―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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19-11:「邂逅」

 時系列は数分遡り、場所は同じくして古城の南側施設の内部。

 古城内への侵入に成功した制刻等4名は、それから内部を通る通路を突き進んでいた。

 トラップ等を警戒し、制刻と鳳藤の二人が先行。距離を取って、竹泉と多気投は続く隊形を取っている。

 警戒を維持しているが、侵入以降現在まで、警備隊部隊との接敵は発生していない。

 

「ッ――待ってくれ」

 

 進行を続ける中、鳳藤が唐突に制止の声を上げたのはその時であった。

 

「止まれ」

 

 それに呼応し、制刻が拳を上げて後続の竹泉等にも停止の合図を送る。

 

「あぁ?」

「どしたぁ?」

 

 唐突な停止の指示に、竹泉と多気投から疑問の声が上がる。

 

「――何か、聞こえる」

 

 そんな竹泉等の声に返すように、鳳藤は周囲へ視線を走らせながら、言葉を発した。

 

「何かァ?」

「――金属音……戦いの音かもしれない」

 

 訝しむ竹泉に、そう推測の言葉で返しながら、次に鳳藤は近くに設けられていた扉に耳をよせ、その向こうへ耳を傾ける。

 

「この向こうだ!」

「ちょいと、調べて見るか」

 

 鳳藤の確信の言葉。それを聞き、制刻は扉の向こうを調べる旨を発する。そして当然な流れというように、制刻と鳳藤はそれぞれ扉の前でスタンバイ。竹泉と多気投が廊下の各方へ銃口を向け、警戒の姿勢を取る。

 

「――やれ」

 

 そして制刻の合図と共に、鳳藤が扉を蹴破り、入れ替わりに制刻が内部へ突入した。

 

「――クリア」

 

 踏み込み周囲に視線を走らせ、そして制刻は発する。一室はそれなり彩られた上品な内装であったが、人の姿も特段目を引く物なかった。

 しかし、先程から聞こえ着ていた、戦いの音と思しき物はより明確になる。そして張り上げられる複数の声が、壁の向こうより聞こえて来た。

 

「やっぱり!向こうで誰かが戦ってる!」

 

 制刻に続き踏み込んだ鳳藤は、より明確になったその音声を聞き留め、訴える声を発する。

 

「誰かってぇ?」

 

 扉の向こうの通路で、警戒に着いている竹泉が、それに対する疑問の声を寄越す。

 

「片方は、ここの警備隊で間違いねぇだろう。相手は、状況から考えると、聞いた勇者のねーちゃん辺りか」

 

 制刻が推測の言葉を発する。

 ――壁の向こうで、一際大きな音が響いたのは、その瞬間であった。

 

《――こ、こないでくださいッ!》

 

 そして一拍置き、女の声での張り上げる言葉が届く。

 

「今の――!?」

 

 聞こえ来たそれに、鳳藤は確信にも似た驚きの声を零す。

 

「あぁ、確度は高ぇ」

 

 対する制刻は、淡々と零す。

 

「何かまずい状況そうだぞ!――ッ、どうにか向こうへ……!」

 

 聞こえ来た声から、向こう側で何らかの危機的状況が起こっている事を察し、鳳藤はどうにか壁の向こうへ回る手段は無いか、訴える。

 

「面倒だ――投」

 

 そんな訴えに、制刻は端的に回答を返す。そして外の通路で警戒に着いてる、多気投を呼んだ。

 

「あぁん?リクエストかぁ?」

「向こうに踏み込む。やれ」

 

 巨体に似合わぬ軽快な動きで、室内へと入り合流した多気投。そんな多気投に向けて、制刻は一言端的に、そう命じた。

 

「ヲォウ、景気のいいのが来たぜぇっ!」

「竹泉も来い。踏み込む準備しろ」

 

 指示に揚々と発して返す多気投。そんな反応は無視して、制刻は他の各員に突入準備を要請する。

 

「――さァ、本日のリクエストはァ!〝PNヤベェフリーダムちゃん〟からァッ!!」

 

 各員が制刻の指示に応じて突入態勢を取る中、多気投は一室内の壁から一度距離を取り、構える視線を取って片腕をグルングルンと回し、そしてふざけた口調で発し上げる。

 

「レスキューの突破口、一丁ォ!どぉぞぉだずぇッッ!!」

 

 そして瞬間、壁に向けてまるでカタパルト射出を受けたかのように、床を踏み切りその巨体を撃ち出し飛び出した。

 ――そして壁に直撃。同時にその巨体の質量と勢いを持って、壁をぶっ飛ばし崩落させ、大きな突破口を開いた――

 

 

 

 ――突然の衝撃音が響き渡り、そして一室の壁が外側より盛大に吹き飛び破られ、崩落。破片が飛び散った。

 

「な――ッ!?」

(え――?)

