―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター19:「〝Epic〟 Start」
19-1:「Chinook Crisis」


 警備隊箒隊の送り狼を撃退し振り切ったCH-47Jは、再び上空からの警戒監視体制に復帰。町の上空を大きく旋回飛行している。

 

「――ん?おい、あれ」

 

 そのコックピット内で副機長の維崎が、眼下に何かの動きを見止めたのはその時であった。維崎は隣接する機長席の小千谷に声を掛け、そして自身の視線の先を示して促す。

 

「あぁ、見えてる」

 

 小千谷も眼下のそれにはすでに気付いており、視線をそちらに向けつつも返事を返す。

 両名の視線は、町の東側にある警備隊の本部であると言う古城に向いている。その元から駆け出した一台の馬車。それが両名の眼には見えていた。

 

《エピックより機長。城から、馬車が一台出発出て来た》

 

 そこへ、後部の観測班も眼下の馬車を見つけたのだろう、報告の声が制刻の声で届いた。

 

《アレに、邦人が乗っけられてる可能性がある》

 

 そして同時に、その馬車が邦人を移送する物である可能性がある事を示唆する言葉が届く。

 

「あぁ、こちらでも確認してる。同じ懸念を抱いていた所だ」

《アレなら、観測班で降りて抑えますが》

 

 返した小千谷に、制刻からはさらに進言の言葉が寄越させる。

 

「待ってくれ。指揮所に一報し、許可を取る」

 

 小千谷は進言に対してそう返すと、無線通信の回線を開いた。

 

「ライフボートよりペンデュラム。警備隊本部より一台の馬車が出発したのを確認。これが邦人を移送する物である可能性がある」

 

 小千谷は眼下に視線を向けながら、言葉を続ける。

 

「観測班エピックが、これに対して降下対応する旨を進言している。馬車の進行方向一帯は、敵警備隊の展開も希薄そうだ。許可願いたい」

《――ライフボート、こちらでも確認しました。そちらでの対応を願います。ただし十分警戒してください》

 

 一拍いて、指揮所から井神の声で許可の声が。そして続けて警告の言葉が送り返されて来た。

 

《可能な限り迅速な観測班の降下投入を。完了後、すみやかな上昇退避を願います》

「了解――これより向かう」

 

 井神からの注意警告の言葉に、小千谷は了承と対応に向かう旨を返す。

 

「観測班、降下準備を」

 

 そして無線越しに観測班に降下準備を要請し、小千谷は操縦桿を傾ける。

 CH-47Jは機体を傾け、目標の馬車に対応すべく移動を開始した。

 

 

 

 〝凪明通り〟と呼ばれている町の東側を南北に走る町路。その上を一台の馬車が馬に引かれて駆けていた。馬車の上には二人の男の姿がある。どちらも警備隊の制服を纏っているが、その制服は、この凪美の町警備隊の警備隊が着用する物とは、少し意匠が異なっていた。

 彼等は国の中央府である紅風の街より派遣されて来ていた、別管轄の警備兵であった。

 

「ッ、どうなっているのだ……!」

 

 馬車の荷台上で座す、二人の内の片方の男が、困惑の混じった声を零す。彼は今朝方、町長の執務室で、町長ルデラと言い争っていた警備兵だ。正確に言えば彼は、中央府にて警備部長という役職を与えられていた。

 彼等は元々、昨日捕らえる事のできた魅光の王国の女騎士――すなわちクラライナを護送する目的で馬車を手配していたのだが、突然の正体不明の者達の襲来と、それに伴う混乱から、それを断念せざるを得なくなった。

 そして凪美の町警備隊の被害の様子から、襲来した者達を捨て置けぬ脅威と認め、これを中央府に伝えるべく、慌てて警備隊本部を発した所であった。

 

「草風の村が、セノイ議員が雇い入れたのか?しかし、こんな事が……」

 

 町並みの向こうより聞こえ来る、侵入者が発しているであろう正体不明の激しい破裂音を聞きながら、推察の言葉を零す警備部長。

 

「け、警備部長ッ!お、音が……!」

 

 しかし直後、その思考を遮るように、御者席で手綱を握る警備兵が、困惑の声を上げた。そして警備部長が気付けば、バタバタという風を掻き乱すような異質な音が、明らかに近づきつつある。

