―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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2-15:「別れと帰還、さらなる一手」

 翌朝。

 東方面偵察隊は帰路につくための準備を始めていた。フレーベル邸の外に停められた指揮通信車では矢万や鬼奈落が、調達した物資類がきちんと車体に固定されているかの確認作業を行っている。

 その一方で、フレーベル邸のリビングでは、河義とフレーベルがテーブルの上に置かれたこの世界の地図に目を落としている。この地図は、昨日物資調達に合わせて購入された物だ。偵察隊はこの地図の他にも、有用と思われるいくつかの書物を購入していた。

 

「ここが荒道の町ですね?」

「うん、そう」

 

 河義が地図の一地点を指先で指し示しながら尋ね、フレーベルはそれに肯定の言葉を返す。河義は今朝がた、制刻等から原油関わるに一連の報告を受け、今はフレーベルにその原油が調達されたと思しき、〝荒道の町〟の具体的な所在地について、確認を取っている所だった。

 

「馬を使っても、だいたい3~4日くらいはかかるよ」

「結構な距離があるな……」

 

 フレーベルの言葉に、河義は呟く。その荒道の町は、偵察隊の現在地である月橋の町から見ても、近いと言える距離には無かった。

 

「戻りました」

 

 そこへフレーベル邸の玄関が開かれ、制刻が姿を現した。

 制刻は、昨晩フレーベルの話にあった、原油を譲ってもらったという商店に詳細を訪ねに行っていた。その制刻が戻った事に、河義は顔を上げる。

 

「どうだった?」

「当たりです。話によると、原油はその荒道の町の近くで採掘された物のようです」

 

 河義の問いかけに、制刻はそう答えた。

 

「そうか。まさか、こんな形で石油が見つかるとはな……」

 

 河義はテーブルの上に置かれた、原油の詰められた瓶に視線を落としながら言う。

 

「話を挟んで悪いけど、地下油がそんなに重要なの?」

「えぇ――私達にとっては、重要な物資と成りえる物なのです」

 

 疑問の声を向けて来たフレーベルに、河義が答える。

 

「というか、こっちじゃ重要視されてねぇのか」

 

 そこへ制刻が尋ねる。

 

「うーん、私が知る限りではね。私も薬学以外の分野はからっきしだから、はっきりした事は言えないけど――」

 

 フレーベルの話によれば、少なくともこの近辺地域.において原油は、あまり重要視されている資源ではないらしい。火を灯す際の油の一種として補助的に使われたり、加工された物が詰め物として使われている程度、とのことだった。

 

「そいつぁ、俺等にとっては、好都合かもしれねぇな」

 

 フレーベルの話を聞いた制刻は発する。

 

「だが、制刻――どうやら、その町まで結構な距離があるようだ。そこへ向かう許可が下りるかどうかは、分からんぞ」

「でしょうね。まぁ、ブツの在り処が分かっただけでも収穫です。後の事は、戻ってから相談しましょう」

 

 

 

 東方面偵察隊は準備を整え終え、いよいよフレーベル邸を、そしてこの月橋の町を発つ事となった。指揮通信車の車長である矢万や、操縦手である鬼奈落等の一部の隊員は、すでに搭乗を終えており、指揮通信車はエンジンを始動させて低い唸り声を上げていた。

 その指揮通信車の横には、見送りのためにその場に立つフレーベルやハシア達の姿があった。そして河義や制刻、新好地等がそんな彼等と相対していた。

 

「フレーベルさん、私達を宿泊させていただき、ありがとうございました。それと薬の件に関しましては、どうかよろしくお願いします」

「任せといて。えっと、君達は五森の公国の芽吹きの村の近くに陣を張ってるんだったよね?薬の解析が終わって、対抗策が発見出来たら、君達の所へも便りを出すよ」

 

 河義の言葉に、フレーベルは自らの胸を叩いて答えて見せる。

 

「ハシアさん達も、色々とありがとうございました」

 

 続けて河義はハシア達に顔を合わせて言う。

「とんでもない。しつこいかもしれないけど、僕らの方こそ本当に君達には助けられた。僕らはガティシアとイクラディとの合流のために、まだこの町に滞在するから、ここでお別れになるけど――」

「たぶん、またどっかで会いそうな気がするな」

 

