―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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20-2:「闇VS超常」

 制刻と鳳藤。そしてポプラノステク。

 両者の戦いの火蓋が切られた。

 先手を打ったのはポプラノステク。彼は床を踏み切り大きく跳躍。体を側転させながら、宙空を弧を描いて飛び、制刻の元へと迫る。そして宙空よりその手にした漆黒の大剣を振り降ろした。

 対する制刻は、掲げた鉈をもってそれを迎え、受け止めた。

 ――刃物同士の衝突により、上がる金属音。

 ――浅い角度で接触した両者の得物は、そこから刃の上を滑り合い火花を上げる。

 依然、その身を宙に置いていたポプラノステクは、そこから大剣で相手の鉈を押し、その反動を利用して跳躍離脱。大きく飛んで制刻等の背後に抜け、その先のホール壁面に設けられる、中二階通路の手すりにその足を着いた。

 

「っとぉ」

「ッ――!」

 

 自分等の背後に抜けて行ったポプラノステクを追い、制刻と鳳藤は身を翻す。そして鳳藤は小銃を構えてその姿を狙い、引き金を引き発砲。しかしその瞬間にはポプラノステクはすでに着地点より飛び出しており、放たれた小銃弾は空を切って壁に当たった。

 着地点を飛び出したポプラノステクは、通路上を伸びる手すりの上を駆ける。バランスの悪い足場を器用に掛ける姿を見せながら、同時に彼は、背中に下げていた大きな得物を、大剣を持つ手とは反対の手で持って繰り出した。

 それは連弩であった。通常の弓矢クロスボウより遥かに大きく重く、本来は地面に据え置いて運用する物であるそれを、しかしポプラノステクは片腕だけで平然と掴み支えている。

 そしてポプラノステクは手すり上を駆けながら、連弩を制刻等に向け、それより矢を立て続けに放った。

 

「チッ」

「わッ!」

 

 降り注ぎ襲った複数の矢。それらを制刻は半身を捻り、鳳藤は横へ飛び退き回避する。

 一方、ポプラノステクは体勢を崩した制刻等の姿を見止めると、瞬間に体の向きを変え、そして同時に手すりを蹴って飛んだ。

 再びの剣撃を仕掛ける腹積もりだ。

 

「ッ!来る――!」

 

 飛び退いた先でそれに気づいた鳳藤は、すかさず小銃を構え直して、ポプラノステクに向けて再び発砲。三点制限点射に撃ち出された三発の小銃弾が、向かってくるポプラノステクに向けて飛ぶ。

 しかし直後に、それは起こった。

 宙空に身を置いていたポプラノステクは、漆黒の大剣を大きく薙いだ。そして、ガキン、という音がホール空間中に響いた。

 

「ッ――!」

 

 その現象に、鳳藤は目を剥き、次に顔を険しくする。何が起こったのかはすぐに理解できた。それはこれまで相手にしてきた、〝勇者〟達も見せて来た行動現象。

 銃弾が、剣の一薙ぎにより弾かれたのだ。

 

「案の定か」

 

 同様にその姿を見止めた制刻は、一言呟きながら、再び鉈を翳し構える。直後に、ポプラノステクは宙空を飛び迫り、襲来。

 漆黒の大剣が振り下ろされ、鉈とぶつかり再び金属の衝突音が上がった。

 互いの得物の刃が再び滑り合い、火花が上がる。

 わずか一秒程のぶつかり合いの後、ポプラノステクは未だ消えぬ跳躍の勢いを利用し、制刻の元より離脱。飛び去りその先の中二階通路へと足を着いた。

 そして通路上に逃れた、ポプラノステクは、再びその上を駆け出す。

 

「ッぅ!」

 

 その姿を追いかけ、鳳藤は三度小銃を構えて引き金を引いた。

 三度相手目がけて飛ぶ小銃弾の群れ。しかし今度のそれは、また違う現象に阻まれた。

 駆けるポプラノステクへの射線を遮るように、通路上に黒い影の壁が、走るようにせり上がり発現したのだ。

 小銃弾は先と同様に黒い影の壁に阻まれ、そして吸い込まれる。――だが、今度はそれだけでは終わらなかった。

 黒い影の壁は、吸い込んだ三発の小銃弾を吐き出し、撃ち返して来たのだ。

 

「――わぁッ!?」

 

 鳳藤の足元でビシ、ビシと爆ぜるような音が上がり、床に穴が開く。それに鳳藤は、飛び退きながら悲鳴に近い声を上げた。

 

「ッ――な!?弾が、撃ち返された……!?」

 

 そして事態を把握し、目を見開き驚愕の声を上げる鳳藤。

 

「トンデモだな。剱、無闇に撃つな」

 

 一方の制刻は、淡々としかし少し鬱陶しそうに零し、そして鳳藤に向けて告げる。

 現象にそれぞれの反応を示す二人だが、状況は容赦なくさらに動く。

 見れば、制刻等の周囲360°の床面を、件の黒い影が覆っている。そしてその床を這う影の各所より、黒い水柱状の影が勢いよく出現したのだ。

 

「な!?」

「さっきのか」

 

