―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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2-12:「隊と王女」

 鷹幅達はレオティフルや侍女に先導され、階段を上って廊下を進み、そこにある一室に案内された。侍女が扉を開け、レオティフルは優雅な足取りで扉を潜る。

 

「皆様も、どうぞお入りください」

 

 侍女に促され、鷹幅達も扉を潜る。

 その部屋は応接室に類する一室のようで、広さこそそれなりだが、安くはなさそうなカーペットが敷かれ、同様に安くは無さそうなテーブルとソファが一組と、その他申し訳程度の家具類や装飾品が置かれていた。

 そしてレオティフルの身の回りの世話のためか、警護のためか、あるいは両方のためであろう、部屋内には4名程の侍女が部屋の隅で待機していた。

 

「皆様、どうぞお掛けになって」

 

 レオティフルは鷹幅達に促しながら、自身もテーブルを挟んで置かれているソファに腰掛ける。鷹幅達は一瞬戸惑ったが、横に立っていた侍女にも同様に促され、遠慮がちにしながらもレオティフルの反対側に位置するソファに、順番に並んで腰を掛けた。

 

「セテナ、皆様にお茶をお持ちして」

「かしこまりました」

 

 侍女セテナはレオティフルの言葉を受け、部屋の隅へと歩いてゆく。そこには事前に用意されていたのであろう、茶を用意するための一式の道具が、カートの上に並び揃えられていた。侍女セテナが作業にかかる様子を見届けた後、レオティフルは鷹幅達に視線を戻して口を開いた。

 

「さて、皆様。此度は我が国の町を匪賊から守っていただけたこと、国王の娘として、感謝を述べさせていただきますわ」

 

 並び座った鷹幅達に向けて、レオティフルは改めて感謝の言葉を述べる。

 

「最初に報告を聞かせていただいた時は、驚きましたわ。なんでもたった十数人の戦力で、百を超える山賊達を退け無力化して見せたとか」

 

そこまで言うと、レオティフルは少し言葉のトーンを落として次の台詞を発する。

 

「今回の件で、昇林の町から多くの方の犠牲が出てしまったのは非常に心苦しいですことですが……あなた方がいなければ、もっと被害が拡大していたことでしょう。あなた方には、本当に感謝していますわ」

「とんでもありません。先程も申し上げましたが、私達はあくまで偶然あの場に居合わせ、先の状況で自分達に出来る事をしたに過ぎません」

「うふふ、あくまで謙遜なさるのね。その姿勢もまた、評価に値しますわ」

 

 鷹幅の謙遜の言葉に、レオティフルはどこか嬉しそうに発する。

 

「それにしても……お噂を聞いた限りでは、どんなお怖い方々かと思っていたのですが――」

 

 レオティフルは、興味深げな表情で鷹幅達の姿を観察する。

 

「まさかこんな可愛らしい男の子達と、麗しい女の人だなんて」

 

 そしてそんな言葉を口にした。彼女のその表情は、目の保養だとでも言いたげな様子で、若干ほころんでいた。

 確かに鷹幅と樫端は、二人とも実年齢に対して身長が低めで、童顔だが整った顔立ちのの男性だ。そして鳳藤は中身のいささか残念な所は置いておいて、外見は麗しい美女だ。

 そんな風貌が幸いしてか、三人はレオティフルにより好感を持たれたようだった。

 しかし鷹幅は、自身が低身長で童顔な事を間接的に指摘され、複雑な感情を抱いていた。

 ちなみに同様に童顔である樫端は、しかし鷹幅と違って特に気にした様子は無い。

 そして鳳藤はと言えば、陰険をそのまま形にしたような竹泉と、バケモノのような体躯と外観の多気投を高機動車に残して来た事は正解だったと、内心で安堵していた。

 

「姫様」

 

 そこへ侍女セテナが用意された紅茶を盆に持って、その場に戻って来た。彼女はテーブルの上に紅茶を配りながら、どこか咎めるような口調でレオティフルに声を掛ける。

 

「――あらやだ、私としたことが。初対面の殿方に対して、失礼な事を言ってしまいましたわね」

 