 ハシアの言葉の続きを制刻が発し、ハシアは「だね」と笑顔を作ってそれに返した。

 

「……そういや、嬢ちゃんはどうした」

 

 一方で、新好地はニニマの姿がその場に見えない事に、周囲を見渡しながら疑問の声を発する。

 

「んー?ニニマちゃんなら、なんか朝から台所に籠ってるみたいだったけど……?」

 

 新好地の言葉に同じく疑問の声で答えながら、フレーベルは背後にあるフレーベル邸の玄関へ振り向く。玄関扉が開かれ、ニニマがそこから姿を現したのは、その瞬間だった。

 

「皆さん!良かった間に合っ――きゃっ!」

 

 慌てた様子でパタパタと足音を立てて出て来たニニマは、そのせいか足をもつれさせて転倒しかける。

 

「おっと」

 

 しかし彼女は幸いにして、その先にいた新好地の体へと倒れ込み、彼に体を支えられた。

 

「ご、ごめんなさい……!」

 

 新好地の助けを受けて体勢を立て直したニニマは、顔を赤らめながら彼に向けて礼を言う。

 

「別に構わんさ。それより、そんなに慌てて何を持って来たんだ?」

 

 新好地はニニマの手元に視線を落としながら問う。ニニマの手には、大きなバスケットが提げられていた。

 

「お弁当です。良かったら皆さんで食べてください」

「マジかよ、ありがたい。サンキュー嬢ちゃん」

 

 礼の言葉を発しながら、新好地はニニマが差し出したバスケットを受け取った。

 

「いえ、皆さんには色々助けていただきましたから。もっと他に何かできればよかったんですけど……」

「そんな事――いや、それなら今度また、飯を作ってくれないか?」

 

 申し訳なさそうに言葉を言葉を零したニニマに、新好地はそう発した。

 

「え?」

「嬢ちゃんの飯はうまかった。またなんかの用でこの町に来る事もあるかもしれない。その時に、な?」

 

 新好地はその中性的で整った顔に、温かな笑みを浮かべてそれをニニマに向ける。

 

「――はい!」

 

 それに対して、ニニマも笑みを作って返す。彼女のそれは、集落で出会って以来初めて見せた満面の笑みで会った。

 

「よし、各員乗車だ」

 

 二人のやり取りを見守っていた河義が、指示の言葉を発する。そして指示の言葉を受けて各員は指揮通信車へと搭乗してゆく。

 

《発進します》

 

 各員が搭乗を終えたことを確認した、操縦手の鬼奈落が発し、そして指揮通信車のアクセルを静かに踏む。指揮通信車はエンジンの唸り声をより大きくし、ゆっくりと走り出す。

 

「それじゃあ元気で!」

「またどっかでなー!」

 

 ハシアが別れの言葉と共に片腕を掲げ、アインプは溌溂とした動作で両手を振るう。

 

「お気を付けて!」

「嬢ちゃん達も、元気でな!」

 

 ニニマも別れの声を上げ、新好地が車上からそれに返す。他の各員も別れの挨拶を送るハシア達やニニマ達に手を振り返す。そして彼等の見送りを受けながら、偵察隊を乗せた指揮通信車はフレーベル邸を、そして月橋の町を後にした。

 

 

 

「……さてと、出来る限り早く、薬の対抗策をみつけなきゃね」

「僕等は、ガティシア達が来るまでに、次の旅の準備を整えなくちゃ」

 

 偵察隊を見送った各々は、それぞれの次の行動へと移ってゆく。

 フレーベルは、ヨシと気合を入れながらフレーベル邸へと戻って行き、ハシアとアインプは次の旅の準備のために、町へと繰り出してゆく。

 

「……」

 

 しばらく指揮通信車の去った方向を見つめていたニニマも、やがてフレーベルを追って身を翻す。

 

「……~~」

 

 そして彼女は歌を口ずさみだす。それは、この町までの道中で、新好地と共に歌った歌であった。

 

 

 

 東方面偵察隊は月橋の町を発ってから丸一日を掛けて帰路の行程を消化し、日が暮れる直前に野営地への帰還を果たした。

 野営地は偵察隊が離れている間に、強固な陣地へと姿を変えていた。高地の頭頂部周辺には塹壕が張り巡らされ、現在も施設作業車と施設科隊員が、木材と土を用いた簡易トーチカを構築している様子が見て取れた。

