―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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6-6:「タイタン・ネスト」

 同時刻。

 月読湖の国、月流州。スティルエイト・フォートスティート内。

 スティルエイト邸の側に設けられた陸隊燃料調査隊の宿営地の一角に、調査隊が持ち込んだ給水トレーラーが停められている。そしてその周辺に竹泉を始めとする普通科分隊各員が集い、歯磨き、洗顔などの朝の仕度に勤しみながら、会話を交わしていた。

 

「くっそダリィ……いつまで宿営天幕と寝袋で眠らなきゃならねぇんだよ」

 

 竹泉が倦怠感を露わにしながら、愚痴の言葉を零す。

 

「到着した増援部隊が長期宿営用機材を持ってきたそうだ。それが展開されるまでの辛抱だな」

「やってられねぇ」

 

 策頼が発した説明の言葉を片手間に聞きながら、竹泉は手にしていたコップに注がれた水を口に含み、口を漱いで地面に水を吐き捨てる。

 そして起こした視線をそのまま宿営地の端へと向ける。

 目に映ったのは、エンジン音唸らせて宿営地近くへと乗り込んでくる、車輛の群れであった。

 昨日早朝に拠点陣地改め〝五森分屯地〟を発した増援と人員と車輛群は、ほぼ丸々24時間を掛けた末に、つい先程このスティルエイト・フォートスティートへと到着。

 ジープベースの旧型73式小型トラックを筆頭に、複数輛の物資、機材資材を満載した73式大型トラック。1トン半救急車に3トン半燃料タンク車。そして89式装甲戦闘車や施設作業車、トラック・クレーン等の長距離の自走に向かない車輛を搭載した、73式特大型セミトレーラが数輛。

 これ等多数の車輛からなる隊列が、列を成して続々と乗り込んでくる光景が、竹泉等の目に映っていた。

 

「………」

「はへ~……」

 

 一方、スティルエイト邸の玄関先では、ディコシアのティの強大が、呆気に取られた様子で車輛群を見つめていた。

 

「またすんごいのが一杯来たね~……」

「もう何見ても驚かんぞ……」

 

 そしてティが最早どこか他人事のような様子で零し、ディコシアはため息混じりに呟いた。

 

 

 

 各所に車輛誘導のために立った隊員の誘導により、到着した各車輛は敷地内のスペースに並び停車してゆく。

 その中の一輛。89式装甲戦闘車を搭載した73式特大型セミトレーラの助手席が開かれ、そこから降り立つ装甲戦闘車車長の、穏原三曹の姿があった。

 穏原は周囲を見渡し、車輛群が並び駐車するスペースの一角から、長沼がこちらへ歩み寄って来る姿を見止める。そして穏原自身もそちらへ向けて足を進め、二人は相対。互いに敬礼を交わした。

 

「燃料調査隊増加部隊、到着いたしました。ただいまより燃料調査隊に合流、指揮をそちらへ委譲します」

 

 穏原は、増加部隊の中での最先任者であり、移動間の増加部隊の指揮を命じられていた。そして無事目的地に到着した今、この場の最高階位者である長沼に、その指揮権を委譲したのであった。

 

「了解、受け取った。――よく来てくれた、移動の間に異常は無かったようだな」

 

 指揮権を受け取った長沼は、穏原等を歓迎する言葉を告げ、そして各車輛を見渡しながら発した。

 

「えぇ。長い行程でしたが、問題はありませんでした。――こちらの状況は、どうなってますか?」

 

 穏原から返された質問に、長沼は少し困ったような表情を作る。

 

「あぁ……こっちは色々あったよ。どこから説明した物か……」

 

 一度俯き考える様子を見せた長沼は、しかし「いや――」と呟き言葉を再開する。

 

「昼夜を越える移送行程で、皆疲労しているだろう、まずは休息を取ってくれ。それから、詳しく説明しよう」

 

