―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター3:「任務遂行。異界にて」
3-1:「出動と騎士団」


 翌朝。

 昨日に続いて指揮所用業務用天幕に基幹隊員が集まり、今は五森の公国からの要請に基づく派遣任務のための、そして燃料に関する調査に赴くための部隊編成が行われていた。女隊員の帆櫛三曹が、集った関係各位に概要を説明している。

 五森の王国への支援任務には、およそ一個小隊が派遣される。普通科の三個分隊を基幹に、各科からの支援要員を組み込み、小規模ながらも混成隊を編成。さらに曲射火力支援として、96式自走120㎜迫撃砲が一両、随伴する事となった。

 

「鷹幅二曹、部隊の指揮は君に一任したいと考えているが――」

「構いません」

 

 井神の問いかけの言葉に、鷹幅は一言肯定の言葉を返した。

 続いて帆櫛は燃料に関する調査部隊の編制概要の説明に入る。

 調査部隊は約二個分隊規模で編成される。

 調べた結果、野営地からその燃料採掘施設の近隣にあるという‶〝荒道の町〟までは、直線距離でおよそ300㎞弱、東京~名古屋間程の距離がある事が判明した。

 長期行動が予定される事から、調査部隊には十分な量の装備、物資が割り振られる事となった。

 

「指揮は誰が?」

 

 鷹幅は尋ねる。

 

「補給隊の長沼二曹にお願いすることになった」

 

 井神は、今現在は部隊編成の実地指揮に赴いて、この場にいない長沼の名を上げる。今回の調査は補給任務の延長であり、長沼が適任であろう事を、井神は説明してみせた。

 

「よし――五森の公国への派遣部隊は、本日の昼過ぎには出発してもらう。該当各員は、準備に当たってくれ」

 

 

 

「第1分隊乗車開始!」

「第2分隊乗車開始」

「第3分隊、乗車開始せよ」

「本部支援班各員、乗車開始ー!」

「重迫撃砲分隊、乗車開始」

 

 各分隊長の号令により、各普通科分隊の隊員、各科混成の本部支援班の隊員、そして重迫撃砲分隊の隊員が、用意された各車両に搭乗してゆく。その場には、2両の73式大型トラックと1両の新型73式小型トラック、そして73式特大型セミトレーラーが並んでいる。さらに73式特大型セミトレーラーのトレーラー上には、96式自走120㎜迫撃砲が積載されていた。2両の大型トラックとセミトレーラーは、演習中に展開されていた大規模な補給処である〝中央補給地点〟にて、活動していた輸送科隊が保有していた物だ。そして96式自走120㎜迫撃砲は、第11普通科連隊、重迫撃砲中隊所属の車輛だ。同車は車体の不調により中央補給地点を整備点検のために訪れていた所を、転移現象に巻き込まれたのであった。

 

「くっそ、トラックの座席は相変わらず乗り心地悪いな……」

「町湖場(まちこば)、もうちょっと詰めてくれよ」

「あぁ――こんなんで到着まで半日もかかるのか……」

 

 大型トラックの内の一台の荷台では、普通科隊員の樫端や分隊支援火器射手である町湖場という隊員等が、言葉を零している。

 

「皆、装備の忘れが無いか確認してくれ」

 

 今回の派遣任務で組長を任された鳳藤が、荷台の座席に付いた各員に向けて発する。

 

「まるで遠足だな」

「こんなきな臭い遠足、願い下げだっての」

 

 座席に付いた樫端と町湖場は、そんな軽口を交わし合う。

 

「無駄口を叩くな!静かに座席に付いていろ!」

 

 そこへ叱責の言葉が飛ぶ、その声の主は帆櫛三曹だ。彼女は今回の派遣任務で、本来の第1分隊分隊長である井神に代わって、分隊の指揮を取る事となっていた。

 

「うへ……渡ちゃんに怒られちゃった」

 

 年下の上官である帆櫛からの叱責に、しかし樫端は小声で懲りずに軽口を叩く。

 

「分隊を任されてイキり立ってんだろ」

 

 一方の町湖場は、忌々しそうに吐き捨てる。

 

