―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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18-7:「Mission Update」

 地上、車輛隊隊列。

 保護した不当に拘留されていた人達が、87式砲側弾薬車の弾薬室に乗せられている。

 拘留されていた人達は、砲側弾薬車によって先んじて草風の村に移送される事となった。

 

「これから草風の村に向かいます。大丈夫、少しの間だけ辛抱してください」

 

 彼ら彼女らは表情は皆、疑わし気で不安そうであり、誘導の隊員がそれをできる限り安心させようと宥めていた。

 

「ひぃ……ど、どこへ連れていくのだ……!?」

「口を開くな。ほれ、とっとと進め」

 

 一方、部隊が拘束した者達の内の一部が、列をなして路地を抜け出てくる。この娼館として使われていた建物に、客として訪れていた商会員などだ。

 彼等には隊員の監視の目と、銃口が向けられ、強制的に歩かされている。

 重要な参考人であると判別された彼らは、隊により拘束連行される事となり、順番に各大型トラックに押し込まれていた。

 それらの光景を眺めていた長沼の前に、一人の隊員が立った。

 

「ほんじゃあ、長沼二曹ぉ。俺っち等は、お客さん乗せて一足先に戻らせてもらいますんでぇ」

 

 独特の陽気な口調で言ったのは、野砲科所属で87式砲側弾薬車ドライバーの歩綴(ほつづり)三曹だ。

 

「あぁ、頼むぞ歩綴三曹」

 

 長沼の言葉に軽い敬礼で返すと、歩綴は砲側弾薬車のドライバー席に乗り込む。

 そして砲測弾薬車はエンジンを吹かし、キャタピラ音を響かせて車列を離れて行った。

 それを見送った長沼は身を翻し、車列に沿って進み、装甲戦闘車の脇を抜けて前方に回る。

 そこには各陸曹が集まり指示を待っていた。

 長沼は装甲戦闘車の前方に立つと、車体の上に無骨な指揮官用タブレット端末を置き、そしてその横に地図を置いた。

 地図には現在地点と、判明した警備隊本部の位置に赤丸が付いている。タブレット端末の画面に映る無人観測機からの上空映像には、同じく現在位置と警備隊本部の位置がマーカーで記されていた。

 集まっていた各陸曹と、装甲戦闘車の操縦席から半身を乗り出していた、ドライバーの藩童士長がそれ等に注目する。

 

「警備隊本部の場所は判明した。だが、警備隊本部に到達するにはどうあっても水路を越える必要がある。そしてそのための車輛隊が渡れる橋は限られ、たどり着くためには車輛隊は町内を大きく迂回する必要がある」

 

 長沼は言いながら、広げた地図に記された道に沿って、ペンで赤線を引いていく。線が引き切られ、赤いインクは地図上に町内を迂回するルートを描いた。

 

「そこの橋は装甲車両の重量には、到底耐えきれそうにありませんからね」

 

 峨奈がすぐ先にある、水路にかかる木造の端を見ながら言う。

 

「無人観測機からの情報では、水路の上流より三番目の橋が、石造りで頑丈そうであり、車輛隊も渡れるだろうとのことだ」

「だろう、ねぇ」

 

 あくまで推測であるその言葉に、香故は呆れ混じりの声をあげる。

 

「何にせよ、我々に行く以外の選択は無い」

「距離の長さも気になるが、道中の道の狭さも気になるな……到達するのに時間がかかるかもしれませんね」

 

 峨奈が懸念の言葉を発する。

 

「あぁ、問題はそこだ。到達まであまり時間がかかると、邦人が警備隊本部からまた別の場所に移送されてしまうかもしれない」

「面倒だな。いっそ、装甲車で建物を壊して、その橋まで直進すればどうです?」

 

 香故が本気か冗談か付かない顔で、そんな旨の進言をする。

 

「却下だ。民間人も大勢生活してるんだ、そんな真似はできない」

「でしょうね、一応言ってみただけです」

 

 長沼の厳しめの否定の言葉に、香故は悪びれもせずにそう返した。

 

「長沼二曹。では車輛隊とは別に、分隊を水路に沿って徒歩で向かわせてはどうでしょう。車輛隊よりも早く警備隊本部に到達できるかもしれません」

 

 入れ替わりに峨奈が長沼に向けて進言する。

 