 ――その直後で会った。馬車の進行方向斜め前。立ち並ぶ家屋の屋根の影より、巨大な物体がぬっと姿を現し、上空へ現れたのは。

 

「ッ……!?」

 

 それは、侵入者の物である飛行物体。

 先程に遠目に目にはしていたが、その巨大で異質な羽ばたきの音や、襲い来る風圧。そしてそれが何より間近に現れた事に、警備部長の顔は強張る。

 現れた飛行物体は町路の上を斜めに飛行し、馬車の進行方向先の上空で、まるで進路を遮るように滞空を始める。

 

「し、進路が!?」

「ッ!……構うな、潜り抜けろ!」

 

 狼狽える声を上げた御者の警備兵に、命令を飛ばす警備部長。

 

「し、しかし……――がッ!?」

 

 だが直後、御者の警備兵は何かに打たれるように身を捻り、悲鳴を上げた。そしてだらりとその身体から力が抜けた様子を見せ、動かなくなった。

 

「な、おい!?何が――」

 

 御者の警備兵を襲い、そして無惨な姿とたらしめた突然の事態に、困惑の声を上げる警備兵長。しかし、直後には彼にも同様の現象が襲った。そして警備部長は馬車の上に崩れ、動く事は無くなった。

 

 

 

 CH-47Jは高度を落し、町並みの直上を飛行して抜け、程なくして駆け進む馬車の進路上に飛来。

 馬車に対してその胴の斜め後方を見せ、その進路を阻むように、町路上でホバリング体勢に移行。

 

「警備兵が二人、殺れ」

「あぁ」

 

 機体後部のランプドア上で、双眼鏡を構え眼下の馬車上を睨んでいた制刻が発する。

 同様にランプドア上で腰を着き、小銃を構えていた鳳藤が返答。そして鳳藤は小銃用照準補助具を覗き、引き金を引き絞った。

 機上より撃ち出された5.56mm弾は、馬車の御者席にあった警備兵を撃ち倒す。

 鳳藤はすかさず照準を動かし、荷台上で狼狽えるもう一人の警備兵を照準。再び引き金を引き、その身に5.56mm弾を撃ち込んだ。

 

「二名無力化」

 

 警備兵は馬車上で崩れ落ちる姿を見せた。彼等の無力化を照準越しに確認し、鳳藤は声を上げる。

 同時に眼下に、ヘリコプターの出現に怯え、そして手綱を操る主もいなくなった、馬車を引く馬達がその動きを止める姿が見えた。

 

「おぉし――機長へ、馬車は止めた。これから降下して、確認します」

 

 制刻は双眼鏡をはずして肉眼でそれを見止め、そしてコックピットの小千谷に向けて、降下する旨を伝える。

 

《了解エピック、頼んだぞ》

 

 小千谷からの返答をその耳に聞きつつ、制刻と鳳藤は降下の準備へと移行する。

 

 

 

 CH-47Jのホバリング滞空する地点から、そう遠くない地点の路地裏。

 そこを駆ける二名の、凪美の町警備隊の警備兵の姿があった。

 

「三番目の家。クレニクさん家の隣が空き家だったはずだ」

「よし、そこを借りよう」

 

 二人は言葉を交わしながら、先にある一軒の家屋に近寄り、そして設けられていた裏口より屋内に踏み込んだ。

 二人の会話通り、その家屋は無人の空き家であった。その空き家に踏み込んだ二人は上階へ繋がる階段を駆け上がり、さらに上階一室の窓から繰り出して、家屋の屋根の上へと伝い上がった。

 

「――見えたぞ。通りの上空で留まってる」

 

 そして二人は屋根の傾斜を利用して身を隠し、そこから先の様子を伺う。

 その先には、通りの真上で異質な羽ばたきを行いながら滞空する、巨大な飛行物体の姿があった。

 

「急げ、今がチャンスだ」

「あぁ、分かっている。始める」

 

 急かす警備兵の片方に、もう片割れの警備兵は返し、そして手に抱えていた魔導書を、屋根の上に置いて広げる。

 

「――鋼よ、我が身元に形を成し、刃となれ――」

 

 そして片割れの警備兵は、その口から詠唱を紡ぎ始める。

 すると彼の傍の中空に、氷が解け行くさまを逆再生するような様で、鉱石の柱がその姿を形作り始めた。

 彼等二人は、上空を舞い周る侵入者の飛行物体に対して、対上空攻撃を行うべく命を受け、配置に着く途中で会った。しかしその折に、飛行物体が動きを変え、高度を落して自分達の近くまで飛来した姿を見止めた。

