―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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3-15:「追撃戦Ⅰ」

「一体なんだありゃ!?」

「妙な馬車が二台、馬も無しに走って追って来ます……!」

 

 集団の先頭を行くリーダー格の男や、その周辺の野盗達も、後方から追って来た異質な存在に困惑していた。

 

《繰り返します!こちらは日本国陸隊です!ただちにその場で停止し、こちらの指示に従いなさい!》

 

 そんな野盗達の耳に、再び異質な音声での警告音が届く。

 

「……その場で止まれだぁ?何をふざけた事言ってやがる」

「近くの町の自警団かなんかですかね……?」

 

 リーダー格の男達は聞こえ来た警告音声に、訝しみながら言葉を交わす。

 

「へ、どうせそんなトコだろうな。たかだか馬車二台っきりで仕掛けてくるとは、よほど必死なのか、それともただのトンマか――かまわねぇ、やっちまえ!」

「「「へい!」」」

 

 野盗のリーダー格の男は、呟いた後に配下の野盗達へ指示の声を張り上げる。そして荷馬車を除いた野盗達の集団は左右に割れ、奇妙な追跡者へと攻撃を仕掛けに行った。

 

 

 

「案の定、聞く耳はもたずか」

 

 走行する旧型小型トラックの車上で、先の様子を眺めていた制刻が呟く。

 荒道の町の自警団に代わって救護、救出行動に赴くべく、町を発った燃料調査隊の車輛隊。取り残されているという負傷者達の元には、大型トラック1両と隊員数名が差し向けられ、そして女子供をさらって行ったという野盗達の追跡には、通信指揮車と小型トラックで向かう事となった。

 そして二両からなる追跡隊は荒道の町からしばらく南下した所で、野盗の一団と思しき騎馬集団を発見。

 野盗の集団に追いついた追跡隊は、拡声器を用いて二度に渡る警告、停止指示を送ったが、野盗の集団が停止指示に従う事は無く、挙句彼等は集団を二つに割り、こちらへと仕掛けて来た。

 

《やはり警告ではダメか》

 

 無線越しに、指揮通信車に乗車している長沼の、ため息混じりの呟きが聞こえ届く。

 

「長沼二曹、彼等は集団を二つに割りました」

 

 そんな長沼の声に対して、小型トラックの助手席に着く河義が、報告の言葉を送る。

 

「こちらへ攻撃を仕掛けてくる様子で――」

 

 続けて言葉を送ろうとした河義だが、それは次の瞬間に小型トラック周辺に降り注いだ、矢の雨により遮られた。

 

「ッ――訂正します。こちらは弓矢による攻撃を受けました」

《あぁ、こちらも同様だ――仕方がない、彼等には実力を持って対応する。ジャンカー4、そちらから照明弾を上げてくれ》

「了解――竹泉」

 

 長沼からの指示を受けた河義は、小型トラックの荷台へと振り向き、後席に座り待機していた竹泉へと声を掛ける。

 

「照明弾でござんしょう、準備は遠に」

 

 すでに自身の装備である84㎜無反動砲に、照明弾の装填を終えていた竹泉は、肩に担いだ無反動砲を一瞥しながら、皮肉気な言葉で返答を返す。

 

「よし、奴らの真上に上げてくれ」

「了ぉ解」

 

 河義の指示を受け、竹泉は車上で84㎜無反動砲を、夜闇広がる上空に向けて構える。そして一拍置いた後に、そのトリガーを引いた。

 小型トラックの後方にバックブラストが広がり、同時に砲口から照明弾が撃ち出される。照明弾は散会して間もない野盗達の頭上へと飛び、そして炸裂。夜闇に、異様なまでの強烈な光を発する光源が発生した。

 

「照明弾完了」

「よし、竹泉はMINIMIに着け」

「へーへー、了解」

 

 照明弾の撃ち上げを終え、報告の声を発した竹泉に、河義は次なる指示を送る。指示を受け、竹泉は84㎜無反動砲を荷台床へと降ろし、小型トラックの銃架に据え付けられたMINIMI軽機のグリップを握る。

 

「制刻、奴らの動きは?」

「照明弾に驚いてるようですが――あぁ、来たな」

 

 河義の問いかけに、野盗の集団の様子を観察していた制刻は、呟くように答える。

 野盗の集団は突然上空に上がった強烈な光源に、少なからず動揺した様子だったが、間もなく態勢を立て直すと、馬速を落として徐々にこちらとの距離を詰めて来た。馬上には剣を抜く野盗達の姿が見える。小型トラックへと接近して包囲し、攻撃を仕掛ける腹積もりなのだろう。

 

「竹泉、射撃開始!他、各員も各個に撃て!」

 

 しかしそんな野盗達に向けて無慈悲な攻撃が開始される。

 河義が指示の声を張り上げると同時に、竹泉がMINIMI軽機の引き金を引き、走行中の小型トラック上で、MINIMI軽機が唸り声を上げた。

 撃ち出された多数の5.56㎜弾は、小型トラックとの距離を詰めだしていた野盗達を強襲。複数の野盗達が、5.56㎜弾をその身に受け、殴り飛ばされるように落馬し、地面に叩き付けられた。