 そして長沼は穏原に向けて、そう促した。

 

 

 

 それから時間を置いた後に、部隊を合流の上で再編成を完了。そして部隊の内の一部をピックアップして割き、昨日の森へと踏み入った。

 目的は引き続き、採掘施設の修繕のために必要な木材の、伐採確保。そして何より、昨日遭遇交戦した巨大蜘蛛がこれ以上存在しないかを調べ、森の中及び近辺の安全を確認する事にあった。

 編成された部隊は対戦車火器や爆薬類を通常よりも多めに装備し、89式装甲戦闘車も護衛として随伴した。部隊は時に迂回路を通り、時に施設作業車を用いて木や岩などの障害を除去して森を切り開いて進み、やがて制刻等が昨日超巨大蜘蛛と交戦した地点――そそり立つ崖の麓、湖の岸辺へと辿り着いた。

 到着した部隊の内の施設科隊員等の手により、さっそく湖際に生える巨木の伐採作業が開始され、今は切り倒された上である程度切り揃えられた巨木が、クレーン替わりとなった施設作業車のショベルアームにより、大型トラックの荷台に乗せられる光景がその場にあった。

 

「ふぅ――一仕事終わりだな」

 

 無事巨木の大型トラックへの積載を終え、施設作業車の車長である永戸(えいど)三曹は、キューポラから半身を這い出しながら呟く。

 

「……おっと」

 

 一息着いた永戸の体の前に、一匹の昆虫が舞い込んで来たのは、その時だった。蝶のようであったその昆虫は、そのまま施設作業車のキューポラの縁へと止まる。

 

「ん?」

 

 その蝶のような昆虫の姿に視線を降ろした永戸は、そこである違和感に気付く。そして蝶のような昆虫を指さし、1、2――となにかを数え出す永戸。

 

「――翅が六枚ある」

 

 そして永戸は、若干の驚きの含まれた言葉を零した。彼の言葉通り、その蝶のような昆虫は三対、六枚の羽根を有していたのだ。

 

「それって珍しいんですか?」

 

 隣接する施設作業車操縦席のハッチから顔を出す、操縦手の軍座(ぐんざ)陸士長が、永戸の上げた言葉に疑問の声を返す。

 

「珍しいと言うか――確か現在の地球上に存在する昆虫は全て四枚羽で、六枚羽の種は存在しないはずだ。――少なくとも、俺達のいた地球ではな」

 

 そんな軍座の言葉に、説明の言葉を返す永戸。

 直後、キューポラの縁に止まっていたその蝶のような昆虫は、飛び立ち上空へと舞い上がってゆく。永戸はその姿を視線で追いながら、改めて自分達が元の地球と異なる世界へ来てしまったのだと言う事を、感じ取っていた。

 

 

 

 一方、施設作業車から少し離れた地点では、制刻と施設科の麻掬三曹が、湖の岸際に立って湖上を見つめていた。

 

「制刻士長。沈めたと聞いた時点で予想はついていたが――やはりこれを引き上げるのは無理だな」

 

 麻掬は横に立つ制刻に言い、そして湖水面に視線を戻す。

 昨日は超巨大蜘蛛が沈み、沈殿していた泥が舞い上がって酷く混濁していた湖であったが、一晩経過した今はその泥も再び沈殿して澄み渡り、その底に沈んだ超巨大蜘蛛のシルエットが、昨日よりも増してはっきりと浮かび上がっていた。

 

「車輛で引っ張り上げるにしても、水底の蜘蛛にワイヤー類を結ぶだけでも潜水機材が必要だ」

 

 湖上に浮かぶシルエットを眺めながら、説明して見せる麻掬。多数の後方支援機材と共にこの世界へ転移して来た部隊であったが、生憎とその中に水中で活動を行うための潜水器具、機材等は含まれていなかった。

 

「そうですか。引き上げられりゃ、売却して活動資金の足しにするなりなんなりで、有効活用できるかと思ったんですが――」

 

