―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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2-3:「死の集落Ⅲ」

 屋根の上を一列の隊形を取って掛ける制刻等。

 数軒分の屋根を伝った所で、その事態は起こった。

 

「ギェアアアッ!」

 

 唐突に響く生理的嫌悪を煽る叫び声。

 それと同時に、獣のようなゾンビが屋根の縁から再び姿を現し、飛び掛かって来た。その個体の狙いは、列の三番目に位置していたニニマだ。

 

「――!」

 

 ニニマは意識せずに反射で身を捩り、辛うじてゾンビの振るわれた爪は空を切る。

 

「――あ!」

 

 しかし不安定な屋根の上で身を捩ったニニマは体勢を大きく崩す。

 そして彼女の身体は、屋根の上から放り出される――。

 

「嬢ちゃんッ!」

 

 瞬間、殿を務めていた新好地が屋根の縁から飛び出し、彼女の身体を抱き寄せた。そして新好地は中空で体を捻り、自分の体を下にする。そのまま二人は、地上へと落下。

 

「なッ!」

「チ」

 

 振り向き、事態に気付いたハシアは驚愕。制刻は舌打ちを打ちながら、小銃を構えて身を翻し、現れたゾンビに向けて発砲。ゾンビを排除した。

 

「なんてこった!二人が……!」

「しゃあねぇ、俺等も降りるぞ」

「あ、あぁ……!」

 

 制刻は落下した二人を追って屋根から飛び降り、ハシアもそれに続いた。

 

 

 

「――あれ……わたし……?」

 

 家屋の上から落下したニニマは、しかし自分が思う程体にダメージを受けていない事に気付き、その目を開く。

 そして半身を起こし、その理由を知った。

 彼女は新好地に抱きかかえられていた。そして新好地は彼女を庇い、自分の体を下にして落下したのであろう、地面に体を横たえて苦悶の表情を作っていた。

 

「嘘――!?だ、大丈夫ですか!?」

 

 事態を把握してニニマは驚愕し、そして新好地に声を掛ける。

 

「あぁ……大丈……ヅッ!」

 

 ニニマに返そうとした新好地は、しかし言い切る事が出来ずに苦痛の表情を作り声を上げる。

 

「そんな……私を庇って……!」

 

 新好地の状態に、ニニマは顔を青く染めて狼狽える。

 

「新好地」

「ニニマさん!」

 

 そこへ制刻とハシアが屋根の上から飛び降りてきて合流する。

 

「二人とも大丈夫か!?」

「私は大丈夫です……!でも、この方が……!」

 

 ニニマの言葉を受け、制刻は新好地の側に屈み、彼の状態を確かめる。

 

「うまく落ちたな、骨は折れてねぇ。だが、体を強く打ってる。まともに動けんのに少しかかるな」

「ごめんなさい……私のせいで……」

 

 制刻の診察の結果を聞き、ニニマは狼狽えながら謝罪の言葉を述べる。

 

「よせよ……嬢ちゃんのせいじゃ……ッ!」

 

 そんなニニマに、新好地は彼女の非を否定する言葉を掛けようとするが、それは再び走った痛みにより遮られる。

 

「あぁ、無理にしゃべんな」

 

 制刻は新好地に言うと、彼の体を片腕で軽々と担ぎ上げる。

 

「ハシア、姉ちゃんを連れて屋根の上に戻れ。俺等も――」

 

 言いかけた制刻は、しかしそこで気配に気づいて視線を上に向ける。

 

「ッ!」

 

 制刻の視線を追って上を見上げハシアは、目に映った光景に表情を険しくする。周辺の家屋の屋根の上には、どこからそんなに湧いて出たのか、10体以上の獣のようなゾンビが姿を見せ、揃ってこちらを見下ろしていた。

 

「ゆ、勇者様ッ!皆さんッ!」

 

 さらにそこへニニマが声を上げる。

 彼女はその顔を青ざめさせながら、首をその場から伸びる道の前後へとしきりに向けている。その視線を追うと、道の両方向から、緩慢な動きでこちらへ迫るゾンビの集団の姿が目に映った。

 

「囲まれたッ!?」

「チ」

 

 ハシアが叫び、制刻は再び舌打ちを打つ。

 

「しゃあねぇ、家ん中だ」

 

 制刻は発すると同時にすぐ傍にあった家屋に近づき、玄関の扉を蹴破り内部へと踏み入った。ハシアとニニマは一瞬躊躇したものの、四方より迫る村人達からの圧に押され、制刻に続いて玄関を潜った。

 

「ハシア、入り口を塞ぐぞ」

 

