―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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5-10:「タイタン、その正体」

 超巨大蜘蛛との決着から、およそ一時間後。

 スティルエイト邸近くの燃料調査隊宿営地。

 無事、森を脱出した制刻等は、森の出入り口で待機していた指揮通信車の矢万等と合流。宿営地へと帰還し、一連の出来事をこの場の責任者である長沼へと報告した。

 

「信じられん……」

 

 長沼は手にしたデジタルカメラの画面に視線を落としながら、思わず声を零す。画面には、最初に川沿いで倒した巨大蜘蛛の亡骸の、写真映像が映し出されていた。

 

「本来なら、合成写真を疑う所だが……」

 

 巨大蜘蛛の亡骸の横には対比の目安にと、勝手にポーズを決めた多気投の姿が共に移っている。

 長沼がボタン操作で画像を次の物へと移すと、今度は崖の上から撮影された、沈んだ超巨大蜘蛛のシルエットが浮かぶ、湖水面の画像が表示された。

 

「信じられねぇのも無理はありませんが、全部ホンモンです」

 

 長沼の呟き零した言葉に、対面していた制刻が端的に答える。

 

「デケェだけじゃなく、とてつもなく固く、そして凶暴でした。湖に沈めた方に関しちゃ、無反動砲の対戦車榴弾でも貫けなかった」

「そんなにか……?」

 

 長沼はデジタルカメラの画面から視線を起こして、驚きの表情で制刻を見ながら発する。

 

「とんでもないのが居たモンだな……」

 

 そして端でそれを聞いていた矢万が、呟き零した。

 

「そのデカい方を沈めて以降、それ以上の遭遇はありませんでしたが、仲間が他にいない保障もありません。それにゴブリンの事もある。しばらくは、森の方に見張りを立てた方がいいでしょう」

「そうだな――要員の抽出して、監視班を編成しよう。重火器も集中させたほうがいい」

 

 制刻の進言を受け入れ、長沼は対応策を口にした。

 

「分隊各員。そして案内をしてくれたディコシアさんとティさんにも、怪我などはなかったと聞いている――こんな脅威に遭遇しながら、よくこれを無力化し、何より無事に帰って来てくれた。よくやってくれた」

「えぇ、どうも。皆にもそう伝えます」

 

 そして長沼の改めての労う言葉に、制刻は淡々と返して見せた。

 

「採掘施設の方はまだ作業が続いているが――制刻士長。君達の分隊は、夕方までは休息を取ってくれて構わない」

「どうも」

 

 長沼の許可の言葉に、制刻は一言返し、その場を後にした。

 

 

 

「――っつーわけだ。俺等は、夕方までフリーの許可をもらった」

 

 宿営地の一角。昨晩と同じ、一つの天幕と、その横に止められた旧型小型トラックの周りで竹泉等がたむろしている。制刻はそんな彼等に向けて、長沼と交わした一連のやり取りの内容を伝えた。

 

「フゥ、やったぜ!」

「あー、そりゃありがてぇ……どうせならそのまま、大型休暇と行きたいトコだがねぇ!」

 

 夕方までの休憩許可の報に、多気投は歓喜の声を上げ、竹泉は皮肉気にそんなさらなる要望の言葉を吐き捨てる。

 

「コーヒーでも沸かすか」

 

 そんな竹泉等を尻目に、策頼は静かに呟くと、小型トラックの荷台から簡易コンロ等の用具一式を取り出し、コーヒーを沸かす準備を始めた。

 

 

 

「でよぉ、結局なんだったんだずぇ?あの化け蜘蛛ちゃんズはよぉ?」

 

 多気投がそんな言葉を発したのは、策頼が沸かして用意したコーヒーが各員に行き渡り、各々がそれを啜り出して少し経った頃だった。

 

「知るかよ」

 

 多気投の疑問の言葉に、竹泉は一言ぶっきらぼうに返す。

 

「ここの兄ちゃん達が言うには、蜘蛛もゴブリンもこれまで見た事はなかったと言っていた。どちらもイレギュラーな存在のようだが――」

「民族大移動でもして来たのかねぇ?だとしたら迷惑この上ねぇなぁ!」

 

 策頼がコップを揺らしながら零した呟きに、それに対して竹泉が今度は皮肉交じりの冗談を飛ばす。

 

「この摩訶不思議世界について、見聞の広い人間に、尋ねてみるのがいいかもな」

 

