―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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19-2:「困難」

 町の東側の一区画。そこを東西に延びる小道に、いくつもの激しい銃声が響き上がっていた。小道の東側では、周辺の遮蔽物に身を隠して、射撃行動を行う陸隊の一班の姿がある。

 鷹幅を始めとする、別働中の一班だ。

 彼等は現在、自分等を追撃する警備隊の一隊と相対し、交戦状態にあった。

 多気投が遮蔽物の木箱に据えて構えるFN MAGが、警備隊に向けて唸り激しい銃火を張り、警備隊を釘付けにしている。

 

《ロングショット1及びジャンカー4、聞こえていたか?そちらから、エピックの方に何名か合流させて欲しい》

 

 そんな中、各員のインカムには指揮所よりの要請が聞こえ届いていた。

 

「まーた自由のいらんムーヴかよ!」

 

 その内容に、身を隠しつつ応戦行動を行っていた竹泉が、真っ先にウンザリした色で悪態を上げる。

 

「了解です、ペンデュラム――よし、多気投一士、竹泉二士。お前達で、エピックの元に向かい合流してくれ。河義三曹は、引き続き私達と来て欲しい」

 

 傍ら、鷹幅はそんな竹泉の悪態は無視して、指揮所の要請を了承。そして各員に向けて、指示を告げた。

 

「んで、また外れクジって流れだ」

 

 自由の元に向かわされる事となり、竹泉は嫌そうな顔を隠そうともせずに零す。

 

「了解です――各ユニットへ、ジャンカー4は分離解散し、ロングショット1及びエピックに合流する」

 

 竹泉のその愚痴はまた流され、河義が無線上にユニットが合流再編する旨を上げる。

 

「発煙筒と発音筒を」

 

 鷹幅は、横でカバーしている不知窪に促すと共に、自身の装備から発煙筒を繰り出す。

 

「――投擲」

 

 そして鷹幅の合図で、それぞれの手より発煙筒と閃光発音筒が投擲される。それぞれは弧を描いて、先で散らばり布陣した警備隊の元へと落下。そしてまず閃光発音筒が炸裂――暴音と強烈な閃光を発生させた。

 

「よし、行け行け!」

 

 暴音と閃光により、警備隊の一隊が怯み崩れた様子を。次いで、発煙筒より煙幕が上がり始める様子を鷹幅は確認。それを見ると同時に、各員に向けて促し発する。

 

「イェッサァー!」

「やぁれやれ……」

 

 それに対して、返答あるいは愚痴を発する、多気投と竹泉。そんな様子を見せながら、班は二手に分かれ、それぞれ飛び出し駆け出して行った。

 

 

 

 同時刻。

 町の中心部よりやや南東よりの一帯。その一帯を通る道は狭く、頻繁に曲がり角を描いている。そんな車輛隊列が通るには適さない場所を、しかし現在車輛隊は進んでいた。

 各車のドライバーは慎重にアクセル、ブレーキ、ハンドルを操り、狭い道の上で車体を運んで行く。状況から車列各車の速度は当然落ちている。

 そしてそんな車輛隊は、各家屋建物の上階や屋根より、神出鬼没に現れる警備兵。そして上空を飛び、しつこく車輛隊を追いかけ食らいつく、箒隊からの攻撃に晒されていた。

 

「ッ……!」

 

 車列中段に位置する装甲大型トラックの荷台で、搭乗する第2分隊の分隊長である浦澤三曹は、その表情を引きつらせながら、車外に小銃を向けてその引き金を引いている。

 彼始め荷台に搭乗する各員は、そこかしこから現れる警備兵に対しての対応応戦に追われていた。今も飛来し襲い来る矢や鉱石針が、トラックの表面を叩く音が引っ切り無しに聞こえ届く。そして時折、それ等は荷台に飛び込んできて、隊員を掠め、あるいは傷つける。

 

「ぎゃぁッ!?」

 

 そしてその時、また一本の矢が荷台へと飛び込んだ。

 隊員にこそ被害は無かったが、飛び込んだ矢は、荷台の床に敷き詰められるように這わされている、娼館からの拘束者の一人に突き刺さった。その拘束者から悲鳴が上がる。

 

「ひぃ!」

「も、もう嫌ぁ……!」

 

 他の拘束した者達からも、いつ自身が襲われるかも分からない状況に、悲鳴や泣き声が上がる。

 しかし分隊の隊員等は、最早彼等彼女等に微塵の気を使う余裕も、その気も無かった。

 

「ね、ねぇ……!お願い、逃がしてちょうだいよぉ……!」

 

 そんな中、拘束者の内の一人の女が、浦澤の足元にすがりついて来た。

 なかなか整った顔のその女は、この場に似つかわしくない、皮製のいわゆるボンデージ衣装をその身に纏っている。

 女は先の娼館モドキに、小遣い稼ぎと他者を甚振り加虐性癖を満たす目的で出入りしていた者で、かつ不当に拘留した人達を痛めつけていわゆる躾を行い、従順にさせる役割にも関わっていた者であった。

 

「調子に乗ってた事は謝るから……!そ、それにほら!あとでなんでもお礼してあげるから――」

 

 そんな理由から拘束され連れまわされている女は、現在のこの状況から逃れようと、浦澤に向けて媚び諂う言葉を並べ立てる。

 

「――ギェゥッ!?」

 