「お前達、それくらいにしておけ……」

 

 そんな彼等に、鳳藤はその端正な顔立ちを困り顔に変えて、咎める言葉を発した。

 大型トラックの車内でそんなやり取りが行われていた一方、今回の派遣任務に向かう小隊の指揮官となった鷹幅は井神と相対していた。

 

「五森の公国への派遣小隊、鷹幅二曹以下35名。1305時、出発します」

「了解」

 

 両者は互いに敬礼を交わし合う。

 

「すまないな。本来であれば、二曹である君に押し付ける役割ではないのだが――」

「仕方がありません。陸隊幹部が一人としていない状況なのですから」

 

 申し訳なさそうに言った井神に対して、鷹幅は自身の当然の役割だという風に返して見せる。

 

「それでは、行ってまいります」

「頼むぞ。くれぐれも、無茶はしないでくれ」

 

 井上の見送りの言葉を受け、鷹幅は身を翻して背後で待機していた新型73式小型トラックの助手席に乗り込む。

 

「良し、出発してくれ」

「了解」

 

 鷹幅は運転席に座る隊員に告げ、そして運転席の隊員はアクセルをゆっくりと踏み込む。小型トラックが発進して先頭を切り、それに続いて2両の大型トラックが、そして最後尾にセミトレーラーが続く。各車輛は縦隊を組み、木漏れ日の町に向けての行程を開始した。

 

 

 

 そしておよそ半日の時間をかけ、派遣小隊は木漏れ日の町に到着した。すでに日は傾きかけていたが、町、そして姫であるレオティフルは小隊の面々を快く迎え入れた。

 鷹幅を始めとする主要陸曹とそして鳳藤は、最初にレオティフルと出会った建物に再び招かれ、そして先日の応接室とは別の一室に通されていた。

 

「皆様初めまして、五森の公国を治めるルイムレイマン王の娘、レオティフルと申しますわ」

 

 レオティフルは、鷹幅と鳳藤以外の初対面の隊員等に挨拶をして見せる。そんな彼女に対して、隊員等は少し戸惑った後に10°の敬礼で返した。

 

「タカハバ様。私の申し入れを受け入れ、お越しいただけた事、大変感謝しておりますわ。きっと来て下さると、信じておりましたけど」

 

 レオティフルは鷹幅に礼の言葉を言い、そしてその背後にいた鳳藤に小さく微笑む。

 

(なんで私……?)

 

 微笑みを向けられた鳳藤は、疑問に思いながらも小さく会釈を返した。

 

「ではレオティフルさん。遅くの来訪となってしまった上で申し訳ないのですが、現在の詳しい状況をお教えいただけませんか?」

「もちろんですわ。皆様こちらへ」

 

 レオティフルは鷹幅達を先導して、部屋の中央に置かれたテーブルへと向かう。テーブルの上には大きな地図が広げられており、その地図上には砦を中心に、その近辺の地形が書き記されていた。隊員等がテーブルを囲うと、レオティフルはその細く綺麗な指先で地図を指し示しながら、説明を始める。

 現在、一派が立て籠もっている砦の南側で、第1騎士団の一隊と第37騎士隊が包囲陣を敷いているとの事だ。しかし砦は谷の入り口に置かれており、両脇に山がそびえているため、北側には包囲の部隊を送り込むことが出来ていないという。

 だが、送り込んだ少数の偵察からの報告では、北側でも大きな動きは起きていないとの事であった。

 

「北側は完全に包囲が敷かれていないのですか?それなのに彼等は籠城の継続を?」

「ええ――私もそこが疑問なんですの。本来であれば、籠城などせずに早々に逃げ出しても、おかしくないような状況なのですわ」

 

 鷹幅の怪訝な表情を浮かべての疑問の言葉に、レオティフルも同様に怪訝な表情を作って答える。

 

「彼等から何か要求などは?」

 

 鷹幅のさらなる質問に、しかしレオティフルは要求の類も一切無い事を告げた。

 

「……これは、まるで何かを待っているようですね」

 

 そこへ鳳藤が発する。

 

「やはり、あなた様もそう思いまして?」

 

