―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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20-11:「遭遇」

 町の中心部より離れた、町の南東側を東西に通る小さな町路。

 そこに多気投の姿があった。

 

「ヨォ、自由。こっちゃは要レスキューな人々は、いなかったずぇ」

 

 多気投はインカムに向けて発している。

 彼は他の隊員同様、要救助者の捜索のために、この場に赴いていた。しかし中心部から外れたこの町路一帯からは、幸いにして要救助者は発見されず、今はその旨の報告を無線上に上げている所であった。

 

《あぁ、了解。そんなら投、オメェは車輛隊んトコに戻れ。そっちに人手がいる》

 

 インカムからは通信相手である制刻より、了解の返答と、続けての指示の声が返り聞こえる。

 

「ヘイヨォ、了ぉ解」

 

 それに多気投も返し、通信を終える。そして多気投はその場を発つべく、身を翻そうとした。

 

「おん?」

 

 しかしその時、多気投の眼は町路の向こうに何かの影を見た。動き接近してくるその影。最初は人かとも思ったが、違う。人よりも大きいシルエットに、茶色の色合い。

 馬だった。

 一頭の濃い茶色――黒鹿毛の馬が、こちらに向かって来ていたのだ。

 その馬は多気投の傍まで来ると、その脚を止める。そして鼻をフンフンと鳴らしながら多気投に寄せる、首を左右に振って多気投の姿を見るなど、何か多気投を調べ吟味するような様子を見せ始めた。

 

「どぉした、おウマちゃぁん?迷子かぁ?」

 

 そんな馬に向けて、多気投は両手を広げて投げかける。

 一方の馬は、多気投のその姿様子から、彼を害意のある存在では無いと判断したのだろう。そこから多気投の背後へ回ると、防弾チョッキの肩部を軽く噛み咥え、ゆさゆさと多気投の身体を引っ張り揺らし始めた。

 

「どしたどしたぁ?ひょっとして連れてって欲しいのかぁ?」

 

 多気投が馬に向けてそんな言葉を発すると、馬はそれを肯定するように、防弾チョッキから口を話して、そして肯定するように、多気投の周りを一度くるりと歩いて回って見せた。

 

「ハハァ、マジかぁ!そんなら、ちょいと一緒に行ってみるとするかぁ!」

 

 そんな馬の見せた姿に、多気投は楽し気な声を発する。

 そして多気投は馬の身体に手を掛けると、その巨体を、似合わぬ軽やかさで馬の背に上げ、跨った。飛び乗ってきた多気投に対して、馬も嫌がる様子等は見せずにそれを受け入れる。

 

「ハイドォ!んじゃ行くか、おウマちゃぁん!」

 

 そして馬の手綱を取り、陽気に発し上げる多気投。

 馬はそれに答えるかのように、一声鳴き上げて見せると、蹄を鳴らして軽快な動作で走り出した。

 

 

 

 警備隊本部古城前。

 そこに停車展開した車列の近辺では、多くの隊員や警備兵が各種活動のために、急かしく動き回っている。

 そんな中を、鳳藤と竹泉に連れられて歩いて来る、水戸美。そしてファニールとクラライナの姿があった。

 その歩む先には、82式指揮通信車の傍で、他の隊員と調整を行う長沼の姿がある。長沼はその最中に気配に気づいて視線を起こし、鳳藤達の姿に気付く。

 

「長沼二曹」

「鳳藤陸士長か」

 

 そして長沼と鳳藤は相対し、互いに敬礼を交わした。

 

「こちらが、水戸美 手編さん。そして水戸美さんをここまで守って下さった、マイケンハイトさんとアルティナシアさんです」

 

 そこから鳳藤は横へずれ、背後に伴っていた水戸美達を、長沼に紹介する。

 

「一応、一通りのこたぁ説明してありますぅ」

 

 そして竹泉が、不躾な口調でそんな付け加える言葉を発した。

 

「初めまして。私は展開隊指揮官の、長沼二曹です」

 

 長沼は、水戸美達に向き直ってまた敬礼をし、そして自らの身分を名乗る。それに対して水戸美やファニール達も、少し遠慮気味ながらもペコリと小さくお辞儀を返した。

 

「水戸美 手編さん。すでに伺ってるかもせんが、私達はあなたの身を保護するために来ました。それを受け入れていただけるか、直接意思を確認させていただけますか?」

 

 そして長沼は、水戸美に向けて説明の言葉を紡ぎ、それから水戸美の意思を問う言葉を投げかける。

 

「――はい。お願いします」

 

 それに対して水戸美は、受け入れる意思を明確に返答した。

 長沼はそれに「ありがとうございます」と返すと、そこからファニール達に視線を移す。

 

「お二方には、ここまで水戸美さんの身を守っていただいたとお伺いしております。この場を代表して、お礼申し上げます。――そして、お二方にもできれば、一度ご同行いただければと思っています」

 

 長沼はファニール達にまず礼を言い、そして続けて要請の言葉を紡ぐ。

 

「あ、うん。問題ありません」

 

 それに対してファニールが、少し戸惑う様子を見せながらも、了承の言葉を返した。

 