 

 突然の巻き起こった事態に、一室内にいた全員が、目を剥きそちらを向いた。水戸美を捕えようとしていた警備兵は、その手を止めて振り向き、水戸美自身も警備兵の体越しに、その向こうを見る。

 壁が崩壊して出来た、大きな開口部。そこから突っ込んで来るように姿を現したのは、何か緑色の服を身に纏った、あまりにも巨大な存在。

 それが何かを、その場の全員が正しく判別する間もなく、状況はさらに動く。

 パッ、パパッ――と、何か乾いた音が立て続けに上がり、室内に反響する。

 

「――ヅッ!?」

「がぁッ!?」

 

 そして水戸美の目の前の警備兵が、さらに奥に居たもう一人が。音が響くとほぼ同時に、立て続けに悲鳴を上げ、何かに打たれるようにして倒れ崩れる姿を見せた。

 

(――え?)

 

 目の前で怒涛の如く立て続く状況の変化に、水戸美はただ目を丸くする。

 そんな彼女をよそに、壁の開口部よりは、先の巨大な存在に続くように、さらに二人の人影が現れる。いずれも同様に緑色の服装に身を纏い、何か灰色の棒のような物を構えている。彼等は、先の巨大な存在の両端に配置し、そして構えたそれを各方へと向ける姿を見せる。

 

「――クリアーーッ!」

「あぁ、クリアだッ」

 

 そして緑の服装の者等から、それぞれそんな声が上がり聞こえ来た。

 

「――クリア、了ぉ解」

 

 そんな上がった声に答えるように、壁の開口部より重低音での声が聞こえ来る。そして開口部より、声の主が姿を現した。

 ――現れたその存在は、あまりにも禍々しい姿をしていた。

 服装こそ、他の者と少し違うが似通った、緑色を基調とした服装。

 しかし覗き見えたその横顔には、大きく不安感を誘う程の歪な眼があった。さらに嫌悪感を煽るほどの、不揃いな歯並びの口と、その蠢く口内が覗く。

 ノシノシと、悠々とした歩みで、巻き起こった事態を締めくくるように、踏みこんで来たその存在。そしてその歪な眼の眼球が、ヌラと動き、水戸美を見る。

 

「当たりのようだな」

 

 そしてその蠢く口内から、そんな一言を発した。

 

(――ぁ)

 

 しかし――一瞬だけその禍々しさに恐怖を覚えた水戸美はしかし、直後に気付いた。

 その存在等の正体に。

 彼等が、何者であるかに。

 現れた者達のその姿――緑を基調として斑を描く服装――迷彩服に。

 各々がその手に構える灰色の物――銃に。

 そう、水戸美は、その存在を知っていた――

 

「――大丈夫ですか!」

 

 そこへ、踏み込んで来た内の一人が、そんな声と共に水戸美の前に立ち、彼女の顔を覗き込んだ。

 被っている兜――いや、ヘルメットの下に見えたのは、大変に端麗な、しかし馴染み深い造形の女の顔。そして、女の纏う迷彩服の服の右肩にあるワッペンには、あらゆる媒体でよく見知った、〝北海道〟の地が刺繍で描かれている。

 

「分かりますか?確認させてください――あなたは、水戸美 手編(みとみ てあみ)さんですか?〝日本国民で、東京都在住の、水戸美 手編さん〟ですか!?」

 

 迷彩服の女から発せられた、日本という国名。

 東京という、自らの住んでいた地の名。

 そして自らの姓名。

 

「――は……はい!そ、そうです……!」

 

 そこで水戸美の意識は一気に覚醒する。

 そして問われた問いに、肯定の言葉を発する彼女。

 

「あ、あの……――!」

 

 そして、現れた者等の、目の前の女の――彼等のその組織を水戸美は知っており、その名を声に出した――

 

「じ――、〝自防隊(じぼうたい)〟。〝自主防衛隊(じしゅぼうえいたい)〟の人ですよね――!」

「もう大丈夫。私達は、〝日本国陸隊〟の者です――!」

 

