―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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チャプター5:「怒れるタイタン」
5-1:「巨大な気配」


 月詠湖の国、月流州。スティルエイト・フォートスティート。

 フォートスティート内を流れる川に沿って、ジープベースの旧型73式小型トラックが走っている。

 運転席には策頼が座ってハンドルを握り、後席には制刻と、そして案内役を買って出たディコシアの姿があった。

 制刻等はディコシアの案内で、旧型小型トラックにて周辺の地形環境の掌握作業を行っていた。そしてその掌握作業は午前中の内に6割程度が終わり、今現在は一度宿営地への帰路についている所であった。

 小型トラックの後席では、ディコシアに細かい部分の確認を取りながら、制刻が調べた周辺の情報を地図に記載している。

 

「こんなトコか。にしても、悪かったな。突然押しかけた挙句、連れまわしちまってよ」

 

 記載を一通り終えた所で、制刻はディコシアに向けて発する。

 

「いや、こっちとしてもいい機会だったよ。フォートスティート内は広くて、普段は中々管理の目が行き届かなくてね。――にしても、まさか午前中だけで敷地の半分以上を回れるなんて……君達の馬車は凄いね」

 

 ディコシアは自身の乗る小型トラックを見下ろしながら発する。

 

「現段階では、有限の凄さだがな」

 

 しかし自動車の強みに燃料という制約が付き纏っている事を知る制刻は、どこかディコシアの言葉にどこか皮肉気な言葉で返した。

 

「所で、聞いていいか?言っちゃアレだが、この辺は大分辺鄙な場所に見える。あんた等は、なんだってこんなトコに好き好んで住んでんだ?」

「あぁ、確かに疑問に思うよな……そうだな、そこから話そうか……」

 

 制刻の質問に、ディコシアは少し悩んだ様子を見せた後に、話始めた。

 

「ここの所有主――つまりウチの親父なんだけど、親父は昔は世界中を歩き回ってた身なんだ」

「冒険者か?」

 

 ディコシアの言葉に、制刻がそう返す。

 

「そんな立派なモンには見えなかったけどな……」

 

 皮肉気に呟いてから、続きを放すディコシア。

 まず、ディコシア等兄妹の母親は、彼等が幼い内に早死にした事が語られた。

 そのためディコシア達が幼い内は、彼等の父親――下の名はバルズークというらしい――もその養育のために側にいたとの事だ。

 しかし兄妹がある程度の年まで成長し、この月詠湖の国の中央にある全寮制の学園に入学する事となると、バルズークは兄妹の身を学園に丸投げし、長期間の旅に出るようになったそうだ。

 ディコシアは「我が親父ながら呆れ返るよ」と自嘲気味に笑って見せた。

 そして幾度も長期間の旅に出て、碌に帰って来なかったバルズークだったが、そんな彼が突然変化を見せたのが、およそ一年程前との事だ。

 それまでで一番長い旅に出ていたバルズークは、ある時突然帰国したかと思うと、長年放置していた所有領であるこのスティルエイト・フォートスティートに籠り、一人暮らし始めたというのだ。

 

「なんでまた?」

 

 語られたその展開に、ハンドルを握る策頼が疑問の言葉を挟む。

 

「分からない。何か抱え込んでるのは明らかなんだけど……」

 

 バルズークは、ディコシア達が問いただしても何も話そうとはしなかったそうだ。どころか、ただでさえ少なかった口数は輪をかけて極端に少なくなって、年々体は衰える一方だったという。それを見かねて、まずは学園卒業後も中央に住んでいたディコシアが、中央を引き払い同居を。次いで、学園を卒業したティもこちらに来て、二人して父親の面倒を見始めたとの事だった。

 

「は、とてつもなく迷惑な親父だな」

 

 そこまで聞いた制刻は、端的にそんな感想を発して見せた。

 

「自由さん、人の親御さんですよ」

 

 それに対して、策頼が少し強めの咎める言葉を送る。

 

「いや、俺も正直そう思うよ。でも……それでもやっぱり大切な身内だ、放っておく訳にはいかないんだ」

「あぁ。親父ってヤツは、いつだって勝手で、そんで放っとけねぇ厄介なモンだ」

 

 ディコシアの言葉に、制刻は自身も、どこか覚えがあるような口調で呟いた。

 

 

 

 一方その頃。

 スティルエイト・フォートスティートの東側。原油の採掘施設がある荒地を越えて、さらにいった所には、一帯が森となっている地帯があった。

 

「あぁ、糞!歩き辛いったらねぇや!」

 

 人の手のほとんど入っていないその森の中を、鉈を振りながら進む竹泉の姿があった。

 

「ねー、何もこんな奥まで来なくても……」

 

 その後ろを、続いて歩く銀髪の少女、ティの姿があった。

 

「森の入り口に生えてたヤツじゃあ、駄目なのかぁ?」

 