 同様に湖上のシルエットを眺めながら、呟く制刻。

 

「まぁ、しゃぁねぇでしょう」

 

 しかし直後には、端的に割り切る言葉を発した。

 

「君達が川沿いで仕留めた個体――あっちなら、車輛で回収できるだろう。こちらの作業が終わったら、取り掛かるよ」

「えぇ、お願いします」

 

 そして麻掬のその言葉に、制刻は同様に端的に返した。

 

《どこか応答願う。こちらケンタウロス2ヘッド、威末士長》

 

 それぞれのインカムに通信が飛び込んで来たのは、制刻と朝掬が会話を終えた直後であった。通信は、各職種隊員混成の増強分隊を率いる、野砲科の威末士長からであった。彼の率いる一組は、現在地である湖よりもさらに東側を、巨大蜘蛛やゴブリン等の残敵が残っていないか、捜索活動を行っている最中のはずであった。

 

「エンブリー、穏原三曹だ。何かあったか?」

 

 増強分隊の威末からの通信を取ったのは、制刻等から少し離れた背後。湖の岸辺で警戒についていた89式装甲戦闘車の車上に身を置く、車長の穏原三曹だ。

 

《湖から東に行った所で、妙な物を発見しました。例の巨大蜘蛛の類似個体と思われる物が複数――》

「なんだと?おい、大丈夫なのか?」

 

 威末からのその報告の言葉に、穏原の声に焦りの色が混じる。

 

《あぁ、すみません。言葉が足りませんでした。何が妙って――発見したそれ等は、全て死骸なんです》

「死骸?」

 

 しかし続けて聞こえ来た言葉に、穏原は今度は不可解そうな声を零した。

 

《えぇ、こちらの近辺に見える限りで3体ほど。発見して間もないので、詳しい事は分かりません。少し周辺を調べてみます》

「……了解。念のためそちらに応援を送る。くれぐれも気を付けてくれ」

《分かりました、一度切ります》

「――4分隊、集まってくれ!」

 

 通信を終えた穏原は、装甲戦闘車の車上から周辺に向けて声を張り上げる。そして穏原は車長用キューポラから這い出し、車体の上から地面へと飛び降りた。

 同じタイミングで、周辺で警戒監視に付いていた竹泉や策頼等4分隊の隊員が、呼びかけに応じて装甲戦闘車の元へと集まる。

 

「皆、今の通信は聞いたな?今の所切迫した状況では無いようだが……念のため君等に、応援に向かってもらいたい」

「やぁれやれ、また面倒事かよ」

 

 穏原の発した指示の言葉に、竹泉が開口一番に倦怠感を隠そうともしない愚痴の言葉を発する。

 

「制刻、組の指揮を頼むぞ」

 

 穏原はそんな竹泉の愚痴の声は相手取らずに、制刻に向けて応援に向かわせる組の、指揮を委ねる言葉を発する。

 

「了ぉ解です。おし、向こうがどういう状況なのか、見にいこうぜ」

 

 それに対して制刻は了承の言葉で返すと、続けて竹泉等各員に向けて発する。そして4分隊は、増強分隊の元へと応援に向かった。

 

 

 湖を離れた制刻等は、深い森の中を抜けて、増強分隊のいる場所を目指す。そしてしばらく歩みを進めた所で、木々の密集する環境は唐突に終わり、制刻等は開けた一帯へと出た。

 

「――よぉ、あれか?」

 

 一帯へと出た瞬間に、竹泉が声を上げる。

 その場に出た各員の目に真っ先に飛び込んで来たのは、一帯の一角に鎮座する、巨大蜘蛛の姿であった。

 事前に発見された物が死骸であるとの報告は聞いていたが、しかし昨日の一連の出来事もあってか、竹泉は警戒の色を見せて、肩から下げていたその84㎜無反動砲に手を添える。

 