 侍女から言葉を受けたレオティフルは、口に手を当てて取り繕うような笑顔を浮かべながら発した。

 

「いえ、構いません」

 

 鷹幅は内心の複雑な気持ちを飲み込んで、そう発し、そして言葉を続ける。

 

「レオティフル王女様――でよろしいですか?私達はまず、あなた方に謝罪しなければなりません」

 

 鷹幅は、まずレオティフルに自分達の身分が曹と士、他国における下士官と兵の身分である事を説明。本来、国の代表、まして王族と面会する場合であるならば、幹部、他国であれば士官がその役割を成すのが最低限の礼儀である。しかし現在、部隊はパイロットである小千谷二尉以外の幹部隊員を欠いており、幹部隊員を代表として出せる状況に無い。

 その理由から、王族の身分であるレオティフルとの面会が、下士官、陸曹の身分である自身との物となってしまった事を、鷹幅は謝罪した。

 そして何より、部隊は現在他国であるこの五森の公国の領内に、無断で身を置いている状況にある。突然異質な現象に巻き込まれ、実質遭難中も同然である部隊にとっては、仕方が無い事でもあったが、鷹幅はこの事を説明、謝罪すると共に、レオティフルにこの国の領内に一時的に身を置くことの許可を求めた。

 

「成程――皆様は我が国に迷い込まれたのですね。そう言った理由があるのでしたら、それ等の事は仕方の無い事ですわ。それに――そのような自らが困難な状況にありながら、昇林の町を救っていただいたというのなら、私達はそれこそ感謝すれど、あなた方を咎める事などできませんわ」

 

 鷹幅の説明を聞いたレオティフルは、しかしそれにより鷹幅達を咎めることはせず、再び感謝の意を露わにする。

 

「それに、皆様のような美男美女とお話ができるのですもの。皆様を無粋な理由で咎めるなど、それこそ神罰が下りますわ」

 

 そしてレオティフルは悪戯っぽく言って見せると共に、鳳藤の方を向くと、「ね」と言うように彼女に微笑んで見せた。

 

(え、私?)

 

 唐突にレオティフルから笑顔を向けられた鳳藤は、戸惑いながらペコリと小さくお辞儀を返す。

 

「……失礼を承知で申し上げますが、本当の目的をお聞かせ願えますか?好奇心だけを理由に、王族たるあなたが得体の知れない私達に面会を希望されるとは考えにくい。まして、私達に無償で物資の提供までしてくださるという……」

 

 そこで鷹幅が懐疑的な口調で、レオティフルに向けて言葉を紡いだ。

 

「……ふぅ、せっかく不思議な、それも美男美女な方々とお茶の時間を持てると少し楽しみにしていましたのに……やはりきな臭い話は避けられませんわね」

 

 レオティフルは口に運んでいたティーカップを静かに置くと、残念そうな口調でそう呟く。そして話し出した。

 

「我が国は小国ですが、豊かな自然に恵まれた平和な国……と名乗りたい所なのですが、実際にそう名乗るには少々問題がありますの。いえ……少し前までは本当に平和な国でしたのよ。そう、魔王の復活までは……」

「魔王……」

 

 レオティフルが発したそのワードに、鳳藤が反応して呟く。

 

「皆様は遠方の国の方々と聞き及んでいますが、魔王についてはご存知ですの?」

「いえ、詳しい事は何も……」

 

 レオティフルの質問に、鷹幅が返す。

 

「ではまず、そこからお話させていただきますわ。少し長いお話になりますの、皆さん楽になさってお聞きくださいな」

 

 

 

 一方その頃。

 

「Yooooo Babyeeeeee!!世界を引っくり返すずぇぇぇぇッ!」

 

 城門の傍で待機している高機動車上で騒音が上がっていた。多気投が退屈しのぎにと、上機嫌に歌い散らかしていたのだ。

 

「うるっせぇんだよ、多気投ッ!ちったぁ静かにできねぇのか!?」

 

荷台のシートに寝そべるように腰かけ、タブレット端末を眺めていた竹泉が、それに対して抗議の声を上げている。

 