 言った制刻は新好地を家屋内の壁に寝かせると、代わりにその傍にあった箪笥を掴んで玄関口まで引きずり、玄関を塞ぐように倒す。ハシアもそれに習い、家屋内に置かれていたテーブルを持ち上げ、玄関口へと立てかける。ニニマも手伝い、制刻等は家屋内の物を手当たり次第に玄関口や窓を塞ぐように積み上げ、即席のバリケードを完成させた。

 外からは、壁を叩いたり引っかいたりするような音が聞こえてくる。家屋前に集まったゾンビ達が、中に入ろうと試みているのだろう。

 

「長くは、持たねぇな」

「裏から出れないかな……?」

 

 ハシアの提案を受け、制刻等は屋内の部屋を通って裏へと回る。

 

「ひ……!」

 

 しかし裏口のある部屋に出た所で、ニニマが今日何度目かの悲鳴を上げる。そこで目に映ったのは、窓に張り付く大量の村人の姿だった。

 

「くッ、裏もダメか!」

「しゃあねぇ」

 

 制刻は呟くと、インカムを口元に寄せて無線通信を開く。

 

「――〝ハシント〟、ジャンカー4-2だ。集落ん中でヤベェやつ等に囲まれて、おまけに新好地がダウンした。突入してくれ」

《何だと?――了解だ。ただちにそちらへ向かう》

 

 発した応援要請には、河義の声で返信があった。

 

「な、何を……?」

 

 一方、突然一人で喋り出した制刻に、ハシアとニニマは不可解な視線を向けている。

 

「応援を呼んだ。来るまで持ちこたえるぞ」

 

 しかし制刻は意に介せず、二人に要点だけを伝える。

 バキッ、という破壊音と共に裏口が破られ、村人達がなだれ込んで来たのはその次の瞬間だった。

 

「オオオーー……」

 

ゾンビ達は家屋内に侵入すると、緩慢な動きでこちらへ向かって来る。

 

「くッ!」

「来たか」

「ニニマさん、奥に隠れて!」

「は、はい!」

 

 ハシアはニニマに促す。

 そして制刻は小銃のセレクターを単発射撃に合わせて構え、押し入って来たゾンビに銃口を向けて引き金を引いた。撃ち出された5.56㎜弾は、先頭に位置していたゾンビの頭部に命中。ゾンビはのけ反り、崩れ落ちる。それを確認した制刻はすかさず後続のゾンビに狙いを移し、発砲。それを繰り返し、ゾンビを五体、六体と倒してゆく。

 しかし押し入って来るゾンビ達が収まる気配は無い。どころか、裏口の隣に設けられていた窓が破られ、そこからもゾンビ達がなだれ込んで来た。

 

「チ。ハシア、そっちは任せた」

「あ、あぁ……!」

 

 会話を交わす間に、ゾンビは窓枠を乗り越えて、というよりも後続に押された末にボタリと転がり落ちるようにして屋内に侵入して来た。

そして緩慢な動きで立ち上がると、目の前にいたハシアに群がり始める。

 

「……恨んでくれて構わない――はぁぁッ!」

 

 ハシアは小さく発すると、次の瞬間に、その手に握っていた大剣を薙いだ。狭い室内で薙がれた大剣は、侵入して来たゾンビ達の胴や首を切断。室内に数体分のゾンビ達の部位が散乱した。

 その調子で、制刻とハシアは続々と侵入して来るゾンビ達を捌いてゆく。

 二人の耳が、背後に何らかの倒壊音と発砲音を聞いたのはその時だった。

 

「新好地か?」

「ッ、行ってくれ!ここは引き受ける!」

「悪ぃな」

 

 背後をハシアに任せ、制刻は家屋の表側へと戻る。そして制刻の目に飛び込んで来たのは、倒壊した家屋の壁からなだれ込んでくるゾンビの群れだった。

 

「クソ……ッ!」

「――ッ!」

 

 そして横に目を向けると、体を横たえた状態でショットガンをゾンビへ向ける新好地と、その新好地の体を必死に引きずっているニニマの姿があった。

 

「チ、破られたか。姉ちゃん、代わるから下がれ」

 

 制刻は本日何度目かも知れない舌打ちを打つ。そしてニニマを下がらせると、彼女に代わって新好地の戦闘服の背中を掴んで、彼の体を引きずり出す。

 

「これ……まずいぞ……!」

「かもな」

 

 言葉を交わした二人へ、なだれ込んで来たゾンビ達が殺到する。新好地は引きずられながらショットガンをゾンビに向けて撃ち、制刻も新好地を引きずりつつも、片手で小銃を器用に撃ち、迫るゾンビを倒す。

