―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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16-6:「一撃」

 再び数分前。

 

「ロイミ、ロイミ!しっかりして……!」

 

 自分の鞭を食らって倒れたロイミを、リルが介抱している。と言っても、最初の襲撃で蹴り飛ばされたリルは、つい先程ようやく立ち直った所であり、そこでロイミの打ち飛ばされる姿を目にして、今しがた彼女の元に駆け付けたばかりであった。

 

「ッ……!」

 

 ギリリと歯を食いしばりながら、ロイミは敵のいる方向を睨んでいる。

 

「カイテ……セフィア隊長やみんなが……」

 

 仲間達、そして幼馴染が死んだ事実を前に、リルは顔を青くしている。残る傭兵達が掛かってゆく姿が見えるが、彼等もことごとく蹴散らされてゆく。

 

「ここまで……私を……絶対に許さない……!」

 

 立ち上がろうとしロイミは、しかしふらついて再び地面に膝を付く。度重なるダメージにより、いかに人より強靭な体を持つ魔女と言えども、限界を迎えようとしていた。

 

「だ、ダメだよロイミ……」

「うるさいわね、私に命令する気……?」

「う……」

 

 ロイミに凄まれ、たじろぐリル。満身創痍の身でありながら、ロイミの眼孔は未だに逆らい難い鋭さを孕んでいた。

 

「うぅ……で、でも!やっぱりだめだよ……ッ!そんな体で戦いに行くなんて、絶対にダメ!」

 

 しかしそれでもリルはロイミを止めた。

 

「どうしても行くなら、僕が一緒に行く!ロイミさっき言ったでしょ、ロイミの盾となり矛となれって。だから僕を頼ってよ!僕は……僕はロイミの使役獣だから!」

 

 そしてロイミに向けてその身を乗り出し、意を決した表情で訴えた。

 

「フン……そんな恰好でいっても、何の格好もつかないわよ」

「え?……あ!あぅぅ……」

 

 襲撃直前まで、ロイミから仕置きを受けていたリルの姿は裸のままだった。一糸まとわぬ己の姿に気づき、両腕で体を隠して赤面するリル。

 

「はぁ……」

 

 一方、ロイミはそんなリルの姿に、纏っていた殺気と憎しみの念を少しだけ収めて、小さなため息を吐いた。

 

「今や私の手に残っているのは、あなただけか……」

 

 毒気の抜かれたような顔で、自嘲気味に言うロイミ。

 

(でも、この子の素質ならあるいは……)

 

 思いながら、リルを見る。

 

「いいわ。私が奴の動きを読んで指示を出すから、あなたはそれに従って動きなさい。ヘマしたら容赦しないわよ」

 

 その言葉に、リルはごくりと喉を鳴らす。

 

「使役魔としての役目を果たして見せなさい。あなたを……信じてみるわ」

 

 しかしその後に見せた信頼の言葉。

 

「ロイミ……うん!」

 

 その言葉に、リルは明るく凛とした表情で返事を返す。そして二人は、夜闇へと飛び立った。

 

 

 

 飛び上がったロイミとリル。上空に身を置いた二人は、そこから敵の姿を捉える。

 敵は背後を見せ、進んでいる。残った傭兵を探しているのだろう。

 

「さぁ、教えた通りにしてごらんなさい」

「う、うん……〝その刃に勇なる輝きを纏い、獲物を討つ力と成せ――<<ユーリォ・ソレス>>……ッ!〟」

 

 ロイミに言われ、リルは恐る恐る魔法詠唱を口にしたリル。詠唱を終えた瞬間、彼の持つ剣の刃には紋様が浮かび上がり、そして次の瞬間に閃光を発した。

 

「す……すごい!ロイミのおかげで、剣にこんな大きな魔法が……」

「ふっ、違うわ。これはあなたの持つ魔力によるものよ、リル」

「え……?」

 

 言われた言葉に、キョトンとした表情を作るリル。リルは元々大きな魔力を宿しており、ロイミのそれを引き出す呼び水としてリルに魔力を流したに

 

「前に教えたことを忘れたの?覚醒していないだけで、あなたの体の内には大きな魔力が眠っていたのよ。ただ、それを引き出す力はまだまだ未熟だったわ。だけど、あなたはこの土壇場で覚醒して、これほどの魔力をここまでの力に変えてみせた。私が導いたとはいえ、ここまでの覚醒を見せるなんて、さすがに想像していなかったけど」

「え……ぼ、僕が……?」

 

 普段では考えられないような優し気なロイミの言葉に、戸惑いの様子を露わにするリル。

 

「あら、素質を褒めたからといってうぬぼれない事ね。これから、この力をもってして敵を討つことこそ、あなたの今の使命なのよ」

 

 少しだけ言葉をいつもの調子に戻し、リルに釘を刺すロイミ。

 

「う、うん!」

 