 その姿にもしやと思った二人は、急遽本来の予定から動きを変更。

 その読みは当たり、今、飛行物体を射抜く絶好のチャンスに恵まれたのであった。

 

「――できた。放つぞ!――鋼よ、心も貫く鋼よ――!」

 

 詠唱は完了し、2mを越える一本の鉱石の柱が宙空に形を成す。

 そして鉱石の柱は、術者である片割れの警備兵の合図で、撃ち放たれた――

 

 

 

 ホバリングするCH-47Jの後部ランプドア結ばれた、一本のファストロープが機上から降ろされ、その先端が地上に落ちる。

 そして先に降下する鳳藤が、ファストロープを掴んで降下体勢に入る。彼女の眼には、ホバリングの風圧により砂埃が激しく舞う、眼下地上の様子が見える。

 

「焦るなよ」

「ッ、言われるまでもない」

 

 制刻の発し寄越した警告に、鳳藤は少し不機嫌そうに返す。

 そして鳳藤はランプドアの端を蹴って宙空に飛び出し、その身をファストロープに沿って滑り降ろす。

 

《――敵だ、狙われてる!左手、8時方向ッ!》

 

 ――無線上に警告の声が響き上がったのは、その瞬間であった。

 

 

 

 最初にそれに気づいたのは、副機長の維崎であった。周囲へ警戒の視線を走らせていた彼は、風防越しに見える並んだ屋根の一つに、不自然に浮かぶ黒光りする物体を見た。そして瞬時に、それが先程にも機体を襲った、魔法現象による物体である事を察した。

 

「敵だ、狙われてる!左手、8時方向ッ!」

 

 瞬間に、維崎は警告の声を張り上げ、同時に敵の所在を告げる。

 

「――!左、市上!」

 

 その声に機長の小千谷も反応。彼も示された方向にある、不自然な物体を即座に見止め、そしてほぼ同時に、該当方向に位置する銃手に、対応を命じる言葉を発する。

 該当方向、機体左側の非常脱出ドアで74式7.62mm車載機関銃に付く市上三等空曹は、並ぶ屋根の一つに異質な点を見止め確認すると、照準もそこそこに機関銃の押し鉄を押した。

 唸る銃声と共に銃口より7.62mm弾が吐き出され、それはその先の屋根に陣取る警備兵達を襲った。無数の7.62mm弾は手数に物を言わせて、内の数発が、警備兵達がわずかに晒していたその身を貫く。瞬く間に警備兵達は打ち倒され無力化され、屋根の向こうに姿を消した。

 しかし、宙空に出現した物体――鉱石の柱は、彼等が倒れる僅差のタイミングで、打ち放たれていた。

 

「――来るぞッ!」

 

 風防の向こうに、迫るそれを見て小千谷が叫ぶ。

 

「回避する」

 

 維崎は端的な声と共に操縦桿を倒し、CH-47Jのその機体は操作に応じ、機体姿勢を変えようとする。

 ――だが、僅差で鉱石の柱は機体の元へ飛来。

 その鋭利な切っ先が、後部ローターを支える軸部分を大きく打った――

 ガン、ともガリともつかない気味の悪い接触音が、そして振動が機内に聞こえ伝わり来る。

 さらに直後の瞬間に、何かが爆ぜ散るような音と振動も聞こえ来た。おそらく鉱石の柱がローターの軸を打った後に、回転するローターブレードと接触して弾け飛んだのであろう。

 立て続いた衝撃、振動共に、機体は打たれた影響で弾かれ宙空を横滑りし、姿勢は大きく崩れる。

 そしてコックピット内では、警報のアラーム音が鳴り響き出した。

 

 

 

「――うぉッ」

 

 突然襲い来た振動、そして弾かれるように姿勢を変えたヘリコプターの機体に、制刻は微かに身を揺らし、驚きの声を零す。

 

「ぅわッ!?」

 

 足元下方から、悲鳴に近い驚きの声が聞こえたのは、ほぼ同時であった。

 声の主は鳳藤。まさに降下の途中であり、機体と地上の中程にその身があった彼女は、突然襲い来た衝撃と弾けるように横滑りした機体に、大きくバランスを崩す。

 そしてあろう事かファストロープを握っていたその手は解け、支えを失い落下する姿を見せた。

 