 そして二人は隣の部屋とをつなぐ扉口までたどり着く。

 

「ギャァァァァッ!」

 

 しかしその時、不快な鳴き声と共に、緩慢な動きのゾンビ達の足元を潜り抜けて獣のようなゾンビが姿を現す。獣のようなゾンビは、その素早い動きで距離を詰め、制刻等に向かって飛び掛かって来た。

 

「うるせぇ」

「ギェッ!」

 

 しかし制刻は新好地の肩越しに蹴りを放ち、獣のようなゾンビを蹴り飛ばした。

 蹴とばされた獣のようなゾンビは、背後のゾンビの集団へ突っ込み、まるでボウリングのいうに数体のゾンビをなぎ倒した。

 

「ストライクはならずか」

 

 言いながら制刻は新好地を隣接する部屋へと引きずり込む。

 そして手榴弾を取り出しピンを抜くと、それこそボウリングのボール投げのようなスタイルで、それをゾンビの集団の足元目がけて転がした。

 転がって行った手榴弾は、ゾンビの集団の真ん中で炸裂。爆発と飛び散った破片が、多数のゾンビ達を吹き飛ばした。

 

「スペアか。まぁまぁだな」

 

 吹き飛んだゾンビ達を見た制刻は、状況にも関わらず悠長に言う。そして制刻は近くにあった箪笥を引きずって倒し、部屋同士を繋いでいた扉口を塞いだ。

 

「新好地。ここを見張れ」

「あぁ……!」

 

 新好地に塞いだ扉口の見張りを任せ、制刻は再び裏口のある部屋へと回る。

 

「ハァッ!――く……!」

 

 そこではハシアが、殺到するゾンビ達に押され、扉口の傍まで追い込まれていた。

 部屋の床にはハシアが倒したと思しき、無数のゾンビ達の体が転がっている。しかしそれ以上の数のゾンビ達が、部屋内を蠢き迫っていた。

 

「ハシア、これ以上はいい。こっちに引け」

「ッ、すまない……!」

 

 ハシアを隣接する部屋内に引かせ、制刻は先と同様に箪笥や家具を引きずり倒して、バリケードを築く。

 しかし、扉口に殺到したゾンビ達の伸ばした無数の手が、バリケードの隙間から突き出された。

 

「あぁ、うぜぇ」

「数が多すぎるッ!」

 

 それぞれ言葉を発しながら、制刻とハシアは鉈や大剣を用いて、ゾンビ達の腕を切り、あるいは押し戻そうとする。

 

「こっちも破られそうだッ!」

 

 反対側で新好地が叫び、同時にショットガンの発砲音が聞こえる。

 新好地が見張っていた側も状況は同じであり、先に築かれたバリケードの隙間からは無数のゾンビ達の腕が覗き、バリケード事態もゾンビ達の圧により、今にも破られそうであった。

 

「ニニマさん、部屋の隅に!」

「は、はい!」

 

 ハシアに促され、ニニマは部屋の隅に退避する。

 

「いよいよもってヤバいぞこいつは……ッ!」

「手を休めるな、攻撃を続けろ」

 

 新好地が再び叫び、制刻が返す。

 各バリケードや壁はミシミシの音を立て、彼等の立て籠った部屋内に踏み込まれるのも、時間の問題だった。

 

「くッ……これ以上は……!」

 

ハシアが苦悶の表情で言葉を零す。

 

《ジャンカー4-2応答しろ!ハシント、矢万だ!》

 

 制刻と新好地の装着するインターカムに、通信が飛び込んだのはその時だった。

 

「来たか」

 

 ついに部屋内へと侵入して来たゾンビ達を捌きながら、制刻は呟く。

 

《集落内に突入したが――どうなってんだこりゃ!?》

 

 通信越しに、矢万の困惑の声が聞こえてくる。おそらくゾンビの集団と、それに囲われている家屋を外から確認したのだろう。

 

《こちらは、日本国陸隊です!現在の行動を直ちに中止し、道を開けてください!》

 

 そして拡声器越しの河義の広報の声が、家屋の外から聞こえてくる。

 

「河義三曹、そいつらはいわゆるゾンビです。呼び掛けは無意味です」

 

 それを聞いた制刻は、インターカムを用いて河義に向けて発する。

 

《何だと……!?ゾンビ……!?》

「えぇ。すでに人として生きてるとは言えない、動く屍です」

 

 河義の驚く声が無線越しに聞こえ、制刻はそれに答える。

 