 さらに最後尾を、狭い森の中で苦労しながらその巨体を進める、多気投の姿がある。

 竹泉と多気投は、ティの案内の元、採掘施設の修繕作業に使用できそうな、木材となりうる木の目星を付けに、森へと踏み入っていたのだ。

 

「入り口に生えてる細い木じゃあ、加工した後の強度が知れてる。施設科のヤツ等は、もっと頑丈な木を御所望なんだよ」

 

 多気投の疑問の言葉に、竹泉は鬱陶しそうにしながら説明して見せる。

 

「あんまり辺に進むと迷うよ?あたしも前に迷って、出るのに苦労したんだから」

「んなこたぁ、言われるまでもねぇんだよ。だからこうして極力真っ直ぐ進んで、目記に木に傷を刻んでんだろが」

 

 ティの発した忠告の言葉に、竹泉は苛立った様子で返す。

 

「むぎー!何よお前!そんな噛みついた言い方しなくてもいいじゃん!」

 

 そんな竹泉の言葉に、あからさまに腹を立てるティ。比較的この森の事情に詳しい彼女は、実は半分興味本位で案内を引き受けたのだが、その事を早くも後悔していた。

 

「気にすんなよ姉ちゃん。竹しゃんは、言葉に皮肉や嫌味を混ぜ込んでねぇと、呼吸が止まっちまう人間なのさ」

 

 そんなティを宥め、フォローするように、多気投は竹泉をおちょくる言葉を発する。

 

「はぁ」

 

 とティ。

 

「言ってろ」

 

 そして多気投の発言に竹泉は吐き捨てるように返し、鉈で邪魔な草木を切りつつ先行する。

 

「――あ?」

 

 その次の脚を拭き出した時、竹泉は何かに気付いた。

 

「おぅ?」

「どしたの?」

 

 動きを止めた竹泉に、多気投とティが訝しむ声を上げる。しかし竹泉は答えない。

 

「ヘイ、竹しゃん。どうし――」

 

 そして多気投は竹泉に問いかけようとする。しかし次の瞬間、今度は二人も〝それ〟を感じ取った。

 それは、ズゥゥン――という鈍い振動だ。

 

「ワッツ?」

「え?な、何?」

 

 それを感じ取った多気投とティは、疑問の言葉を上げる。

 

「黙れ!動くな――」

 

 しかし竹泉が制止を掛けた。それにより、周囲に静けさが訪れる。

 そしてその静けさを破るように、再び振動と音が聞こえ来る。

 ズゥゥン――ズゥゥゥン――と、その音と振動は次第に大きくなり、間隔も狭くなる。

 それはあからさまな〝何か〟が近づいている証明であった。

 

「おぉい――やばいんじゃねぇかぁ?」

 

 多気投は肩から下げていたMINIMI軽機を構えて、周辺を見渡し始める。

 さらには振動音に加えて、ミシミシという木が倒されているであろう音まで聞こえて来た。

 

「おい、こいつぁ何の音だ!?」

「わ、分かんないよぉ!」

 

 竹泉はティに問いただすが、ティにもその音の正体は分からないようであった。

 

「チッ!この役立たずガイド!」

「あ、ひでぇ!言わせておけば!」

「ケェンカしてる場合かお二人さぁん!」

 

 こんな状況で口喧嘩を始める二人に、多気投が忠告の声を投げかける。

 そんな三人の耳に、次の瞬間一際大きな振動音が聞こえ届いた。その音源は、彼等のすぐ目と鼻の先まで迫っていた。

 

「!?」

 

 竹泉等が前方へ視線を向けた瞬間、その先にあった木々が左右に割れるように押し倒される光景が見える。

 そして彼等の前に、〝それ〟は現れた――。

 

 

 

 スティルエイト邸の近くに説明された宿営地に、制刻やディコシアの乗った旧型小型トラックが帰投した。小型トラックは宿営地の一角に乗りつけ、停車。

 

「おん?」

 

 制刻はそこで、宿営地内に留められた82式指揮通信車の周りに人だかりができ、そして何やらそこ場がざわついている光景に気付いた。

 

「何かありましたかね?」

「みてぇだな」

 

 策頼が発し、制刻等は小型トラックを降りて指揮通信車の元へと向かう。

 

「――了解だ、応援をそっちに向かわせる。それまで下手に動かないでくれ」

 

 制刻等が指揮通信車の元へ近づくと、その場に居た長沼が、ちょうど指揮通信車備え付けの無線機での、通信を終えた所であった。

 

「長沼二曹、何かあったんで?」

「あぁ、制刻士長戻ったか。それにディコシアさんも」

 

 制刻の姿を見た長沼の顔は、少し険しい物となっていた。

 

「今、木材を調達に行った班から連絡があったんだが……森に入った多気投一士と竹泉二士、そしてティさんとの通信連絡が途切れたらしい」

「んだと?」

 