 直後に、水戸美と迷彩服の女から、そんな異なる組織名が同時に上がった。

 互いの言葉を聞き、両者は一瞬硬直、沈黙する。

 

「――え?」

「――はい?」

 

 そして二人は互いに、呆けた声を上げた。

 

 

 

「じ、自防……?」

「りく、たい……?」

 

 迷彩服の女――すなわち鳳藤と、今しがたついに発見に至った邦人――水戸美。

 二人はそれぞれの口から発せられた、全く知らぬ組織名に、困惑の色を浮かべていた。

 

「あぁ――そういや〝その〟可能性が、あったな」

 

 背後で、禍々しい異質な存在――すなわち制刻が、何かを思い返して発する。

 

「ど、どういう……?」

 

 一方、事態に察しがつかずに困惑している鳳藤は、戸惑う様子の言葉を上げる。

 

「パラレルワールド」

 

 そこへ、そんなワードを発する声が割り込まれた。制刻と鳳藤がそちらを向けば、そこに何やら面倒臭そうな色をその顔に浮かべた、竹泉の姿があった。

 

「狼のねーちゃんから回収した、100円玉の件を思い出せよッ。その邦人のねーちゃんも俺等とは違う、得体の知れねぇ世界のモンだって可能性があるっつたろ?」

「あ、あぁ……そう言えば……」

 

 竹泉の寄越した説明の言葉に、鳳藤はその一件を思い出し、困惑しつつも再び水戸美の姿を見る。

 

「え――?……た、竹泉〝教授〟!?」

 

 しかし、その水戸美はその時、さらに不可解な一言を発し上げた。

 水戸美は竹泉の姿に気が付くと、彼のその名を呼んだのだ。それもなぜか、〝教授〟という肩書を付けて。

 

「あ?」

 

 しかし対する竹泉当人は、怪訝な顔を作り声を返す。

 

「おーん?竹しゃぁん、おめぇさんの知り合いかぁ?」

 

 その様子を見て聞き留めた多気投が、尋ねる声を上げる。

 

「お、多気投さん!?」

 

 しかし今度は水戸美は、多気投に視線を向けて、彼の名を呼んで見せた。

 

「ホワーッツ?」

 

 多気投もまた、自身の名を呼ばれて、少しの驚きが含まれた不思議そうな声を上げた。

 

「ねーちん、俺っち等を知ってんのかァ?」

「え――なんで、そんな……?わ、私です!大学で竹泉教授の、お二人の講義を取っている水戸美です!」

 

 そして水戸美に向けて尋ねる声を返す多気投。しかし一方の水戸美は、何かこれまでとは別種の戸惑う様子を見せて、そんな事を訴えた。

 

「え……あれ?でもなんで、二人とも自防隊の服を……?」

 

 しかし続け、竹泉や多気投の姿を注視していた水戸美は、二人の迷彩服姿に疑問を抱いた様子で、困惑の声を上げる。

 

「おんー?俺っち等の知り合いに居たかァ?」

「ボケ。パラレルワールドの人間だぞ、少なくとも〝俺等〟の知ってる人間じゃねぇ」

 

 一方、疑問の声を上げた多気投。それに竹泉は、少し呆れた様子で説明の言葉を飛ばす。

 

「しっかし、そーいやどーっかで見たフェイスに、聞いたネームなんだよなぁ。水戸美――」

 

 だが多気投は、何か思い当たる節があるのか、その首を傾げて考える。

 

「――ウォゥッ!そうだ思い出したずぇ!竹しゃん、ハワイで探偵してたトキの、依頼者のねーちゃんだぁ!」

 

 そして瞬間、多気投は記憶を思い出したのだろう、水戸美の姿を示しつつ、そんな言葉を竹泉に向けて発した。

 

「は……ハワイ?探偵……依頼者……?」

 

 しかし対する水戸美は、まったく理解が及んでいないのか、多気投から聞こえたワードを、呆けた様子で呟いている。

 

「あーん?あぁ、そういや居た気もするが――。あん時ぁ、面倒な依頼が立て続いてたからなぁ」

 

 そんな水戸美の一方、竹泉は変わらずのどこかだるそうな口調で零した。

 

「おい、どうなってるんだ?何か、ややこしい事に……」

「まぁ、おおまか察しは付くがな――竹泉、ねーちゃんに説明してやれ」

 

 そこへ事態を端から見守っていた鳳藤が、困惑の言葉を挟む。そして続け制刻がだいたいは見当がついているらしい様子で発し、それから竹泉に促した。

 