 鳳藤の言葉を聞き、レオティフルはどこか嬉しそうに発した。

 

「姫様」

「とと……少々不謹慎でしたわね」

 

 そこで背後に控えていた侍女のセレナに釘を刺され、レオティフルは自身の態度を少し反省する。

 

「彼等には何か応援の当てがあるという事でしょうか?」

「可能性は十分にありますわ。魔王の力を恐れ、加担しようとする者達は、今やどの地にも少なからずおりますもの」

 

 レオティフルはため息混じりに発してから、続ける。

 籠城が始まって五日。できればこちらの十分な戦力が整ってから、行動に移りたかったとレオティフルは話すが、籠城者たちに何らかの応援が訪れる可能性がある事。そして砦に囚われている人質達の事を考えれば、これ以上の猶予は無かった。

 明朝には第1騎士団による砦の解放作戦が予定されており、レオティフルは小隊にもそれに協力して欲しいとの旨を告げた。

 鷹幅はそれを承諾したが、本日はもう日が落ちるため、町の外で野営を行う許可を貰い、小隊は明日の明け方に砦の包囲部隊と合流する事となった。

 

 

 

 五森の公国領の最北端、隣国の雪星瞬く公国との国境線に面するその地には、小さな砦が存在していた。その砦は、隣国とを結ぶ主要道を管理する、関所のような役割を担っていたが、今現在はその機能を成していなかった。

 数日前に、この五森の公国の現在の体制に反発し、魔王の軍勢に加担する事を企てていた一派が、この砦に砦に逃げ込んだ。そして事前に協力者として抱き込んでいた、砦の守備隊の一部と共に砦を占拠。居合わせた行商や旅人、守備隊の内の反乱に加担しなかった者達を人質として、現在砦に立て籠もっていた。

 そして現在はその砦を遠巻きに、この五森の公国の近衛部隊である〝五森第1騎士団〟の一隊と、近隣の木漏れ日の町の駐留兵力である第37騎士隊の一隊が、包囲を敷いて対峙している状況にあった。

 その敷かれた方位陣地の一角で、険しい顔を作っている一人の女の姿があった。

 歳は16歳ほどで、顔立ちにはまだあどけなさが残る。特徴的な真紅の長い髪をポニーテールに結び、適度に装飾の施された鎧に身を包んでいる。そして同様に特徴的なその真紅の瞳で、遠見鏡、この世界における簡易な構造のフィールドスコープを覗き、その視線の先の砦を睨んでいた。

 

「ミルニシア隊長……砦の連中、動きを見せませんね」

 

 その彼女の脇に控えていた女騎士が、難しい顔で呟く。

 

「ふん。どうせ立て籠もったはいいが、それ以上何もできなくて手をこまねいているのだろう」

 

 脇で呟いた女騎士に、ミルニシアと呼ばれた騎士は、軽蔑の眼差しを砦へと向けながら答える。

 

「隊長、団長が指揮所まで来て欲しいとのことです」

 

 そこへ別の騎士が訪れ、ミルニシアに告げる。

 

「分かった、ここを頼んだぞ」

 

 

 

 包囲陣の後方には、騎士団の指揮所が設けられていた。ミルニシアはその指揮所である天幕の入り口を潜る。

 

「ミルニシア、参りました」

「おう、来たか」

 

 参じた旨の言葉を上げたミルニシアに、天幕の奥に居た中年の男が返す。彼こそ近衛部隊である第1騎士団の団長であり、現在のこの現場の責任者であった。

 ミルニシアが天井から下がるランタンに照らされた天幕内を見回すと、他にも第1騎士団の各隊長や参謀、そして第37騎士隊の隊長や主要人員が揃っているようであった。

 

「主要な人間は揃ったようだな」

「一体どうされたのです、ハルエー団長?砦に動きはまったく見られませんが……」

 

 特に事態に変化があったわけでもないのに、集っている主要な面子に、ミルニシアは団長ハルエーに疑問の言葉を発する。

 

「あぁ、今回は少し違う話なんだ――先日、伝令で昇林の町が山賊の襲撃にあった件は知っているな?」

 

