―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター20:「激突」
20-1:「異質の相対」


 邦人及び勇者一行、さらに加えて不当に拘束されていた子供二人。これら合わせて計5名を発見、保護回収した制刻等は、彼女達を連れてこの警備隊本部の古城より脱出すべく、施設内部を通る通路を進む。

 先と同様に制刻と鳳藤が先行。距離を取って多気投が続き、その背後に水戸美達を追従させている。ファニールとクラライナは自身もそれぞれ武器を構えて警戒の姿勢を取り、水戸美は引き続き子供達の手を引いている。そして殿を竹泉が務めていた。

 制刻等は来た道を戻る事はせず、現在いる建物棟内を突っ切るルートを取っていた。その方が最寄りの出入り口に近く、間もなく到着する車輛隊との合流が容易、なおかつ警備隊が居た場合には挟撃ができるからとの選択であった。

 

「前、扉」

「あぁ」

 

 鳳藤が発し、制刻が答える。

 進行方向の先で通路は途絶え、そこに両開きの扉が設けられていた。

 制刻と鳳藤は程なくして扉まで到達し、それぞれ扉の左右に取りつく。そして制刻はハンドサインを後ろに送り、後続の多気投等を少し距離を取らせて待たせる。

 

「スタンバイ――」

「おし――」

 

 鳳藤が突入準備が整った事を告げる言葉を寄越し、制刻もそれに言葉を返す。

 

「――GO!」

 

 瞬間、発すると共に鳳藤が後ろ蹴りで、両開き扉の片方をこじ開けた。そして同時に開かれた扉より、制刻が小銃を構えて突入した。

 踏み込んだ先は、円形状の広く大きなホール空間であった。騒がしくならない程度に装飾で彩られており、壁に沿って中二階通路が設けられ、中心部には大きな階段がある。

 

「――」

 

 踏み込むと同時に視線を走らせた制刻は、しかしその途中で眼を留めた。

 

「ッ――!」

 

 背後より、続き鳳藤が踏み込んでくる。そして同様に視線を周囲に走らせた彼女も、その途中で眼を止めた。

 二人の視線は、ホール中央の階段の上に向いていた。その階段の中程に設けられた踊り場、そこには、二人分の人影があった。

 一人は踊り場中央に立つ、それなりの長身の男性。遠目にも分かる、陰湿そうにも見えるその顔立ちが印象に強く残る。そしてその手に下げた、漆黒の大剣もまた、目を引いた。

 そしてその斜め後ろに立つもう一人。全形こそ人と類似しているが、おそらく2mを優に超えている、そして端眼にも強靭な体躯である事が分かる存在。そして何より、その肌色は緑色であった。

 異質さが大変目を引くその二名は、しかしいずれもこれまで相対して来た者達と同様の、濃い青を基調とした制服を纏っている事から、警備隊の人間であると判断するのは容易であった。

 

「あれは――!」

 

 鳳藤はその存在を見止めると同時に、小銃をその二人へと向ける。しかしすぐさまの発砲には抵抗を覚えてしまった。なぜなら、これまでは相対と同時に得物を向け、戦闘の意思を露わにして来た警備兵達と違い、その二人は静かに佇み、どこか悠々とした姿を見せていたから。

 

「どうにも、毛色の違うのが出て来たな」

 

 緊張の様子を見せる鳳藤の一方、制刻は観察の眼を向けながら、変わらぬ調子でそんな一言を呟く。

 

「――彼等が、侵入者か」

「ッ。おいおい、何かヤバそうなヤツだぞ――」

 

 一方、階段上の二人からも、呟かれた声が聞こえ来る。

 陰湿そうな顔の男性は静かに呟き、こちらを観察する様子を見せる。緑肌の巨漢は、おそらく制刻を見ての感想であろう、少しの驚きと困惑の混じった呟きを零す。

 

「――ヘェィ、自由。どうなったんだよ、なんぞいたのかァ?」

 

 そんな所へ、制刻等の背後より言葉が聞こえ来た。

 制刻がそちらを一度一瞥、鳳藤が振り向けば、背後に続き踏み込んで来た、多気投の姿があった。さらに、完全に開け放たれた扉を潜り、踏み込んで来た瞬間のファニールとクラライナの姿を見える。

 多気投等は、突入した扉の先で何かと相対した様子を見せ、続報を寄越さない制刻等に痺れを切らして、続き踏み込んで来たのだ。

 

「――ッ!あれは!」

 

 しかし制刻等が回答を返す前に、別の声が上がる。その主はクラライナだ。

 

