―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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20-9:「巨大な出現」

 再び、草風の村。指揮所。

 

「――危機は、凌いだか」

 

 机上のノートパソコンに視線を落としていた井神が、その顔を起こして言葉を零した。

 突然の敵性航空勢力の軍勢の出現、襲来により窮地に陥ったと思われた、作戦部隊とそして凪美の町。

 しかし同じく突如として姿を現したF-1戦闘機によって、戦局は再び覆った。

 F-1の攻撃により、鳥獣達は次から次へと瞬く間に撃墜されて行った。

 少し前まで、無人機から送られてくる映像上を埋め尽くしていた鳥獣は、しかし今は数えるまでにその数を減らしていた。さらに第2車輛隊が到着合流し、対空戦闘を開始したとの報も通信より入った。最早、鳥獣達が、町の空より一掃されるのは時間の問題であろう。

 

「作業服の彼の企てに、救われる形となったか――いや、これすら企ての内か?」

 

 井神は先に、歪な空間で再び相対した、作業服と白衣の人物の姿を思い返し呟く。

 

「――しかし、どうした物か……」

 

 だが井神はそこで意識を切り替え、再び画面に視線を降ろす。現場が窮地を脱したはいいが、まだ問題はあった。

 ノートパソコンの画面映像上、町の上空を再びF-1戦闘機が通過する。そう、このF-1戦闘機と、これに搭乗し操る推噴をどうするかだ。

 当たり前の事だが、航空機はずっと飛び続けていわれるわけではない。燃料切れになる前に着陸させなければならないが、戦闘機はヘリコプターのように場所を選ばず着陸できるわけではない。整備された滑走路が必要だ。しかしこの異世界に、そんな物は無い。

 

「小千谷二尉」

「あぁ……機体は惜しいが、推噴は脱出させるしかないか……」

 

 井神の掛けた言葉に、小千谷はそう返す。その言葉通り現状から取れる案は、パイロットの推噴を、機体に備わる脱出装置で脱出させるしかなかった。

 

「小千谷二尉、井神一曹!宿営地から通信です!」

 

 しかしそこへ帆櫛から、そんな報告の声が寄越され響いた。

 帆櫛が前にしているのは、作戦用とは別途に置かれていた大型無線機。通信元は、月詠湖の国の個人所有領。スティルエイト・フォートスティートに置かれている宿営地からだ。

 井神や小千谷の視線がそちらを向くと同時に、大型無線機より、宿営地からの通信音声が流れ出す。

 

「――なんだと?」

 

 そして無線機より聞こえ来た報告の音声。その内容に、井神と小千谷は目を剥く事となった。

 

「宿営地へ、井神だ。それは――間違いないのか?」

 

 そして井神は無線機に取り付きマイクを取り、無線の向こうに向けて確認の言葉を送る。

 

「――そうか、了解。そちらは引き続き、掌握に動いてくれ。それと――」

 

 再び無線に返信があり、井神はそれに返し答えながらも、小千谷に目配せをする。井神の目配せを受けた小千谷は、そこから机上の作戦用大型無線機に取り付き、マイクを取る。

 そして、勢いよく発し上げた。

 

「ヘヴィメタル1!推噴、小千谷だッ。そこから南西方向、方位210に向かって飛べ!その先に――〝滑走路がある!飛行場――基地がある〟――ッ!」

 

 

 

 時系列は少し遡る。

 そして場所は、隊が宿営地を置いている月詠湖の国、月流州にある個人所有領、スティルエイト・フォートスティートへ。

 その宿営地のある一帯より南の方角で、突然、強大な閃光が瞬き上がり、そして次いで、歪な振動が周辺広域を襲ったのだ。

 突然の――しかし以前にも覚えのある現象に、宿営地の留守を預かっていた隊員等に驚愕と動揺が広がる。

 

「――い、今のは!?」

「な、何ぃ……!?」

「び、びっくりしたぁ……!?」

 

 そして宿営地内の一角には、丁度この場を訪れていたディコシアとティの兄妹。そして羊娘のモゥルの姿もあり、彼等もまた、その顔を驚きに染めていた。

 

「今の――ッ、皆はここにいて!」

 

 ディコシア達の傍にいた、彼等の案内をしていた陸士長が、閃光が上がった方向を見上げながら、何かに気付いた様子を見せる。そして陸士長はディコシア達に少し慌てた様子で促すと、その場より駆けだした。

 

 

 

 宿営地より閃光が上がった方向に向けて、調査のために旧型73式小型トラックが一両発った。先の陸士長がハンドルを操り、助手席にもう一人、三等陸曹の姿がある。

 彼等を乗せた小型トラックは、宿営地よりフォートスティート内を南下。到達した地点でなだらかな丘を見つけ、周辺を観測するためにその登場部へと登った。

 

「――マジかよ」

 

