―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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18-5:「腐敗と打撃」

 建物二階にある一室。

 その室内のベッドの上に、一糸まとわぬ姿の一人の太った中年の男と二人の娘があった。

 

「ふほほ、いい具合であったぞ」

 

 太った中年の男は満足げな表情でそんな言葉を発している。

 

「はぁ……はぁ……」

「ぁ……はぁ……」

 

 二人の娘はベッドに横たわり、顔を紅潮させ、艶の含まれた荒い呼吸を上げている。

 中年男と二人の娘は、今の今まで情事に及んでいた所であった。そしてそれは当然、健全な関係の上でのそれではなかった。

 

「小娘風情が儂を陥れ、失脚させようなどと企むからだ。これで身のほどを知ったであろう」

 

 二人の娘は、汚職に手を染めていた中年男の行いを明るみにし、中年男を追放させるために動いていた、密偵と協力者であった。二人は中年男の行いを明るみに出し、追放する事に成功した。しかし中年男は一度は投獄されたが、手管人脈を利用し釈放され、商会に復帰。そして自らを陥れた二人の娘を、逆に陥れて捕らえ、こうして手籠めにしたのだった。

 

「ふふふ、考えていたらまたいきり勃って来おったわ。どれ、もう一度可愛がってやるとするかのう」

 

 言うと、中年男は舌なめずりをして、娘二人に覆いかぶさろうとする。

 ――部屋の扉が蹴破られたのは、その瞬間だった。

 

「動くなァーッ!!」

 

 そして怒声と共に、波原と新好地がそれぞれの武器を構えて踏み込んで来た。

 

「な、なんだ貴様ら――一体……」

「やかましいァッ!」

「ぎぇげッ!?」

 

 波原は狼狽える中年男に詰め寄り、言葉と共に両腕を奮った。商会の中年男の横面に、9mm機関けん銃の後部が叩き付けられる。肉と鉄のぶつかり合う鈍い嫌な音が響き、中年男は近くの壁に叩き付けられて崩れ落ちた。後続で踏み込んで来た新好地が、ベッドに寝かされている二人の人間を目に留め、ショットガンを向ける。

 

「……はぁ」

 

 その姿、状態から状況を察した新好地は、ため息を零した。

 

「貴様ら、なんなんだ……!こんな事をして……――ごぶッ!?」

 

 床に崩れ落ちた中年男は喚き立てたが、それは途中で悲鳴に代わる。波原が中年男を黙らさるために、中年男の腹部に戦闘靴のつま先を叩き込んだのだ。

 

「波原三曹……〝また〟こんなんです」

 

 嫌気の差した表情、波原に向けて発する新好地。

 レンジャー班は降下後、建物の各部屋をクリアリング、制圧して来たが、その過程でこの建物がどういった目的で使われているのかが見えて来た。

 この建物は娼館、それも不当に拘束した人間に客を取らせる非合法な娼館として使われており、その他にも後ろ暗い数多の行いの温床となっているようだった。

 

「やれやれだな……。とにかく、ここも保護は後回しだな。まずこの男だけ拘束して――」

 

 波原は不快そうな表情で、中年男を一瞥しつつ言葉を発しかける。

 

「新好地、後ろッ!」

 

 しかしその途中で言葉を切り、波原は目を見開いて新好地の名を叫んだ。その言葉に、新好地は一度目を離していたベッド側へ再び振り向く。

 

「よくもご主人様を!」

「ご主人様にあだ成す者には死を!」

 

 そして新好地の目に映ったのは、その手に短剣を握り、襲い掛かって来る二人の女の姿だった。

 

「ヅッ!」

 

 新好地は咄嗟にショットガンを盾代わりに翳し、振り下ろされた娘の短剣を受け止めた。しかし間髪入れずに、もう一人の娘が襲い掛かる。新好地は先に襲い掛かって来た娘を押しのけ、もう一人の娘の攻撃を受け止める。

 

「ッ、やめろッ!」

 

 叫ぶ新好地は、しかし二人の娘に対して発砲を躊躇い、防戦一方となる。

 

「グフ……ふふふ……。そやつらは既に儂の従順な飼い犬よ……!」

 

 その様子を見ていた中年男は、苦し気ながらも笑みを浮かべてそんな言葉を発する。

 

「新好地ッ!」

 

 波原は9mm機関けん銃を構えて娘二人を狙おうとするが、新好地と娘二人の距離が近すぎ、安易に発砲できないでいる。

 

「くく……何者か知らんが小娘には攻撃できんと見える。そのまま小娘共の刃の餌食となるがよいわ!」

 

 光景に高笑いを上げる中年男。

 だがその声をかき消すように、発砲音が部屋内に響き渡ったのはその瞬間だった。

 

「ごッ!?」

「げぇッ!?」

 

 連続した射撃音が二回。

 同時に娘口から、鈍い悲鳴が上がる。

 そして娘二人が背後から打撃受けたように体をのけ反らせ、そして二人ともほぼ同時に崩れ落ちた。二人の後頭部から背中にかけて、撃たれた跡が生々しく線を描いている。

 

「なッ!?」

 

 そして先の笑いから一転、中年男の驚く声が上がる。

 いや、突然二人の女が倒れた事に驚いていたのは、中年男だけではなく、新好地や波原も同じであった。

 そして全員の視線が一斉に同一方向を向く。

 外側から蹴破られたと思しき部屋の窓。その窓枠上部に片手で懸垂の要領で掴まり、もう片手で硝煙の上がる9mm機関けん銃を構えているヴォーの姿がそこにあった。

 ヴォーは窓枠から手を放し、するりと部屋内に入り込んで床に着地。女二人の死亡を確認すると、新好地の方を見る。

 

「新好地。ためらうな」

 

 そして新好地に向けて端的にそれだけ言うと、新好地の脇を抜けて波原の前に立つ。

 

「おまえ、どっから現れんだよ……!」

 

 波原は驚きと呆れの混じった声でヴォーに向けて発する。

 

「二階の南側は全部抑えた」

 

 対するヴォーは質問には答えず、端的に自分が制圧を終えた個所についてだけを伝えた。

 

「糞……」

 

 そんな二人の傍らで、新好地は二人の娘の亡骸を見下ろしながら、悪態を吐く。

 

「新好地……嫌な気分に浸るのは後だ。コイツだけ拘束したら、次の部屋を抑えに行くぞ」

「………レンジャッ」

 

 波原に説かれ、新好地は苦々しい表情で返答する。

 

「俺は北側を抑えに行く」

 

 一方、ヴォーは淡々とそういうと身を翻し、再び窓から外へと出て行った。

 

「……ったく」

 

 波原はそれを見送りながら呟き、そして同時に足元で這いずり逃げようとしていた中年男の体を蹴り上げる。入った戦闘靴のつま先は丁度中年男の金的を潰し、中年男の「ひぎッ」という青ざめた悲鳴が足元から上がった。

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