「あの男が、ここの警備隊長だッ!」

「警備隊長!?じゃああれが、勇者の力を持ってる!?」

 

 その階段上の警備隊長の男――ポプラノステクの姿を見て、彼と一度相まみえたクラライナが、その正体を明かす言葉を発する。そして、その存在についての詳細をすでに聞かされていたファニールが、驚きの声を上げる。

 

「何ですって!?勇者――!?」

 

 一方、そのワードを聞き留め、困惑の声を上げたのは鳳藤だ。この世界に存在する、人並み外れた存在。昨晩はついに敵として現れ、苛烈な戦いとなり、多くの犠牲を出した。

 そんな存在が、またも自分等に立ち塞がる形で現れた現実に、思わず零れた言葉であった。

 

「それに、オークまでいる……ッ!」

 

 続きファニールは、ポプラノステクに並び立つ緑肌の巨漢――ヴェイノを見止めてその正体を口にする。

 

「地方の警備隊かと思っていたが、ここまで多様な手勢を擁しているなんて……」

 

 そしてクラライナが、緊迫の色を見せる声色で零す。

 

「再びの勇者に、加えてモンスターか。贅沢だな」

 

 そんな一方、制刻は変わらぬ淡々とした感想を口にした。

 

「脅威は居ねぇって前情報は、やっぱ期待するだけムダだったなァ!特盛キャンペーン真っ最中だったなァッ!」

 

 さらに、背後扉の向こうより荒げた皮肉の言葉が飛んでくる。竹泉のそれであった。

 水戸美や子供達を下がらせ、自身もカバーし警戒態勢を取っている姿が、わずかに覗き見える。

 

「勇者の娘達――やはりすでに合流されていたか」

「あちらにもオークがいるか。いや――あれはオーガ、トロルか?亜種かもしれん」

 

 続き現れたファニール達を眼下に見て、ポプラノステクは予想していたというような、それでいて歓迎し難いといった様子を顔に浮かべ零す。

 そしてヴェイノは多気投の姿を見止めて、またも少し驚いた様子で、推察の言葉を発した。

 

「何にせよ、ここで無力化させてもらう」

 

 そこで、締めくくるように一言発したポプラノステク。そしてそこから静かに脚を踏み出し、踊り場より階段を降り始め、こちらへと歩み出した。

 

「ッ――クラライナッ!」

「承知ッ!」

 

 その動きに、真っ先に反応したのはファニールとクラライナだ。

 彼女達は一言発し合うだけで互いの意思を疎通すると、直後に踏み切り飛び出した。

 

「な!?ちょ――!?」

 

 先頭に立つ制刻と鳳藤の左右を抜けて、恐るべき速さで飛び出して行った二人。その姿に、鳳藤は困惑の声を上げる。

 

「魔王側に加担する勇者の力の保持者を、放っては置けない!」

「あぁ、ここで倒す!」

 

 二人は言葉を交わしながら駆ける。そして次の瞬間、二人は床を思い踏み切り、飛んだ。

 勇者の力を持つ者と、その影響下にある者が可能とする、常人のそれを越えた跳躍だ。その軌道の描く先は、警備隊長ポプラノステク。

 たった一飛びでその間合いを詰め得た彼女達は、宙空でそれぞれの得物を構え、そしてその刃を向けてポプラノステクに向けて降下する。

 しかしその時、階段を下る最中のポプラノステクが一度足を止め、、その手に下げていた漆黒の件を、ゆらりと振るい上げる姿を見せた。

 ――〝それ〟が発現したのは、次の瞬間であった。

 

「え!?」

「何!?」

 

 宙空を飛ぶ彼女達の先に、その直下より〝真っ黒の水柱〟のような物が二つ、突出したのだ。そして二つの黒い水柱は、先端より弾けるように広がり、ファニール達の軌道を阻むように面を作る。

 かなりの速度で飛び進んでいた二人は、回避もままならずに、それぞれの黒いそれに突っ込んだ。まるで蜘蛛の巣に飛び込んでしまった蝶のように。

 

「うわッ!?」

「なッ!?」

 

 突然のそれに突っ込んでしまった二人。

 黒い水か、あるいは影とでも表現するべきか。それぞれのそれは二人を捕らえると、うねりながら彼女達の体を包み込みはじめた。彼女達の体の表面に沿って、みるみる黒い影が這って浸蝕し、彼女達の体を覆ってゆく。

 

「な、なにこれ……!この……!」

「こんな力が……!?う、動きが……!」

 