(あれ?この人達――)

 

 そこで制刻等二人の姿に視線を映した水戸美は、何かに気が付く。

 

「俺かよ。ったく――」

 

 しかしそこへ、制刻の言葉に面倒臭そうに返した竹泉が、やれやれと言った様子で水戸美の前にしゃがみ、水戸美の意識もそちらへ戻った。

 

「ヨォ、ねーちゃん。あんまし余裕はねぇからシンプルに言うぞ。俺等とねーちゃんは、パラレルワールド――別世界の人間だ」

 

 そして説明の言葉を、彼女に向けて紡いだ。

 

「べ、別世界――」

「そうだ。そのねーちゃんの知ってる竹泉教授とやらは、俺と相似した存在なのかも知れねえが、俺自身じゃねぇ。別人だ」

 

 シンプルに、しかしはっきりと言ってのける竹泉。

 

「――……そういう……事なんですね」

 

 それを聞いた水戸美は、少し間を置いた後に、理解が及んだのだろう様子を見せ、そしてどこか落胆した様子を見せた。

 

「聡いようで、ありがてぇ」

 

 そんな、説明にするりと理解を示して見せた水戸美に、竹泉はどこか投げやりな様子で言葉を掛けた。

 

「――と、とにかく。どうあれ邦人である事に変わりはない。この人を回収保護して――」

 

 まだ疑問点は多々あったが、しかし事態が一段した様子を見て、鳳藤が困惑冷め止まぬ様子を見せつつも、促す声を発しかける。

 

 

「――ミトミさんから離れろォーーッ!」

 

 

 しかし鳳藤の言葉を遮り、甲高いそんな声が響いたのは、その時であった。

 各々が視線を向ければ、一室内の宙空に、一人の女――ファニールの姿があった。

 彼女は、先に相対した警備兵達を撃退。そして水戸美を救いに一室に踏み込んだ所で、制刻等――ファニールから見れば、謎の存在に囲まれた水戸美の姿を発見。それを水戸美の危機と見止め、攻撃を仕掛けて来たのだ。

 宙空を飛ぶファニールの目標は、水戸美の前にしゃがむ竹泉。ファニールの手にある剣の切っ先は竹泉に向き、そして直後にはその身体に剣の突き立てられる軌道動作を見せる。

 

「――ッぅ!?」

 

 しかし直後。ファニールの体をガクンと衝撃が襲った。そして宙空を飛ぶその動きは、強制的に停止させられる。

 ファニールの身を止めたのは、他でも無い制刻。

 制刻は攻撃軌道を飛ぶファニールを、しかしその途中で彼女の首を掴んで止め、捕まえて見せたのだ。

 

「ッ……ぐぅぅ……ッ!?」

 

 その果敢な強襲も虚しく、制刻の片腕に悠々とその首を、身を掴まえられたファニール。

 そしてファニールは、制刻の手に掴まれその身をぶら下げる形と成り、苦し気な声を漏らしてその足をばたつかせる。

 

「……クラライナ!お願い……ッ!」

 

 しかしそんな状態にありながら、ファニールは声を零し訴える。

 

「承知ッ!」

 

 そして、また別の声が響き届く。

 それに気付けば、ぶら下がるファニールの足元を、何者かがスライディングで抜けていた。ファニールの相棒――クラライナだ。

 

「チッ」

 

 足元を抜けて行ったもう一人に、制刻は舌打ちを打つ。

 クラライナはそこから恐るべき素早さで起き上がり、そして先に居る竹泉の元へと肉薄。そして手にしていたその剣を、突き出そうとした。

 

「――ごぅッ!?」

 

 しかし、その前にクラライナの口より、鈍い悲鳴が零れた。

 

「ぬヤロ――!」

 

 見れば、竹泉が84㎜無反動砲を棒術の棒代わりにでもするように突き出し、その砲口でクラライナの腹を打っていたのだ。

 

「――!?ッァ――ぐぅッ!?」

 

 竹泉はそのまま身を翻し、クラライナの膝裏を自身の脚で掬い、彼女のバランスを崩させ転倒させる。そして仰向けに身を打ち倒れたクラライナの腹に、再び84㎜無反動砲を突き落とし、その衝撃と重量で彼女の身の動きを封じた。

 

「――ったく、怖ぇな!」

 

 クラライナの身を無力化すると同時に、竹泉は悪態を吐いた。

 

「クラライナ……!ッ、ミトミさん、逃げてぇ……!」

 