 そこへ制刻がそんな発案を言葉にした。

 

「ここの親父さんですか?」

 

 制刻の言う人物に察しを付け、策頼はこの地の所有主――ディコシア達の父、バルズークを上げる。

 

「あぁ。兄ちゃん等の親父は、冒険者みてぇな事をやってたと言ってたからな。それに、兄ちゃん達よりも長くここに住んでるようだ。何か情報が得られるかもしれねぇ」

「アテになんのかよ、ソレ?」

 

 制刻の発案に、竹泉は訝し気な言葉を寄越す。

 

「俺等だけで、アレコレ模索してても話は進まねぇ。竹泉、一息付いたら、兄ちゃん達のトコへ尋ねに行くぞ」

「あぁ?なんで俺なんだよ?」

 

 制刻の指名を受けた竹泉は、渋い顔を作ってそれに返す。

 

「化け蜘蛛に最初に遭遇して、その後も終始目撃し続けたのはお前だろ。説明には適任だ」

「チッ、面倒臭ェ……」

 

 指名の理由を説明され、竹泉は悪態を吐く。

 

「ハハァ。貧乏クジ続きだなぁ、竹しゃぁん」

「あぁ、絶賛大凶増量中みてぇだな?畜生が」

 

 多気投の揶揄う言葉に愚痴り返しながら、竹泉はコップに残ったコーヒーを飲み干した。

 

 

 

 一休憩終えた後、制刻と竹泉はスティルエイト邸を訪問。

 

「待ってくれ――」

 

 玄関扉を制刻がノックすると、家屋内から返事が聞こえ来る。そして少しの間を置いた後に、ディコシアが扉を開いて姿を現した。

 

「――あぁ、やっぱり君達か」

「悪ぃな、さっきの今で。兄ちゃん達の親父さんに、少し聞きてぇ事があってな」

「分かってる。蜘蛛の事や、森での出来事の事だろう?俺も一応、親父に話しておかなきゃと思ってたんだけど……」

 

 制刻の言葉に答えたディコシアは、家屋内に振り返ると、奥にある隣室に通じているであろう扉へ視線を送る。

 

「生憎と親父は今、作業中でね。邪魔するとうるさい物だから……悪いけど少し待ってくれるかい?」

「あぁ、かまわねぇ」

「入って待っててくれ」

 

 ディコシアに促され、制刻と竹泉は家屋内へ足を踏み入れた。

 

「ねーちゃんはどうした?」

 

 制刻は一室内を見渡し、ディコシアの妹のティの姿が無い事に気付き、尋ねる声を上げる。

 

「あぁ、ティなら二階の自分の部屋だよ。逃げ回った影響で、大分疲れたみたいでね」

「そいつぁご心配な事だねぇ――俺等だって超ダリィんだ。とっとと親父殿から話だけ聞いて、お休みしていたいんだがなぁ?」

 

 ディコシアの説明に、竹泉が皮肉と、次いで文句の言葉を吐いて垂れる。

 

「竹泉、静かにしてろ。壊れたラジオよりうるせぇ」

「あぁ、わーったわーった。カスだぜマジで……」

 

 制刻の釘を刺す言葉に、竹泉は適当な返事を返す。そして呟き零しながら、近くにあった椅子に勝手にドカッと座り込んだ。

 隣室に通じるドアが開かれ、そこからディコシア達の父親であるバルズークが姿を現したのは、その直後であった。

 

「お、親父。終わったのか?」

「なんだ、帰ってたのか」

「少し前にね」

 

 ディコシアと短いやり取りを終えたバルズークは、そこで制刻等の存在に気が付く。

 あまり歓迎的ではない様子を微かにその顔に浮かべたバルズークだったが、彼はすぐに視線を反らすと、その両手に抱えていた木箱を、部屋の端へと置いた。

 

「ティは?」

「部屋で休んでるよ。大分疲れたみたいでね」

「森の案内程度でへばったのか?しょうがないヤツだ」

 

 ディコシアのティに関する説明を受け、バルズークは若干呆れた声で呟く。

 

「いや、それなんだけどな……ちょっと特殊な事情があって……」

 

 ディコシアはそこでチラと制刻へと視線を送る。それを合図に、制刻はディコシアの話を引き継いで、バルズークに向けて話し出した。

 