 

「剱達は、もう帰って来てるようだな」

 

 そんな強固な陣地と化した野営地内を進む指揮通信車の車上で、制刻が呟く。制刻の視線の先には、高地の頭頂部に立ち並ぶ天幕の群れと、その脇に停められた高機動車の姿があった。北西方面偵察隊は、東方面偵察隊よりも一足早く、昨日の夕方には野営地への帰還を果たしていた。

 指揮通信車はその天幕群へと接近し、高機動車の隣に車体を着けて停車する。天幕群の前には、偵察隊を出迎える井神一曹と帆櫛三曹の姿がある。河義は指揮通信車から降車すると、井神の前へと立ち、彼に向けて敬礼をした。

 

「報告します。東方面偵察隊、帰還しました」

 

 敬礼の動作と同時に発した河義に、井神も敬礼を返す。

 

「長旅ご苦労。道中色々とあったようだが、無事に帰って来てくれて何よりだ。できれば休んでくれと言いたい所だが――」

 

 井神の言葉の先を察し、河義がその言葉の先を口にする。

 

「えぇ、装備の返納や調達した物資の積み下ろし――そして何より、報告しておきたい事があります」

「すまんな。帆櫛三曹、主要隊員を集めてくれ」

 

 井神の言葉に帆櫛は「は」と返事を返して駆け出してゆく。

 

「じゃあ、各作業はこっちでやっておきます」

「すまない、頼む」

 

 指揮通信車の車上からの矢万の言葉に河義は返す。

 

「制刻と新好地は一緒に来てくれ」

「いいでしょう」

「了解です」

 

 そして報告に必要な人員をピックアップし、河義等は指揮所用の業務用天幕へと向かった。

 

 

 

 指揮所用の業務用天幕に基幹隊員が集まった。ただ、現在は各種作業に当たっている隊員も多く、その数は以前のミーティング時よりも少なめだ。そんな中で、河義により偵察行動中に遭遇した出来事に関する報告が行われた。

 

「――と、私達の偵察行動での報告は以上になります」

「また、信じがたい体験をしてきたな」

 

 井神は長机の上に置かれたタブレット端末に目を落としながら呟く。タブレット端末の画面には、集落で遭遇したゾンビ達の様子を収めた動画映像が流されていた。

 

「ゲームとかの映像ならともかく、これが現実の光景だっていうんだから、背筋の寒くなる話だな……」

 

 井神の横から、タブレット端末を覗き込んでいた小千谷が呟く。

 

「その研究者の方には、なんとしても解決策を見つけてもらいたい所だな」

 

 そう発した井神は、タブレット端末の画面をタップして動画を止めると、顔を起こして河義等の方を向く。

 

「こんな異常な事態に遭遇しながら、よく物資の調達してきてくれた。さらに、こちらで使える資金を確保できた事も大きい。皆、よくやってくれたな」

「それに関しては、ハシアさん達のおかげです。彼等にも色々と助けられました」

「そうだな、彼等にも感謝しなければ」

 

 そう発した井神は、そこで「さて」と言葉を区切り、その場に集った皆を見渡して次の言葉を口にし始める。

 

「では報告も聞き終えた所で、次の案件に移ろう」

 

 井神は言うと同時に、テーブルの端に立つ鷹幅に視線を移す。視線を受けた鷹幅は、小さく頷き口を開いた。

 

「はい、昨日の報告でもお伝えした通りですが、私達は木漏れ日の町で、この五森の公国の姫君と接触しました」

「姫?」

「ほぅ」

 

 鷹幅の言葉に、その事を始めて聞かされた河義や制刻は言葉を零す。

 

「彼女等からは、昇林町での件についての謝礼と、物資の提供を受けました。そしてもう一つ――現在国は解決に急を要する事態を抱えており、私達は彼女から、それを解決するための協力要請を受けました」

「国境の砦に立て籠もる、反政府一派の鎮圧――だったよな?」

 

 小千谷の言葉に、鷹幅は「はい」と行程してから言葉を続ける。

 

