―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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1-17:「一発で決めろ」

「エナちゃん、どこだ!?」

「クソ……俺達が目を離さなければ……」

 

 廃村内を駆けるエティラとセネの姿がある。

 エナ少女を探す彼等は、山賊達を倒しながら廃村内を進み、隊よりも少し早く廃村の東端にたどりついていた。

 

「おい、あれ!」

 

 その時、エティラは視線の先、暗闇の中に微かに動く影を捉える。目に見えて大柄のそのシルエットは、遠目にも山賊の頭の物だと判別できた。

 

「待て!」

 

 エティラ等は山賊の頭の背中に向けて制止の言葉を叫ぶ。その言葉に、山賊頭の頭は歩みを止め、首をエティラ達の方向へと向けた。

 

「は、なんだお前等か――雑魚たった二人足止めできねぇとは、使えねぇ手下共だぜ」

 

 二人の姿を目に留めた山賊の頭は、忌々し気に発する。

 

「強がりを言うな!もうお前の配下は残っていないぞ!大人しくするんだ!」

 

 そんな山賊の頭に向けて、セネは剣先を向けて言い放つ。

 

「へへ。大人しくするのはどっちかなぁ――」

 

 下卑た笑いを浮かべた山賊頭は、振り向き、その体の表をエティラ達へと向けた。

 

「「な!?」」

 

 目に飛び込んで来た光景に、二人は声を上げる。そこには、彼等が探していた少女、エナの姿があった。

 

「ぉ、ねえちゃん……」

 

 彼女は山賊の頭の腕に首を絞められ、苦し気に死ながら山賊の体の前にぶら下がっている。

 

「へへ、お前等はこれに弱いよなぁ?ヘタな真似をすれば、こいつがどうなるか分からないぜぇ?」

 

 山賊の頭はエナの体を見せつけるようにしながら、エティラ達に向けて発する。

 

「クソ……下衆野郎が……」

 

 その光景に、エティラは言葉を零し、歯ぎしりをした。

 

「こっちだ!」

 

 その時、背後から声がする。

 鷹幅率いる3分隊2組が、周辺の制圧を終え、エティラ達より少し遅れてこの場に到着したのだ。

 

「あれは!」

 

 部隊の先頭にいた鷹幅は、その場の光景を見て状況を察する。

 

「おっと来たかぁ。これが見えてんなら、お前等も下手な真似はすんじゃねぇぞぉ?」

 

 山賊の頭は鷹幅達の向けて発する。

 

「ッ!」

「よせ、威嚇するな!」

「しかし!」

 

 横で小銃を構えようとした樫端を、鷹幅は制止する。

 

「各ユニットへ!廃村の東端で非常事態発生――」

 

 そして鷹幅はインターカムを口元に手繰り寄せ、通信を送る。

 一方で、エティラとセネは手を出せない状況に悔しさを浮かべながら、山賊の頭と対峙を続けていた。

 

「やめるんだ!放してやれ!その子はまだ子供だぞ!」

「へへ、そうはいくかよぉ。お前等のせいで俺の山賊団はめちゃくちゃだぁ。せめてコイツを売って足しにでもしねぇとなぁ」

 

 セネの発した言葉に、山賊の頭は笑いを浮かべてそんな言葉を返す。

 

「貴様ぁ……ッ!」

 

 セネは今まさに飛び掛からんと言った様子で、山賊の頭を睨みつける。

 

「ふん、そうだなぁ――お前が身代わりになるってんなら、このガキは放してやってもいいが?」

 

 そんなセネに対して、山賊の頭はそんな提案の言葉を投げかけた。

 

「な!?」

 

 山賊の頭のその言葉に、目を見開いたのはエティラだ。

 

「気性は荒いが、お前もなかなかの上玉だ。結構な金を生み出してくれるだろうなぁ」

「ふざけるな!そんな事、認められるわけないだろう!」

 

 山賊の頭の言葉を聞き、エティラは叫ぶ。

 

「だったら、このガキを連れてくまでだ」

 

 言いながら山賊頭は後ろ足で一歩下がる。

 

「待て!……分かった、私が身代わりになろう……」

「な……!?セネ!?」

 

 その時セネから発せられた言葉に、エティラは彼女の方を向いて、再び目を剥いた。

 