「こっちはゾンビ共に囲まれてヤバイ状況です。指揮車で家屋に突っ込んで、俺等を回収して下さい」

《ッ――了解。東側から家屋に突っ込む、注意しろ》

 

 制刻の要請に、河義一瞬ためらいの間を見せたが、すぐに了承の言葉を返す。

 

「おし、来るぞ」

「く、来るって――?」

 

 制刻の言葉に、剣を振るいながら困惑の声を零すハシア。

 だがその直後、彼等の耳がゾンビ達とは別の、異質な唸り声のような音を捉える。そして次の瞬間、家屋の壁が倒壊。指揮通信車がその巨体を屋内に捻じ込み、群がっていたゾンビ達を跳ね飛ばし、コンバットタイヤで引き潰して姿を現した。

 

「うわッ!?」

「きゃぁッ!?」

 

 突然現れた異質な姿の指揮通信車に、ハシアやニニマは驚きの声を上げる。

 

「こ、これは……!?」

「落ち着け、さっき言った俺等の応援だ」

 

 困惑し、同時に警戒の色を見せたハシアを、制刻は落ち着かせる。

 指揮通信車は制刻等とゾンビ達の間に割り込んで壁となり、さらに車体前方でMINIMI軽機に付く策頼が、ゾンビ達に向けて掃射を開始し、ゾンビ達はなぎ倒されてゆく。

 

「制刻、新好地、大丈夫か!」

 

 そして車体横に設けられた搭乗員用ハッチが開かれ、そこから河義が顔を出した。

 

「って、あなたは――!」

 

 河義はそこで、ハシアの姿を目にして、驚いた様子を表情に浮かべる。

 

「河義三曹、後にして下さい。今はここから脱出するのが先決です」

「あ、あぁ……!」

 

 しかし制刻に言われ、河義のハシア等についての言及は後回しとなる。

 

「ハシア、姉ちゃん、指揮車に乗れ」

 

制刻は新好地の体を担ぎ上げながら、ハシアとニニマに向かって言う。

 

「あ、あの……これは一体……!」

「大丈夫だ。とにかく、助かりたければ早く乗れ」

「は、はい!」

 

 ニニマは最初、戸惑う様子を見せたが、制刻の言葉を受けて指揮車の搭乗員用ハッチに駆ける。

 ハシアとニニマは河義等の手を借りて指揮通信車に乗り込み、さらにダウン状態にある新好地の体が担ぎ込まれる。

 

「策頼、右のやつ等を掃射しろ!俺は左のやつ等をやる!」

「了」

 

 そして彼等を収容する間、MINIMI軽機に付く策頼と、50口径12.7㎜重機関銃に付く矢万が、ゾンビ達に各銃器を向けて掃射を行う。

 

「オオオーー……オ゛ッ――!」

 

 ゾンビ達は苛烈な機銃掃射を受けて、次々に弾け飛び、退けられて行った。

 

「制刻さん、皆さん収容完了しました!」

 

 ハシア等の収容が完了し、外で接近するゾンビ達を蹴散らしていた制刻に向けて、出蔵が乗員用ハッチから顔を出して告げる。

 

「おし。矢万、出せ」

 

車上の矢万に発すると同時に、制刻は指揮通信車の屋根に飛び乗る。

 

「鬼奈落、離脱だ!」

《了解》

 

 矢万が操縦手の鬼奈落に指示を出し、鬼奈落の操作により指揮通信車はエンジン音を唸らせて後進を開始。家屋内を倒壊させ、コンバットタイヤでゾンビ達を引き潰しながら、家屋から離脱する。

 指揮通信車が外へと出た瞬間、車体の上にドサリと一体のゾンビが落下して来た。

 

「ギェアアアアッ!」

「おわッ!?車体の上に!」

 

 落下して来たのは獣のようなゾンビだ。ゾンビは車体の上で不快な鳴き声を上げ、その姿に驚いた矢万が、12.7㎜重機関銃をゾンビに向けて旋回させようとする。

 

「ギェアッ――!?」

 

 しかしそれよりも速く、獣のようなゾンビの頭部に鉈が叩き下ろされ、ゾンビから奇妙な悲鳴が上がる。

 

「無賃乗車は、お断りだ」

 

 鉈を叩き下ろしたのは制刻だった。

 獣のようなゾンビは車体の上にべしゃりと崩れ落ち、動かなくなる。

 指揮通信車はゾンビの体を車体上に乗せたまま、他の周辺に蠢くゾンビ達を跳ね飛ばし、集落から脱出した。

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