「ふむ……いいだろう。ではレンジャー班も合流させ、第1分隊には徒歩で警備隊本部を目指してもらう」

「それで、拘束した者達は一緒に連れまわすんですか」

 

 香故は、拘束した者達の押し込まれた各トラックを一瞥しながら尋ねる。

 

「現場を発見した以上、野放しにはできん。かといってこれ以上車輛は減らせないからな。

乗せたまま行く」

「窮屈そうだな、車輛隊は気の毒に」

 

 長沼の言葉に、香故は皮肉気に言って軽く笑った。

 

「他に質問のある者」

「なし」

「ありません」

「……」

 

 各員が返事を返す中、女陸曹の易之は必要以上に警戒しているのか、落ち着かなそうにしきりに周囲に視線を向けている。

 

「易之、聞いてたか?」

「ッ!はい……!二手に分かれて、敵の本部へ……!」

 

 長沼に肩を突かれ、気付いた易之は戸惑いつつ慌てて返事を返す。

 

「そうだ。よし、各員かかれ!」

「第1分隊、前進だ!行くぞ!」

「車輛隊が移動するぞーッ!」

 

 長沼が指示の声を張り上げ、各員はそれぞれの行動に取り掛かった。第1分隊の各員は水路沿いの道へと駆けてゆき、車輛隊の各員は車輛に乗り込む。そして各大型トラックは切り返して反転し、89式装甲戦闘車は超信地旋回でその巨体の向きを変える。

 それらの様子を見ながら、長沼は自身もガントラックの助手席へと乗り込む。

 

「舞魑魅、行くぞ」

「了解」

 

 ガントラックも再びエンジンを吹かし、車輛隊は新たな目的地である警備隊本部へ向けて進行を開始した。

 

 

 

 車輛隊は迂回路で警備隊本部を目指す。

 先の方向転換により各車の位置は入れ替わり、先頭を82式指揮通信車が行き、続いて対空車両のトラックが。中段を装甲大型トラックが位置し、四両目に指揮車兼任のガントラックが。殿を89式装甲戦闘車が務める。

 車輛隊が先の降下展開地点を後に出発し、少し経った時だった。

 先頭を行く82式指揮通信車の各搭載火器は、各方にその銃口を向けて警戒に当たっている。

 その内、指揮通信車の前方で、MINIMI軽機の銃座に付く宇現士長が声を上げた。

 

「前方、敵分隊!」

 

 言葉の通り、車輛隊の進路上から、迎え撃つように駆けてくる分隊規模の警備兵の姿が見える。

 そしてその内の数名がクロスボウを構えて矢を放ち、それが指揮通信車の前面に当たって複数の金属音が上がった。

 

「攻撃されました、撃ち返します!」

 

 宇現士長は報告の声を上げると同時に引き金を引いた。

 一人が弾を受けて倒れ、他の警備兵は道の両側へ退避して行く。

 そして割れた警備兵達の中央を、かき分けるように指揮通信車が、そして後続の車輛が通り抜けた。

 

《各員へ、全ての警備兵を相手取るな。進行上の脅威となりうる物だけを排除しろ》

 

 長沼の指示の声が無線を通じて聞こえてくる。

 

「前方にさらに警備兵――ッ!矢万三曹、民間人がいます!」

 

 宇現が再び声を上げたのは、その直後だった。

 

「何?」

 

 指揮通信車の車体後部で12.7㎜重機関銃の銃座に付く矢万が、目を凝らして前方を見る。

 進路上に、騒ぎを聞きつけ出て来たらしい多数の住人らしき人々と、それを抑え、避難させようとしている警備兵の姿が見えた。

 

「見えた、あれか――アルマジロ1-1へ。民間人を確認しました」

 

 矢万は後続のガントラックに乗る長沼に向けて、報告の無線を発報する。

 

《あぁ、こちらでも確認した。各員へ、進路上に民間人がいる。発砲の際は十分注意しろ――》

 

 

 

「注意しろだぁ?」

「ファジーな注文だぜぇ」

 

 装甲トラック上で長沼からの指示を聞いた竹泉と多気投は、苦言の台詞を発する。

 

「ぼやく暇があったら目をかっぴらけ。警備兵と民間人をよく見極めてから撃てよ!」

 