「へっへっへ、利口な選択じゃねぇか。なら、こいつを嵌めてこっちに来な」

 

 山賊の頭は下品な笑い声を上げると、持っていた手枷をセネの足元に投げて寄越す。

 

「ぉねえちゃん……ダメ……」

 

 そんなセネの姿を見て、エナがか細い声で発する。

 

「うるせぇ!お前は黙ってろ!」

「ぐぅ……!」

 

 山賊の頭が、セネの首を締め上げる。

 

「よせ!今行くから、その子を傷つけないでくれ……!」

 

 セネは山賊の頭へ懇願の声を上げる。そしてセネは剣を捨てて足元の手枷を拾い上げると、自らの腕にその手枷を嵌めた。

 

「よすんだセネ!」

「ごめんエティラ。エナちゃんを救うにはこれしかないんだ……」

 

 言って、山賊の頭の元へ歩き出すセネ。

 

「クソ……セネぇッ!」

 

 そんな彼女の背中を目に、エティラは苦し気な叫び声を上げる。

 

 

 

 ――パーンと、乾いた爆ぜるような音が響いたのはその瞬間だった。

 

 

 

 突然の音に、エティラとセネは驚く。

 否、彼等が驚いてる理由は、別にあった。

 

「ぐぁぁ……!?」

 

 目の前にいた山賊の頭が、自らの左肩を抑えて苦しみ悶える声を上げていた。

山賊頭は肩からは、一筋の血が流れている。そして山賊頭は、その腕からエナの小さな体を落とす。

 

「何が……!?」

 

 困惑するエティラ達。その彼等の耳が、今度は異質な唸り声のような物を聞く。

 

「あれは!」

 

 その正体は、小型トラックのエンジン音であった。

 廃村の奥から走行して来た小型トラックが、エティラ達の横を駆け抜ける。そして未だ苦しむ山賊の頭の横を駆け抜ける。その瞬間、後席から車外へ身を乗り出していた策頼が、エナの体を両手で掴み、小型トラックの荷台へと引きずり込んだ。

 小型トラックはそのまま走り抜けて、その先でスピードを落とす。そして旋回し、鷹幅やエティラ達の所へと戻って来た。

 

「よし。対象を包囲拘束しろ」

 

 鷹幅が発し、小型トラックと入れ替わりに、隊員等が山賊の頭を拘束するべく駆けてゆく。

 

「成功したな――皆、よくやってくれた」

 

 鷹幅はフゥと息を吐きながら呟く。そして小型トラック上の策頼と、ハンドルを握っていた鳳藤に言う。ここまでの各員の一連の動きは、全て鷹幅が指示した物であった。

 

「どうも」

「えぇ、ありがとうございます」

 

 鷹幅の労いにそれぞれ返す策頼と鳳藤。

 

「不知窪、お前もよくやってくれた」

 

 そして鷹幅は、続いてインターカムに向けて言葉を発した。

 

 

 

 事態発生の現場から少し離れた位置にある小屋の屋根の上。

 そこに一人の隊員の姿があった。

 それなりの高身長で、顔の頬はやや痩せこけており、鋭い眼が特徴の隊員。そして三曹の階級章を付け、その胸にはレンジャー記章を付けている。

 屋根の傾斜を遮蔽物として腹這いの姿勢でその場に陣取り、〝99式7.7㎜小銃〟を構えている。

 これは旧軍時代の九九式小銃が、太平洋戦争終結後に再び採用、及びマイナーチェンジを受けて再生産され、陸隊に配備された物であった。

 そしてその小銃の銃口からは、白い一筋の煙が上がっていた。

 

「やれやれ」

 

 隊員は、99式7.7㎜小銃の上に装着された狙撃用スコープから顔を外すと、どこか気だるそうに呟く。

 

《不知窪、お前もよくやってくれた》

 

 そんな彼の耳につけられたインターカムに、鷹幅の声が響く。山賊の頭の肩を狙撃したのは、他ならぬ彼であった。

 

「一、選抜射手にこんな特殊部隊の真似事みたいなこと、させないでほしいんですがねぇ」

 

 不知窪と呼ばれた三曹は真顔のまま、労いの言葉に対してやや不服そうに答えた。

 

 

 

「エナちゃん!」

 

 セネは小型トラックへと駆けより、その荷台へ半身を乗り出す。そして荷台の上に居たセネの体を抱きしめた。

 

