―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》 作:えぴっくにごつ
レンジャー班突入の数分前。
城門から続く町路を道なりに直進して来た89式装甲戦闘車は、やがて水路にかかる一本の橋の前へとたどり着き、そこで停車。
「第1分隊、展開」
装甲戦闘車の内部で、指示の声が響く。そして装甲戦闘車の後部扉が勢いよく開かれ、香故三曹、ウラジア三曹、易之三曹、策頼一士、町湖場一士、超保二士の6名の隊員が降車。
各員は、今作戦のために人員を入れ替え再編された、第1分隊を構成する人員だ。
6名は装甲戦闘車の後方へ素早く展開し、周辺警戒の態勢を取る。
同時に、装甲戦闘車の操縦席の真後ろにある座席からは、古参三曹の峨奈がハッチを這い出て車体から飛び降りた。峨奈は本来は第3分隊分隊長であるが、今作戦で部隊が再編成される当たって、第1分隊の指揮を任される事となった。
降車した峨奈は、歩み展開した6名の元へ合流。展開した彼らの横を、後続のトラックから降車した別の隊員等が駆け抜けて行く。峨奈はその様子を横目で見送りながら、指示の言葉を張り上げた。
「これより当該建物および周辺の制圧にかかる。2組、そこの住宅を制圧。1組は私と共にそこの路地を抜けるぞ」
峨奈はすぐ傍にある建物と、それに隣接する路地を指し示しながらそれぞれの組に命ずる。
「了」
「了解!」
「……」
各隊員はそれぞれ了解の言葉を返し、行動を開始した。
住宅の制圧を命じられた2組は、住宅の玄関口に取りつき、すかさず突入。
それを横目に見ながら、1組の隊員等は隣接する路地へと進入。両腕に小型の個人防護盾を装着した策頼を先頭に、二番手の超保が上方を警戒しながら続き、さらに分隊指揮官の峨奈と、最後尾を対戦車火器担当のウラジアが続く。
一組は路地を抜けると、中庭のようになった場所に出た。その場に出た彼らの目に真っ先に移ったのは、コの字型の三階建ての建物と、その上空から飛び去る瞬間のCH-47J。そして今まさに、上階へ突入したレンジャー班の姿だった。
「一度停止しろ。2組、住宅内部はどうだ?」
峨奈は一組に一旦停止を命じ、無線で2組に向けて呼びかける。
《こっちは空き家だ》
無線越しに香故が寄越した言葉と同時に、住宅二階の中庭側に面する窓が勢いよく開かれ、そこから町湖場の持つMINIMI軽機が銃身を突き出した。
「よし、そこから支援してくれ。ただし、攻撃されるまでは撃つなよ」
《さっきケンタウロス4-1が攻撃されたろ?》
「こっちはまだだ」
《意味のある行為には思えんがね》
香故は皮肉気な言葉を寄越すが、峨奈はそれを流して言葉を続ける。
「1-1と私はこれより建物内へ突入する」
《了》
1組は前進を再開。目標建物の壁に取りつきそれに沿いに進み、コの字型の建物の中心にある入り口を目指す。
「警戒しろ。……これだけ騒いでいるのに、相手方の動きがまだ見られないのが妙だ」
訝しむ言葉を発する峨奈。
建物二階にあるいくつかの窓が勢いよく開かれ、クロスボウを手にした警備兵が姿を見せたのはその時だった。
「接敵ッ!」
先頭の策頼が声を張り上げる。
「来たか――!待てよ、まだ待てよ……!」
1組の隊員等を抑える声を上げる峨奈。その次の瞬間、彼等の周辺に、警備兵のクロスボウから放たれた矢が、二本、三本と降り注いだ。
「攻撃された!ジャンカー1-1は攻撃された、これより反撃する!――各員発砲許可!」
峨奈はインカムに攻撃された旨を叫び、同時に1組へ指示を下す。
峨奈の指示が下りた瞬間、すでに窓へと向いていた1組各員の火器が発砲を開始した。各窓から身を乗り出していた警備兵は、銃火を受けて窓の向こうへと倒れてゆく。
建物の中央にある両開きの扉が勢いよく開かれ、警備兵達が慌てて掛け出て来たのは、その時だった。
それと同時に、対面する住宅で待ち構えていた、町湖場のMINIMIが発砲を開始。開けた場所に飛び出してきた警備兵達は、瞬く間に掃射の餌食となり倒れていった。
「策頼一士、そのまま推し進めッ!」