「落ちたぞッ!」

 

 ランプドア上に据えられた12.7mm重機関銃に付く能登三等空曹が、落下した鳳藤の姿を見て声を上げる。

 

「チッ」

 

 その横に立つ制刻は、しまったと言った様子で舌打ちを打つ。

 微かに、鳳藤の身が地上にドサリと落ちる様子が見えたが、現状それ以上の確認はままならなかった。なぜならCH-47Jの機体は制御を失い始め、小千谷等操縦士の意図せぬ、回転運動を始めていたからだ。

 後部ローターはダメージを受けた事により、その出力を減じて回転数を落したらしい。全部ローターと後部ローターの回転数に差が生じ、発生するトルクを打ち消し切れなくなった機体は、トルクに引っ張られて回転を始めていたのだ。

 

《――掴まれェーーッ!》

 

 インカム越しに、貨物室内の各員に、小千谷の声で警告の声が響き届く。

 

「――後部出力低下ッ!」

「――6番を切る。回復を試みる」

「――それも切れ!再同調させろッ!」

 

 コックピットからは鳴り響く警報音が聞こえ、さらに小千谷や維崎の張り上げ交わすやり取りも、肉声で零れて聞こえて来る。

 機内の各員を、歪で不快な振動が、そして回転運動により発生する慣性が襲い、各員はそれぞれ付く搭載火器にしがみ付く。

 ――しかしそんな中、制刻だけは機内壁際に軽く手を着くだけの姿勢で、立ち構えていた。

 

《降下中止!制刻士長、降下は中止だッ!》

 

 そんな制刻の耳に、インカム越しに小千谷からの降下中止の旨が届く。

 

「剱が落っこちた。中止するわけにゃ、いかねぇ」

 

 しかしそんな指示の声に、制刻は端的にそう返した。

 

《何――何を!?》

 

 制刻が返した言葉に、小千谷は不穏を覚えたのだろう、焦燥の言葉を返して来る。

 

「なんとか持ち直してください。うまくいったら、上空退避を」

 

 小千谷から寄越された言葉に、制刻は状況に反した冷静な口調で、またも端的に返す。

 そして制刻は、ランプドア上を一歩踏み出す。

 

「ッ――おいッ!」

 

 制刻のその行為姿に、ランプドア上で12.7mm重機関銃にしがみ付いていた能登が、制止の声を張り上げる。

 ――だがその瞬間、制刻は踏み切り、制御を失い暴れる機上より飛び降りて行った。

 

「アイツ……飛び降りやがった……ッ!」

 

 眼下に消えた制刻に、能登は目を剥き、思わず零した――

 

 

 

「……痛ッ……」

 

 鈍い痛みが、鳳藤の全身を襲い苛む。

 よりにもよって自分の降下中に襲い来た敵対空攻撃。それを受けて機体が弾かれ横滑りした衝撃で、身を崩して地上に落下してしまった彼女。

 

「どうなって……」

 

 地面の上に仰向けになったまま、未だ痛みの感覚に支配された緩慢な意識で、周囲へ視線を走らせる。その時、彼女の耳は近づき大きくなるローター音を捉える。

 

「――ッ!」

 

 瞬間、すぐ傍の家屋の屋根の向こうより、CH-47Jの巨体がぬっと姿を現した。

 その高度は家屋の屋根スレスレの低さ。と思った直後、機体はさらに少し高度を下げ、そして横滑りしながらその機体の腹面を、家屋の屋根の先端部に接触させ、掠りながら崩落させた。

 

「――ッ、ぅあッ!」

 

 崩落した家屋屋根の一角は、無数の大小の破片となって鳳藤の周辺に降り注いだ。

 鳳藤は思わず両腕を翳して顔を庇う。幸い彼女自身には、小さな破片がいくつか降り注いだ程度で、大事には至らなかった。

 鳳藤の頭上を、本来あってはならない回転動作で飛び越えたCH-47Jは、そのまま反対側の家屋の影へと飛び去り消える。

 立て続けに襲い来た出来事に、鳳藤は判断が追いつかず、半ば放心したまま視線だけを走らせる。

 

「――剱」

 