 鳳藤は驚き、制刻は呟く。

 出現したそれぞれは、それだけに終わらず、その身を曲げて巨大な指先のような形状を形作る。そして、尖らせたその先端を制刻等に向けて、一斉に襲い来た。

 四方八方より、まるで制刻等をドーム状に囲うように襲い来た、影の巨大な指。

 ――しかし、制刻等へとその切っ先を向けて飛び込んだ影の巨大な指は、いずれも制刻等へと到達することは叶わなかった。

 ――黒い巨大な指達を待ち受けたのは、制刻の持つ魔法現象に対する耐性、消滅効果。

 真っ先に制刻等に向けて襲い掛かった影の巨大な指は、制刻に到達する前に、その2~3m手前で、その先端より消し飛んだ。

 続き、立て続けに四方八方より、制刻に向けて飛び込んでゆく黒い巨大な指達。しかしそんな影の巨大な指達も、飛び込んだ物から順に儚く消滅してゆく。

 

「愉快な催しだな」

 

 自分に向かって来ては消滅して行く影の巨大な指達に、それを中心部から眺める制刻は、他人事のように呟く。

 

「うわ――うわッ」

 

 一方制刻の足元では、鳳藤が立て続けに襲い来る影の巨大な指に、驚き困惑する声を上げている。

 制刻の持つ特性――魔法現象に対する消滅効果。その範囲内に居てその恩恵を受けているために鳳藤も無事であったが、彼女はおぞましいそれ等の現象を目の前に、生きた心地がしていなかった。

 程なくして影の巨大な指達の襲撃は、打ち止めとなったのか鳴りを潜める。そして床を覆っていた影は、波が引く様に下がって行く。

 

「ッ……収まったのか?なんて攻撃だ……!」

「いや――今のは目くらましだ」

 

 今しがた自分等を襲った攻撃に、顔を青く染めながら零す鳳藤。しかし制刻は、鳳藤のその言葉を否定するような一言を発する。

 

「おっさんに、消えられた」

 

 そして続け発する制刻。

 制刻の言葉通り、今の攻撃は牽制に過ぎなかった。その間にポプラノステクは、制刻等の掌握から逃れて、その姿を晦ましていた。

 

「どこだ――」

 

 制刻は視線を走らせ、消えたポプラノステクの索敵を行う。

 

「――ッ!あっちだァッ!」

 

 そこへ鳳藤の叫び声が張り上がる。彼女はポプラノステクの姿を発見したらしい。

 しかし寄越されたのは、方向等の情報のまるで含まれていたい、明瞭ではない言葉。

 

(だからあっちじゃわかんねぇよ)

 

 昨晩の脅威存在クラレティエとの戦闘時にもあった、そして今また繰り返された鳳藤の不明瞭な伝達に、制刻は内心で呆れ呟く。

 そして一度、足元の鳳藤の姿を見る一手間を挟んでから、制刻は彼女の視線を追いかける。

 ――制刻等の斜め上、ほとんど真上。

 そこ――宙空に身を置き、そして剣を振り上げた態勢を見せる、ポプラノステクの姿があった。

 

「――ッ、避けろッ!」

 

 瞬間、制刻はその動作の意図に気付く。

 そして制刻は張り上げ、同時に足元の鳳藤の尻を蹴っ飛ばした。

 

「わぎゃぁッ――!?」

 

 突然尻に走った鈍痛に、鳳藤はお約束のようにその端麗な容姿顔立ちに反した、格好のつかない悲鳴を上げ、吹っ飛ぶ。

 そして制刻も、鳳藤を蹴っ飛ばした反動を利用して、反対方向へ飛んだ。

 

「ッ――お前――!」

 

 鳳藤は、吹っ飛んだ先でどうにか受け身を取って持ち直す。そして涙目で、制刻に向けて抗議の言葉を発そうとした。しかし――

 ――ドン、と。直後に響き上がった衝撃音に、それは阻まれた。

 

「――な」

 

 眼を剥き、言葉を失する鳳藤。

 彼女の目の前では、微かな埃と煙が立ち上がっている。しかし、鳳藤が驚いた原因はそれではない。

 彼女を驚愕に染めた原因。――それは、それぞれの方向に退避した、制刻と鳳藤の間を割るように床に出来た、巨大な亀裂であった。それは、昨晩に脅威存在クラレティエを相手取った時にも見た攻撃。しかし今できた亀裂は、昨晩見たそれの大きさを優に超えていた。

 

「ここまで――!?」

 

 足元に出来たその巨大な亀裂から鳳藤は、今相手取るポプラノステクが、昨晩相手にしたクラレティエよりもさらに脅威度の高い存在である事を改めて察し、身を震わせる。

 

「おっさん、色々試してくるな」

 

 一方制刻は、多彩な攻撃を繰り出し仕掛けて来るポプラノステクに対して、淡々と一言を呟く。

 

「来るぞ」

 

 そして鳳藤に向けて発する制刻。

 二人の直上にあったポプラノステクは、次の瞬間にその身を落すように急降下させる。

 狙いは再び制刻。

 制刻も鉈を掲げ構え、迎撃姿勢を取る。

 そして、漆黒の剣を構えたポプラノステクが、急降下で襲来。

 両者の得物の刃がまたもぶつかり合い、激しい金属の衝突音が鳴り響いた――

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