 唐突にそんな言葉を発したハルエーに、その場に集った面々は顔を見合わせる。

 

「はい、私達からさらに一部部隊を割いて、救援に駆け付けるという案も出ていましたから」

 

 そしてハルエーの言葉に、代表してミルニシアが返す。

 

「だが、昇林の町に謎の一団が現れ、山賊から町を救ってくれたんだよな」

 

 そこへ一人の男がミルニシアの言葉に付け加える。男は、木漏れ日の町駐留部隊である第37騎士隊の隊長で、名をザクセンと言った。

 ザクセンの言葉に、ミルニシアはあからさまに不快そうな表情を浮かべる。守るべき領民の危機に自分達が駆け付けられずに、よそ者の手により解決が成された事は、騎士である彼女にとって、あまり愉快と言える話では無かった。同じくこの場に集う第1騎士団の人間の中には、同様に複雑な顔をしている者の姿が多く見受けられた。

 

「その一団なんだが、先日、物資の調達のために木漏れ日の町を訪れたそうだ」

「……それが何か、物資の調達など、行商や旅人であれば誰でもする事です」

 

 ミルニシアは不快そうな表情のまま、ハルエーに返す。

 

「肝心なのはここからだ。姫様が、その一団と接触し、今回の事態解決のための応援を、その彼等に持ち掛けたそうだ」

「な!?」

 

 ハルエーのその言葉に、ミルニシアは驚愕し、目を剥いた。そして彼女の他にも、多くの人間がハルエーの言葉を聞いて騒めき出す。

 

「そして、その一団はどうにも姫様の要請を受け入れたらしい。一部隊を引き連れ、現在は木漏れ日の町まで来ているそうだ。明朝にはこちらへ合流するらしい」

 

 ハルエーの次の言葉に、面々の騒めきはさらに加速する。

 

「馬鹿な!姫様は一体何を考えておられるのだ!?今回の事態がそもそも恥ずべき事なのに、どこの者とも知れぬ奴等に、事態解決の強力を求めるなど……!」

 

 そしてミルニシアは狼狽える面々を代表するように、荒々しく言葉を発した。そしてその言葉が堰を切り、第1騎士団の面々からは「よそ者など信用できるか!」「姫様は我々を信用しておられないのか……?」などと言った言葉が口々に発せられる。

 

「第1騎士団の皆さん、少し落ち着け」

 

 そんな彼等へ、ザクセンが促す声を上げた。

 

「俺達の今の戦力は十分とは言えない。各町の部隊からの戦力抽出も、時間がかかっているようだしな。姫様は不安要素の多い現状を、そして俺達を心配されたのだろう」

 

 ザクセンは第1騎士団の面々を落ち着かせるべくそう発したが、しかしそれでも第1騎士団の人間達の動揺は、収まる様子は無かった。

 

「だからと言って、よりにもよって得体の知れぬよそ者などに……」

 

 ミルニシアはハルエーを鋭い眼差しで見つめ、訴えだす。

 

「団長、私は反対です!どこの者とも分からない、得体の知れぬ一団に今回の事態に介入させるなど、我々第1騎士団の恥です!」

「私とて、納得したわけではない。しかし……これは姫様の御意向でもある……」

「姫様はハルスレン様の出兵によるご不在で、不安になっておられるのです……!私達の力で事態を解決して見せれば、姫様のご不安を取り除き、よそ者への協力など不適切であるという事を分かっていただけるはずです!」

 

 ミルニシアの訴えに、ハルエーは少しの間考えた後に口を開く。

 

「……分かった。明朝、我々第1騎士団で、砦解放のための攻撃を実施しよう」

 

 ハルエーのその決定に、今度はザクセンが目を見開く。

 

「おいおい団長さん。あんたまでそんな事を……!」

「どちらにせよ、明朝には我々で攻撃を行う事になっていた。予定道理事を進めるだけだ」

「しかしな……」

「あなた方第37騎士隊は、予定道理後方の守りをお願いする。その一団にも、あなた方と共に後方の守備に付いてもらおう」

 