 戦闘中に軽口を叩く二人に、河義三曹が叱責の声を上げる。

 

「へーへー、車上戦闘で難しい事言うてくれる」

 

 言いながらも、竹泉は発砲。クロスボウでガントラックを狙っていた警備兵を一人仕留めた。

 

「ヘイッ、上見てみろや」

 

 その時、多気投が視線を上空へ向けて促す。

 

「これが性質の悪い冗談であってほしかったねぇ。マジで箒に乗ってぶっ飛んでやがる」

 

 同じく視線を上空へ向けた竹泉が、悪態を零す。

 上空に、編隊を組んで飛行する、箒に跨った警備兵の姿が見えた。

 

「昨晩と同じ発光体も見えるぞ」

 

 さらに隊員の一人が発する。

 昨晩の対傭兵戦でも目撃された発光体が複数、町の上空を円を描くように旋回している。

 

「覚悟はしてたが、航空優勢が向こうにあるのはいい気がしないな……」

 

 先とは別の隊員が発する。

 

《アルマジロ1、デリック1です。上空のやつ等を撃ちますか?》

 

 対空車両の版婆からガントラックの長沼へ送られた通信が、竹泉等にも聞こえてくる。

 

《接近した者だけ撃て。遠くにいる物に、こちらからちょっかいを出す必要は無い》

「どーせ嫌でも寄ってくるっつーの」

 

 通信内容を片手間に聞きながら、竹泉は呟いた。

 

 

 

 町の警備隊本部を目指して、水路沿いの道を第1分隊が進む。

 水路沿いに立ち並ぶ建物に張り付くようにしながら、五名が縦隊で先行し、間隔を空けてもう五名が同じく縦隊で続く。

 策頼が両腕の個人防護盾を構えながら先頭を行き、続いてレンジャー波原が、三番手を分隊指揮官の峨奈が行き、四番手を通信員の盃、五番手は対戦車火器射手のウラジア。

 後続の縦隊は先頭をレンジャー新好地が行き、二番手が超保、三番手を女陸曹の易之が。四番手を香故が行き、最後尾を分隊支援火器射手の町湖場が後ろを警戒しつつ進む。

 前進を続け、やがて第1分隊は、水路にかかる次の橋の目前まで迫った。

 先頭の策頼が、対岸の建物の影から人影が飛び出すのを捉えたのは、その瞬間だった。

 

「――接敵!」

 

 それが警備兵だと判別できた瞬間、策頼は声を張り上げた。

 同時に、先行する五名の装備する火器が、一斉に橋の上へと向く。

 そして各員が引き金を絞った。

 橋の上へと駆け出て来た警備兵は三名。皆、集中砲火をまともに受ける形となり、内二名は橋の上に倒れ、残りの一名は橋の手すりを越えて水路に落下。ドボンという音と共に、水面に水柱が上がった。

 

「まだいるか?」

 

 小銃を構えたまま、縦隊二番手のレンジャー波原が尋ねる。

 

「いえ」

 

 策頼は橋の対岸を慎重に覗き込んで確認し、隠れている敵がこれ以上いないことを告げた。

 

「待った、前方から来る」

 

 しかし峨奈が声を上げる。見れば、水路沿いの道の先から、6~7名の警備兵がこちらへ駆けて来る姿が見えた。

 

「町湖場一士、支援火器を!」

「了!」

 

 指示を受け、分隊支援火器射手の町湖場は隊列から出て地面に腹ばいになる。

 さらに先頭では、策頼が立膝をついて両腕の個人防護盾を構えて自ら遮蔽物となる。そしてその背後に波原がカバーし、小銃を迫る警備部隊に向けて構える。

 先に発砲したのは町湖場のMINIMI軽機だ。

 立て続けに撃ち出された5.56㎜弾が警備部隊の先頭に位置する者達へ牙を剥いた。先頭に居た二名の警備兵が崩れ落ちるのが見える。

 続けて波原と峨奈の小銃がそれぞれ各個に発砲。後続の警備兵の内、一人がもんどり打ち、一人が足に弾を受けて倒れる姿が見えた。

 銃火に晒される中で、クロスボウを構える一人の警備兵の姿があった。そして彼の手にあるクロスボウから矢が放たれた。入れ替わりに襲い来た5.56㎜弾により、射手の警備兵は崩れ落ちる。しかし撃ち放たれたクロスボウは第1分隊の元へと飛来。