「親父さん、いいか?ちょいとあんたに聞きてぇ事がある」

「あぁん?今度はなんだ?地下油の次は、何の探し物だ?」

 

 制刻の言葉に、バルズークは鬱陶し気な様子を隠そうともせずに発し、一室内にある大きな窯の前の椅子に腰を降ろす。

 

「俺等は、森ん中で皺共――ゴブリンの群れと、そして何より冗談みてぇにデケェ蜘蛛のバケモンに襲われた。それについて、何か知らねぇか?」

 

 しかし発せられた制刻の言葉に、バルズークはその顔を怪訝な物とする。

 

「ゴブリンに、蜘蛛の化け物だぁ?何をおかしな事を……ここの森には、小動物くらいしかいなかったはずだぞ?」

 

 そして懐疑的な声で言って見せるバルズーク。

 

「所がな、どっこい居たんだこれが。竹泉、カメラ寄越せ」

「ホレ」

 

 竹泉はデジタルカメラを取り出すと、投げて寄越した。制刻はそれを片手で受け止めると、電源を起こしてボタンを操作。件の巨大蜘蛛の移った画像を画面に表示させると、デジタルカメラをやや強引にバルズークの前へと差し出した。

 

「これを見てくれ」

「あ?なんだ?」

 

 おもむろに目の前に突き出されたデジタルカメラに、やや困惑の言葉を零すバルズーク。

 

「……なんだこりゃ?」

 

 しかし次の瞬間、画面に映し出された画像に気付き、バルズークの表情は驚きのそれに変わった。

 

「こいつは、絵か……?」

 

 デジタルカメラの画面には、川沿いで撮影された巨大蜘蛛の亡骸と、対比として並んだ多気投、そして背景からなる画像が映し出されている。

 バルズークはその画像を、表情を顰めてまじまじと眺めている。

 

「あー、それは彼等の使う道具らしいんだ。それを通して見た物や風景を、寸分違わず絵にして記録する――って物らしいんだけど……」

 

 困惑するバルズークに助け舟を出すように、ディコシアがデジタルカメラに関する説明を、自分なりの言葉で説明してみせた。

 

「でだ。俺の言った蜘蛛のバケモンってのは、その画面の大半を占めてる黒いヤツ。その横でアホにポーズキメてんのが、ウチのヤツだ。分かるか?比べてそいつがどんだけデケェのか」

 

 制刻は画面上に映った巨大蜘蛛と多気投を見比べさせながら、バルズークに説明する。

 

「本物の光景なのか……?」

「トリック無しのホンモンだ。内の一人とおたくのねーちゃんが、突然遭遇したこの化け蜘蛛に追いかけ回された」

 

 零されたバルズークの言葉に制刻は返しながら、デジタルカメラを操作して、別の画像を表示させる。そして映し出されたのは、湖の水面に浮かび現れる、沈んだ超巨大蜘蛛のシルエットの画像だ。

 

「その後に、親だか知らねぇが、三倍近いデカさのヤツが現れて、ドンパチになった。湖に沈めて始末したから、画像じゃチト分かりずれぇかもしんねぇが」

「……さっきのをもう一度見せてくれ」

 

 バルズークの要求を受け、制刻は先程の川沿いの巨大蜘蛛の画像を再び表示して見せる。

 

「……これは」

「他にもあるぞ」

 

 何かに察しを付けたバルズークに、制刻はさらに情報を提示するべく、カメラを操作して別角度から撮影された巨大蜘蛛の画像を表示して見せる。

 

「……間違いない、こいつはダイチグモだ」

 

 そして複数の画像に目を通した後に、バルズークは確信したように言葉を零した。

 

「知ってるのか、親父?」

 

 父親の口から正体不明であった巨大蜘蛛の名らしき物が発せられ、ディコシアは若干の驚き混じりの言葉を発する。

 

「ジグモやツチグモじゃなくて大地と来たか。ご大層なモンだな?」

 

 そして竹泉から皮肉の声が飛んでくる。

 

「正体を知ってるなら、教えてくんねぇか?」

 

 竹泉の皮肉は聞き流して、制刻はバルズークに要求する。

 

「いいだろう――」

 