 そんな彼女の耳が、まだ聞こえるヘリコプターのローター音に混じって、自分を呼ぶ重低音での声を捉えたのはその時だった。

 今度は目的意識を持って視線を周囲に走らせる鳳藤。そして彼女は、建ち並ぶ家屋の一つ。その屋根の上に立つ人影を見止める。

 それは他でも無い制刻の姿であった。

 制刻は家屋の屋根を降りて、その下の張り出した軒に足を着く。さらにそこから地面へと飛び降り着地。その体躯に似合わない器用な動作を見せ、そして倒れた鳳藤の元へ悠々と歩み寄って来る。

 

「無事か?」

 

 そして周囲に警戒の意識を向けつつ、鳳藤の顔を覗き込み、尋ねる声を掛けて来た。

 

「……待ってくれ」

 

 そこでようやく鳳藤は、緩慢な動作で上体を起こし、自身の身体の各所を確認する。

 まだ若干の痛みはあるが、幸い骨を折る、内臓を損傷する等の、大事に至るような物は見られなかった。

 

「……大丈夫だ」

「そいつぁ、良かった」

 

 鳳藤の言葉を聞いた制刻は淡々とした様子で返し、そして鳳藤に手を貸して彼女を起こしてやる。

 

「あぁ……所でお前、まさか飛び降りたのか?」

 

 鳳藤は自身も体に大事無い事を安堵したが、直後に制刻がこの場にいるという事、その課程を推察して言葉を投げかける。

 

「あぁ。オメェが落っこっちまったからな」

 

 それに対して制刻は、端的に肯定の物である言葉を紡いだ。

 

「そのまま一人でほったらかしといても良かったんなら、置いてったが」

 

 続いて、煽り揶揄う言葉を発する制刻。

 

「……」

 

 しかし鳳藤はそれよりも、一応自分のための行動でもあったとは言え、制御を失ったヘリから飛び降りるという選択を取り、なおかつ淡々としている制刻の姿に、渋い顔を浮かべそして驚く以上に呆れていた。

 

「……そうだ、ヘリコプターは!?」

 

 制刻の行動に意識を持ってかれていた鳳藤であったが、そこでヘリコプターの危機を思い出して、上空を見上げる。

 

「――なんとかなったようだな」

 

 鳳藤のその言葉に答えるように、制刻が発しながら、上空の一点を軽く翳して腕で示す。

 制刻等の上空、少し高めの位置に、無事出力を回復させ高度を取り直したのであろう、CH-47Jの姿が見えた。しかし前後ローターの回転数は未だ同調していないのか、機体は安定したホバリング体勢を取れておらずに歪に揺れていた。

 

「ライフボート、こちらエピック。応答できますか?」

 

 制刻はインカムを用いて、上空のCH-47Jに向けて呼びかける。

 

《――ライフボートよりエピック。こちらはどうにか墜落は間逃れた……そっちは無事なのか?》

 

 呼び掛けには小千谷の声で返答が来て、さらに向こうからも尋ねる声が返される。

 

「大事ありません。制刻、鳳藤、どっちも健在です」

《そうか……》

 

 無線の向こうに端的に言って見せる制刻。それに小千谷からは安堵なのか、呆れ混じりの物なのか不明な一言が返って来た。

 

《――ペンデュラムよりライフボート。小千谷二尉、応答願います。応答できますか?》

 

 そんな所へ、無線上に別の声が割り込んだ。指揮所の井神からだ。

 

《ライフボートだ。こちらは攻撃を受け、一時的に制御を失ったが、どうにか持ち直した》

 

 それに対して小千谷の返答、そして一連の事態を説明する声が、無線上に上がる。

 

《了解です。しかし機体の挙動は未だ不安定のように見えます。ライフボートは直ちに空域より離脱、こちらに帰投してください》

 

 CH-47Jの不安定な飛行の姿は、無人観測機経由で指揮所側でも確認しているのだろう、井神からはCH-47Jの離脱帰投を要請する言葉が寄越される。

 

《しかし、地上支援が――……いや、了解だ。ライフボートは空域を離脱、帰投する……》

 

 要請に対して、地上への航空支援が無くなってしまう事を懸念し、意義の声を上げかけた小千谷。しかし直後には、今の歪な飛行をする機体で、満足な支援などできない事。無理な滞空を続ければ返って作戦の負担、懸念事項になる事を察したのであろう。小千谷は要請に対する了承の言葉を返した。

 