 彼女達を捕まえた黒い影は、液状の見た目に反して非常に強固であった。

 ファニール達は藻掻く様子を見せるが、彼女等の体を覆うそれが、破れる様子はまるで見えなかった。

 

「こんのっ……むぐぅ……!?」

「んむっ……!?」

 

 必死に藻掻く彼女達を尻目に、黒い影はついに彼女達の頭部にも浸蝕を始め、それぞれの口を覆って塞ぐ。

 

「ファニールさん!?クラライナさん!?」

 

 捕らわれてしまった彼女達の姿に、背後の扉の向こうで身を隠していた水戸美が、焦燥の声を上げる。

 

「できれば殺生はしたくない。大人しくしていてくれ」

 

 一方の、その一連の現象の元凶であろうポプラノステクは、捕らえたファニール達に向けて、一方的な言葉を冷たく発する。

 そして手にするその漆黒の大剣を、その剣先で弧を描く様に、横にゆらりと振るう。

 するとその動きに呼応するかのように、さらなる変化が起こった。

 ファニール達を捕まえた黒い水柱の根元。そこから黒い影が、まるで湧き出るように四方八方へみるみる広がり出したのだ。這うように広がり床を侵食して行く黒い影は、まるで増殖するアメーバのようであった。

 

「ッ……これは!?」

 

 空間床の中央より不気味に広がり出した正体不明のそれに、鳳藤が顔を歪めて困惑の声を零す。

 

「ウォーウ!なにぞ気っ持ちワリィなぁッ!?」

「ヲイヲイヲイヲイッ!どうにもべらぼうにヤバそうなのが出て来たぞッ!?」

 

 そして背後の多気投、出入り口でカバーしている竹泉からも、それぞれ発し上がった声が聞こえて来る。

 

「自由!これは危険なんじゃないか!?どうする!?」

 

 視線の先で広がる黒い影を見ながら、動揺の様子で制刻に尋ねる。

 

「しゃぁねぇ、俺がやる」

 

 しかし、制刻は端的にそんな答えを返した。

 

「は……?え――」

 

 最初その意味が分からずに、鳳藤は呆けた声を上げてしまう。

 制刻は一歩踏み出し、その現在地より、床を広まり這い迫る黒い影に向けて、真っ直ぐに歩み始めたのだ。

 

「お、おい!?」

「おい正気か!?なんのプランだオイ!?」

 

 その行動に気付き、鳳藤は声を驚愕と焦燥の物に変えて発し上げる。さらに背後入り口の竹泉からも、荒んだ問いかける声が聞こえ来る。

 

「アテがある。それを試す」

 

 しかし制刻は振り向きもせずに端的にそれだけ返し、ズカズカと真っ直ぐ進んでゆく。

 這い進み広がる黒い影まで、残り数歩分の所まで踏み込む制刻。

 一方黒い影は、接近する制刻に対して動きを見せた。アメーバのように広がる黒い影の先端ラインの近くから、水柱状となった黒い影がいくつも突出。発現したそれ等は――まるで巨大な指先のように、手のように形を作り、制刻へとその先を勢いよく伸ばした。

 それは制刻を掴み、捕まえようとする動きに他ならない。

 

「自由――ッ!」

 

 眼前で発言し形作った、明らかな脅威であるそれに、鳳藤からいよいよ切羽詰まった声が張り上がる。

 しかし、制刻は変わらぬ様子で、歩みを止める様子は無い。

 そして、黒い影の形作った巨大な手は、指先は、制刻へと迫る――

 

 

 ――瞬間、それは起こった。

 

 

 制刻を覆うように迫った、黒い影の巨大な手。その先端部が、制刻の間近へ伸びた瞬間に、〝消失〟したのだ。

 

「――!」

 

 本当に、音も全長も無く、映像加工が成されたかのように消え去った、黒い影の先端部。

 その現象――異常に真っ先に気付き、目を微かに見開いたのは、黒い影の主であるポプラノステク。

 

「え――?」

「は――?」

 

 そして続き、後方より事態を目の当りにした、鳳藤や竹泉からも声が上がり聞こえ来る。

 

「――当たりだ」

 

 周囲のそれぞれが驚く中、制刻だけが、確信じみた一言を零した。

 そして制刻はそこからさらに一歩を踏み出す。すると巨大な影の手は、制刻詰めた距離分だけ、またその一部を消失させた。

 一歩、一歩と歩み詰める制刻。そのたびに黒い巨大な手は消失、欠損して行き、程なくして根元まで、完全にその姿を消失させた。

 制刻はそこで歩みを止めずに、さらに床を這い広がっていた影の前へ踏み出す。

 すると床を覆っていた影は、制刻の踏み出した足を起点とするように、そこから放射状に消失した。

 