 

「ヅッ」

 

 先頭の策頼の個人防護盾に命中。

 刺さる事こそ無かったが、ゴヅッ、という鈍い衝撃が盾を通して策頼の体に伝わった。

 

「大丈夫か策頼」

 

 峨奈が策頼の安否を尋ねる声を掛ける。

 

「問題ありません」

 

 それに対して策頼は表情を変えず、端的に返事を返す。

 

「残敵、ありません。周辺はクリアです」

 

 そして続いて、報告の言葉を上げた。

 戦闘はおよそ一分程度で終了、分隊の周辺に活動を続ける警備兵の姿は無くなった。

 峨奈はその事を確認すると、分隊支援火器射手の町湖場に隊列に戻るよう、手で合図を送る。

 合図による指示を受け、隊列の最後尾に戻る町湖場。建物の壁にドカリと背を預け、薬莢受け内に溜まった空薬莢がジャラリと音を立てる。

 昨晩の戦闘に負傷した町湖場は、しかし強引に名乗りを上げ、今戦闘にも参加していた。痛々しい手当の形跡が、彼の体の各所に見える。

 

「――班長」

 

 町湖場は隣にいる香故に声を掛ける。

 香故は町湖場の教育隊時代の班長であり、当時の呼び方の抜けていない呼称だった。

 

「どうした」

「見てください」

 

 水路の対岸に立ち並ぶ家屋を、視線で指し示す町湖場。家々の窓は皆開かれ、住民たちがこちらに視線を向けていた。

 

「俺達、注目を集めてます」

「そりゃあ、朝っぱらからこれだけ騒げばな」

 

 騒ぎ立てる者。不安そうに様子を伺う者。反応の形はそれぞれだが、共通しているのは皆、歓迎的ではない、異物を見るような目をこちらへ向けているという事だった。

 

「嫌だな」

 

 そんな彼らの視線を受けて、町湖場は静かに呟く。

 

「第1分隊、前進再開する!」

 

 しかしそこへ峨奈の指示の声が上がる。

 

「行くぞ」

「了」

 

 住民たちの視線を受けながら、第1分隊は前進を再開した。

 

 

 

「いかんな、出てくる住民が増えている」

 

 車輛隊の進路上に、騒ぎを聞きつけて出て来た住民の姿が、より増え始めている。

 ガントラックの助手席からそれを目にした長沼は、難しい声色で呟く。

 

「ハシント、備え付けの拡声器で住民へ注意喚起をしてくれ」

 

 長沼は先頭を行く指揮通信車へ指示を送る。

 

《名義と文言は?》

「任せる」

 

 長沼の指示の後、少しの間をおいて指揮通信車の拡声器から、矢万三曹の声が響き出した。

 

《住民の皆さんにお伝えします。こちらは、日本国隊です。現在、当地域に国民保護の目的で展開しています。住民の皆さんに危害を加える者ではありません。安全のため、外には出ず、屋内に避難してください。繰り返します――》

「聞き入れてくれるといいが」

 

 流れ聞こえてくる広報の音声を聞きながら、長沼は呟く。

 

《こちらは、日本国隊です。現在、当地域に国民保護の目的で――》

《住民の皆さんへ、警備隊本部よりお知らせします》

「ッ!」

 

 その時、指揮車からの広報の音声を遮るように、上空から別の独特な音声が響き出した。

 

「!」

《侵入者排除のため、警備隊は現在、町の各地域へ展開しています。住民のさんは屋内へ避難し、決して外には出ないで下さい》

 

 音声は上空を飛行する発光体から発せられているようであった。警備隊からの広報音声が、町中に響き渡る。

 

「あちらも広報を始めたか」

 

 警備隊側の広報が始まると、やがて住民たちはその内容を聞き入れ、屋内へと引き込んでいった。

 

「同じ内容でも、やはり聞き入れられるのは向こうの言葉か」

 

 その光景に、長沼はため息混じりに発する。

 

「我々は、部外者で侵入者ですからね」

 

 長沼の言葉に、運転席の舞魑魅がそう答える。

 そして車輛隊は、住民の捌けた街路を突き進んだ。

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