 その言葉に、リルは少し気圧されながらも、先と同様に凛とした通る声で返事をする。それは彼女の調子が少しだけ戻ったようで、そこに嬉しさを感じたからであった。

 そして二人は、再び眼下の敵へとその瞳を向ける。

 

「奴は、おそらく魔封じの魔法を使っていたみたい……でも、あなたに宿る膨大な魔力の前には、封じきれないみたいね……!」

 

 眼下の敵の姿を見ながら、分析の言葉を口にするロイミ。そして横に居るリルにその視線を移し、愛しい使役獣である少年の、緊張した表情をその目に留める。

 

「大丈夫よ、あなたの力を信じなさい。あなたはこの魔女ロイミの使役獣なんだから」

「ロイミ……」

「さぁ行くわよ、リル。私の愛しい使役魔。私の盾であり剣――」

「うん、ロイミ。僕の主様――」

 

 二人は互いを呼び合うと、剣の柄の上でお互いの手を重ね、指を絡ませ合う。

 

「〝我らを瞬突の牙と成せ――<<シュトゥル・ルァ・グムラストゥ>>――〟」

 

 そしてロイミが詠唱。二人は共に構えた剣と一体となり、その場から打ち出されるように飛び出した。

 凄まじいスピードで敵に迫り、そして目と鼻の先まで一瞬でたどり着く。敵からすれば、上空に居たふたりが消え、一瞬にして接近して来たかのように見えただろう。最早敵には二人の攻撃を回避することも叶うまい。

 そして魔法による力の込められた剣は、今や岩や鋼をも砕く威力を持つ。これを防ぐ手などありはしない。

 二人で一緒に構えた剣の柄に、力を込める。そして憎き敵に、切っ先を向けて、二人の力を合わせた渾身の一撃を突き込み、仇敵の体を貫く――!

 

 

 ――だが、その直後、ガクリという突然押し留められるような奇妙な衝撃が二人を襲った。

剣が敵の体に到達するには、まだわずかにだが早い。

 予期せぬ事態に困惑しながらも二人は視線を剣先へと向ける。

 

「え――?」

「へ――?」

 

 ロイミとリルの口から素っ頓狂な声が零れ出る。それは二人の目に入った、事態の原因にあった。

 仇敵を貫くべく二人の突き放った剣は、その仇敵の手前で停止していた。

 仇敵、すなわち策頼の〝片手により掴まれて〟。

 岩を、鋼をも断ち切り砕くはずの剣撃が、翳した片手で、いとも容易に受け止められている。それだけではない。宿っていたはずの強大な魔力も、まるで初めから何もなかったかのように消失していた。

 この衝撃の事態は、剣撃が決まる事を確信していた二人の思考能力を奪うには十分過ぎた。

 

 

「――ごぼォッ!?」

 

 

 そして、ロイミの腹部に衝撃と鈍痛が走った。

 

 

 

「――ごぼォッ!?」

 

 ロイミの腹部に衝撃と鈍痛が走った。

 策頼の放った蹴りの一撃が、ロイミの腹部に入ったのだ。その威力は凄まじく、ロイミの手は握っていた剣を離れ、彼女のその体は上空に高々と舞い上げられた。

 

「え――ぎゃッ!?」

 

 何が起こったのか理解できずに呆然としていたリルは、次の瞬間に地面に叩き付けられて悲鳴を上げた。

 策頼が掴んでいた剣ごと、リルを地面に投げ捨てたのだ。剣を投げ捨てた策頼は、拳を握り、少し姿勢を低くして、その場でタメの体勢に入る。

 

「ぁ――ぁ――」

 

 上空からは、蹴り上げられたロイミがうめき声を漏らしながら真っ直ぐ落下して来る。ロイミの体が自分の胸の高さまで落ちて来た瞬間、策頼は落ちて来たロイミの体に、タメの一撃を思い切り叩き込んだ。

 

「ぎぃ――ぎぇぼぅッ――!!!」

 

 拳がロイミの顔面横面にとてつもない勢いで叩き込まれ、ロイミの体はその衝撃を受けながら地面へと叩き付けられた。その勢いは比類なき物で、衝撃でロイミの体は地面にめり込み、土砂が巻き上がった。

 巻き上がった土砂が止むと、そこには湿った地面にめり込み、白目を剥いてピクリピクリと痙攣し、起き上がる様子の無いロイミの姿がそこにあった。

 倒れたロイミを、ただただつまらない物を見る目で見下ろす策頼。

 周囲に静寂が訪れる。

 その場には多くの無惨な姿となった者達の体が転がり散らばっていた。

 魔女ロイミが。使役獣の少年リルが。

 シノやカイテ、リートやミルラなどの少年少女達が。

 ロイミ配下の傭兵達が。

 セフィアに、セフィア配下の男傭兵や女傭兵達が。

 その全てが一帯に無残な姿となって散らばっていた。

 そしてその中心にただ一人、彼ら彼女らにとっての憎き敵であり、そしてこの場の圧倒的勝者となった策頼の、静かに佇む姿があった。

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