「先にお話しした魔王とその軍勢による各地への侵攻。それに応戦するため、この世界の各国は多くの戦力を派兵しているようですが、この国も例外ではないようです。その影響で、今回の事態を解決するための兵力の招集が、思うように進んでいないとのことでした」

「そこで、我々の存在と、町での山賊への対応での実績を知り、協力を要請して来たというわけか」

 

 鷹幅の説明を聞き、井神は呟く。

 

「何か……この国に居座るなら、それ相応の態度を見せろ、と言われているようだな……」

 

 そこで河義が発した言葉を、しかし鷹幅は否定する。

 

「いや、その姫様は、すでに私達がこの地に留まる事を認めてくれている。彼女達は、純粋に私達の助けを必要としているんだ」

「そいつぁどーですかねぇ?」

 

 鷹幅が発した直後、別の声が割り言った。その声の主は竹泉だ。

 

「竹泉二士」

「ッ……またお前か……」

 

 響いた竹泉の声に、井神が顔を上げ、鷹幅は顔を顰めて彼の方を向く。

 

「この国の奴等は、異邦人の俺等を体のいい使い捨ての戦力として利用しようとか、考えてるかもしれませんよぉ?例えそーじゃなくても、一度引き受けたら最後、それ以降もいいよーに利用されるかもしんねぇ」

「竹泉二士!根拠のない勘繰りで、不安を煽る真似は止めろ!」

 

 竹泉に対して叱責の言葉を飛ばす鷹幅。

 

「だが、考えとくに越したこたぁねぇ話だな」

「制刻陸士長!」

 

 しかしそこで制刻が、竹泉の意見を推す一言を零し、鷹幅は今度はそちらへ咎める声を発する。

 

「まぁそう怒るな、鷹幅二曹」

「しかし……」

「確かに竹泉二士の考えも、分からないではない。だが残念な事に、我々は流浪の民も同然の状態だ、取れる選択肢はあまり多くは無い。その上で、今回持ち掛けられた支援の話は、悪くない物だと思っている。例え、いくらか行動で対価を払わなければならないとしてもな」

 

 井神は、皆に向けて説くように発する。

 

「しかし……良いのでしょうか……?今回の件を引き受ければ、他国の軍事行動に参加する事になってしまうのでは……?」

 

 そこへ懸念の声を発したのは、井神の横に控えていた帆櫛だ。

 

「今回の案件は、民間人が人質になっていると聞いている。前に、復興支援に赴いていた部隊が、テログループの大使館立て籠り事件で、人質となった他国の国民を助けた事例があっただろう?」

「あぁ、中東で〝中央緊急展開連隊〟が対応した事例ですね」

 

 彼等の元居た世界での日本国隊は、邦人ではない外国の国民を、立て籠り事件から救出した事例が過去に存在していた。井神はその事例に当てはめ、今回持ち掛けられた件も、隊の行動の範疇内である事を各員に説いて見せた。

 

「それを踏まえて、私は今回の要請を受け入れたいと考えているが――どうだろう、意義のある者は?」

「えぇ、上官の言う事に意義なんぞごぜぇませんよ。あぁこれで今後、ズルズル面倒に引き込まれて行くのが目に見える」

 

 井神の言葉に、竹泉だけはそんな皮肉気な台詞を発したが、それ以外の各員から意義の上がる様子は無い。先に井神が言った通り、自分等の取れる手段は限られているのだ。

 そして一部の隊員が皮肉気に発した竹泉に険しい視線を向けたが、当の竹泉はどこ吹く風といった様子で、それを流していた。

 

「よし。では我々日本国隊は、この五森の王国からの支援要請を受け入れ、部隊を編成して派遣する事とする。編成は後ほど行い、該当隊員に通達する」

 

 井神はそう発して一度言葉を区切り、一息置くと、次の案件について話し合うべく再び口を開いた。

 

「で、もう一つの案件だ。河義三曹、東方面偵察隊は、偵察行動の際に石油の存在を確認したそうだな?」

 

 井神の問いかけに、河義はコクリと頷き、そして言葉を発し始める。

 河義は偵察行動の途中で世話になったフレーベル邸で、原油が資源として用いられていた光景を見た事。そして隣国、月詠湖の国で原油の採掘が行われている地がある事を説明した。

 

「んで、端的に言います。その原油を抑えに行く許可を貰いたい」

 

