―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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16-8:「予期せぬ結末」

「……策頼さん……」

 

 出蔵は少し青く、しかし悲しそうな顔で策頼の姿を見ていた。

 本来ならば策頼の虐殺行為を止めるべきであったが、策頼の友を失っているという事実。そして悲しいまでの復讐の意思を前に、出蔵は彼の行為を止めることも咎める事もできなかった。

 咆哮が止み、策頼は最早腰の下のロイミ達には興味も向けずに、ただ夜闇の一点を見つめ続けている。そんな策頼に、出蔵は駆ける声も思いつかないまま、ともかく歩み寄ろうとした。

 

「そっとしといてやれ」

 

 しかし香故がそれを止めた。

 

「こ、香故三曹……あの……」

 

 出蔵はそんな香故に対しても、少し青ざめた顔で視線を向けた。

 今さっき、平然と傭兵の一人を施設作業車に命じて潰して見せた香故もまた、出蔵からすれば接し方に困る存在であった。

 

「このタイツ共が徹底して気っ色悪い奴等だってことは、重々理解できた」

 

 そんな出蔵の思いを知ってか知らずか、香故はそれ以上出蔵と会話を交わそうとはせず、周辺に転がる多数の傭兵達を冷たい目で見下ろす。

 

「クソぉ、なんてことだ……」

「ロイミさんやセフィアさんがぁ……!」

 

 傭兵達は皆、悲観に満ちた顔で、嘆きの声を上げている。

 

「ぁぅぅ……ロイミぃ……」

 

 その中には、涙を流すリルの姿もあった。

 

「隊長がいてくれれば……」

 

 しかし傭兵の一人が口にした言葉に、傭兵達はハッとなった。

 

「そうだ、僕等には隊長がいる!」

「そうだ、あきらめるな!クラレティエ隊長がきっと来てくれる!」

 

 そして傭兵達は再び活気に満ち、次々に声を上げ始めた。

 

「どうせ貴様らは、隊長の刃に倒れる!そしてその強大さと麗わしさを目の当りにし、歯向かう事がいかに愚かな事だったかを思い知り、後悔するだろう」

「そうだ!これまでの敵は皆そうだった。俺達のように真実に気づいた者は皆様の虜としていただけたが、愚か者は無残に屠られる!」

「強く美しい方に従属する喜びを知らぬ、哀れな奴め。奴には、我が主による鉄槌が下るであろう……!」

「そうだ、我々が隊長達に使え、鞭を頂くことこそ、最高の褒美!それを分からぬ愚か者共めッ!」

「………」

 

 喚き散らす傭兵達に、香故は最早悪態を吐くことすら億劫に感じながら、転がる傭兵の一人に向けて小銃を構え、その引き金に指を掛ける。

しかしその時、香故は自身の真横の気配に気が付き、視線をそちらに向けた。

 

「やめろ香故……!」

 

 横を向くと、そこにはウラジアの姿があった。慌てて駆け付けたのか少し息が上がっている。

 しかし今問題な部分はもっと別にあった。

 その手には彼の護身用の9mm拳銃が構えられ、その銃口は他でもない香故に向けられていた。

 

「な!?よ、四耶三曹!」

 

 近くにいた香故の組の隊員が、その光景に驚き声を上げる。

 

「いい、下がってろ」

 

 しかし当の香故は変わらぬ口調で隊員にそう言うと、ウラジアの顔に視線を向ける。

 

「で、どうした?お前まで洗脳を食らったか」

 

 言いながらも香故は、ウラジアが洗脳などを受けたわけではない事は見た時点で察していた。

 ウラジアのその目は、確固たる自身の意思により、香故を睨み、その手の拳銃を向けている。

 

「違う!俺は……自覚してる限りは正気だ!」

「ふん、じゃあアレか?また敵にも慈悲を云々か?この気色悪い奴等は、観測壕の面子をヘラヘラ笑いながら甚振り殺したんだぞ?」

「許せるわけはない。俺だって反吐が出そうだ……だが、虐殺が正当化されるわけじゃない……!お前の行為は度が過ぎている!」

 

 ウラジアはその手の9mm拳銃を突き付け直しながら、香故に向けてそう訴えた。

 

「こいつ等は抵抗の意思がある。無力化しておくべきだ」

「なら拘束しておけばいいだけだ!お前は……宇桐一士を殺された恨みを、彼等にぶつけて晴らそうとしてるんじゃないか!?」

「あぁ……そうかもな」

「――ッ!」

 

 香故の口から発せられた思いもよらぬ肯定の言葉に、ウラジアは目を剥いた。

 