「了!」
掃射が一区切りした所を見計らい、峨奈が指示の声を張り上げる。そして1組は壁沿いに駆けて入り口まで到達し、建物内部へと踏み込んだ。
「ッ!」
入り口の内側には数名の警備兵が残っていた。警備兵は驚きながらも侵入者へ対応しようと、武器に手を伸ばす。
「ィィアアアッ!」
しかし、怯み気味であった警備兵よりも、先頭で突入した策頼の行動の方が早かった。
策頼は踏み込んだ勢いのまま、一番近くにいた警備兵に詰め寄り、そして寄生に近い掛け声を上げながら、右腕に装着した個人防護盾で、その警備兵を思いっきり殴打した。
「ァッ!?」
殴打を諸に受けた警備兵は、声にならない悲鳴を零しながら、失神して崩れ落ちる。
一人の無力化に成功した策頼だが、殴打を放った直後の彼の体は無防備だ。その無防備な姿を目に留めた周りの警備兵達は、策頼に殺意とその得物を集中させる。
「ゲァッ!」
「がッ!」
しかし、そんな彼等も次々に血を噴き出し、崩れ落ち出した。
後続で突入して来た超保やウラジア、そして峨奈の小銃から放たれた小銃弾が、彼らに襲い掛かったのだ。
入り口近辺に残っていた警備兵は無力化され、内部に踏み入った1組の各員は、入り口か左右に伸びる廊下へ銃口を向け、警戒の視線を向ける。
「1-2、私達は突入に成功、これより建物の制圧にかかる。そちらは急を要さない限り、掃射は控えろ」
《1-2、了解》
「――よし、各部屋、各階の制圧にかかる。四耶三曹と超保二士は左側の廊下を、策頼は私と共に右側だ」
峨奈は無線で2組への指示を送ると、続けて1組各員へと直接命じる。
「了解」
「了」
「……了解」
各員は、各々の調子で返答を返す。
「よし、かかれ」
峨奈の声に応じ、各員は行動に掛かった。
水路にかかる橋の前で、竹泉、多気投等第4分隊は警戒に当たっていた。多気投が腹ばいの姿勢でFN MAGを構え、その隣で竹泉が立膝を着いて小銃を構えている。
「ヨーォ、ヘヴィなバトルはまだかぁ?」
「俺はずっと来なくてもいいがね」
退屈そうに呟く多気投に、竹泉が吐き捨てるように返す。
「よく見張れ。嫌でもやってくるさ」
二人の言葉に、少し離れた位置で同じく警戒に当たっていた河義が言葉を飛ばす。
「ヘェイ!来たぜぇ」
多気投が声を張り上げたのはその時だった。そして橋の向こうがに見える交差路から、一個分隊程の警備兵部隊が現れ、こちらへ駆けてくる姿が、彼等の目に飛び込んで来た。
「まだ撃つな、攻撃されてからだぞ!」
河義三曹が、念を押す声を張り上げる。
「カスッタレな決まり事だぜ」
その指示に、竹泉は忌々し気な呟きを零す。
その直後、彼等の周辺に複数の矢が襲い掛かった。いくつかは手前の橋に突き刺さり、いくつかは彼等の横を掠めて背後へと飛び抜けた。
「ワァオ、飛んで来たぜぇッ!フゥーッ!」
言うが早いか、多気投はFN MAGの引き金を引いた。連続的な発砲音が響き出し、それに合わせて給弾ベルトに連なった7.62㎜弾が銃の機関部吸い込まれ始める。
「恨むんじゃねーぞ、お巡りさん!」
「各隊、こちらジャンカー4。攻撃された、反撃する!」
続いて竹泉も発砲を開始、少し遅れて河義も無線に叫んでから発砲を開始する。
先頭に位置していた数名の警備兵が、FN MAGの掃射に食われて薙ぎ倒され、さらに奥側に位置していたクロスボウ射手二名が、竹泉と河義がそれぞれ撃った弾に当たって崩れ落ちた。一連の攻撃を受けて、生き残った警備兵達は慌てて路地や遮蔽物に退避して行く。
「河義三曹ォ。どうしましょぉかぁ?手榴弾ぶっこみますぅ?それとも装甲戦闘車の機関砲で吹っ飛ばさせますかぁ?」
「いや、俺達は彼等を釘付けにすればいい。これ以上の火力は不要だ、この状態を維持する」
竹泉の具申を取り下げ、河義はあくまで現状を維持するよう指示を下す。
「へーへー、了解」
やる気のない言葉を返す竹泉。
警備隊側もこちらの攻撃を警戒してかそれ以上前進はしてこず、さらに伝令が走り戻ってゆく姿が見える。
両者は対峙したまま、この場の状況は膠着する事となった。