―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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18-9:「Anti Anti Air」

 第1分隊の支援を終え、上空からの警戒行動に戻ったCH-47J。

 ――その内部で、各員が歪な衝撃を感じたのはその時であった。

 機体の底面を始め、各所にガゴンと何かが衝突したような音が響き渡った。

 

《ヅッ!》

《うわッ!?》

 

 突然の衝撃と音に、機内に居た各員から驚きの声が上がる。

 

「今のは……!?」

「何かが機体の腹に当たったようだが」

 

 コックピット内で小千谷の上げた疑問の言葉に、維崎が推測の言葉を返す。

 

「――何か見た者はいるか!?」

 

《左側、市上です!直前に、左側で何かが一瞬チラついたのを見ました!》

 

 小千谷の問いかけに対して、機体左側で7.62㎜車載機銃に付く、ロードマスターの市上(いちがみ)三等空曹が報告を上げる。

 直後に再びガン、ゴン、という心地の悪い衝撃が機体を襲った。

 

《ッ!自由、今の見たか?》

《あぁ――見えた、居やがった。小千谷二尉、こりゃぁ、摩訶不思議で生み出された鉱石針による攻撃です。奴ら、屋上から対空攻撃を仕掛けて来てやがる》

 

 後部ランプで位置取る制刻や鳳藤が、襲い来たそれを見たのだろう、無線上にそんなやり取りと、そして報告の言葉が上がる。

 

「ッ、こちらを狙って来たと言う事か……!」

「まぁ、そりゃそうだろう。こんな空飛ぶデカブツを、放っておく道理も無い」

 

 苦々しく発した小千谷に、維崎が淡々とした口調で返す。

 

《右側、屋上で何かしてる奴らが見えます!》

 

 今度は機体右側の40mmてき弾銃に付く、所縁一士が叫ぶ。

 報告の声を聞き、右手に視線を向ける小千谷。その眼は、風防越しに見えた一軒の建物の屋上、そこに陣取る警備兵と思しき人影を捉える。

 そして人影よりまさにその瞬間、生み出された鉱石の針の群れが、こちらに向けて撃ち放たれた。

 

「ッ」

「――うぉッ!?」

 

 副機長の維崎が操縦桿を操り、機体の姿勢を前のめりにさせて動かしたのは、それと同じタイミングであった。

 予期せぬ機体の動きに、小千谷は驚きの声を上げる。

 だが幸いなことにその機体行動が功を奏し、右方から飛来した鉱石針の群れは、機体の下スレスレを通り抜けて反対側へと飛び去って行った。

 

「お前、勝手に……ッ!」

「これ以上機体を傷つけられない」

 

 勝手な操縦を小千谷の咎める言葉に、しかし維崎はぶっきらぼうに返した。

 

「ったく……回避行動を取るぞ!」

「了解」

 

 CH-47Jは敵に狙いを定めさせないよう、機体を左右に揺らして蛇行飛行を開始する。回避行動を始めた機体の周辺を、各方から打ち上がった鉱石柱が次々に飛び抜けてゆく。

 

「ッ、複数個所から撃ち上げて来てるのか……各銃座、彼等を狙えないか?」

《この状態ですと、弾が民家に落ちる危険があります!》

 

 小千谷の言葉に、後部ランプで12.7㎜重機関銃に付く、能登(のと)三等空曹が否定の言葉を返す。

 

「ッ――観測班、狙撃できないか?」

《ッぁ……こ、この状態で狙うのは厳しいです……!》

 

 揺れる機体に困惑しながらの、鳳藤のそんな旨の言葉が上がり返る。

 

「こっちからの対応は少し厳しいか……」

 

 小千谷は再び苦々しく呟くと、指揮所へ向けての無線を開いた。

 

「ペンデュラム、こちらライフボート。地上の各所に敵の対空拠点がある!現在各所から攻撃を受けている。当機側からの対応は困難、各ユニットへの対応願いたい!」

 