「俺からすれば正直、こいつ等も、停戦を飲んだ奴等も変わらねぇ。皆、殺してやりたいくらいだ。お前はまだ、近しい人間を殺された事がないから、分からないだろうがなぁ?」

 

 先の親狼隊との戦闘で死亡した宇桐一士は、香故が教育隊の班長を務めていた際の班員だった。

 停戦によりその仇討が不完全に終わってしまった香故にとって、そこへ遭遇した、隊員をその手にかけた剣狼隊傭兵達の存在は、それを少しでも完遂に近づける絶好の獲物であった。

 

「ッ……」

「どうした、それが許せないなら撃ったらどうだ?」

 

 拳銃のグリップを握るウラジアの手に、汗がにじむ。

 額からは一筋の汗が伝い落ちる。

 そして彼は、見せつけるように傭兵に銃を向けている香故に向けた拳銃の、引き金にかかる指にゆっくりと力を込める。

 

「ぬぉぃ、お三曹どもがたぁ!」

 

 一触即発状態の二人へ、唐突に声が掛かった。

 二人が振り向くと、そこにあったの竹泉と多気投の姿だった。

 

「なーにを面倒臭ぇこと、やらかしてるんでござんしょッ?」

「クールダウンしようぜぇ、ミスタァーズ」

 

 竹泉が皮肉120%の顔で両者の顔を睨み、多気投はその巨体で両者の間に割り込み、二人を強引、かつダイナミックに遠ざけさせる。

 竹泉と多気投の場の空気を読みもしない仲裁は、ウラジアと香故の間の緊迫した空気を掻き乱した。

 

「はッ、やれやれ」

 

 強引な仲裁に毒気を抜かれた香故は、そんな声を発する。

 

「お前等……何をその手に持っているんだ……」

 

 一方のウラジアは、竹泉の多気投がそれぞれ両腕に持っている物を目に留め、驚愕とも呆れともつかない声を上げた。

 竹泉の右腕と左腕には、それぞれ首を締め上げらている女傭兵の体があった。どちらもすでに首の骨を折られて絶命している。

 そして多気投は両手にそれぞれ、女傭兵の死体を足首を掴んで逆さ釣りにして持っている。いずれもすでに亡骸と化していた女傭兵達のその様子は、まるで絞められた鶏のようだった。

 

「えぇ、道中でなんぞ気持ち悪く絡んで来たもんでねぇ!」

「悪い事しちゃ、メッってしたわけだぁ。あー――です」

 

 皮肉気にいう竹泉と、軽快に発した後に怪しく敬語を付け加える多気投。

 

「お前等……」

 

 ウラジアは言葉を発しかけたが、それ以上発する言葉が見つからなかったのか、そのまま絶句した。

 

「こりゃ、愉快な事になってるな」

「……こっちも酷い……」

 

 さらにそこへ、制刻と鳳藤が現れる。

 

「制刻、鳳藤」

「先行班、任務を完了して戻りました。そっちに合流します」

 

 気付いたウラジアや香故に向けて、淡々と言ってのける制刻。

 

「あぁ、それと。無線でも言いましたが、脅威存在は無力化しました」

 

 言いながら制刻は、片方の腕にぶら下げ持っていた物体を少し持ち上げて見せる。

 

「な……!」

「マジか」

 

 それは脅威存在であり、剣狼隊隊長であるクラレティエの、無残な死体だった。

 

「そっちのガキは?」

 

 香故は制刻のもう片方の手からぶら下がる死体に気付く。

 

「あぁ、よくは知りませんが、この脅威存在の女の取り巻きのようです。どうにも、こいつもヤベェ能力を持ってたようですが、はっ倒したら無力化できました」

「滅茶苦茶だな」

 

 香故は再び呆れた声を零した。

 

「え……あ、あああああッ!?」

 

 その時、どこからか絶叫が上がった。それは地面に横たわる傭兵の内の誰かの物であった。制刻のその手にぶら下がる死体が、クラレティエの物だと気が付いたのだ。

 

「う、嘘だぁ!そんなぁ!」

「い、いやぁぁぁッ!」

「く、クラレティエさまぁぁぁ!」

 

 そして傭兵達は次々のその事に気が付き、絶叫は伝播してゆく。

 彼等にとってクラレティエの存在は絶対の物であった。そんなクラレティエの無惨な死体を目の前に突き付けられた事は、彼らを絶望に追いやり絶叫を上げさせるには十分過ぎる要因であった。

 

「く、うぁぁぁぁッ!」

 

 そしてそんな中、一人の傭兵が剣を拾い、叫び声と共に満身創痍の体を無理やりに起

 