 初撃を逃れた野盗達は突然のその事態に目を剥いたが、直後にはその彼等にも同様の事態が襲った。

 制刻を始めとする各員の各個射撃だ。

 各員の火器から撃ち出された5.56㎜弾が、野盗達を次々と襲い、貫く。

 

「ッ――」

 

 操縦席でハンドルを握る策頼は、主を失った馬達を、巧みなハンドル捌きで回避してゆく。

 銃弾を受け、落馬した野盗の内の一部は、小型トラックの進路上へと倒れ込んで来た。不運な彼等は、バンパーに跳ね飛ばされたり、あるいはタイヤに引き潰される末路を辿る。

 

「ヅッ!糞!」

「ウワォッ!」

 

 野盗達の体を跳ね飛ばし乗り越える衝撃や振動が、車上の各員を襲う。そして竹泉や多気投等が悪態や驚きの声を上げる。

 野盗達を撃ち、馬達をかき分け、小型トラックは間もなく襲い掛かって来た野盗達の群れを抜けきった。

 

「捌ききったか」

 

 車上の制刻は、小型トラックの後方に散らばる野盗達の死体と、さ迷う馬達の姿を見て呟く。

 

「指揮車の方は!?」

 

 河義は少し離れた位置を並走していた、指揮通信車の方へと視線を向ける。伸びる轍を挟んだ向こう側には、健在である指揮通信車の姿があった。

 こちらと同様に襲い来た野盗達を排除し切ったのだろう。指揮通信車の後方や周辺にも、指揮通信車搭載の12.7㎜重機関銃や、MINIMI軽機の餌食となった野盗達の死体が散らばっていた。

 

《ジャンカー4、こちらハシント。こちらは襲撃者を全て撃退した》

 

 そこへ指揮通信車の長沼から、無線通信が来る。

 

「ハシントへ、こちらもクリアです」

 

 河義はその通信に返す。

 

《了解。これより荷馬車の列を強制停止させ、連れ去られた人達を確保する。ハシントが列の前に出る、そちらは列の後ろを抑えてくれ》

「了解です」

 

 通信を終えると同時に、指揮通信車が荷馬車の列の進路を遮り停止させるべく、速度を上げる様子が見える。

 

「よし、策頼。俺達は荷馬車の列の後ろに回るぞ」

「了」

 

 河義の指示を受け、策頼はハンドルを回してアクセルを踏み込む。小型トラックは速度を上げ、荷馬車の列の後方を抑えに向かう。

 

 

 

「な、なんだ……!?どうなってやがる!?」

 

 野盗のリーダー格の男は狼狽していた。それも無理はない。けし掛けさせた合計20近い配下が、謎の相手からの正体不明の攻撃により、ほとんど一瞬の内に全滅したのだから。

 

「向かって行った奴等が、あっという間に……」

「なんだよアレ……!」

 

 動揺は、リーダー格の男の周囲にいた野盗達にも広まっていた。

 

「り、リーダー!どうしやす!?」

 

 そして野盗の内の一人が、リーダー格の男に縋るような声で発する。

 

「どうもこうも……あんなの相手にできるかよ!逃げるぞ、速度を上げろ!」

 

 リーダー格の男は叫び、そして手綱を操り跨る馬の速度を上げようとする。

 しかし、彼等の進路を遮るように、緑色の巨大で異質な物体が滑り込んで来たのはその瞬間であった。

 

「う、うわッ!」

 

 戸惑いの声を上げるリーダー格の男。

 そして彼の跨る馬は、突然進路を遮られた事により、主である男の意思に反してその場で急停止。それに伴い、後続の馬や荷馬車も次々に停止した。

 

「く、糞――ぎゃッ!?」

 

 現れた正体不明の物体を前に、リーダー格の男は慌てて自身の剣を抜こうとする。しかし次の瞬間、彼は悲鳴と共にもんどり打ち、馬上から落馬。そして地面に倒れて動かなくなった。

 

 

 

「排除」

 

 停車した指揮通信車のすぐ側で、野砲科職の隊員、威末陸士長が言葉を発する。彼は中腰の姿勢で小銃を構え、その小銃からはうっすらと煙が上がっている。野盗のリーダー格の男を仕留めたのは彼であった。

 指揮通信車の側には、彼を含む四名の隊員が指揮通信車から降車して展開していた。

 そして指揮通信車の前部に備え付けられたMINIMI軽機と、各員の構える小銃からは、威末の物と同様に煙が上がっている。

 彼等の視線の先には、それぞれの火器から放たれた5.56㎜弾を受け、落馬し死体となった野盗達の姿があった。

 

「――よし、列の両側から回るぞ」

 

 先頭付近にいた野盗達の無力化を確認した威末は、周辺に展開していた各員に指示を送る。そして威末を筆頭とした各員は、荷馬車の列を安全化するべく行動に移った。


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