 

 

 草風の村。指揮所。

 指揮所は小千谷から発せられた対応要請を受け取った。

 

「了解だ、ライフボート。各部隊へ対応させる――敵、対空部隊の位置は?」

 

 井神は通信に返すと、長机に置かれたノートパソコンを、操作している隊員の横から覗き込む。

 

「現在、無人観測機の映像と、ライフボートからの情報で特定中です」

 

 ノートパソコンを扱っているのは、元は本部管理中隊の人員である算域(ざいき)という二等陸士だ。彼は井神へ返答を返しながら、ノートパソコン画面に視線を降ろしている。

 

「――来ました」

 

 程なくして、無人観測機の操縦室側で特定が終わったのだろノートパソコンの画面に映し出されている町の光景の上に、三つのマーカーが表示される。

 マーカーはそれぞれが敵対空拠点の位置を示していた。

 

「一つは第1分隊のすぐ傍だな。もう一か所は……鷹幅二曹達が近いか」

 

 井神は各対空拠点の位置を確認すると、ヘッドセットのマイクを口元に寄せて発し始める。

 

「ペンデュラムよりジャンカー1。そちらの近くに敵対空拠点が存在する。現在ライフボートが攻撃を受けている、これを排除してくれ――」

 

 

 

 第1分隊は警備隊本部へ向けての進行を一時中断。

 分隊の一部を割き、敵対空拠点の無力化のために差し向けた。

 分派した一組四名は水路の対岸へと渡り、建物の路地を抜けて、敵対空部隊が陣取る建物を目指す。

 

「接敵!」

 

 先頭を行く策頼が声を上げる。

 路地の先で、置かれた木箱を遮蔽物にして待ち構える警備兵の姿が見えた。

 数は二名。両名ともクロスボウを装備し、その内片方はすでに射撃体勢を取っている。そして構えられたクロスボウから弓が放たれた。

 

「ヅッ」

 

 勢いよく飛来した矢は、しかし策頼の構える個人防護盾に阻まれた。

 そしてすかさず後続の波原が、策頼の肩越しに小銃を突き出して発砲。

 弾は木箱を貫通して、矢を放った警備兵に命中。警備兵は木箱に突っ伏して動かなくなる。

 

「ダイナ!?――糞!」

 

 もう一人の警備兵が、相方の死に声を上げながらも、射撃姿勢を取る。

 しかし今度は、後続する波原の発砲が早かった。

 再び撃ちだされた5.56㎜弾が警備兵を貫き、警備兵はその衝撃にのけ反り倒れる。

 そしてその瞬間に撃ちだされたクロスボウの矢は、真上へと飛び去り、何もない場所へと落下していった。

 

「よし、行くぞ」

 

 組の指揮を任されている香故の言葉で組は前進を再開し、警備兵達が護っていた建物までたどり着く。

 そして裏口と思しき扉を発見し、その両脇へと張り付いた。

 

「突入するぞ、いいな?」

「レンジャー」

「了」

「よし――突入」

 

 香故の合図で、波原が扉を蹴破り、入れ替わりに策頼が先陣を切って建物内へ突入。続いて新好地、香故が流れるように続き、最後に波原が突入。

 

「クリア」

「クリアー!」

「了解。オールクリア」

 

 各員が報告の声を上げ、最後にそれ等を受け取った香故が、制圧完了の言葉を発する。

 幸いなことに建物一階は無人であった。内部の様子を見るに、この建物は警備隊施設のようであった。

 

「よし――香故さん、俺と策頼一士で上のやつ等をやります」

「あぁ、レンジャー殿にお任せする」

 

 香故は警戒姿勢で視線を外へ向けたまま、言った波原に言葉を返す。

 皮肉とも取れる台詞だったが、それが本当に皮肉なのか、本心から言っているのかは香故の表情からは読み取れなかった。

 