 しかし直後、そんな女の口から鈍い悲鳴が上がり、女は吹っ飛んだ。

 浦澤が後ろ蹴りを放ち、女を思いっきり蹴っ飛ばしたのだ。白目を剥いた女は、そのまま荷台の床に沈む。

 

「汚物がッ」

 

 浦澤は米神に青筋を浮かべて吐き捨てると、最早女を一瞥する価値すら無いと言った様子で、外へと視線を戻して構える小銃の引き金を引いた。

 

 

 

 引き続き、慎重に曲がりくねる町路を進む車輛隊。

 その車列の2輌目を行く対空トラックのキャビンに、真上より何かが飛び込んだのはその時であった。

 直後に対空トラックは急ブレーキを掛けて停車。

 その様子を、車列4輌目の指揮車兼ガントラックの助手席に座す、長沼の眼が捉えた。

 

「ッ――!全車停車!全車停車しろッ!」

 

 瞬間、長沼はインカムに向けて張り上げ発した。

 車輛隊車輛の内の何台かは、その言葉よりも前かほぼ同時に。何台かは長沼の言葉に呼応して、それぞれがブレーキをかけて停車。

 

「防護隊形!各車各隊、周囲に防護隊形を取れッ!」

 

 長沼は続けインカムに向けて指示を叫ぶと、助手席ドアを開け放ち、キャビンより飛び降りた。まず周辺へ視線を走らせた後に、駆け出し車列を抜け、前方で急停車した対空トラックの元へと向かう。

 対空トラックキャビン付近には、すでに同車より降車した隊員等が対応に当たり始めていた。長沼もキャビンの運転席側に回って駆け寄り、隊員の手により丁度開かれた運転席ドアから、その内部を見る。

 

「ッぁぁ……脚が……!」

鳴規(なるき)ッ!」

 

 そこに、苦し気に声を零し顔を顰めるドライバーと、助手席からドライバーに寄って顔を顰める車長の陸曹の姿があった。

 そして目を引くのは、ドライバーの隊員の足元。その腿には、見える部分だけで長さ50cmを越え、最大直径10㎝程の、杭状の鉱石が突き刺さっていた。

 

「ッ――それは今は抜くな。そのまま彼を降ろせ」

 

 痛々しい光景に一瞬顔を顰めた長沼は、しかしすぐに周囲の隊員に指示を発する。

 

「そっち側支えてくれ!」

「――ッ。これ、貫通して下のシートまで貫いてるぞ……!」

 

 ドライバーの体を支え持ち上げに掛かった隊員等は、それぞれ声を零す。

 

「真上に持ち上げて離すんだ!ゆっくり、慎重に!」

 

 そんな隊員等に、慎重な動作を促す長沼。

 長沼等の近くに、複数本の矢が飛来し襲ったのはその時であった。

 

「ッ!」

 

 襲い来た矢は、対空トラックの側面を叩き金属音を上げる。幸い隊員への命中は無かったが、近くを掠めたそれ等に、長沼は身を微かに竦める。

 

「――家屋上階!」

 

 長沼は振り向き、近くの家屋上階の各所窓に、クロスボウを突き出し構える警備兵達を見止める。そして長沼は周囲に向けてその存在を、声を張り上げ知らせると共に、下げていた9mm機関けん銃を構え、引き金を引いた。

 ばら撒かれた9mm弾に、警備兵達は身を引き込み隠れる。

 そんな警備兵達を追っていぶり出そうとするように、長沼の射撃に遅れて、対空トラックの12.7mm重機関銃が、家屋上階に向けて発砲掃射を開始した。

 

「収容急げ、長居はできない!」

 

 周辺家屋に潜む警備兵達より襲う、苛烈な矢や魔法現象による攻撃。そしてそれに応戦応射する、車輛隊の各所各員。

 それ等の様子を一度目に収めた後に長沼は、負傷したドライバーの収容を急がせる声を発する。負傷したドライバーは他の隊員に肩を貸され、対空トラックの荷台へと運ばれ収容された。

 

村袖(むらそで)三曹、運転を代わるんだ」

「了解!」

 

 収容を見送り、そして長沼は対空トラックの車長の陸曹に、運転代行を指示する。それを受け、陸曹は助手席からドライバー席へと移り、ハンドルを取る姿を見せる。

 

「頼むぞ――離脱するぞー!各員、乗車しろッ!」

 

 陸曹に任せる言葉を送ると、長沼は車列全体に向けて声を張り上げた。

 応戦行動を取る各員に、離脱する旨を伝えながら、長沼は車列間を駆け抜けてガントラックへと戻る。

 

鳥宿(とりやど)士長、出すんだ、離脱だ!」

 

 ガントラックへと辿り着いた長沼は、そのキャビンの助手席へとよじ登りながら、先の舞魑魅に代わりドライバーを務める陸士長に向けて発する。

 

「了!」

 

 運転席側窓より小銃を突き出し、応戦行動を行っていた陸士長。彼は長沼に答えながら射撃を中止し、引き込んでシフトレバーを掴み操り、トラックを発進できる態勢にする。

 

「――全車離脱!離脱だ!」

 

 その傍ら、助手席に着き直し収まった長沼は、インカムに向けて発し上げた。

 直後に隊列先頭の82式指揮通信車が動き出す様子が見える。続き後続の各車輛も再発進。未だ襲い来る矢にその表面を叩かれながら、そして各車各銃座からの応戦が行われながらも、隊伍を再び組み直す。

 各車は徐々に速度を上げ、その一帯より離脱し、行程を再開した。

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