「――あぁ、くたばってるな」

 

 しかし直後に、巨大蜘蛛に観察の目を向けていた制刻が、言葉を発した。

 その巨大蜘蛛は、大きさは昨日最初に遭遇した個体と同程度。

 そしてその胴は完全に地面へと沈み、何よりその大きな足の内のいくつかは、欠落して周辺に転がっており、その個体がすでに息絶えている事は明らかであった。

 

「言った通りだったろ?」

 

 そこへ、巨大蜘蛛へ視線を集中させていた制刻等の元へ、声が掛けられた。

 各員が声の方向へ視線を向ければ、少し先に野砲科の威末の姿が見えた。

 

「来てみなよ」

 

 特徴的な気だるげな表情と声色で、制刻等にそう促して身を翻す威末。

 開けた一帯の真ん中付近は、高さ2~3m程の小高い丘になっており、制刻等は威末の後に付いて丘を頭頂部まで登る。

 そして頭頂部から周囲を見渡し、各員の目に映ったのは、周辺に散会して警戒、及び調査に当たる増強分隊の各隊員の姿。そして何より、先の個体と同様にその身を損壊させて地面に沈んだ、計2体程の巨大蜘蛛の亡骸であった。

 

「ッ……気色悪ぃ光景だな……!」

 

 視認できたあまり気分の良い物とは言えないその光景に、竹泉はその顔を顰める。

 

「俺達も最初に見つけた時は酷くビビったが――見ての通り、観察してみれば全て亡骸だったってわけだ」

「あぁ、それで良かった。こんなんが全部ウジャウジャ動いてたら、やってられねぇっての」

 

 威末の言葉に、竹泉は悪態を捲し立てる。

 

「それにしても、何があったんだろうな――自然死にしては妙に感じる」

 

 周辺を見渡しながら、懐疑的な声を上げる威末。

 

「死骸も気になるが、俺としてはこの辺だけやけにサッパリしてんのが、気になるな」

 

 そこへそんな言葉を挟んだのは制刻だ。

 制刻は、森の中のこの周辺一帯だけが、わずかな若木しか生えておらず、不自然に開けている事。そして自分等が足を着いている、同様に不自然に隆起している丘の存在について、言及して見せた。

 

「あぁ……死骸にばかり目が行ってたが、確かに不自然だな」

 

 制刻の言及で威末もその事に気付き、自分が足を着く丘へ視線を降ろす。

 

「なんぞ埋まってんのかぁ?」

 

 そして竹泉が、訝しむ声を上げながら、足裏で丘の頭頂部をドンと踏み叩く。

 ――異変が起きたのは、その直後であった。

 竹泉が踏み叩いた部分から、地面に亀裂が生まれる。発生した亀裂は、そこを起点に放射状に丘の頭頂部へみるみる広がってゆく。

 

「ッ!?」

「ヘェイ、こいつぁ――」

 

 竹泉始め各員の表情が険しくなり、多気投がその後の展開を予測し、声を零す。

 

「退避しろ!」

 

 瞬間、制刻が発し、そして各員はその場から駆け出し四方へと散会、頭頂部より退避する。

 丘の頭頂部、半径2m程が音を立てて崩落、沈下したのはその直後であった。

 

「ッ――!危なかった……!」

 

 寸での所で、どうにか崩落沈下に巻き込まれ事を逃れた一同。それを代表して威末が冷や汗を一筋流しながら、崩落沈下した頭頂部へ振り向き、言葉を零す。

 

「――竹泉。今は地面にショックを与えろとは、言ってねぇぞ」

 

 制刻は昨日の戦闘での、崖の崩落を思い返しながら、竹泉に向けて発する。

 

「こいつぁオーダーミスだぜ、竹しゃぁんッ!」

 

 そして多気投が両腕を翳し上げながら、困惑混じりの文句の言葉を上げた。

 

「あぁ、悪かったよ!誰も落っこちなかっただけマシだろ、畜生ッ!」

 

