―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター17:「終結と発動準備」
17-1:「夜闇の中を動く者達」


 ――凪美の町。

 

「はぁ、また降って来た」

 

 暗い路地裏で、不知窪が呟く。一時泣き止んだ夜空が再び泣き出したことに対する、不満の呟きだった。

 宿を後にした考幅と不知窪は、夜闇の町に逃れたらしい邦人を追って、町の裏道を駆け巡っていた。

 

「見つからないな……」

 

 しかし賢明な捜索も空しく、邦人を発見するには至っていなかった。鷹幅は少し焦りの混じった声色で吐き出す。

 

「二曹、宿を出てそろそろ一時間経ちます。おそらく追いつくのは無理でしょう」

「ッ……」

 

 小声で会話を交わしながら、二人は裏路地の出口にたどり着く。路地は少し狭めの通りへと合流していた。

 

「待て」

 

 通りの先の覗き込んだ鷹幅が、不知窪にだけ聞こえる声で静止を掛ける。鷹幅の視線の先には四人一組の警備部隊の姿が見える。警備部隊は身を隠した二人に気付く事はなく、そのまま通りを掛け抜けて行った。

 

「まずいな、警備隊の動きが活発になって来た……」

 

 通り過ぎた警備部隊の姿を視線で追いながら、鷹幅は苦々しい口調で呟く。

 

「二曹、奴等の後を付けましょう」

 

 しかしその時、鷹幅の後ろから、不知窪がそんな発案をした。

 

「何?」

 

 不知窪の発案に、怪訝な表情を浮かべる鷹幅。

 

「ここの警備隊の駐留所を突いてみましょう。何か得られる物があるかもしれません」

「……いいだろう、行ってみるか」

 

 不知窪の説明に、鷹幅は少し考えた後にその案を承諾。二人は行動を開始した。

 

 

 

「あれだ」

 

 通りを行く警備部隊を裏道を抜けて追いかけ、二人は警備隊の詰め所の一つにたどり着いた。

 

「小規模な詰め所だな」

「まぁ、二人で突くにはちょうどいいでしょう」

 

 樫端と不知窪は路地に身を隠しながら、詰め所の様子を伺う。詰め所にたどり着いた四人一組の警備部隊は、詰めていた警備兵と少しの間何かを話していたが、やがて再び詰め所から出発、別方向へと駆けて行った。

 

「あの隊は出て行ったか」

「裏へ回るぞ」

 

 鷹幅と不知窪は裏道を迂回して、詰め所の裏側へと回る。

 詰め所の裏側にあった窓は開け放たれており、内部の様子は容易に分かった。まだ自分たちが襲撃を受けるという事を想定はしていない様子だった。

 

「人数は二人、奥と出入り口側」

「出入り口側が厄介だな、奥側のヤツを無力化するのと同時に、掛かる必要がある」

 

 二人は互いにしか聞こえない声量で、襲撃の算段を交わす。

 

「まだ殺傷は最低限ですか?」

「……なるべくそう努めてくれ」

「了解、俺が出入り口側のヤツをやります」

「頼む――行くぞ」

 

 まず鷹幅が窓を越え、奥側の警備兵を襲撃した。

 

「ん?――ヅッ!?――ぐぅッ!?」

 

 警備兵の膝裏に蹴りを入れて無理や跪かせ、首に腕を回し締め落としにかかる。

 

「ッ!どうし――がッ!?」

 

 入り口側の警備兵が騒ぎに気付き、振り向きかけたが、その行動は遅かった。

 鷹幅に続いて詰め所に侵入した不知窪が、すでに背後に迫っており、そしてその手に握られた9mm機関けん銃のグリップの底が、警備兵の後ろ首を直撃した。

 詰め所内にいた二人の警備兵は、ほとんど同時に気を失い、詰め所内の制圧は一瞬の内に完了した。

 

「今度はスムーズに行きましたね」

 

 不知窪は、打撃により気絶した警備兵の体を、奥へ引きずり込みながら言う。

 

「……あぁ」

 

 その言葉に少し渋い顔で言葉を返しながら、鷹幅は締め落とした警備兵の体を寝かせる。そして二人は詰め所内の物色を開始した。

 お目当ての物はすぐに見つかった。

 詰め所内に置かれた机の上には、この町の地図が広げられ、そこには荒々しい書き込みがいくつもされていた。それらはいずれも邦人、並びに勇者の捜索に関する書き込みだった。

