―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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3-5:「突入展開」

「なかなかの抵抗を見せてくれたもんだ。流石、近衛の第1騎士団といった所か?」

 

 砦の最上階にある一室。

 その中で、正体不明の軍勢の指揮官ラグスは、歩き回りながら皮肉気な言葉を発している。彼の視線の先には、椅子に座らされて拘束された、第1騎士団団長ハルエーの姿があった。ハルエーは他の隊同様、分断包囲されながらも抵抗を続けていたのだが、ミルニシア同様に人質を盾にされ、あえなく投降。虜囚の身となっていた。

 

「貴様ら……〝雲翔の王国〟の兵だな?紋章を消して身分を隠したつもりだろうが、その鎧には見覚えがあるぞ!」

 

 拘束されているハルエーは、鋭い目つきでラグスを睨み、彼等の正体を見抜いて言い放つ。

 

「ご名答、さすが騎士団長殿」

 

 しかしラグスは取り繕うともせずに、それを肯定してみせた。

 

「なぜ貴様らが雪星瞬く公国の領土から……一体、雲翔の王国は何をしようとしている!?」

「いずれ分かる。それと勘違いしてくれるな。我々は、雲翔の王国の命で動いているわけではない。紋章も、あのような腰抜け国家の物を付けて置く趣味は無いのでな」

「貴様らも、国を裏切った輩ということか……!」

「聞こえの悪い事を言ってくれるな。我々は、正しい選択をしたまでだ」

 

 軽蔑の目を向けるハルエーに、ラグスは平然とした態度で返す。

 

「ハルエー騎士団長、よく考えろ。世界は変わりつつあるのだ」

 

 さらに部屋の壁際に控えていた、五森の公国の官僚の男が発する。

 

「……魔王か……!」

 

 ハルエーは彼等の後ろ盾となる存在を再確認し、魔王の名を零す。ハルエーのその言葉を区切りに、その場が一度沈黙する。

 

「ふざけるな!何が正しい選択だ!」

 

 沈黙を破ったのは、甲高い叫び声だった。声の主は、ハルエーの隣で、同様に椅子に拘束されているミルニシアだ。拘束されていながら、今の彼女はそのまま相対している者達に、噛みつかんばかりの様相を醸し出していた。

 

「貴様らはただ、臆病風に吹かれただけではないか!それを正しい選択だと?笑わせるな!」

 

 そしてミルニシアはグエス達に向けて叫び、吐き捨てる。

 

「はは、威勢のいいお姫様だ。だが、威勢だけでは何もできんぞ?拘束された無力なお姫様」

「くぅ……!」

 

 ラグスの煽る言葉に、ミルニシアはギリと奥歯を噛み締めた。

 ラグスはそんな彼女を一笑すると、再び口を開く。

 

「先程から聞こえていた奇妙な音も治まったようだな。どうにも話を聞くに、君等は奇妙な一団を招き入れていたようだが、それも無意味だったようだ」

 

 つい先程まで、この一室内にも外での戦闘の音が聞こえ及んでいた。その際に聞こえて来た奇妙な音には、ラグス達も訝しんだものの、その音もすぐに収まり、ラグスは打って出た部隊が包囲陣を制圧したのであろうことを、半ば確信していた。

 そしてハルエーやミルニシアも、包囲陣の第37騎士隊と、奇怪な一団が破れたのであろう事を察し、項垂れ、悔し気な声を零す。

 

「ら、ラグス指揮官!」

 

 その時、一室の扉が開かれ、伝令の兵が駆けこんで来た。

 その場にいた誰もが、それが包囲陣制圧の報であると疑わなかった。

 

「敵陣に打って出た、第2、第3百人隊が壊滅しましたッ!」

 

 しかし、次の瞬間伝令兵の口から飛び出したのは、誰もが思っても見なかった言葉であった。

 

「――何?」

 

 ラグスはその内容を最初、理解できずに、思わず呆けた声で聴き返す。

 

「敵は謎の強力な魔法攻撃を使用し、それにより各百人隊はほぼ壊滅!今は、わずかな生き残りのみが砦へ逃げ帰って来ている状況にあります!」

 

 伝令のその報告を聞いたラグスは、少しの間固まっていた。数秒が経過し、我を取り戻すと、扉から一室を飛び出し、近くにあった階段を駆け上がり、砦の屋上へと駆け出た。

 砦の屋上からは、周辺が一望できる。

 砦の南側の、城壁の向こう側へ視線を向けたラグスの目に映ったのは、砦から包囲陣の間に散らばる、無数の第2、第3百人隊の兵達の亡骸。

 そして砦の南門から逃げ込んでくる、わずかな生き残りの兵達の姿だった。

 

「な……何だこれは……!何が起こったんだッ!?」

 

 ラグスは、自身の後を付いて来ていた伝令の兵に、叫ぶように尋ねる。

 

「さ、先に報告した通り、敵の魔法攻撃によるもののようなのです。奇妙な破裂音がして、光の線が襲い来る旅に、兵が倒れていったのです……!」

 