 丘の頭頂部に駆けがあり、そこから南東方向の眼下に見えた光景。それに、陸士長は思わず言葉を零し、助手席の三等陸曹も息をのむ。

 先日行われた周辺地形環境の調査掌握の際には、その先には広大で何もない草原が広がっていたはずであった。

 しかし今、眼下に存在していたのは、2km以上に渡って一直線に伸び、コンクリートで整えられた道――滑走路。

 そしてその周りにいくつも群立する、多種多様な建造物。

 それは、紛れもなく飛行場であった。

 

「んな事が……」

 

 その光景を眼下に目を剥き、再び言葉を零す陸士長。

 

「……ッ……とにかく、行ってみるぞ」

「了解」

 

 そこで三等陸曹は、意識を切り替え促す。それに陸士長は返し、小型トラックを再発進させ、眼下に広がる飛行場の元へと向かった。

 

 

 

 小型トラックで丘を下った二人は、その先で飛行場の北西側に、アクセス口であろう門を見つけた。その前へ小型トラックを走り込ませ停車。三等陸曹と陸士長は、降りて周囲へ目を走らせる。

 門の傍に設けられた看板には、〝航空隊 豊原基地 北門〟という表記がなされていた。

 門には立哨用の警備ポストが設置され、通用路には移動式のバリケードが置かれている。さらにそこから敷地内を覗けば、少し先に警備用の守衛所が見える。

 その横には基地警備隊の車輛装備であろう、軽装甲機動車、87式偵察警戒車。巡回用のSUVパトロールカーや、カーゴトラック等が止まっている様子が見える。

 その向こうには庁舎等と思われる各建物施設や、管制塔までもが見えた。

 

「マジで基地だ……豊原基地だ……」

 

 それ等を目にし、呟く陸士長。

 その言葉通り現れたこの飛行場施設は、航空隊が保有運用し、樺太県の豊原市に所在する、豊原基地であるようであった。

 

「ポストに一人居る」

 

 そこへ、三等陸曹が促す。

 見れば門の警備ポスト内に、崩れ座り込んでいる様子の、一人の隊員の姿がわずかに見えた。

 二人はポストへ駆け寄り、中を覗く。そこで座り込み気を失っていたのは、航空隊の用いる迷彩作業服を纏い、その腕に警備の文字の腕章を付けた人物。袖には空士長の階級。間違いなく、航空隊の隊員であった。

 

「君、君。しっかりしろ」

 

 三等陸曹はまず、その空士長の息があることを確認し。それから彼の肩を軽く数度たたき、声を掛ける。空士長はそれに反応を示し、やがて眼を覚ました。

 

「んが――……え……?……うわ!?」

 

 次の瞬間、空士長は目をかっぴらき、そして跳ね上がるようにその場で立ち上がった。

 

「すッ、すんません!俺――眠って!?ぇ――でもなんで、崩れて……!?」

 そしてそんな慌てた様子で言葉を紡ぐ空士長。どうやら、自分が立哨中に眠り落ちてしまったのだと思っているらしい。

 

「――ん、あれ……?」

 

 しかし直後に、彼の顔色はまた別種の困惑の物に代わる。自身の前にいるのが、航空隊ではなく陸隊の隊員であると気付いたからだ。

 

「落ち着いて。君は眠っていたんじゃない、気を失っていたんだ」

 

 そんな空士長に、三等陸曹はまず彼の目先の心配を払拭してやるため、そう説明の言葉を紡ぐ。

 

「え、気を……?なんで……?それに、どうして陸の人が?今日は予定は聞いてませんけど……?」

 

 その説明に心配こそ払拭されたようだが、しかし空士長の疑問は増幅したらしく、大変に怪訝な様子を見せて言葉を返す。

 

「――?」

 

 しかし直後に、空士長は気付いた。

 

「……は?」

 

 三等陸曹等の肩越しに見える、その先の光景の違和感に。

 

「え……ちょ……!すみません!」

 

 空士長は断る言葉と共に三等陸曹の脇を抜け、警備ポストのそとへと駆け出る。そして、変貌していた基地周辺の光景に、驚愕した。

 

「なんで……どうなってんだこの景色……基地前の工場は?空き店舗は!?どこにいったんだ!?」

 

 周辺へ視線を送りながら、驚愕と動揺の様子を見せる空士長。無理もない、彼の知る、基地に隣接してあった建物施設が、すべて消失していたのだから。

 ひとしきり周囲を見渡した後に、空士長は答えを求めるように、三等陸曹等へと振り向いた。

 

「落ち着いて――というのも酷な話だな、驚くのも無理はない」

 

 三等陸曹はそんな空士長に歩み近づき、そして言葉を続ける。

 

「いいかい?これは緊急事態だ。豊原基地は、異常事態に巻き込まれたんだ」

「異常……事態……」

 

 三等陸曹の言葉に、空士長は困惑した様子で、その言葉を復唱する。

 

「できればすぐに詳しく説明してあげたいが、まずは基地の人等の所在、安否状況を確認したい。まずは君の上長――基地警備隊の責任者に取り次いでくれないか?そこから、基地の各所各隊への通達、掌握を」

「ッ――了解です――」

 

 三等陸曹の言葉を受け、空士長は門の先に見える、守衛所へと駆けた。

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