「ぎゃッ!」

 

 しかし直後に、発砲音と傭兵の悲鳴が響いた。

 

「抵抗の意思、有りだ」

 

 香故からそんな言葉が発せられる。彼の持つ小銃からは硝煙が上がっていた。

 

「クソォォォッ!」

「うわぁぁぁッ!」

 

 最早自棄のそれである抵抗行為は、生き残りの剣狼隊傭兵達全員に伝播した。傭兵達は次々とその傷だらけの体に鞭を打ち、近くの隊員に襲い掛かろうとする抵抗を試みる。

 しかしそんな彼らの末路は目に見えていた。

 動きを見せた傭兵達に向けて、大型トラックの荷台に据えられていた92式7.7mm重機関銃が、無慈悲にも弾を吐き出し浴びせた。

 機銃掃射を前に、傭兵達は試みようとした抵抗も虚しく、次々に悲鳴を上げて倒れてゆく。

 機銃掃射から漏れた傭兵達にも、香故始め警戒姿勢を取っていた各組の隊員が対応。各員の火器が発砲音を響かせ、そして傭兵達は無力化されてゆく。

 異常事態を認め、警戒をしていた各組の隊員も各々対応し、動きを見せた傭兵に向けて発砲。傭兵達は抵抗虚しく、各所で無力化されてゆく。

 

「デリック1、混戦になりつつある。ガントラックからはこれ以上はいい」

《了解》

 

 混戦になる中、しかし香故は冷静かつ的確に指示を飛ばし、なおかつ自身も傭兵達を撃ち抜いてゆく。

 

「よせ、もう抵抗するな!こんな事は――!」

 

 一方のウラジアは傭兵達に向けて、抵抗をやめるよう訴えかけている。しかし――

 

「うぁぁッ!」

 

 そこへ、ウラジアにも剣を持って飛び出してきた傭兵が襲い掛かって来た。

 

「ッ――!」

 

 ウラジアは反射的に拳銃を傭兵に向け、そして発砲した。

 

「ぎょッ」

 

 打ち出された9mm弾は傭兵の額に命中し、傭兵はもんどりうって地面に崩れる。

 

「………ッ!」

 

 亡骸となった傭兵を足元に、ウラジアは目を剥き、悲愴に満ちた顔を作った。

 

 

 

 傭兵達の捨て身の抵抗は、一分にも満たない間に鎮圧された。

 

「我々が……いただくことこそ……あびゃッ!?」

 

 瀕死の状態で、まだ言っていた傭兵がいたが、香故はその傭兵の後頭部に小銃を押し付け、発砲して止めを刺した。

 

「21観測壕の面子は、こんなくっだらない奴等のために犠牲になったのか。浮かばれねぇな」

 

 傭兵の死体を踏みつけながら小銃を降ろし、不快そうに吐き捨てる香故。周囲から、同様に止めを刺す発砲音が、一発、二発分と響き聞こえてくる。

 そしてその音を境に、動く傭兵の姿は一人も無くなった。

 それは、これまで華々しい活躍をしてきた剣狼隊が、今、その歴史に幕を閉じた事を意味していた。

 猟犬を名乗る飼い犬達の、凄惨で救いの無い最期であった。

 

「………」

 

 ウラジアは目を剥き、倒れた傭兵の姿を見つめている。

 

「な?撃つべきだっただろ」

 

 香故はそんなウラジアに近寄ると、皮肉気に一言発し、ウラジアの元から離れて次の行動に移って行った。

 

「………Чёрт возьми(悪魔め)……!」

 

 

 

 制刻等も各々降りかかる火の粉を払い、事なきを得ていた。

 

「やぁれやれ」

 

 制刻は立ち構え呟きながら、血で汚れた自分の手を払っている。

 

「ッ!こんなことって……」

 

 その隣では立膝姿勢の鳳藤が、構えていた小銃を降ろしながら困惑の声を漏らしている。制刻等の足元には、制刻にはっ倒された傭兵や、銃撃の犠牲になった傭兵の亡骸が転がっていた。

 

「土産でホッとさせようとおもったんだが、ウケが悪かったみてぇだな」

 

 制刻は足元の傭兵の死体を脚でよけながら、冗談とも本心ともつかない台詞を、淡々とした口調で言ってのける。

 

「お前……!」

 

 それに対して、苦言を呈そうとする鳳藤。

 

「制刻士長」

 

 しかしそれは、近寄って来た香故の声に阻まれた。

 

「どうしてわざわざ死体を持ってきたんだ?」

 

 そして制刻に向けて尋ねる香故。

 