「ペンデュラムへ、こちらエピック。こっちは予定通り、止めた馬車を確認する」

 

 無線上の交信が一区切りした所を見計らい、制刻がインカムに発し、無線上に声を割り入れる。

 

《了解エピック、頼む》

 

 制刻の上げた行動報告に、井神からは了承の言葉が返された。

 通信を終えて、制刻と鳳藤が再び上空へ視線を向ければ、CH-47Jが歪な挙動ながらも慎重にその機体を旋回させ、町の上空を離脱して行く姿が見えた。

 

「――おぉし、行くぞ」

「あぁ……」

 

 上空より飛び去って行ったヘリコプターを見送った後、制刻と鳳藤は行動に移った。

 先に留めた馬車へ視線を映し、そちらに歩み近づく。馬車を引いていた馬達は、未だ怯え興奮している様子だ。制刻はそんな馬達に近寄り、その首を一撫でして落ち着かせる。傍ら、鳳藤は馬車の横を抜けて後ろへと周り、立膝を着いて身を低くし、小銃を控えて周囲へ警戒の目を向け始めた。

 制刻は馬達を落ち着かせると、馬車の横へと周り立ち、馬車上で息絶えた警備部長の体を目に留める。

 

「悪ぃな」

 

 警備部長の体に一言投げかけ、制刻は警備部長の亡骸をどかす。そして馬車の大半を覆っていたシートを、乱雑に引っぺがした。

 

「――外れだ」

 

 その下に見えた物から、制刻は端的にそんな声を発した。

 馬車を覆っていたシートの下には、備え付けの用具類や、乗っていた者達の手荷物らしき物があるのみで、想定していた邦人の身柄は無かった。

 

「邦人の移送じゃなかったのか……」

 

 制刻の言葉を聞き留めた鳳藤が、警戒の姿勢を保ちながらも、失意混じりの声を寄越す。

 

「伝令か、あるいは逃げ出しただけだったか」

 

 それに答えるように、推察の言葉を上げる制刻。そして制刻はインカムに向けて声を発し出す。

 

「エピックよりペンデュラム。外れだ――馬車ん中は空、邦人の移送じゃなかった」

《――了解だエピック。可能性を潰せただけでも、良しとしよう。――君たちの位置からは、別働中のロングショット1か、城壁側のケンタウロス4-1が近い。すみやかにどちらかに合流してくれ》

 

 報告に対して、指揮所の井神から了解の返答が。続けて、制刻等に最寄りのユニットに合流するようにとの指示が伝えられる。

 

「いえ、ペンデュラム。エピックは、こっから警備隊本部を目指したいと思います」

 

 しかし指示に対して、制刻から発され返されたのは、そんな進言の言葉であった。

 

「は!?」

 

 その声にまず驚きの声を上げたのは、傍らで警戒を続けていた鳳藤だ。

 

《何?――エピック、それは危険を伴う案と思うが》

 

 そして指揮所の井神からも、進言に難色を示す言葉が返される。

 

「いくらかの危険は必要経費でしょう。それを差っ引いても、メリットはあると考えます」

 

 しかしそれに対して制刻は、こちら側の警備隊の展開はまだ希薄であり、うまくやれば警備隊本部への侵入を図れるかも知れない事。それを置いても、警備隊の手勢の分散を図れるかもしれない事を説いた。

 

「どっちにせよヘリも帰っちまって、俺等は手空きになったトコです。ちょうどいい」

 

 最後に制刻はそんな言葉を添えて発した。

 

《――いいだろう、エピック。許可する》

 

 考えたのだろう、少しの間を置いた後に、井神からは進言を許可する声が返って来た。

 

《ただし、二名だけでの行動は不安がある。今、ロングショット1にはジャンカー4が同行している。そこから何名か分派させるから、それと合流再編しろ》

「了解です、手間かけます。エピック、終ワリ」

 

 続け、井神からは増強の人員を寄越す旨が伝えられる。制刻はそれに、不躾に礼を返すと通信を終えた。

 

「――おぉし、聞いたな。剱、行くぞ」

「お前は……また勝手に……」

 

 そして制刻は鳳藤に向けて不躾に促す。一方の鳳藤は、その顔にゲンナリとした色を浮かべて、言葉を零す。そんなやり取りを交わした後、二人は馬車を離れて歩み出し、警備隊本部に向けての進行を開始した。

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