 伝令の兵は、ラグスに対して捲し立てるように説明する。

 呆然とするラグスの眼下では、逃げ帰って来た兵達が、慌てて南門を閉じようとする姿が見える。

 しかしその直後、奇妙な唸り声のような物が響き、そして閉じられかけていた南門が、外側からの衝撃を受けて再びねじ開けられた。そして城門を潜ってラグス達の視界に姿を現したのは、馬も無く動く、異質な大きな荷馬車と小さな荷車であった。

 

 

 

 およそ1分ほど前。

 包囲陣の前に、二輛の73式大型トラックがエンジンを吹かし、待機している。各トラックの荷台には、それぞれ小隊の第1分隊と第2分隊、そして支援班の一部が搭乗し、これより慣行される〝突入〟作戦に備えていた。

 小隊は砦を解放し、人質と第1騎士団を救出するために、砦への突入作戦を行う事になった。突入部隊は第1分隊と第2分隊、小隊支援班の一部で編成され、第3分隊は後衛として、及び迫撃砲分隊の守備のために陣地に残る。

 

「各員聞け、もう一度確認するぞ」

 

 大型トラックの助手席に座る鷹幅は、無線を取り、各員へ状況の再説明を行う。

 突入小隊は、まず砦の南門を破って砦の内部敷地へ侵入。その場で大型トラック二両を盾に展開し、内部に陣取る敵勢力に対応、これを排除。同時に城壁上へ部隊を上げ、高所の支援位置を確保する。

 内部敷地の安全と城壁の確保が完了次第、内砦内部へ侵入し、無力化を行う算段となっていた。

 

「内部には未だ抵抗を行っている第1騎士団の残存兵力がいる可能性がある。良く見極め、発砲には十分注意しろ」

《ジャンカー1、了解!》

《ジャンカー2、了解》

 

 鷹幅の指示の声に、各分隊の隊長から返事が返って来る。

 

「よし――突入」

 

 そして鷹幅は突入の合図を送る。

 合図と共に、2両の大型トラックはエンジンをより唸らせ、前進を開始した。

 縦隊を組み、一定まで速度を上げた2両のトラックは、すぐに砦の城門との距離を詰める。

 

「鷹幅二曹、城門が閉じかけてます」

 

 運転席でハンドルを握る舞魑魅が声を上げる。

 彼の言葉通り、砦の城門は逃げ込んだ兵達によって、内側から閉じられようとしていた。

 

「構わん、そのまま突っ込め」

「は」

 

 しかし、鷹幅はそのまま突入するよう指示を出した、舞魑魅はそれに応え、アクセルペダルをより強く踏み込む。

 大型トラックは速度を上げ、城門との距離を詰め、そして城門に接触。

 バンパーで閉じられかけていた城門扉を強引にねじ開け、扉と、それを閉じようとしていた兵達を弾き飛ばしながら、その巨体を城壁内部へと突入させた。

 先陣を切って突入した、鷹幅等の乗る一両目の大型トラックは、舞魑魅のハンドル操作により車体の横面を敵兵達のいる方向へ向けて停車。続いて突入して来た二両目の大型トラックも、それに習い車体の横面を敵に向けるように旋回して、停車する。

 

「わぁぁ!な、なんだ!?」

「ば、馬車が勝手に突っ込んで来たぞ!?」

 

 突入して来た二両の大型トラックを前に、砦内部の敷地にいた兵達に、驚きと動揺が走る。彼等は困惑しながらも、侵入者に対応すべく、布陣を整えようとする。

 しかし鷹幅等の乗る大型トラックの荷台に搭載されていた、一門の12.7㎜重機関銃が、そんな彼等に対して牙を剥いた。

 重機関銃の射手の隊員が押し鉄に力を込めた瞬間、銃口から12.7㎜弾が吐き出され、布陣の途中で会った重装歩兵達を弾き飛ばしてゆく。

 さらに二両のトラックの荷台搭乗している各隊員が、それぞれの装備で周辺に点在していた兵に向けて攻撃を開始。

 遊兵となっていた彼等はまともな応戦も叶わずに、各個に撃破され、その場に崩れ落ちて行った。

 

《鷹幅二曹!敵正面戦力の無力化、完了しました!》

《ジャンカー2、周辺残存兵力の無力化を完了!》

 

 鷹幅の元に、無線越しに第1、第2各分隊長からの報告が上がって来る。

 

「了解。50口径の要員を残し、各隊は降車展開せよ」

 

 報告を聞いた鷹幅は各隊へ次の指示を送ると、自身も助手席のドアを開いて、大型トラックから降車。降車と共に大型トラックのキャビンに身を隠し、周辺を確認する。

 周囲に組織的な反抗、攻撃を仕掛けて来る敵の姿は無い。そして降車した両分隊が、トラックを盾に展開を完了したことを確認する。

 

「よし――ジャンカー2、城壁上に上がり高所を確保せよ」

《了》

 

 鷹幅の指示を受け2分隊の各員は、城門内側の両脇に設けられた階段へ向かい、それを用いて城壁上を確保するべく駆けあがってゆく。

 