「……策頼、また先頭を頼む」

「了」

 

 波原は少しやりずらそうに表情を顰めたが、すぐに気持ちを切り変え、二階へと続く階段へと足を向けた。

 

 

 

「――クリア」

 

 二階は、一階同様に無人であった。

 そして屋上へ続いているであろう梯子があり、二人はそれを目に留める。

 

「この上だな、俺が行く」

 

 波原は小銃を降ろして、代わりに9mm機関けん銃を片手で構えると、梯子を握り足を掛けた。

 梯子を上り、天井の開け放たれた四角い屋根戸から、目線を覗かせる。

 平坦に作られた屋上には、二人の警備兵の姿があった。

 片方は地面に置いた本に目を落とし、もう一人は上空のCH-47Jに視線を向けていて、どちらも波原に背を向けている。どちらも対空戦闘行動に意識が向いているようであり、登って来た波原には気付いていないようだった。

 

(恨むなよ……)

 

 波原は心の中で呟くと、9mm機関けん銃を屋根戸から突き出して、引き金を引いた。

 連続した発砲音が、二度に分けて響き、それと同時に二人の警備兵に9mm弾が命中。

 二人はその瞬間初めて襲撃者の存在に気が付き、そして絶命した。

 それを確認すると、波原は梯子を飛び降り、二階の床へと足を着ける。

 

「終わった。敵も人出不足なんかね……?」

 

 後味の悪そうな口調で、策頼に向けてか呟く波原。

 

「かもしれません」

 

 対して策頼は淡々とした口調で返した。

 

「峨奈三曹、1-2波原です。ここの対空チーム、トロイカ1は無力化しました。ペンデュラムへこの旨を送ってください」

《了解1-2。ご苦労だった。そして悪いが、また敵警備部隊がこちらへ迫っている。

こちらへ合流してくれ》

「了解。すぐに分隊へ復帰します。よし……行くか」

「了」

 

 波原等は下階の香故等と合流し、建物を後にした。

 

 

 

《ロングショット1。君等の近くに敵の対空拠点がある。どこか高所に登れないか?そうすれば見えるはずだ》

「了解、対応します」

 

 敵対空拠点への対応要請は、鷹幅、不知窪両名の元にも届いていた。

 

「その辺の民家の屋根でも借ります?」

「それしかないか……」

 

 二人は近場に遭った一軒の民家を選ぶと、その壁を突起物などを利用してフリーランニングの要領で登ってゆく。

 そして屋根に到達すると、屋根の傾斜を遮蔽物として身を隠し、周辺の捜索を開始する。

 

「いました」

「あぁ、こっちも確認した」

 

 彼等の地点から100mも無い距離。

 他の民家の屋根により一部隠れてはいるが、建物の屋上で対空攻撃行動を行っている二人の警備兵の姿が確認できた。

 

「スコープ越しだと、顔まで良く見える距離です。嫌な感じだ」

「……タイミングは任せる」

 

 不知窪は99式7.7㎜小銃を構え直し、一拍置いた後に引き金を引いた。

 発砲音が響き、不知窪のスコープ越しの視線の先で、警備兵の一人が頭に7.7㎜弾を受けて倒れる。

 不知窪はすかさずボルトを操作し、再装填を行う。

 そして狼狽しているもう一人の警備兵をその照準内に収め、再び発砲。警備兵の頭部に、7.7㎜弾を叩き込んだ。

 

「……グッドショット」

「どうも」

 

 正直な話、愉快ではない仕事を終えた二人は、淡々とそんな言葉を交わし合った。

 

「ペンデュラムへ。こちらロングショット1。敵対空拠点、トロイカ2の排除を完了しました。こちらは引き続き、新たな監視地点の確保を行います」

《了解、ロングショット1。よくやってくれた》

「――よし、行くぞ」

「了解」

 

 指揮所への報告を終え、二人は行程を再開すべく、屋根の上を後にした。

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