 それに応え、バルズークは説明を始める。

 ダイチグモ――その名の通り蜘蛛の仲間であるらしい。

 一般的な蜘蛛と比べて規格外の体の大きさを持つが、基本的な生態は一般的な地中生活型の蜘蛛と変わらないという。

 性格は温厚。他の生き物が少ない場所で、親蜘蛛が自らを骨格として地中に巣を作り、数匹の幼体を育成。幼体はそのほとんどを地中で過ごし、同じく地中で生きる小中型の虫、獣類を食して糧を得る。

 稀に外へ出るケースもあるが、そのほとんどが夜中。人目に付く事はほとんどないとの事だった。

 

「成程。コイツなら、棲んでても気が付かねぇはずだ」

 

 説明の後に、バルズークは再びカメラの画像に視線を落とし、納得したように発する。

 

「つまり、元々ここの森に棲んでたって事なのか……?」

 

 一方、父親の説明を聞いたディコシアは、驚きの含まれた声で発する。

 

「あぁ。こいつらが巣の外にでるのは夜中、それも極稀。たまの巣の周りの偵察行動か、幼体が巣立つ時くらいだ。昼間に森の浅い部分にしか入らないお前等が、今まで存在を知らなかったのも無理はない」

 

 それに対してバルズークは肯定し、そして説明を加える。

 

「親蜘蛛が巣の根幹になるってことは、この沈めたデカブツは親じゃねぇって事か?」

 

 そこへ制刻が尋ねる声を挟む。それに対してもバルズークは説明を返す。

 湖の底へ沈んだ個体は、恐らく父蜘蛛だろうとの事であった。ダイチグモ達は正確には、最も体の大きい母蜘蛛が地中でその体をそのまま巣にするそうだ。そしてその段階で母蜘蛛は完全に動けなくなり、それを番となった父蜘蛛と、子蜘蛛の中でも早く成長した個体が守るとの事であった。

 

「大自然の中の家族愛ってか?こっちゃ涙じゃなく血を流すトコだったがよぉ。――所で親父さんよぉ?どーにも聞いた説明と、俺等のした体験とで噛み違う部分があるみてぇなんだがぁ?」

 

 バルズークの説明が一区切りした所で、竹泉が皮肉気な言葉を上げる。そして竹泉は続けて、疑問の言葉をバルズークへと投げかけた。

 

「あぁ、生態については分かったが、疑問点があるな」

 

 その言葉を制刻が引き継ぐ。

 

「親父さんよ。さっきも言ったが、そこのヤツとおたくのねーちゃんは、真昼間に化け蜘蛛と遭遇した。んで、遭遇する成り襲われかけて、しつこく追いかけ回されたらしい」

「どこが温厚で、夜行性なんですかねぇ?」

 

 制刻の状況説明に、竹泉が皮肉な言葉を付け加える。

 

「そいつは妙だ……昼間に出くわしただけなら、偶然という可能性もあるが……」

 

 バルズークは零す。

ダイチグモはその体こそ巨大だが、本来攻撃的な生き物ではないという。こちらから手を出さない限りは攻撃などはして来なく、そしてたとえ手を出したとしても、その場を追い払うだけで、しつこく追って来る事などはないはずだという。

 

「じゃぁその知識を書き換えるんだなぁ。ヤツは向こうから突然ぶっ飛んで来たかと思やぁ、そのまま追いかけ回して来やがって、マラソン大会の始まりだったっての!」

 

 バルズークのした説明に対して、竹泉は額に青筋を浮かべて訴え上げた。

 

「ヤツの態度はスルーしてくれ。とにかく、俺等から難癖付けた訳じゃねぇが、化け蜘蛛はえらい剣幕で襲って来た」

 

 制刻は竹泉の失礼な態度を流してくれるよう促し、そして説明する。

 

「皺共――ゴブリンが何かしらしでかしたとも考えたが、それも何か決定打にゃ欠けそうだ」

「あぁ、そういやダイチグモだけでなく、ゴブリンが現れたとも言っていたな?」

 

 制刻の発したゴブリンというワードを聞き留め、バルズークが尋ねる言葉を発する。それに対しては、ディコシアが答える言葉を発した。

 

「あ、あぁ。俺達は、ティ達を探す途中で、ゴブリンの群れに遭遇したんだ。それに、そのゴブリン達も何か妙だった……」

 

 ディコシアは、ゴブリン達が聞き及んでいた以上の獰猛姓を見せ、彼等の被害を顧みずに、執拗に自分達に襲い掛かって来た事を説明した。

 

「化け蜘蛛然り、皺共然り、どうにもイレギュラーな事が色々起こってるようだ。あんたに、何か心当たりはねぇか?」

 

