きを見せない。

 飛び退き逃げれば、雷の柱に突っ込みその身を焼くことになる。ミルラの槍と刃を交えれば、槍の纏う雷により感電死することになるだろう。

 そう、敵の選べる道は全て閉ざされたのだ。

 

「さぁ!あなたの行い、反省してください――!」

 

 そして今、仇敵へ向けてミルラの槍が思い切り繰り出された――

 

「――ぎょッ!?――ごぼぉッ!?」

 

 が、槍の切っ先が届く前に、ミルラの体に異変が訪れ、彼女から奇妙な悲鳴が上がった。

 

「え?」

「な――!?」

 

 ミルラは、股間から胴を通って口に掛けて一直線に、その体を地中から現れた触手に貫かれていた。

 

「ご……おぼォ……」

 

 全身を触手に貫かれて串刺しとなったミルラは、白目を剥き、顎の外れた口からからは触手が突き出し、苦し気な声が口のわずかな隙間から漏れ出ている。

 そして、触手は体力の限界を迎えたのか、その巨体を巨木が倒れるように地面へと横たえる。必然、共に倒れることとなったミルラの体は、串刺しにされたままカエルのように両手両足を広げて、ビクビクと痙攣していた。

 周囲を囲っていた雷は、主を失ったためか消滅して行く。

 その場には、思いを託され慣行された攻撃が身を結ぶことなく、無惨な姿と成り変わったミルラの死体だけが残る。

 

「………」

 

 策頼はそんなミルラの死体を、ただ無力化の確認のためだけに、つまらなそうに一瞥した。

 

「ミ、ミルラ……う、うぉぉ――!」

 

 そこへ、サポートのために脇に控えていたリートが動いた。ミルラの死を理解した彼は、考えるよりも先に策頼に向けて切りかかった。

 

「びょッ――ッ!?」

 

 しかしその手の剣が届く前に、発砲音が響いた。策頼が片手で構えて向けたショットガンからは硝煙が上がっている。

 そしてリートの顔面の上半分がこそげるように無くなり、頭部の中身が覗いていた。顔面に散弾を受けたリートは、削がれた顔面の上半分から血を盛大に噴き出すと、そのままあっけなく倒れて死体の仲間入りを果たした。

 二人を屠った策頼だが、その背後に回り込む人影がある。殺気を全身に纏わせたシノだ。

 

「よくもミルラを……カイテに、豚までも……私の大切な友人達に下僕――」

 

 仲間の死に歯を食いしばりながらも、一瞬の隙を突いて背後を取ったシノ。彼女のその両手には一本鞭とナイフが握られている。憎き敵を捕らえ、切り裂くための得物。

 

「己の罪を知り、悔いて、無様に死になさい――」

 

 言葉と共に、敵を捕らえるべく目にも止まらぬ素早さで、一本鞭を放った。

 

「ッ――!?」

 

 しかし、彼女の一本鞭は空を切り、何者も捉える事は無かった。そしてシノは自身の背後に気配を感じる。

 いつのまにか、彼女の背後に策頼の姿があった。つい先程まで確実に目の前に捉えていた存在が、一瞬の内に背後に移動していたのだ。まるで戦闘機がオーバーシュートを起こした時のように。

 

「むぶッ!?」

 

 シノが気配に気が付いた時には、すでに遅かった。

 直後、突然シノの頭部が何かに覆われる、彼女の視界が奪われる。シノの顔には土嚢袋が被さっていた。

 

「ぎゅぃ!?」

 

 そして間髪いれずに、シノは己の体が縛り上げられる感覚を覚える。

 それは正しかった。

 策頼はワイヤーを繰り出し、彼女の身体の横を抜けながら、恐るべき素早さで彼女の身体を縛り上げたのだ。そして策頼は身を翻すと、仕上げといわんばかりに、土嚢袋に覆われたシノの顔に、警棒を叩き込んだ。

 

「もびゅッ!?」

 

 土嚢袋に覆われた口から、くぐもった悲鳴を上げながら、シノはその体を捻じるようにしながら吹っ飛び、地面に突っ込んだ。

 他者を豚や犬と罵っていたシノだが、哀れにも家畜の加工のような最期を迎えたのは、彼女自身だった。

 黒皮のボンレスハムとなり果てた、ビクビクと痙攣しているシノの体を、邪魔なので蹴とばす策頼。

 

「………ッ」

 

 その直後、策頼は上空に瞬く光と人影を捉え、手を翳す。

 その人影はロイミとリルだった。

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