「自由――お前――ッ!?」

「どぉーなってんだァ?」

 

 制刻の周囲で発生する予想外の現象。それに、先とは別種の困惑の声が、背後の鳳藤や多気投から零され聞こえ来る。

 

「昨日のイキり女とのバトルで理解(わか)った。俺ぁ、どうやら摩訶不思議を蹴っ散らかせるらしい」

 

 鳳藤等からの困惑の声に、制刻は回答の声を返しながらも、視線は前方へ保ったままさらに突き進む。

 制刻が一歩を進むたびに、床に広がっていた黒い影は、制刻より半径2~3m分を放射状に消失させる。それが繰り返され、制刻の歩く後には、黒い影が消失して、元の床が露わになった軌道が出来上がる。

 その姿は、まるで軌道を切り開くラッセル車であった。

 そうして進み続けた制刻は、やがてファニール達の捕らえられている黒い水柱まで到達。そして制刻が近づくと同時に、水柱の根元もこれまでの例に違わず消失。床面との接続を失った影響か、黒い水柱はそこから駆け上るように消え去って行き、上で捕らわれていたファニール達は、宙空で解放された。

 

「ぅぁ……ッ?」

 

 解放と同時に宙空での支えを失ったファニール達は、そのまま落下してしまう。

 

「よっ、と」

 

 しかし彼女等は、待ち構えていた制刻の左右の腕に、それぞれ受け止められた。

 

「ねーちゃんズ、異常ねぇか?」

 

 そして腕中に抱えた二人に尋ねる制刻。

 

「ッぁ……だめ……身体が……」

「力が……入らな……」

 

 しかし制刻の腕中にある二人からは、そんな掠れた力ない声での回答が寄越される。そして彼女達は、完全に脱力して制刻の腕にその身体を預けていた。

 

「おぉん?こりゃあダウン現象か?おまけ付きとは厄介だな」

 

 昨晩から現在に至るまで、隊員も幾度も襲われた、強烈な脱力症状の現れる魔法現象による無力化攻撃。

 制刻は二人の状態から、彼女達が苛まれている類似する物であろう事を察し、呟く。

 

「しゃぁねぇ――投」

 

 制刻は、背後にいる多気投に向けて張り上げる。

 

「受け取れ」

「ぇ――ぅわ……ッ!?」

「わぁ……!?」

 

 そして言った瞬間、制刻は両腕に抱えていたファニールとクラライナの身体を、背後に向けて思いっきり放り投げた。

 突然放り投げられたファニール達は、脱力状態にありながらも驚きの声を上げ、宙を舞う。

 

「ウォゥ!?――っとぉッ」

 

 そして弧を描いて飛んだ先で、そこに居た多気投の太い両腕に、それぞれキャッチされた。

 

「竹泉、投。ねーちゃんズと坊主達を連れて、別ルートを探せッ」

 

 そして制刻は、背後の竹泉等に向けて、この場より別ルートでの脱出を指示する声を張り上げた。

 

「あぁ、畜生!次から次へと!――ねーちゃん聞いたな!?別のルートで逃げる、ガキんちょ共の手を離すなッ!」

「は、はい!」

「多気投、行くぞッ!」

 

 竹泉は制刻の指示を受け、悪態を吐きながらもすぐさま動きを見せた。まずは背後の水戸美に忠告を促す。そして多気投に言葉を飛ばすと、身を翻して通路を戻り駆け出した。

 

「二人とも、行くよ!」

「エスケーププランの変更だぁッ!」

 

 水戸美は子供達の手を取って竹泉に続く。そして多気投は、ファニールとクラライナの体をそれぞれ左右の小脇に抱えて、その場より引いて逃走の殿に着いた。

 

「――〝影〟が消滅した……?対抗魔法?しかし、そんな気配は無かった……」

 

 一方。ポプラノステクは自らの発現させた現象が、未知の力に消し飛ばされ無力化された事実に驚く様子を現し、そして推察の言葉を零しながら眼下を見降ろしている。

 

「ッ……!隊長、本当に何かまずそうだぞ……!」

 

 そして並ぶヴェイノはそのオーク独特の禍々しい顔を、しかし苦い色に染めてポプラノステクに言葉を向ける。

 