「ありがとうございます。私達は現在、草風の村で場所をお借りして、そこを拠点としております。皆さんにも私たちの車輛で、これより草風の村へ一度戻っていただきたいと思います」

 

 ファニール達からの承諾を受け、長沼はこれからの動きを説明する言葉を並べる。

 しかしそれに対して、ファニールとクラライナは、少し抵抗のあるような顔色を見せた。長沼はそれを、やはり未だ不信感が彼女達の内にあるせいかと思ったが、直後にファニール達から発せられた言葉が、それがまた別の理由である事を明かした。

 

「あの――ボクたちにも何か力になれる事はありませんか?」

「先の襲撃で、町の人々が多く傷つき犠牲となったのでしょう?そんな中で、私達だけ先にこの場を離れる事は、気が引ける」

 

 ファニールとクラライナは、それぞれ長沼に向けて訴える言葉を紡いだ。

 町の人々が多く傷つき、今も隊員と警備兵が救護活動に当たっている中で、ファニール達は自分達だけが先に町を離れる事に、抵抗を覚えているようであった。

 勇者という立場。そして彼女達の持つ正義感もあっての事であろう。

 

「……申し出は、大変ありがたく思います――ですが、お二人は魔法現象による体調異常から、回復したばかりと聞いています。念のため、後方へと移動していただきたく思います」

 

 しかし長沼は、二人の訴えに感謝しながらも、女達の体調が万全ではないことを理由に、それを取り下げた。

 最も理由にはそれ以外に、戦闘こそ停止したものの、まだ混乱の中にあり危険が無いとは言えないこの町に、ようやく確保した彼女たちの身を、長く留めて置きたくないという物もあったが。

 

「そうですか……分かりました……」

「私たちは、懸念事項というわけか……」

 

 長沼の要請に、二人は少し悔しそうに気を落と姿を見せながらも、それを受け入れた。

 

「申し訳ない。車輛をすでに用意してありますのでそちらへ。お荷物などは、後日回収させていただくという形で、ご了承ください」

 

 長沼はそんな彼女達を少し気の気の毒に思いつつも、促し、そして細かい所についての断りの旨を発する。

 

「あ――!ま、待ってほしい!カミルを、カミルだけは一緒に連れて行かないと!」

 

 しかしそこで、クラライナがそんな訴える声を上げた。

 

「あ!そうだよ馬ちゃん!」

「馬?」

 

 続きファニールも声を発し上げ、それを聞いた長沼が疑問の声を上げる。

 

「えぇ、私の愛馬です。でも、大事な仲間なんだ!あの子を置いてはいけない!」

 

 説明し、そして続け訴えるクラライナ。

 

「フゥーーッ!!」

 

 そんな所へ、軽快な掛け声が横から飛び込んで来たのはその時でった。

 

「あぁ?」

 

 竹泉から訝しむ声が上がり、そして同時に各々の視線が、声の聞こえた方向を向く。

 その先に見えたのは、軽快でリズミカルな音を鳴らして駆けてくる、一頭の馬。そしてその上に跨る、多気投の巨体であった。

 

「カミル!」

 

 その馬こそ、クラライナの愛馬、カミルであった。

 多気投を乗せた馬改めカミルは、一同の元まで駆け込んで来ると、前脚を上げて跳ね、高らかに鳴き上げて見せた。

 

「おーっとぉ。ドォ、ドォッ」

 

 多気投はそんなカミルを手綱を引いて落ち着かせる。脚を再び着いて姿勢を取り戻したカミルは、そこから真っ先に主人であるクラライナを見つけ、彼女の元へと蹄を鳴らして歩み寄った。

 

「カミル。よかった、無事だったんだな」

 

 クラライナもそんなカミルに歩み寄り向かい入れ、カミルのその頭を撫でてやる。

 

「おぉう?あんだぁ、ねーちゃんのお馬ちゃんだったのかぁ」

 

 一方の多気投は、再開を果たした主と愛馬の姿を眼下に、そんな少し驚く言葉を零しながら、カミルの背より軽やかに飛び降りた。

 

「なーにに乗ってきてんだオメェは」

 

 そんな多気投に、竹泉が呆れた声色で言葉を飛ばす。

 

「いやぁ、なにぞお馬ちゃんがトコトコ現れたと思ったら、一緒に行きたそうなムーブを見せてきてヨォ。せっかくだし連れて来たワケよォ。なぁるほど、ねーちゃんのお馬ちゃんだったワケかぁ」

 

 そんな竹泉の言葉に対して、説明の言葉を返しながら、カミルの姿を指し示す。

 カミルはクラライナに寄せたその頭を撫でられ、ブルルと鳴き、喜ぶ様子を見せていた。

 

「ハッハッハァ!お馬ちゃん、彼女と再会できて嬉しそうだなぁ!いきり立ってるぜェ!」

「馬ちゃんは女の子だよ……?」

 

 カミルの様子に対して、そんな囃し立てる言葉を発して、笑い上げる多気投。そんな多気投の台詞に、ファニールが戸惑い混じりに突っ込みを入れた。

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