「今のも……あんた等がやったのか……?」

 

 セネと共に駆けて来たエティラが、鷹幅に尋ねる。

 

「えぇ。危険を伴う案でしたが、これが最適だと思い、隊員に狙撃させました」

「うわッ!」

 

 隊員の叫び声が、それぞれの耳に聞こえたのはその時だった。視線を向ければ、隊員等の包囲の中央で、手負いの山賊の頭が暴れていた。

 

「ぬがぁぁ……ふざけやがってぇ……ッ!」

 

 痛みの影響で激情し、大斧を滅茶苦茶に振り回す山賊の頭。

 山賊の頭の腕力により振るわれる斧の威力は凄まじく、包囲している隊員等は、うかつに近づく事が出来ないでいた。

 

「は、発砲許可を……!」

 

 包囲していた隊員の一人である樫端が、発砲許可を求めようとする。

 

「うわッ」

 

 しかしそんな彼を、背後から伸びた太い腕が退けた。

 他ならぬ制刻であった。

 制刻は樫端の横を抜けると、大斧を振り回す山賊へと歩み寄って行く。

 

「え――ちょ、制刻さん!?」

 

 樫端は驚き、制止の声を掛ける。しかし制刻は構わず、山賊の頭の大斧の間合いへと踏み込んだ。

 

「こぉの野郎ぉぉぉッ!」

 

 そして山賊の頭が叫びながら振り上げた大斧が、制刻の体を切り裂く――かに見えた。

 

「――あ、あぁ……!?」

 

 しかし、制刻の体が切り裂かれる事は無かった。山賊の頭の表情は、激昂から困惑それに変わる。山賊の頭の大斧を持つ腕は、振り下ろされるその途中で止まっていた。いや、止められていた。制刻の翳した左腕が、山賊の頭の腕を受け止めていたのだ。

 

「が……!なんで、動かねぇんだ……ッ!」

 

 山賊の頭は必死に腕を動かそうとするが、人並み外れた腕力を誇るはずの彼の腕は、ビクともしなかった。

 

「ふざけ――ごぼッ……!?」

 

 そして次の瞬間、山賊の頭の鳩尾に鈍痛が走る。見れば、制刻の放った膝蹴りが、親族の頭の腹部に思い切り入っていた。山賊の頭は、脱力して崩れ落ちて両膝を地面に着く。

 

「投降しろ」

 

 その山賊の頭に向けて、制刻は淡々と一言発する。

 

「ごほ……く、くそ……分ぁったよ……」

 

 投降をすんなり受け入れる山賊の頭。その言葉を聞き、制刻は彼の腕を放す。

 

「……なんてなぁッ!!」

 

 その次の瞬間、相手が油断したであろう隙を突いて、大斧の刃を突き立てに掛かった。

 

「――ごえッ!?」

 

 しかし、直後に上がったのは山賊の頭の掠れた悲鳴であった。

 見れば、山賊の頭の首元に、鉈が深く刺さっている。

 その鉈の柄を握っているのは制刻だ。

 制刻に隙など無かった。制刻は、山賊の頭の大斧が自身の体に届くよりも早く、弾帯に挟んでいた鉈を繰り出し、山賊の頭の首へと突き立てたのだ。

 

「ぁ……か……」

「チャンスはやった」

 

 声にならない声をその口から零す山賊の頭に、制刻は淡々と言い放つ。

 そして鉈を引き抜く。

 山賊の頭は、鉈が引き抜かれた事によりできたその首の深い切断面から、鮮血を勢いよく噴き出し、そして地面へと崩れ落ちる。制刻は亡骸と化した山賊の頭の体を、つまらなそうに見下ろしていた。

 

「陸士長」

 

 そこへ、背後から声が掛かる。振り向けば、鷹幅二曹が小走りで駆けてくる姿が見えた。

 

「あぁ、すいません鷹幅二曹。野郎、小賢しい手を使って来たんで、思わず反射で殺っちまいました」

「……最後までこの男は脅威だった。仕方が無いか……」

 

 鷹幅は少し複雑な心境なのだろう、若干渋い表情でそう言った。

 

「なんてヤツだ……」

 

 そして少し離れた位置からはエティラ達が、制刻の姿を半ば恐ろしい物を見るような目で、眺めていた――。

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