「……超、悪目立ちしてるぞ」

 

 城門の番兵達がそれを、何事かといった様子でこちらを眺めている。その事に気付いた着郷は、呆れ混じりの口調で呟いた。

 

 

 

 「――と、今のこの世界の状況は、このような所でしょうか」

 

 鷹幅達はレオティフルから、現在のこの世界の情勢。そして魔王と言う存在についての説明を聞き終えた。

 

「なんという事だ……」

 

 鳳藤は、自分達が想定よりも大変な世界に飛ばされてしまったという事を知り、思わず声を漏らす。鷹幅達の心の整理が付くのを待っているのか、レオティフルは各員の姿を静かに見つめている。

 

「――すみません、レオティフル王女。続けて下さい」

 

 それを察した鷹幅が、レオティフルに言う。

 

「よろしくて?では、本題に入らせていただきますわ。状況の悪化により、魔王とその軍勢に加担する者達が出始めている、という事はお話させていただきましたわね。お恥ずかしながら、我が国内にもそのような考えを持った者達がおりますの……」

 

 レオティフルは少し困ったような表情を作り、話を続ける。

 彼女の話によれば、この国の国内にも、魔王軍側に加担しようと工作を続ける一派が存在していたという。

 しかし国側は先日、その一派の裏工作の事実を突き止め、その者達の拘束に成功した。

 が、その一部が国の捜査の手をすり抜け逃走。

 そして現在は国の北にある、国境の砦に立て籠もっているという。

 

「それは……大事ですね」

「その一派だけで、砦を制圧したというのですか?」

 

 鳳藤が呟き、鷹幅が尋ねる。

 

「いえ――これもまたお恥ずかしい話なのですが……」

 

 レオティフルは説明を再開する。

 一派の者達は、事前に国の兵力の一部にも手を回していたようで、その一つが砦に駐留する部隊だったという。その部隊が一派と合流して謀反を起こし、一派はその兵力の助けを得て砦を制圧。

 その砦は隣国である〝雪星瞬く公国〟とを繋ぐ国境ルートとなっており、居合わせた旅人や商人達と、謀反に反対した兵士達が人質として囚われているという。

 国境を越えるルートを抑えられ、さらに人質が取られているという二点から、早急な解決が望まれたが、残念な事に現在状況は芳しくないらしい。

 現在砦は、レオティフル自身が王都から連れて来たという近衛の第1騎士団の一部隊と、この木漏れ日の町の駐留兵力である第37騎士隊の一部、数にしておよそ150名程が包囲しているらしい。しかしそれだけでは包囲を完了させる事がやっとで、突入には踏み込めないでいるという。

 

「増援は期待できないのですか?」

「もちろん、各騎士団や騎士隊に準備を命じてはおりますが――」

 

 五森の公国は、対魔王軍戦線にそれなりの数の兵力を出しており、現在の国内の兵力に余裕は無い状況との事であった。そこへ無理に兵力を捻出しようとしているため、その準備には時間を要しており、今日明日での招集はとてもままならないとの事だった。

 

「そもそも、近衛の第1騎士団と、そしてなにより姫様自身がこうして事態解決のために赴かれた事自体が異常なのです。本来、戦いの場にも向くのは、王子であるハルスレン様や各将軍方のお役目」

 

 そこへ、レオティフルの脇に待機していた侍女セレナが補足の言葉を発する。

 

「仕方ありませんわ、兄様や各将軍方は現在、対魔王戦線に赴かれているのですもの。それに、すぐに動くことができるのが私と第1騎士団だったのです。これは、留守を任されている私達の役目ですわ」

 

 やや遺憾そうに言葉を発したセレナに、しかしレオティフルは当然の義務だと言うように発する。

 

「などと――偉そうに言っては見たものの、現実は膠着状態のまま進展が見えず、困っておりましたの」

 

 しかしその直後にレオティフルは表情を困った物に変え、自嘲気味に発した。

 

「……そこへ、私達が現れたと」

 

 そんなレオティフルに、鷹幅は静かに尋ねる。

 