 長沼の言葉に、制刻も長沼同様に表情を険しくする。

 

「ティが?ティに何かあったのかい!?」

 

 そしてディコシアはその顔に焦燥の色を浮かべて、長沼に尋ねる。

 

「落ち着いてください、ディコシアさん。今現在、ティさんが同行中の私達の隊員との連絡が取れない状態にあるようです。私達の連絡機械の故障という可能性もあります。今からその事実確認のために、部隊を送る所です」

 

 そんなディコシアを長沼は努めて冷静な口調で宥め、落ち着かせる。

 

「長沼二曹、シキツウは準備完了です。出発できます」

 

 そこへ、指揮通信車の車長用ターレットハッチから、車長の矢万が姿を現し、報告の言葉を長沼へと投げかけて来た。

 

「よし、すぐに向かってくれ」

 

 報告を受けた長沼は矢万へ出動の指示を出す。

 

「制刻士長。今、河義三曹は周辺地域の調査に出向いていて、すぐには合流できない。君が先に行って、普通科の指揮を取ってくれ」

 

 そして長沼は制刻に振り返り、指示の言葉を発する。

 

「いいでしょう」

 

 制刻はそれを相変わらずの不躾な口調で引き受ける。

 

「ったく、厄介ごとに事欠かねぇぜ」

 

 そして呟くと、再び小型トラックへと向かった。

 

 

 

 82式指揮通信車と、制刻等の乗る小型トラックは森を目指して走行している。

 

「あの森、なんかやべぇ生き物でもいるのか?」

 

 その小型トラックの車上で、制刻はディコシアに尋ねる。ディコシアは妹のティの事が心配なのであろう、当たり前であるように同行して来て、そして誰もそれを咎める事はしなかった。

 

「いや……あの森はせいぜい小動物の類しかいないはずだ……クソ、ティ……」

 

 しばらく走行を続けた指揮通信車と小型トラックは、やがて進路の先に、平地と森の境目を視認した。

 そこには、木材調達班が乗って行った73式大型トラックが一輛、止められており、数名の隊員が待機していた。

 指揮通信車と小型トラックは、その横へ乗り付けて停車する。

 

「威末、どうなってる?」

 

 停車した指揮通信車のターレットから、半身を乗り出した矢万がその場に居た隊員に尋ねる。尋ねられた隊員は、野砲科所属の隊員である威末士長だ。

 彼は不足している普通科を補うための、増強分隊要員として、燃料調査隊に組み込まれていた。

 

「分かりません。森へ入った普通科の二名とここの女の子なんですが……20分ほど前から、定時連絡に応答しなくなったんです」

 

 尋ねられた威末は、矢万に説明して見せる。

 

「竹泉、応答しろ。竹泉」

 

 それを端で聞いていた制刻は、インターカムを用いて竹泉へ通信を試みる。しかしそれに対する応答は無かった。

 

「インカムの通信可能範囲から出たのか?」

「いや、あいつ等は念のため大型無線を持って森に入ったんだ。少なくとも無線が使える状態なら、誰かが二人の内どちらかが応答するはずだ」

 

 制刻の推測の言葉を、しかし威末は説明と共に否定する。

 

「つまり、何らかの無線が使えねぇ状況に、あるってこったな」

「まずいな……」

 

 制刻が再び推測の言葉を発し、今度はそれを聞いた指揮通信車上の矢万が、苦い表情で呟く。

 

「一刻も早く捜索に向かいたい所だが……しかしこの森には車輛じゃ入れんぞ……」

 

 矢万は眼前に広がる森を睨みながら呟く。森はとてもではないが指揮通信車を始めとする車輛の入れる環境ではなかった。

 

「しゃあねぇ。俺等が、徒歩で森に入る」

「大丈夫か?」

 

 制刻の発案に、矢万が懸念の声を上げる。

 

「どうせ誰かが探しに行かなきゃならねぇ。策頼、携帯放射器を持て」

「了」

 

 制刻の指示を受け、策頼は小型トラックから携帯放射器を持ち出して、その身に装備する。

 

「随時連絡を寄越せよ」

「了解」

 

 矢万の言葉に端的に答え、準備を整えた制刻と策頼は、森へ向かおうとする。

 

「待った、俺も一緒に行かせてくれ。妹が心配だ……」

 

 そこへ、ディコシアが動向を申し出た。

 

「何があるか分からねぇ。安全は、保障できねぇぞ」

 

 そんなディコシアに、制刻は警告の言葉を発する。

 

「ああ、分かってる。これでも、心得はあるつもりだ」

 

 その言葉に、ディコシアは背に背負っていた斧を手に取りながら、答えて見せる。

 

「いいだろう。行くぞ」

 

 ディコシアの願い出を受け入れ、制刻等は森へと踏み入った。

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