―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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18-8:「飛行物体戦闘」

 作戦の変更の旨は、鐘楼の鷹幅等の元にも伝わっていた。

 

「――了解。こちらは引き続き高所からの監視を行います」

 

 指揮所経由でその報を聞いた鷹幅は、それに監視継続の旨を返すと、通信を終える。

 

「水路か、そんなものがあったとはね」

 

 横で眼下を見張っていた不知窪が、その姿勢のまま呟く。

 

「こちらから完全に死角になっていたからな。何にせよ、ここからは展開部隊に任せるしかない。我々はその支援に全力であたる」

「了解」

 

 堅苦しさを崩さぬ鷹幅の言葉に、どこか緊張感の無い了解の言葉を返す不知窪。

 彼等の耳に、再び通信音が届いたのはその時だった。

 

《ペンデュラムよりロングショット1。そちらに敵の〝箒〟部隊が向かっているのをオープンアーム(無人観測機)が捉えた》

 

「ッ!」

 

 箒部隊。この町の警備隊に組織されている、箒を用いて飛ぶ飛行部隊。

 潜入前に聞かされた説明を思い出し、おとぎ話の象徴のような存在がこちらへ迫っている事実に、顔を強張らせる。

 そしてその存在は、彼等の視界へと姿を現した。

 

「見えました。こちらに向かってくる箒が四機」

「本当に箒で飛んでいる……」

 

 双眼鏡、狙撃用スコープをそれぞれ覗く彼等の目に、箒に跨り飛ぶ警備兵達の姿がはっきりと移る。

 

「所で単位は〝機〟でいいんですかね?」

「知らんッ!それより対応しろッ!」

 

 敵の迫っている状況にも関わらない不知窪の呑気な疑問に、鷹幅は怒号を上げる。

 

「レンジャ」

 

 不知窪は返事と共に小銃のスコープを覗き直す。

 一番端に位置していた一機に狙いをつけ、発砲した。撃ち出された7.7㎜弾は跨っていた警備兵に命中し、警備兵は箒から落ち、地上へ落下していった。

 しかしその間に残りの三機は散会。そして跨る警備兵の姿がはっきりと見える距離まで接近。

 そして警備兵達は一斉に腕を翳す。その手にそれぞれ、1mを越えるの大きさの火球が形成されるのが見えた。

 

「あー、こりゃ分が悪いな」

 

 不知窪が他人事のように呟いた瞬間、警備兵達の腕が大きく振るわれ、その手中の火球が一斉に鐘楼へ向けて放たれた。

 

「ッ――退避だッ!」

 

 鷹幅が言い放ち、同時に二人は身を翻して反対側に飛ぶように駆けた。

 鐘楼の縁には、事前に退避用のロープが結んでまとめられてあった。不知窪がまとめられたロープを蹴とばして下まで垂らし、鐘楼から飛び出すようにロープに飛びつく。

 不知窪の姿が落下するように消えたのを確認した瞬間に、続いて鷹幅もロープに飛びつく。体を振り回すようにしながら、身長分降下した直後、真上の先程までいた鐘楼が炎に包まれるのを見た。

 

「ッ!」

 

 鷹幅は伝わる熱に顔を歪めながら、落下とほぼ変わらぬ速度でロープを降下し、地面に荒々しく着地。

 そして先に降りて警戒していた不知窪の肩を叩き、走り出した。

 

「各ユニットへ、こちらロングショット1ッ!監視地点を無力化された!こちらは監視地点を放棄して離脱ッ!」

 

 鷹幅は走りながら無線に向けて、監視地点放棄の旨を叫ぶ。

 

《ロングショット1、こちらエピック。必要なら、機上観測班が応援として降下する準備があるが》

「大丈夫だ!こちらは別の監視地点を探すッ!」

 

 無線に叫び終えると、二人は新たな監視地点を探すべく、路地を駆け抜ける速度を上げた。

 

 

 

 町上空で監視飛行を行うCH-47J。

 その後部ランプドアでは、据え付けられた12.7㎜重機関銃が眼下を睨む。

 さらに制刻と鳳藤がその両側に位置取っていた。

 制刻は双眼鏡を時折覗きながら地上を見張り、鳳藤は照準装置付きの小銃を構えてランプに腰を降ろし、しきりに周囲を観察している。

 両名は機上監視及び射撃員として、観測手と射撃手の役割を担っていた。

 

「おい、見ろ」

 

 鳳藤が声を上げる。

 

「本当に箒で飛んでいるぞ……!」

 

 遠くに、四機編隊を組んで飛行する箒に跨る警備兵の姿が見え、鳳藤はそれを照準装置越しの視線で追いかける。

 

「まずいな、鐘楼に向かう……」

 

 箒の編隊が鷹幅二曹達のいる鐘楼に向かっている事に気づき、顔を顰める鳳藤。

 

《ペンデュラムよりロングショット1。そちらに敵の箒部隊が向かっているのをオープンアームが捉えた》

 

 指揮所側も無人機経由でその存在に気付いたのだろう。鷹幅達に向けて指揮所から発報された無線音声が、機内の各員インカムにも流れ聞こえてくる。

 それを片手間に聞きながら、制刻と鳳藤は鐘楼周辺と接近する箒部隊の観測を続ける。

 鐘楼から小銃の先端が覗き、直後に一機が落ちるが、それに伴い残りの三機が散会。

 

「一機やったか。だが――」

「まずいぞ、残り三機が――」

 

 残りの箒に跨る警備兵達の手に、炎の弾が成形される。そして次の瞬間にそれは一斉に鐘楼に向けて放たれ、着弾。鷹幅達の陣取っている鐘楼の鐘室を燃え上がらせた。

 