「停戦なら亡骸の引き渡しとかがあると思ったんで。少し間が悪かったようですが」

 

 対する制刻は、悪びれる様子すらなくそう言ってのける。

 

「ったく、まぁいい。お前等はアイツについててやれ。お前の所の班員だろう」

 

 香故は策頼の姿を指し示すと、その場から歩き去って行った。

 

 

 

「あー、策頼大先生。ケツん下のそいつは新作ですかぁ?」

 

 竹泉は両腕に抱えていた女傭兵達の死体を投げ捨てると、策頼に近寄り、彼の腰の下にあるロイミ達の死体に言及する。

 

「こいつがもう一人の脅威存在だ」

 

 皮肉と悪趣味な冗談交じりの竹泉の問いかけに、対する策頼は淡々と答える。

 

「策頼、いくらなんでも……ッ!」

 

 その光景に、鳳藤が咎める声を発しかける。

 

「これが誉や鈴暮を甚振った張本人です」

 

 言葉こそ静かだが、鋭い眼光で鳳藤を見つめ返して発する策頼。

 

「しかし………」

 

 その気迫に、鳳藤は次に紡ぐ言葉を失った。

 

「で、よぉ。もいっちょ気になってたんだが、んだよコレは?」

 

 一方、竹泉は近くに転がる一人の傭兵の死体を指し示す。

 リルだ。

 混乱の最中、流れ弾に当たって死んだようだ。

 魔女の飼い犬であった少年は、主である魔女のその凄惨な最期を見せつけられた挙句に、屍となって転がったのだった。

 

「なーして真っ裸で首輪なんかつけてんだ、気持ち悪ッ」

 

 竹泉は首輪のつけられた少年の体を気色悪がる。

 

「そいつは、脅威存在のガキの奴隷らしいよ」

「あん?」

 

 そこへ掛けられた言葉に竹泉が振り向く。説明の台詞を挟んで来たのは樫端だ。

 

「樫端さん、まだ安静にしてないと……ッ」

「もう大丈夫だって出蔵」

 

 寄り添う出蔵に返しながら、樫端は制刻等の元まで歩いて来る。

 

「奴隷って、じゃあ保護すべきだったんじゃ……!」

 

 鳳藤は険しい顔を作って発する。

 

「いや、その必要はないでしょう。その脅威存在のガキに甚振られても、碌に抵抗せずにアウアウ言うだけ。かと思いきや、いざ戦闘になったら『僕が護るんだ~』とか、女を護る騎士気取りでした。つまりそういう気持ち悪い関係だったんでしょうよ、骨抜きにされた飼い犬だ」

 

 樫端は洗脳状態にあった中でも、起こった出来事を断片的に覚えていたようで、そのことを説明して見せた。

 

「この坊主と同じパターンか。そいつぁ、かわいそうだが、手を差し伸べるこたぁできねぇな」

「……」

「お前、いつまでそれ摘まんでんだよ」

 

 シレっと言ってのける制刻に、鳳藤は最早返す言葉も浮かばない様子で、代わりに竹泉が未だに制刻の手からぶら下がっているレンリの死体について言及した。

 

「他の黒タイツ共もそうでした。こいつらは、女がイキってて、男がいいようにされてるSM集団なんですよ。危うく俺も操られて、その仲間にされちまう所だった……」

 

 少し顔を青くしながら、樫端は見聞きした剣狼隊の実態を説明する。

 

「ヴォッエ……ッ!」

「ゲロゲロだずぇ」

 

 それを聞いた竹泉と多気投が、真似事か本気か嘔吐を催したような声を発して見せた。

 

「……ちなみに、策頼が今座ってる脅威存在のガキは、聞く限り700歳を超える魔女だそうです。ホントがどうかは知りませんけど。俺にはヒステリックなガキにしか見えませんでしたが」

「ほーう。勇者女の次は、ビックリ長寿女か。ビックリ人間コレクションが作れそうだな」

 

 本気にしてるのか不明な、淡々とした口調で言ってのける制刻。

 

「こんなんばっかだなッ!不快でしかない要素の塊のくせに、この手の奴に釣られて、ヘラヘラ付き従う低能が後を絶たねぇッ!」

「民間保安軍の待遇に釣られる市民の問題みたい……」

 

 竹泉の罵倒文句に、よく分からない例えを挟む出蔵。

 

「とにかく。このタイツ共が、とんでもなくキモイ奴等だってこたぁよく分かった」

「お前ぇの顔面のキモさに届くくれぇにな……ッ!」

 

 制刻は竹泉の嫌味は無視して、汚物に塗れたロイミとリルの死体を見下ろす。

 