 一方、相棒が倒された様子を目の当りにしたファニールは、依然として制刻の手に捕らわれながらも、苦し気な声で水戸美へ逃走を訴える。

 

「――ッ!わぁ!待った、待ってくださいッ!」

 

 しかしそこへ、瞬く間に起こった事態に呆然としていた水戸美が、やっとその理解が追いついたらしく、慌てた声を張り上げた。

 

「その人達は、私を助けてくれた勇者さん達です!」

 

 そしてファニールを捕まえる制刻にまず駆け寄り、説明の言葉を紡いだ。

 

「あぁ――これは話にあった、勇者のねーちゃんか」

 

 水戸美の言葉を聞いた制刻は、そこで納得がいった様子で呟く。そしてファニールの首を掴んでいたその指先を解き、ファニールの身体を落して解放した。

 

「まったく、オメェのフェイスはホント面倒しか呼ばねぇなッ」

 

 一方、竹泉も制刻へ皮肉の言葉を送りつつ、クラライナの身体の上より84㎜無反動砲の退けて、彼女を解放する。

 

「オメェの面も、なかなかの悪人面だろ?」

 

 そんな竹泉に、制刻も淡々とした口調で皮肉を言って返す。

 

「――こほ、こほ……」

「だ、大丈夫ですか!?ファニールさん!」

 

 そんな制刻の足元では、解放されて尻を着き咳き込むファニールに、クラライナが寄り添い声を掛けている。

 

「う、うん……ボクは大丈夫……クラライナ!」

 

 ファニールは水戸美に返し、そしてクラライナに声を掛ける。

 

「私も……大事無い……」

 

 ファニールの視線の先では、クラライナも半身を起こす姿を見せ、そして声を返して来た。

 

「よかった……でも……――」

 

 相棒の無事を確認し、少しその顔に安堵の色を見せるファニール。しかし直後には、その顔を怪訝なに変える。

 

「どうなってるの……?」

 

 そして、水戸美の説得の言葉で自分達を解放した、正体不明の、異質な姿の存在等を見回して、疑問の声を上げた。

 

 

 

「――ミトミさんの国の、軍隊?」

 

 ファニールは驚き、そして少しの訝しむ様子が含まれた色で、言葉を零した。

 

「は、はい――あ。正確には、軍隊ではないんですけど……」

 

 そんなファニールの言葉に、肯定してから少し訂正する言葉を零す水戸美。

 水戸美の口からファニール達に向けて、制刻等がいかなる存在かについての説明が成されていた。

 正しく言えば、水戸美自身の〝世界〟の組織では無い事は、すでに水戸美も理解していた。しかしパラレルワールドについて事柄を含めて、詳しく説明する余裕は今は無いと彼女も察しており、とりあえずは〝そういう事〟にしておく事とした。

 

「確かに……皆、ミトミさんと同じ髪色だけど……」

「何か……ミトミさん以上に異質な姿だな……」

 

 しかし説明を受けて尚、ファニールとクラライナは怪しむ様子で、周囲で警戒態勢を取る各員を見渡す。

 

「人相も、悪いが良くは見えない。あの者は、オークかトロルではないのか……?」

「ボクを捕まえたあの人――いや、人?もしかして何かの怪異じゃないよね……?」

 

 そして二人は、人相の悪い竹泉や、モンスターレベルで巨大な多気投。そして全てが異質な制刻の姿を順に見て、訝しむ声を零す。

 

「だ、大丈夫です。それに、多気投さんはちゃんと人です。ええと、あの人も――です……」

 

 そんな二人の言葉に対して、水戸美は竹泉と多気投をフォローする言葉を上げる。しかし制刻に関しては、少し言葉を怪しくした。

 

「ペンデュラム及び、作戦中の全ユニットへ――〝君の本当の姿を覚えている〟。繰り返す、〝君の本当の姿を覚えている〟!」

 

 そんな一方で、鳳藤がインカムに向けて言葉を張り上げている。彼女の口にしているそれは、邦人の発見確保を意味するコードであった。

 

《ペンデュラムよりエピック、コードを受け取った。可能であれば、詳細を寄越して欲しい》

「はい。エピックユニットは邦人を発見保護。前情報の物と、同一人物であるとの確認も取れました。さらに、邦人が同行中であった、勇者一行の人達とも接触――」

 

 指揮所から返信があり、通信を続ける鳳藤。

 

「……あの女の人は、一人で何を喋ってるの?」

 