 

「まだこいつらも、邦人もその勇者のお姉ちゃんも未発見みたいだな」

「だが、確実に捜索範囲を潰して狭めている。ここの警備隊が邦人や勇者を発見し、確保するのは時間の問題だ……」

「………じゃあいっそ、ここの奴等に見つけてもらいましょう」

「は?」

 

 不知窪のその言葉に、鷹幅はその表情をまたしても怪訝なものに変えた。

 

「ここの警備隊のほうが圧倒的に手数があるし、地の利もあります。ここの警備隊に邦人を見つけてもらうんです。そして警備隊が邦人を見つけた所で、俺達が横からそれを掠めとるんです」

「そんな事……うまく行くのか?だいたい、下手をすれば邦人に危険が及ぶ」

「多少のリスクは必要経費かと。どうせ予定道理邦人とコンタクトできなかった時点で、初期の作戦はご破算です。こっちもアテもなく彷徨うよりは、接触及び回収できる確率は高いと思いますが?」

「………本隊に許可を取る」

 

 

 

「嘘でしょ……」

 

 勇者の少女ファニールは、夕方に自分たちが借りた宿屋の一室で、立ち尽くし、絶句していた。そこでファニール達の帰り待っているはずの、水戸美の姿が無かったからだ。

 いや、それだけならまだ、部屋を一時的に出ているだけという希望が持てた。しかし、ひっくり返された水戸美の荷物、どういうわけか破かれたシーツ等の、部屋が荒らされた形跡が、ファニールのそのわずかな希望を打ち砕いた。

 

「ミトミさん!」

 

 ファニールは水戸美の名を呼び、部屋内をひっくり返す勢いで彼女を探し出した。しかし広くはない宿屋の一室を探すのにさほど時間はかからず、部屋のどこにも水戸美の姿がないことはすぐに分かり、ファニールは落胆する。

 

「……ッ!ミトミさん……?」

 

 だがその時、彼女はベッドの下に人影のようなものを捉えた。水戸美の名を呼びながら、ベッドの下を覗き込むファニール。

 

「え……う、うわッ!?」

 

 しかし、そこで目に入って来たものに、彼女は思わず叫び声を上げた。ベッドの下に横たわり、彼女の目の飛び込んで来たもの。それは女の死体だった。

 

「死体……?それに、この人……ここの警備兵?な、なんで……」

 

 その死体はここの警備兵の制服を纏っていた。そしてどういうわけか、破いてひも状にしたシーツで拘束されていた。

 

「ミトミさんが?いや、そんなわけない……」

 

 考えを巡らせるファニールだったが、その時、彼女の思考を遮るように、窓の外から物音が聞こえた。窓から眼下を見下ろせば、宿へと向かってくる7~8人の警備兵の姿が見えた。

 

「ッ!まずい……ひとまず逃げなきゃ」

 

 ファニールは考えるの中断し、宿屋の一室を出ると、近くにあった窓を飛び越えた。そこは二階であったが、ファニールは器用な身のこなしで難なく地上に着地。そして近くにあった路地の入口へ飛び込み、姿を隠す。

 

「どういうことなの……ミトミさんはどこにいったの……?」

 

 ファニールは混乱していた。

 水戸美はどこにいったのか。警備隊に捕まったの可能性もあるが、それにしては妙だ。そして謎の警備兵の死体。水戸美がやったとはとても思えない。

 

「意味わかんない……」

 

 考えても、結局彼女が答えにたどり着くことはできなかった。

 

「……何にしろ、もうボク一人じゃ無理だ……まずは、クラライナを救い出さないと。ミトミさん、どうなってるか分からないけど、少しだけ堪えて――」

 

 ファニールは、奥歯を噛み締めて苦渋の決断を下す。

 まず仲間であるクラライナの救出を最優先事項と定めると、彼女は夜闇の中へと姿を消した。

 

 

 

 町にある教会の鐘楼。そこに双眼鏡を手に眼下を見渡す不知窪の姿があった。

 そこへ、コトと鐘楼の階段から音がする。

 

「フォトニック・レゾナンス」

 

 不知窪は町を見下ろす行為を中止して振り向くと、階段に向けてそんな言葉を発する。

 