「どこもかしこも、どうかしてる……」

「今に始まったことかよ」

 

 鳳藤の悲痛な言葉に、竹泉が水筒の水で口をゆすぐ片手間に、皮肉の言葉を飛ばした。

 

 

 

 竹泉等が気分の良いとは言えない会話を繰り広げている間も、策頼は殺気止まぬ顔で一点を見つめていた。

 誉達の命を奪った下手人であるクラレティエ達は、制刻により仕留められ、誉と鈴暮を嘲り甚振ったロイミ達は、今、策頼の手によって屠ら無残な姿となった。

 ここに報復は全て成し遂げられた。

 しかし、それで友である誉や鈴暮が生き返る訳ではない。

 今の策頼は大きな喪失感に襲われていた。

 そんな策頼の前に、制刻が立った。

 

「策頼、色々思うトコはあるだろうし、この後、特に俺等はアレコレと面倒なことを聞かれるだろう。まだ終わりじゃねぇ、色々とな。だから、今はとりあえず下がって休め。んな趣味の悪ぃ椅子じゃねぇ所でな」

 

 策頼の腰の下で人間椅子と成り果てた女達を指し示しながら、策頼を説く制刻。

 

「………了解です」

 

 その言葉に策頼はようやく女達の背から腰を上げた。

 

 

 

 ヘッドライトを煌々と照らす旧型小型トラックが一両、そしてその斜め後ろを追走していた二騎の騎兵が、その場に走り込んで来た。小型トラックは施設作業車の近くに停車し、その助手席から長沼二曹が。二騎の馬からは衛狼隊の隊長バンクスと、側近のパスズがそれぞれ降りて駆け寄って来る。

 駆け寄って来た長沼は、周囲の状況を見て愕然とした。

 

「ッ……また、やってくれたなお前等は……」

 

 そして機関けん銃を握ったままの手の甲を、額に当てて苦々しく吐く長沼。

 そんな長沼に、香故が近づいて報告の言葉を発した。

 

「長沼二曹、確認された脅威存在は全て無力化されました。それに追従していた小隊規模の敵部隊も、全て処理完了です」

 

 苦々しい顔の長沼とは対照的に、香故は涼しい顔でつらつらと報告の言葉を並べてみせる。

 

「香故三曹……」

「あぁ。状況を説明するには長くなりますが、この場に関しては半数は策頼が、半数は今、俺等がやりました。抵抗を受けましたので」

 

 長沼の言いたいことを察してか、香故はそんな言葉を付け加える。

 

「………」

 

 長沼は周辺に散らばる死体を、そして策頼とその腰の下に並ぶ死体を目にして、渋い表情を作る。

 

「長沼二曹。現状維持は不可能でしたし、私達前進観測班は危険な状態にありました。策頼一士と、香故三曹等の増援が来てくれなければ、私は拷問の末に殺されていたかもしれなかった」

 

 近くで手当てを受けていた峨奈が、長沼の元へフォローの言葉を発する。

 

「危機的な状況であった事は理解はしてるつもりだ……それに、どうにも彼女らは停戦の報を知りながら、襲撃に踏み切ったらしい……だが、それにしてもこれは……」

「これは……」

「………ッ!」

 

 長沼の隣では、衛狼隊長バンクスと、側近のパスズが言葉を失っていた。

 

「バンクスさん……申し訳ない」

「いや……停戦の報を無視したのは剣狼隊だ……」

 

 長沼の謝罪に対して、どうにか言葉を紡ぐバンクス。しかしその表情には割り切れない感情が滲み出ていた。

 

「よぉ、アンタ」

 

 次に返す言葉を見つけられずにいた長沼に代わり、横から香故が口を挟んだ。

 

「余計なおせっかいかもしれないが、あんた方の雇い主は禄でもない事を企んでるようだ。

手を引くことを進めるね」

 

 横に居た香故がそんな言葉を挟む。

 

「それと、とっととここから引くことだな。俺は正直、アンタ等もぶっ殺してやりたいくらいなんだ」

「香故ォッ!!」

 

 長沼が怒声を飛ばすが、香故の表情は冷たく、そして憎らし気なままだ。

 

「バンクスさん……そちらの負傷者の引き渡しは、予定道理行います」

「あぁ……すまない……」

 

 両者は約束された引き渡しの日時、手順を再度確認する。

 そしてバンクスとパスズは愛馬に跨ると、回頭させ、その場から去って行った。それを見送った後に、長沼は周囲の隊員等に向けて声を張り上げた。

 

「作戦は終了――撤収だ!!」

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