 そこで制刻が河義の言葉に割り込み、やや不躾な口調で井神に訴えた。

 

「抑えにって……制圧でもしに行く気か……」

 

 制刻の物騒な物言いに、隣にいた鳳藤が呆れた口調で呟く。

 

「まぁ、言わんとすることは分かる。その原油の採掘を行っている所と接触し、資源の提供をいただけないか、交渉を試みたいと言うのだろう?」

「まぁ、そういう事です」

 

 井神の解釈を肯定した制刻に、しかし鳳藤は「本当にそう思ってるか?」とでも言いたげな懐疑的な顔を向ける。

 

「ですが問題があります」

 

 そこへ河義が言葉を発した。

 フレーベル邸で使用されていた物は、精製のされていない原油状態の物であった。例え原油が確保できたとしても、精製の手段が見つからなければ、隊はそれを物資として使用する事はできないのだ。

 

「精製か――それは大きな壁だな……」

「この世界に、そのような技術があればいいのですが……」

 

 井神と河義はそれぞれ呟き声を零す。

 

「一応、原理だけなら分からねぇでもねぇですがねぇ?」

 

 そんな元へ声が割り込む。それは竹泉の物であった。

 

「竹泉?」

「俺と多気投はハワイの大学にいた時に、石油精製の簡易実験をした事がありましてねぇ。簡単な精製装置の仕組みなら理解してます。ま、最もその装置そのものがそっちで作れっかどーかは、甚だ疑問ですがね?」

「それは――本当か?」

「こんな状況でホラ吐く程、アホじゃあありゃあせん」

 

 井神の問いかけに、竹泉は相も変わらずの不躾な態度で答える。

 

「その装置作成に必要な物は?」

「基本的にはガラス器具になりますねぇ。フラスコにビーカー、蒸留塔の代わりんなる蒸留管エトセトラ」

 

 竹泉の言葉を聞いていた河義は、顎に手を当てて思い出すように発する。

 

「確かフレーベルさんのお宅で、そういったフラスコ等のガラス製の実験器具が使われているのを見ました。ガラス器具等の加工技術は、この世界にもあるようです」

「では精製法をこちらで再現し、燃料類を確保することも、不可能ではないかもしれないな」

「あるいは、そういった器具が出回っているのなら、それらを用いた精製技術も、存在しているかもしれません」

 

 井神と河義は推察の言葉を交わし合う。

 

「しかし、待ってください――」

 

 だがそこで言葉を割り入れる存在があった。鳳藤だ。

 

「失礼ですが……ここまでの話はあくまで仮定に過ぎず、確証はありません。その低い可能性のために、部隊を動かそうと言うのは、いささか早計なのでは……?」

 

 燃料確保に関する一連の話に、懐疑的な声を上げる鳳藤。

 

「いや、むしろ早ぇ方がいい」

 

 しかしそこへ制刻が言葉を発した。

 制刻は、この世界は現在動乱の中にあり、自分等は今後確実に面倒事に巻き込まれて行くだろうと話す。そしてそんな中での現在の自分等の強みの一つは、自動車化、機械化されてる事だと発する。だが、その優位性には燃料という制限が付き纏う。そして燃料が底を付き、その優位性を失えば、100名強の温室育ちのも同然の自分達は、塵も同然だろうと言って見せた。

 

「温室育ちねぇ」

 

 そのワードを耳に留めた竹泉は、制刻の常人離れした外観をしげしげと見ながら呟く。

 

「俺等が塵とならねぇためには、力を維持し続ける必要がある」

 

 そしてそのためには、まず十分に動ける今の内に、力の根源の一角である燃料の確保に乗り出すべきだと制刻は鳳藤に、そして周囲に言って見せた。

 

「俺は、制刻の意見を推そう。燃料問題は、遠くない将来にぶち当たる問題だ。解決の可能性があるのならば、それに乗り出すのに早くあるに越した事は無い――燃料に関する調査部隊を、先の派遣部隊とは別に編制しよう」

 

 井神はそこで一度言葉を切り、そして締めの言葉を発する。

 

「今日はもう遅い。具体的な編成、行程の考案等は明日以降とする。各員、特に東方面偵察隊の人員は、十分に休養を取ってくれ。――解散」


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