 そんな鳳藤を端から見ていたファニールが、またも怪しむ眼差しを送り、そして水戸美に尋ねる。

 

「ひ、一人で喋ってる訳じゃないんです……」

 

 水戸美は困った様子で、鳳藤の行動が、遠くの味方と交信を行っている事を、できるだけ砕いた言葉で説明した。

 

「――了解、終ワリ。――聞いてたよな。予定通り、車輛隊に合流せよとの事だ」

「あぁ」

 

 程なくして鳳藤は指揮所との通信を終え、そして共通無線で流れた指揮所からの指示内容を、一応確認する。それに対して、横に居た制刻が端的に返す。

 

「ねーちゃん」

 

 そして制刻は、数歩歩いて水戸美達の前へと立った。

 その禍々しい姿に慣れないファニール達は、無意識に若干身構えるが、制刻はそれには気にせずに言葉を続ける。

 

「とおに理解してると思うが、俺等はアンタを拾いに来た。だが、一応アンタの意思を確認したい、一緒に来る気はあるか?」

 

 制刻は不躾な言葉で、水戸美の意思を問う。

 正直な所を言えば、制刻等に水戸美を連れて行く以外の選択肢は無かったが、一応本人の意思を確認する。

 

「おい、自由。もう少し――」

 

 そんな制刻の遠慮のない言葉に、鳳藤は咎める声を発しかける。

 

「――はい、お願いします」

 

 しかし鳳藤の言葉を遮り、水戸美はそう肯定の言葉を紡いだ。

 異質で不可解な点は多々あったが、水戸美からしても、制刻等と一緒に行く以上の最有力選択肢は無かった。

 

「ただ、ファニールとクラライナさん、そしてこの子達も一緒にお願いします」

 

 しかし水戸美は一つ条件を付け加える。それはファニールとクラライナ、そして子供達も、同じくの保護同行を求める物であった。

 

「はなからそのつもりだ――で、勇者のねーちゃん達はどう考えてる?一緒に来てくれりゃ、面倒がねぇんだが」

 

 制刻は水戸美の要請を、当然と言うように受け入れる。そしてその視線をファニール達に向けて、彼女達のその意思の確認を取った。

 

「――もちろん、一緒に行くつもりだよ。こんな半端な所で、ミトミさんと別れるつもりはないよ」

「あぁ。それに無礼かもしれないが、私達はまだ君達を信用していない」

 

 制刻の言葉に、ファニールとクラライナは少しそれぞれ少し圧の込められた言葉で変えす。その眼には、未だ制刻等に対する警戒の色が見て取れた。

 

「ま、スタンスは好きにしろ」

 

 対する制刻は、別段興味はないような様子で返した。

 そんな少しピリとした空気の両者に挟まれ、水戸美は「あわわ」といった顔を作っている。

 

「――あ、あの。所でいいですか」

 

 そんな空気を換えようとしたのか、水戸美は制刻に向けて質問を投げかける。

 

「あなたは――制刻 自由〝博士〟、ですよね?」

 

 水戸美は、制刻のことをそんな肩書を付けて呼んだ。

 

「そして、あなたは〝修麗院学園〟の生徒会長の、鳳藤 剱さん」

 

 そして続けて水戸美は、鳳藤に視線を移して彼女をそんな肩書を付けて呼んだ。

 

「博士ってのは良く理解(わか)んねぇが、俺の名前はそれであってる」

「え、えぇ……確かに私は修麗院学園の、123代生徒会長でしたが……」

 

 そんな水戸美の問いかけに、制刻と鳳藤はそれぞれ、疑問の色と肯定を合わせての言葉を返した。

 

「そうか――その辺りも、少し違うんですね」

 

 制刻等の回答を聞いた水戸美は、納得と、そしてどこか少し複雑な色の含まれた言葉を返した。

 

「ヨォ、細けぇトコが気なんのは分かるが、後にしようや。それよりとっととズラかろうぜ、ここは敵のホームのど真ん中だッ」

 

 そんな所へ、竹泉が割り込んできて、急かす言葉を発し捲し立てた。言葉通りここは警備隊の中枢、長居は好ましくなかった。

 

「あぁ、行くとするか――竹泉、多気投、ねーちゃんズのお守りに着け。俺と鳳藤で、先行する」

 

 制刻はそれを承諾し、それぞれに指示の声を発する。

 そして各員は一室を出て、隊伍を組みなおし、この警備隊本部からの脱出行程を開始した。

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