「あぁ。だが、ぶつかる以外は無い――ヴェイノ、君は逃げた彼等を終え」

「ッ――了解!」

 

 ヴェイノの言葉にポプラノステクは返し、続け要請の言葉を発する。それを受けたヴェイノは了解の言葉と共に、その巨体を軽やかに翻し、踊り場より階段を駆け上がる。ヴェイノは逃げた竹泉等を、また別のルートより追う算段であった。

 

「ッ!――止まれ!」

 

 巨体のモンスター――ヴェイノのその行動の意図に気付いた鳳藤が、小銃を構えると同時に声を張り上げる。しかし相手が動きを止める様子は無く、鳳藤は直後に引き金を絞り、発砲。三点制限点射により撃ち出された三発の5.56mm弾が、ヴェイノの背に食らいつこうする。

 しかし瞬間、階段上に黒い影がせり上がり、壁を作った。

 黒い影の壁は射線を遮り、5.56mm弾は黒い影の壁へと吸い込まれる。そしてカランカランと、何かが床に落ちる音が響く。それは黒い影の壁に吸い込まれた5.56mm弾が、吐き出され床に落下した音であった。

 

「ッ!?」

「悪いが、手は出させない」

 

 その光景に驚く鳳藤。

 対して、ポプラノステクからはそんな言葉が返される。その言葉が、今の現象もまた彼の仕業である事を示していた。

 そして黒い影の壁の向こうに、ヴェイノが階段を駆け上がり切り、その先にあった扉に駆け込み姿を消す様子が見えた。

 

「チッ――竹泉。緑のモンスターの方が、別ルートでオメェ等を追って行った。気ぃつけろ」

 

 それを見た制刻は、インカムを用いて竹泉等に警告の報を送る。

 

《マァジかよ、畜生ッ!》

 

 竹泉からは悪態が返って来た。

 

「剱、オメェも引け」

 

 制刻は竹泉の悪態には返さず、そして傍らにいた鳳藤に、この場より引くように命じる。

 

「だが……!」

「オメェ、摩訶不思議への耐性がねぇだろ。行け」

 

 制刻一人を残して引くことに後ろめたさを感じたのだろう、抵抗の色を見せる鳳藤。しかし制刻はそう説き、再び促した。

 

「ッ、あぁ……!」

 

 その言葉に、鳳藤は苦い色を顔に浮かべながらも、退避の指示を了承。身を翻して背後の出入り口へと駆ける。

 

「――ッ!うわッ!」

 

 しかし、彼女が抜けて出ようとした背後の出入り口は、瞬間に出現しせり上がった、黒い影の壁により塞がれた。

 さらにその根元から、黒い影が這い広がり、鳳藤を囲う。

 

「すまないが、これ以上は行かせない」

 

 背後から、ポプラノステクの声が響き聞こえる。

 

「わっ、うわッ!?」

 

 迫る黒い影を前に鳳藤は慌てて再び身を翻し、そして飛ぶように制刻の傍へと戻るハメになった。

 

「ッ――ダメだ、退路を塞がれたッ!」

「あぁ――しゃぁねぇ、俺から離れるな」

 

 慌てた様子で戻って来た鳳藤に、制刻は少し呆れの混じった声で、そう促す。

 そして二人が前方に視線を戻せば、階段を降りこちらへと近寄って来る、ポプラノステクの姿が見えた。

 悠々とした姿で階段を降り歩み、そして手にした漆黒の大剣を、体の前で馴染ませるように振るうポプラノステク。

 

「おっさんが、ここの頭か?」

 

 そんなポプラノステクに対して、制刻は一言尋ねる言葉を投げかける。

 

「そうだ――そちらの長は、君か?」

 

 ポプラノステクは制刻の言葉を肯定。そして同様の質問を返す。

 

「悪ぃが、俺ぁただのペーペーだ」

「そうか。しかし、ただならぬ力を持つようだ」

 

 ポプラノステクの質問に、制刻は否定の言葉で返す。しかしポプラノステクはそれと淡々と受け入れ、発する。

 そしてポプラノステクは、手中の漆黒の大剣を、今一度大きく振るう。

 

「来るぞ」

 

 制刻は鳳藤に向けて発しながら、弾帯に挟んでいた鉈を掴み抜き、それを予告ホームランにように翳し構える。

 

「――ここで排除させてもらう」

 

 ポプラノステクは、階段を降り切った所で、そう一言発する。

 ――瞬間。ポプラノステクは床を踏み切り、制刻等に向かって大きく跳躍。

 両者は、激突した――

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