「クアンタム・ハーモナイザー」

 

 それに対してそんな旨の返答があり、そして階段から鷹幅が姿を現した。

 

「なんなんだこの合言葉は……?」

「深い意味はありませんよ。ただ、ここの住人の口から出てくることは、まずない言葉だと思いまして」

 

 怪訝と呆れの混じった顔で尋ねる鷹幅に、不知窪は変わらぬ調子で返しながら、町を見下ろす作業へと戻る。

 

「変わりは?」

「ありませんね」

 

 横に来て尋ねて来た鷹幅に、不知窪は端的に答える。

 

「見逃してないだろうな?」

「騒ぎが起これば嫌でも気づきますよ」

 

 結論から言えば、不知窪の発案した作戦は本隊から許可が下りた。

 そして作戦を認可された二人は、町の広範囲が見渡せる協会の鐘楼に侵入して陣取り、町の警備隊の同行をそこから見張る事にしたのだ。

 

「そう願うが。俺は反対側を見張る」

 

 鷹幅は鐘楼内の反対側に位置取ると、不知窪と同様に双眼鏡を構え、町の監視を始めた。

 

「……不知窪。お前はアルペンレンジャーと聞いたが、という事は原隊は〝第12機動団〟か?」

 

 監視を始めて一分ほど経過した所で、鷹幅は背中を向けたまま、不知窪に向けて口を開いた。

 

「えぇ、〝12機団の13普連〟にいました。鷹幅二曹は確か空挺団からでしたよね?」

「そうだ。〝第1空挺団、空挺普通科群〟が原隊だ」

「54普連に来たのは、やはり相互教育プログラムですか?」

「あぁ」

「お互い難儀な目に遭いましたね」

 

 〝部隊間相互教育プログラム〟。

 各隊が別部隊と一時的に隊員を交換し、互いの部隊の練度向上を図るための陸隊の施策だ。

 54普通科連隊も他部隊と一時的に隊員を交換しており、鷹幅や不知窪もそれに該当する隊員であった。しかし問題部隊と名高い54普連に一時的とはいえ配属されることは、お世辞にも喜ばしいと言える事ではなく、不知窪はその事を難儀と言って見せたのだった。

 

「……意味があって命じられた事だ。それに、どんな形であれ学ぶ事もあれば、逆に教えることのできる事あってある」

「前向きですね。疲れそうな考え方だ」

「はぁ、放っておけ……とにかく異変を見落とすなよ」

「レンジャー」

 

 鷹幅の言葉に、不知窪は機敏さを感じさせないレンジャー隊員式の返答で返した。

 

 

 

 協会の鐘楼に陣取った二人は、そこで食事を取っている。もちろん町の監視のため、その視線は鐘楼から眼下に向けたままでだ。

 

「ぬるくなってますね」

「冷えて体温を持ってかれないだけ、まだマシだろう」

「で、冷えてたら食えるだけマシですか?」

「ったく……」

 

 二人が食しているのは民生品のレトルト食品だ。容器入りレトルト飯に同じくレトルトの八宝菜をかけて中華丼にしたてた物を、プラスチックスプーンで口に運んでいる。

 

「まぁ、八宝菜でよかった。やたら味の濃い味付きレトルト飯、あれ嫌いなんですよね」

「お前の好みは知らん」

 

 鷹幅は早々に食事を終えると、出たゴミを手早く片付けて監視作業に戻る。一方、不知窪は監視作業こそ抜けなく行っているが、同時にゆったりと食事を続けていた。

 

「悪いが……お前、そんなんでよくアルペンレンジャーになれたな。というか、なんで志願したんだ?」

「あぁ、俺レンジャーは小隊長の見得で行かされたんですよ。内の小隊長色々面倒な人でして、ヘタに辞退やリタイアするとうるさいだろうなと思ってやってたら、結果最終想定までクリアできまして」

 

 飄々とした体でそんな事を言ってのけた不知窪は、最後に「空挺は知りませんけど、部隊レンジャーは志願制とか半分嘘ですよ」と付け加えた。

 

「なんてやつだ……」

「そうそう、課程の同期からもそんな顔されましたよ」

 

 空挺にも引けを取らぬと聞き及んでいたアルペンレンジャーに、こんな隊員が居る事を知り、鷹幅は自身の頭に微かな痛みを覚えた。

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