「ッ!鷹幅二曹達の鐘楼が燃えた!」

「焼け焦げてねぇといいが」

「何を呑気な事を……!鷹幅二曹達は無事なのか!?」

 

 制刻の発言を咎め、鷹幅達の安否を心配する鳳藤。

 

《各ユニットへ、こちらロングショット1ッ!監視地点を無力化された!こちらは監視地点を放棄して離脱ッ!》

 

 しかし直後、無線に鷹幅からの通信が響いた。

 

「無事だったようだな。――ロングショット1、こちらエピック。必要なら、機上観測班が応援として降下する準備があるが?」

 

 制刻はインカムを口元に寄せ、鷹幅に向けて発報する。

 

《大丈夫だ!こちらは別の監視地点を探すッ!》

「本当に大丈夫なのか……?」

 

 鳳藤は険しい表情で、燃え盛る鐘楼を見下ろしている。

 

「向こうも素人じゃねぇんだ。本当にヤバくなったら言ってくるだろ」

 

 対する制刻はいつもと変わらぬ調子で言った。

 

《ジャンカー1よりライフボートへ。こちらは上流より6番目の橋で、小隊規模の敵と遭遇、対峙している。航空火力支援を要請する》

 

 直後に、今度は地上の第1分隊からの支援要請の報が耳に届く。

 

「ほれ、お呼びのようだ」

《各員、支援に向かうぞ。準備してくれ》

 

 小千谷の指示が、無線を通して機内の各員の耳に届く。

 そしてCH-47Jは機体を傾け、第1分隊を支援するべく移動を開始した。

 

 

 

 第1分隊は先の橋を後にし、次の橋へ到達しようとしていた。

 

「前方、敵警備部隊。多数です」

 

 橋へ到達する少し手前で、策頼が報告の声を上げる。

 

「ん?あれは何をしてるんだ……?」

 

 峨奈はそこで、橋の周辺に展開している警備部隊の様子が、少しおかしい事に気付いた。

 数人の警備兵と、そしてほとんど下着姿の男や、扇情的な格好をした女が数名づつ。それが、他多数の警備兵達によりその場で拘束されていたのだ。

 

「峨奈さん。捕まってるのはおそらく、さっきの風俗モドキから逃げ出した連中です」

 

 峨奈の疑問には、波原が答えた。

 

「成程……あちらも一枚岩でないと言う事か」

 

 峨奈が呟いたその時、警備兵の一人がこちらを指し示し、騒ぎ立てる様子が目に入った。

 

「ッ、気付かれたか」

「何であれ、敵である事には変わりませんか」

「そのようだな。策頼、橋まで押し進め!橋の下流側で展開する」

「了!」

 

 指示の言葉と共に、分隊は押し進み、そして各員は周辺に展開。そして再び警備部隊との交戦状態に突入した。

 

「ッ、ここは少し敵が多いな」

 

 峨奈は建物の影から周辺を覗き見ながら呟く。

 言った直後、近くの地面に飛来した鉱石柱が数本突き刺さった。

 

「ッ!魔法現象を使ってくる敵がいます!」

 

 同じく建物の影でカバーしていた波原が声を上げる。敵警備部隊には鉱石柱を放つ魔法使用者が含まれているようで、第1分隊はその攻撃に晒され始めた。

 

「盃、無線機を」

「了解」

 

 通信員の盃が峨奈に近寄り、盃の背負っていた大型無線機のマイクを峨奈が取る。

 

「ジャンカー1よりライフボートへ。こちらは上流より6番目の橋で、小隊規模の敵と遭遇、対峙している。航空火力支援を要請する」

《了解、位置に付く。少し待ってくれ――》

 

 峨奈はCH-47Jに航空火力支援を要請した。

 無線越しに返答があり、程なくして、分隊の現在位置上空にCH-47Jが飛来。

 周辺に砂埃が舞い上がり、警備兵達の騒ぎ出す様子が見える。

 

「ライフボートへ。建物に重火力は向けるな、民間人がいる可能性がある」

《了解》

 

 無線越しの返答の後、CH-47Jの後部ランプに搭載された12.7㎜重機関銃から射撃が開始。

 水路沿いに固まっていた数名の警備兵に、死の雨となって降り注いだ。

 

 

 

 機上から、眼下の橋の向こう側に、クロスボウでこちらを狙う複数の警備兵の姿を制刻の目が捉える。

 

「こっちを狙ってる奴らが、橋の向こうに複数。てき弾、対処できるか?」

《了解。対処します》

 

 制刻の言葉を受け、40mmてき弾銃に付く所縁一士が発砲。てき弾が地上に向けて撃ち込まれ、橋の向こう側で炸裂。

 クロスボウでこちらを狙っていた警備兵を含む数名が、爆発と飛び散った破片を諸に受けて吹き飛んだ。

 

《ライフボート。まだ敵の魔法使用者が残ってる。屋上に陣取っているはずだ、排除してくれ》

 

 地上の第1分隊からさらなる要請が来る。

 

「了解――剱、上流左側の建物の屋上にいる奴だ」

「あぁ、確認した」

 

 観測手の制刻に導かれ、鳳藤は小銃の照準補助具内に、建物屋上にいる魔法警備兵の姿を捉える。

 そして発砲。

 魔法警備兵は弾を受けて、屋上で崩れ落ちた。

 魔法警備兵が倒れたのを最後に、少なくとも上空から観測した限りでは、活動を続ける敵警備兵の姿は無くなった。

 

《ライフボート、周囲に活動を続ける敵は無くなった。我々は前進を再開する、支援に感謝する》

 

 それは地上も同じだったようで、第1分隊の峨奈からそういった旨の通信が来た。

 

《了解、こちらは離脱する。気を付けてな》

 

 小千谷がそう返し、CH-47Jはホバリング状態から航行状態に移行。第1分隊上空を後にした。

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