 ディコシアの説明に続けて発し、そして尋ねる制刻。

 それに対して、バルズークは視線を落として、何か考える姿勢を見せる。

 

「――魔王軍の影響かもしれん……」

 

 そして少しの間を置いた後に、バルズークは呟き零した。

 

「え、魔王軍……?」

 

 父親の口から聞こえ来た言葉に、ディコシアは思わず困惑の声を零す。

 

「今、この世界が躍起になって対応してる、摩訶不思議軍団だな?そいつが、関係してると?」

 

 そして制刻が尋ねる。

 

「あぁ……ここから先は、俺の憶測に過ぎないが――」

 

 バルズークが言うには、魔王軍の筆頭である〝魔王〟。そしてその傘下の魔人や魔物、魔獣達の中には、広域に影響を及ぼす程の強大な〝魔力〟を宿している者達が存在しているという。

 その強大な魔力を持つ魔王軍の軍勢は、日に日に別大陸を手中に収め、今制刻等が身を置くこの〝地翼の大陸〟にも近づきつつある。魔物達や生き物達は、その近づく強大な魔力を感じ取り、それに中てられ凶暴化しているのではないかというのが、バルズークの話であった。

 

「そんな……魔王軍との戦いは、まだ隣の大陸で押し留められてると聞いてるのに……それなのにこの大陸まで影響が……?」

 

 ディコシアは、計り知れない魔王軍の力の強大さのその一片を、漠然とながらも感じ取ったのだろう。恐ろし気な様子で言葉を零す。

 

「あぁー?ファンタジー過ぎる上にフワッフワし過ぎでピンと来ねーよ」

 

 一方竹泉は、魔法、魔力といった物に対する嫌悪感も先立ってか、ダルそうな口調でそんな言葉を吐いてのける。

 

「でぇ?一応まとめっと――まず森に元々いた化け蜘蛛共がラリって凶暴化。そこに同じくラリって活発化した皺共が流れて来た。そんな所へ、俺等がお邪魔しちまったってトコかぁ?いらねぇ偶然が重なったモンだな」

 

 そして竹泉は、事の一連の起こりを推測し、言葉にして見せた。

 

「しかし親父、その蜘蛛についてよくそんなに詳しく知ってたな?正直俺は、報告のついでに何か聞ければ程度に持ってたんだけど」

 

 そこでディコシアは、自身の父親へと視線を向けながら、意外そうな様子で発する。

 

「……昔、ちょっと知り合いから聞きかじっただけだ」

 

 しかし息子の言葉に対して、バルズークは漠然と答えるだけだった。

 

「それとさっきも言ったが、その蜘蛛やゴブリンの凶暴化については、俺の憶測に過ぎねぇからな――聞いた限りの事に、俺から答えられるのはこんくらいだ。さぁ、用が済んだらとっとと出てってくれ」

 

 そしてバルズークは念を押す言葉を告げると、制刻等に向けてぶっきらぼうに促し、掛けていた椅子から腰を上げた。

 

「お、親父……!彼等が居てくれなければ、俺やティは危なかった。それどころか、この家や領地も危険に晒されたかもしれなかったんだ!そんな言い方……」

 

 そんな姿勢を見せたバルズークに、ディコシアは説明し訴えたが、バルズークは答えずに隣室へと姿を消した。

 

「……すまない」

「いや、構わねぇ。俺等も、自分の身を守るために、皺共や蜘蛛を蹴散らしたに過ぎねぇ。それに、人様の家にうるせぇのを連れてきちまったからな」

 

 ディコシアの謝罪の言葉に、制刻はそう返す。

 

「おい、誰がうるせぇのだ誰が」

 

 そこへ竹泉が文句の声を挟んだが、制刻はそれを無視した。

 

「話も聞けたし、お暇するとしよう。森は、俺等の方で見張りを立てる事になってる。あんた等は、いつも通り生活してくれ。それと、何か不具合があったら声を掛けてくれ」

「すまない、ありがとう……」

 

 制刻の言葉に、ディコシアは再び申し訳なさそうに言葉を返す。

 

「竹泉、行くぞ」

「やっとかよ」

 

 制刻の促す声に、竹泉はやれやれといった様子で発しながら、腰かけていた椅子から立ち上がる。

 そうして二人は、スティルエイト邸を後にした。


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