 ハルエーのその言葉に、第1騎士団の面々からは賛同の声が上がる。

 

「各隊は、明日に向けての準備を整え、休眠を取るように。――解散だ」

 

 

 

「やれやれ……」

 

 第37騎士隊隊長ザクセンは、ため息交じりの言葉を零しながら、包囲陣の内、自身の隊が担当している箇所へと戻る。

 

「ザクセン隊長」

 

 そこへ声と共に、彼の元へ二人の少年少女が駆け寄って来る。

 16~18歳程と思しき二人の少年少女は、どちらも本格的な甲冑に身を包んだザクセンと違い、簡易的な作りの軽装に身を包んでいる。

 この第37騎士隊という部隊は、対魔王戦線出兵により減少した五森の公国領内の戦力を補うために、臨時に編成された部隊であった。そしてそういった経緯から、名こそ騎士隊を冠しているが実際に騎士階級であるのは隊長であるザクセン以下数名の指揮官クラスの人間のみであり、その他の大半は木漏れ日の町他、近隣の町村から志願して集った、町民や村民で構成されていた。

 ザクセンが第1騎士団の面々よりも寛容な思想をしていたのは、そんな部下達との身分を越えた触れ合いが、長かったからかもしれない。

 

「第1騎士団の人ら、なんか息巻いてましたけど、何かあったんですか?」

 

 駆け寄って来た二人の内、隊兵である少年がザクセンに向けて尋ねる。

 

「あぁ、お前達も山賊に襲われた昇林の町を、不思議な一団が救ったという話は聞いてるよな?」

 

 ザクセンの言葉に二人は頷く。その二人にザクセンは続けて、その一団が木漏れ日の町を訪れ、姫が一段との接触を図った事。一団が姫の要請を聞き入れ、事態解決の応援のために、さらなる部隊を引き連れて再び木漏れ日の町まで来ている事などを伝えた。

 

「へー、すげー」

「じゃあ、応援が駆け付けてくれた事で、第1騎士団の人達も士気が上がってるって事ですか?」

 

 今度は隊の書記を務めている少女がザクセンに尋ねて来た。しかし彼女の言葉に、ザクセンは小さく首を振る。

 

「残念だが、逆だ。第1騎士団の皆々様方は、どうにも今回の件に得体の知れないよそ者が関わる事を良しとしていないらしい。そして、その一団の力を借りずに、彼等だけで事態を解決せんと、躍起になっているのさ」

「そんな……だって昇林の町を守ってくれた人達なんでしょう?」

 

 隊兵の少年が不可解そうに発する。

 

「そうなんだが……だが連中は、姫様の御側で使えて来た近衛部隊だ。その姫様がよそ様を引き入れた事は、姫様が彼等を信用していないという事なんじゃないかと勘繰って、不安になっているのさ」

 

 ザクセンの言葉に、二人は複雑そうな顔を作る。二人は、いやザクセンを含めた三人にも、第1騎士団の面々の気持ちも分からないでは無かった。

 

「ただでさえ、ハルスレン王子にご一緒できなくて、不満と不安の溜まっている連中だからな……」

 

 そしてザクセンは発する。

 五森の公国からは、王子に率いられた多くの騎士団が対魔王戦線へ赴いていた。

 しかし近衛部隊であり王と姫、そして王室を守る事が役目である第1騎士団はそれに同行する事が認められなかったのだ。その不満が溜まっている所へ、今回のよそ者の介入という、姫が第1騎士団の力を疑っていると思わせるような案件は、彼等のプライドと忠誠心を大きく揺さぶったのだろう。

 

「向こうさんは、予定道理明朝に砦への攻撃を行うそうだ。俺達も、予定道理その後方を守ることになっている。その一団さんも、俺達と一緒に後方の守備を行ってもらう予定だ」

「大丈夫なんですか……?」

 

 ザクセンの説明に、書記の少女が心配そうに発する。

 

「躍起になっているとはいえ、連中は国の最精鋭だ。心配は無いと思うが……万一に備えて、俺達も万全の態勢で当たろう。二人とも各隊に伝えてくれ、準備を整えて休眠を取るようにとな――」


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