「ジャンカー1及び両車輛へ、まずは砦の内部敷地を無力化するぞ。二手に分かれ、トラックを盾にしながら両側から北門を目指す。いいな?」

《ジャンカー1了解!》

《デリック1、了》

《デリック2》

 

 鷹幅の指示に、1分隊分隊長と両大型トラックから了解の返事が返って来る。

 

「よし、かかるぞ」

 

 鷹幅の言葉を受け、1分隊と二輛の大型トラックは二手に分かれ、砦の内部敷地の索敵、制圧を開始した。

 

 

 

 地上の1分隊と車輛隊が制圧行動を開始したその頃、2分隊は城門脇に設けられた階段を登り切り、城壁上に到達していた。

 

「クリア」

「こちらもクリア」

 

 小銃を構え、城壁上へ踏み込んだ各隊員から、報告の声が上がる。

 事前に行われた城壁上に対する攻撃のおかげで、その場に抵抗する敵勢力の姿は無く、あるのは倒れる無数の亡骸のみであった。

 

「よぉし、俺等も二手に分かれるぞ。城壁上を伝ってクリアリングしながら、同時に下の1分隊を援護する」

 

 周囲の安全を確認し、2分隊の指揮を任されている波原(なみばら)という名の快活そうな三曹が発する。それに応じて、各員は行動を開始する。

 

「………」

 

 そんな中で一人だけ、行動に移らない隊員の姿があった。

 2分隊には本部支援班の隊員も一部同行しており、彼はその一人だ。職種は武器科職に属し、名を版婆(はんば)と言う三曹だ。

 彼は、城壁上に連なって横たわるいくつもの死体に視線を落とし、その顔を顰めている。

 

「版婆さん?行きますよ?」

 

 そんな版婆に、この場の指揮官である波原から声が掛かる。

 

「……あぁ」

 

 掛けられた声に版婆は浮かない声色で答え、すでに行動を開始していた波原や他の隊員を追いかけた。

 2分隊は地上の1分隊と車輛隊に合わせて分隊を二手に分け、城壁上を南門を起点に両翼へと押し上げる作戦を取る。

 内、波原が率いる一組は西側を伝う城壁を担当。波原、版婆含む四名からなる組は、眼下を進む1分隊の片割れを援護しながら、城壁上を進みつつあった。

 

「波原三曹。前方から来ます、分隊規模」

 

 城壁を半ばまで進んだところで、先頭をゆく隊員が声を上げた。波原が彼の視線を追えば、城壁上の先から7~8名程の軽装兵がこちらへ向かってくる姿が見えた。

 

「敵か?」

 

 波原始め隊員等には、遠目には五森の公国の第1騎士団の団員と、敵方の兵との見分けがつかず、その判別には慎重さを求められた。

 

「この国の騎士団とは、鎧の色合いが違います。武器を構えてこちらに向かってきてますし、おそらく敵でしょう」

 

 波原の問いかけの言葉に、組の先陣を担当していた隊員が答える。

 

「OK――版婆さん、MINIMIを」

「了解………」

 

 波原の声に、版婆はあまり気の進まなそうな声で答えると、近くに置いてあった木箱に身を隠し、そこに自身の担当装備であるMINIMI軽機を置き構えた。

 武器科隊員である版婆は本来は正面戦闘要員ではない。しかし今現在、普通科隊員の数は十分とはいえず、それを補うために版婆は普通科隊員に代わり、分隊支援火器射手の役割を担っていた。

 

「まだ引き付けてくださいよ――今だ!」

 

 波原が合図を下すと共に、版婆はMINIMI軽機の引き金を引く。そして銃口から無数の5.56㎜弾が吐き出され、こちらへ迫っていた軽装兵達へと牙を剥いた。

 彼等へと襲い掛かった5.56㎜弾の群れは、まず先頭を駆けていた軽装兵達を薙ぎ倒した。続いて隊列の中程に位置していた兵達をその牙に掛け、内二名程が倒れる勢いで城壁上から落下。

 

「ッ………」

 

 版婆は夢中で引き金を引き続ける。

 射線は隊列の殿を務めていた兵達へと向き、MINIMI軽機の成す銃火は彼等を食らい、攫った。

 

「よし、版婆さん!もういい、射撃やめだ!」

 

 迫っていた分隊規模の敵兵等はMINIMI軽機による掃射により全て無力化された。それを確認した波原は、夢中で引き金を引き続けている版婆の方を強く叩き、射撃停止の命令を送る。

 

「――畜生が!」

 

 射撃停止命令を受け、引き金から指を話した版婆は、それと同時に悪態を吐き捨てた。

 

「――城壁上、アクティブな敵影ありません」

 

 組の先頭を担当していた隊員が、報告の声を上げる。彼の言葉通り、城壁上にそれ以上の動く人影は無かった。

 

「よし、前進再開だ!」

 

 波原の言葉で、組は城壁上の前進を再開。倒した敵兵達の傍を通り抜け、さらに押し上げにかかる。

 しかし版婆だけは、横たわる兵達の所で足を止め、視線を降ろした。

 

「……夢に出るぜ」

 

 険しい表情で一言呟くと、版婆は波原等の後を追った。

 

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