「うふふ、さすがにもうお察しいただけたようですわね。そう、私達はあなた方のお力を、是非ともお借りしたいのですわ」

「成程――失礼ですが、そういった理由があるのであれば、我々への好待遇も納得ができます」

「あぁ、誤解なさらないで」

 

 レオティフルは少し慌てた様子で弁明の言葉を紡ぐ。

今回の物資等の提供は、あくまで昇林の町を救っていただいたお礼であるという。そして、今回の要請を引き受けるか否かに関係なく国は。隊が国内に留まる事を認めると言う。レオティフルいわく

「国に迷い込んだものを見捨て、追い出す事などは、王族としての矜持に反する」との事であった。

 そして、事態解決への協力を引き受けてくれた暁には、国として隊を支援することを約束してくれるとの事だった。

 

「得体の知れぬ私達に、なぜそこまで……」

「そこまで事態が押し迫っている、という理由もありますけど――こんな状況で不謹慎かもしれませんが、私、個人として皆様に大変興味がありますの」

 

 どこか悪戯っぽく言うと、レオティフルはソファからおもむろに立ち上がり、そして鷹幅達の傍へと歩み寄って来る。正確に言うならば、彼女は鳳藤の傍へと歩み寄り、彼女の姿に視線を向けていた。

 

「力を持ち、それでいて謙虚で律された内面。そして何より、見たことも無い綺麗なお姿――」

「え?あ、あの……」

 

 そしてレオティフルは鳳藤に近寄ったかと思うと、繊細な手つきだが、しかしおもむろに彼女の黒くて長い髪の毛先を手に取った。

 

「綺麗な黒い髪。そしてそれに負けず劣らずの美しい顔立ち、あなたのような方は初めてですわ」

 

 レオティフルはその綺麗な眼を若干細め、恋焦がれるような口調で言う。女子高出身の鳳藤は、正直ある程度の女同士のスキンシップには慣れているつもりだったが、しかし異世界の見たことの無い類の美人の、それも王族という立場であるレオティフルの接近と行為に、多少なり緊張して身を固くしていた。

 

「んん、姫様」

 

 そこへ脇に居た侍女のセレナが咳払いをする。

 

「あら――やだわ、ごめんなさい。私としたことが」

 

 セレナの言葉でレオティフルは我に返り、やや恥ずかしそうな笑いを浮かべると、鳳藤の毛先を解放した。

 

「失礼しましたは。それで――タカハバ様?このお話、引き受けていただけませんでしょうか?」

 

 レオティフルその視線を鳳藤から鷹幅に移して、彼に尋ねる。

 

「……申し訳ありませんが、私は一分隊を預かっている身に過ぎません。私の一存では決めかねます。一度戻り、上長と相談させていただきたく思います」

 

「構いませんわ。しかし状況が状況ですので、可能でしたらお早めのご回答をお願いしたく思いますわ。我儘を言ってしまい申し訳ありませんが、その上長様にも、どうかよろしくお伝えくださいませ」

「では、私達は一度失礼いたします」

 

 樫端ソファから立ち上がると、鳳藤を、続いて樫端を見てそう促す。しかし樫端の姿を目に留めた鷹幅は、そこで顰めっ面を作る事となった。

 

「あ、もう帰るんですか?」

 

 樫端は、紅茶と共に出されていたお茶菓子を無遠慮に口に運んでいた。どうやら、鷹幅がレオティフルと会話を続けている間、ずっとその調子だったらしい。

 

「お前……少しは場の空気を考えて、遠慮と言うものを……」

「もらえる物はもらっとかないと損かなと、と思いまして」

 

 呆れ顔の鷹幅に、変然とした口調で返す樫端は、紅茶のカップに手を伸ばそうとする。

 

「あ、もう無かった」

 

 しかしティーカップの中身はすでに空であり、樫端は残念そうに声を上げる。そんな樫端に鷹幅は「ほら、行くぞ」と言おうとしたが、その前に脇から声が掛かった。

 

「よろしければ、最後にもう一杯お飲みになっていかれては?」

 

