―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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17-5:「商議会への客人」

 紅風の街。この紅の国の中央府が置かれる、いわゆる首都だ。

 その中心部にある中央府の建物。そこの屋上に、二人分の人の姿がある。その片方は、この国の政府組織である商議会で、派閥の一つを率いる議員、エルケイム。そしてもう一人は彼の秘書官であった。

 

「来たな」

 

 エルケイムが呟く。彼のその目は上空に向いている。そして彼の目が、その上空夜闇を飛ぶ、二人分の〝人影〟を捉えた。

 夜闇を背景に飛行する二つの人影は、次第にこちらへと接近し、中央府建物の上空へ飛来。そして屋上へと降り立った。

 現れたのは二人の女だ。

 一人は体の各所に竜の特徴を持つ、見た目二十代中程の女。

 手足や首元、頬が鱗に覆われ、頭からは一対の立派な角が、背中からは大きく無骨な翼が、腰からは太い尻尾が生えている。そして酷く露出の多い恰好をしていた。

 そしてもう一人、十代後半程の見た目の少女。

 真っ白な腰まで届く髪に、エルフのように尖った耳が見える。

 しかし一番目を引くのは、腰部分から生える大きな一対の、そして頭にも生える小さな二対の翼。形状こそ、先の竜女の持つ翼竜のそれに似通っている。しかし何より特徴的なのは、色合いだ。

 黒――いやまるで闇。光を全て吸収してしまう程の闇。

 その少女の生やす翼は、まるで闇が形を成し作ったような翼を、その身に生やしていた。加えて、腰の下からは鋭利な先端を持つ、同様の闇色の尻尾が覗いている。

 格好は、先の竜女程では無いが、腕や足を露出した、扇情的な格好をしていた。

 

「やれやれ、長旅となってしまったの」

「少し無茶な行程だったんじゃない?」

 

 会話を交わし合いながら降り立った二人の女に、エルケイムと秘書官は近づく。

 

「久しぶりじゃの、エルケイム」

 

 エルケイム達に気が付いた龍の特徴を持つ女は、古風な言い回しの挨拶を寄越した。

 

「ずいぶん遅かったな、セイオリディム」

「はは、道中で景色に見惚れてしまっての」

「まったく……所で、そちらは?てっきりお前一人で来るものと思っていたが……」

 

 エルケイムは、セイオリディムと呼んだ女の横に立つ、闇色の翼の少女について、少し怪訝な顔を作って尋ねる。

 

「ワシの友人じゃ。アリィという」

「なんで紹介を愛称でするのよ……アリックスよ」

 

 漆黒の翼を持つ少女は、セイオリディムの紹介に呆れながら、正しい名前を名乗った。

 

「夢魔の方ですか?」

 

 秘書官が尋ねる。

 

「悪魔よ。まぁ科学……――んんッ、人間には広義では同じなんでしょうけど」

 

 アリックスと名乗った悪魔の少女は、少し何かをごまかすように言い換え、そして付け加えた。

 

「僻地に引き籠っとる悪魔じゃったが、我が軍に協力してもらう事になっての。今回は、この辺りの状況を知ってもらうために、付いて来てもらった」

「悪いわね。予定外だったかしら」

 

 アリックスは軽く謝罪の言葉を述べる。

 

「まぁ、かまわない。メリル、彼女の分の部屋の手配を頼む」

「かしこまりました」

 

 そして各々は、屋内へと入った。

 

 

 

「入ってくれ」

 

 二人はエルケイムの執務室へ案内され、中へと通された。

 

「はぁ、やれやれじゃの」

 

 セイオリディムは入るや否や、執務室にあるソファに断る事すらなく、遠慮なしに腰かけた。背中側に生える翼と尻尾を器用に退けて、優雅に背をあずける。

 

「ほれ、アリィも」

「相変わらず傲慢さを隠そうともしないわね」

 

 言いながらアリックスも反対側のソファに浅く腰かけ、両手を後ろ付いて体重を預けた。

 

「で、早速じゃが聞かせてくれんか?この国の掌握の目途は立ったのかの?」

「順調だ。魔王軍に付く事に反対すると思われる派閥は、すでに弱体化させてある。抱き込める者は抱き込み、頑なに反対するであろう者には、然るべき措置を取っている」

 

 おもむろに尋ねて来たセイオリディムに、エルケイムは自分の執務机に付きながら返す。

 

「治安部隊の方はどうなっておる?中央だけ抑えても、兵力が付いてこなければお話にならんぞ」

「無論だ。主要な町の警備隊を掌握する根回しも進んでいる」

「ふふん。悪くはない進み具合のようじゃの」

 

 セイオリディムは自身の片足を抱き寄せ、満足げに微笑を浮かべる。

 

「いいのう、革命の日は近いということじゃ」

「革命?」

 

 セイオリディムのその言葉に、アリックスは訝しげな表情を作る。

 

「そうだ、革命だ。我々は、魔王軍との敵対姿勢を取る現体制に終止符を打ち、この国を新たな道へと進める」

「そして、この国は魔王軍の新たな友人となるわけじゃ」

 

 エルケイムが発し、それに続いてセイオリディムが愉快そうに言った。

 

(魔王軍側に媚び諂いに行く、裏切りも同然の行為を、よくもそんな大層に言えたものね……)

 

 そんな二人の言葉に、アリックスは内心で疑念の言葉を吐いた。

 

「それと、今この国に勇者が一人入国している」

「ほう」

 

 エルケイムの口から出た次の言葉に、セイオリディムは興味深げな視線を彼に向けた。

 

「魅光の王国から出た勇者だそうだ。そちらからの要望通り、すでに捕らえるべく動いている」

「捕まえる?勇者を?一体何のために?」

 

 アリックスが再び疑問の声を上げる。

 

「勇者という存在は我々にとっても侮れぬ存在でな。逆に、手中に収め、懐柔できれば良い手駒となるわけじゃ」

 

「趣味が悪いわね」

「そう言ってくれるなアリィ。で、今はどういう手を取っているのかの、エルケイム?」

「今は北にある凪美の町で囲い込み、警備隊に追わせている」

「それは結構な事じゃが、相手は勇者じゃ。警備隊で対応しきれるのかの?」

「勇者と言えども、まだ経験の浅い駆け出しの小娘だそうだ。数で追い込めば、そこまで苦労することはないだろう」

「だといいけど」

 

 エルケイムの説明に、アリックスは少し懐疑的な声で呟いた。

 

「ふむ。まぁ、おおまかな所は分かったかの」

 

 言うと、セイオリディムは「くぁぁ」と緊張感無く欠伸をする。

 

「ふぁ――詳しい事は明日にしようかの、アリィも疲れたじゃろうて」

「まぁ、そうね」

「ではエルケイム。ワシらは今晩は、これで失礼するぞ」

「あぁ、部屋も手配できた頃だろう。何かあれば秘書官に聞いてくれ」

 

 エルケイムのその言葉を聞くと、セイオリディムとアリックスはそれぞれソファから立ち上がる。

 

「そういえば、レディシオはこっちでしっかり仕事をしておるかの?明日はあやつがちゃんと仕事をしておるか、会いに行ってみんとな」

「寄りにもよって、あなたにそんな心配をされるなんて、彼女も心外でしょうね」

 

 そして会話を交わしながら、執務室を後にした。

 

「………まったく、鼻に付く連中だ」

 

 二人が退室した事を完全に見届けたエルケイムは、顔を顰めて静かにそう呟いた。

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