 そこに、脇に待機していたはずの侍女が立っていた。それも三人も。そして彼女達は皆、ティーポットや新たな茶菓子をその手に持ち、なぜかソワソワとした様子で、そして綻んだ顔で樫端を見つめている。

 

「あ、ありがとー、おねーさん達」

 

 そんな彼女達に、樫端は意識してか無意識化は知らないが、無邪気な子供のような口調で言って見せる。どうやら侍女達は、童顔で一見美少年な樫端が、無邪気に菓子類を頬張ってる姿に、愛らしさを抱いているようだった。

 樫端の笑みを受け、侍女達は皆「キャー」という黄色い声での零しそうな、うれしそうな表情仕草を見せる。

 

(こいつは――)

 

 女殺しっぷりを発揮している樫端に、鷹幅は呆れて額に手を当てる。

 

「あなたもいかがですか?」

 

 そこへ鷹幅にも声が掛かる。侍女達の視線は彼にも向いており、何か期待を込められた目が彼女から向けられている。どうにも、同じく美少年顔である鷹幅にも、同様の反応が期待されているらしい。

 

「皆さん、お客様を困らせてはなりません」

 

 しかしそこへ侍女達に厳しめの声が飛ぶ。侍女セレナが、彼女達へ咎める言葉を発したのだ。どうにも立場が上なのだろうセレナの一言によって、侍女達は蜘蛛の子を散らすように、慌ててその場から引いて行った。

 

「侍女達が失礼いたしました」

「いえ、こちらこそ」

 

 セレナの淡々とした謝罪に、鷹幅もため息混じりに謝罪を返す。

 

「うふふ、強くて見目麗しいだけでなく、楽しい方々ですわね」

 

 そんな様子に、レオティフルは微笑みながら発した。

 

 

 

「では、失礼したします」

「良いお返事、期待しておりますわ」

 

 レオティフルと侍女達に見送られ、鷹幅達は一室を後にした。

 そして侍女セレナに案内され、建物の玄関口へと戻って来た。

 

「あぁ、驚いた。まさかこの国の姫様とお会いすることになるなんて……」

 

 そこで鳳藤は、緊張が解けたのか、脱力しながら零す。

 

「鳳藤士長、なんかあのお姫様に妙に気に入られてましたよね」

 

 そんな鳳藤に樫端が発する。彼は侍女達に囲まれながらのお茶の時間を、若干名残惜しく思っている様子だった。

 

「お前は……国の王族との面会だったんだぞ。もう少し振る舞いを考えろ」

 

 そんな樫端に、鷹幅は呆れながら叱る言葉を発する。

 

「でも下手に遠慮して、手を付けないのも失礼かと思いまして」

 

 しかし樫端は悪びれない様子で言ってのけた。

 

「限度があるだろう……」

 

 最早呆れ声しか出ない様子の鷹幅。

 

「やあ、お話は終わったようだね」

 

 そこへ声が掛けられる。三人が振り向けが、アドニスがホールの一角から歩いて来るのが見えた。その後ろには、侍女が装備を乗せたカートを押してくる姿も見える。

 

「えぇ――まさか、この国の姫様とお会いする事になるとは、思ってもみませんでしたが」

「すまない。姫様は是非とも君達との接触を望んでおられてな。伝令の通達で君たちがこの町に訪れる可能性は高いと踏んでいた。そして訪れた際には、姫様の元へご案内するよう、仰せつかっていたんだ」

 

 鷹幅の言葉に、アドニスは謝罪と説明を述べる。

 

「なんというか、冒険心の強いお方の様ですね……」

 

 鳳藤はカートから装備である9mm機関けん銃を受け取りながら、アドニスに呟く。

 

「ははは、姫様のご気質は有名なんだ」

「私達が振り回される事も多々あります」

 

 鳳藤の呟きにアドニスは笑って返し、傍に控えていたセレナは一見した態度こそ冷静だが、そのウチに少し困ったような色を乗せて言う。

 

「さて、外に馬車を用意してある。約束の物資を買い集めに行こう。ついでに、私達の町を案内しようか」

 

 アドニスに先導され、鷹幅達は建物を後にした。


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