 そして竹泉自身も、崩落沈下した部分を目を見開いて振り向きながら、捲し立て吐き捨てた。

 

「この下に空洞でもあるのか?」

 

 そんな制刻等のやり取りを傍らに聞きながら、策頼が推測の声を上げる。

 そして各員は、地面を慎重にそして念入りに踏み叩き、二次的な崩落沈下が起こらない事を確認した後に、崩落沈下により丘の頭頂部にできた開口部を覗き込んだ。

 

「――なんじゃこりゃ?」

 

 そして覗き込んだ各員を代表して、竹泉が声を上げた。

 崩落により出来た開口部の先、丘の地下には広大な空間が広がっていたのだ。

 

「これは――?」

 

 威末が訝しむ声を上げながら、サスペンダーに装着していたライトを手に取り、その空間を照らす。

 そしてその地下空間の全容が露わになる。丘の下は広大なドーム状の空間となっており、さらにその中にはおよそ7~8体程の、巨大蜘蛛の姿があったのだ。

 それぞれの個体は、外にある物と同程度の物から、その半分程の比較的小柄な物まで。そしてその全てが動く様子を見せず、よくよく観察すれば、外の個体と同様、あるいはそれ以上に酷く損傷している個体が、多数見受けられた。

 

「巣か?皆、死んでるように見えるが……」

「オッゲ、気色ワリィ……!」

 

 眼下に見えるその光景に、威末が推測の言葉を零し、そして竹泉が嫌悪感を露わにして発する。

 

「あれは何でしょう?」

 

 そして策頼が、空間の中央を指し示して発する。薄暗い空間の底の中心部には、点在する蜘蛛の亡骸以上に、巨大な何かの塊が鎮座していた。

 

「あれは――化け蜘蛛の胴体だ。それも特大サイズのな」

 

 策頼の言葉に、制刻が回答を発する。

 制刻の言葉通り、その巨大な塊は蜘蛛の胴体だった。その大きさは胴体だけで、周辺に点在する巨大蜘蛛の倍はあるように思われた。

 

「でかいな……しかし、胴だけで足が見えないぞ……?」

「いや、空間の内側を見て見ろ」

 

 威末の呟いた疑問に、しかし制刻は空間の内側側面を示しながら発する。

 

「あー?」

 

 訝しみながら、空間の側壁をライトで照らす竹泉。

 ドーム状の空間の側壁には、一定の間隔で存在する、空間を内側から支えていると思われる、柱のような物が見えた。加えて、側壁の一か所に微かに光が零れ込んでいる洞穴のような物が見える。おそらく、そこが本来の巣の出入り口なのであろう。

 

「柱……?いや、あれがあの巨大な胴体の持つ足か……!」

「――成程、そーいう事か」

 

 威末が、その柱がとても巨大な蜘蛛の足である事を察し、そして竹泉は何か納得するような声を呟いた。

 

「ここの親父が言ってた通りだな。この化け蜘蛛共は、母蜘蛛が自ら巣の骨格になる――この気色悪ぃ空間が、ママの献身で出来上がった奴等のホームってワケだ」

 

 竹泉は昨日、この土地の所有主であるバルズークから聞いた話を思い返し、そして発する。

 

「周辺が不自然に開けて、丘が出来ていたのは、下にこの巨大な母蜘蛛が埋まっていたせいか……」

 

 そして竹泉の言葉を聞きながら、威末も納得の言葉を零した。

 

「その母蜘蛛の体が損壊して落ちて、頭頂部が崩落しやすくなっていたんですね」

 

 続けて策頼が、丘の頭頂部が崩落した原因を推察し、述べる。

 

「しっかしヨォ?その蜘蛛ちゃん達のホームが、どーしてこんなにボッコスカなんだぁ?」

 

 そこへ多気投が、蜘蛛達の巣が亡骸だらけである事に、疑問の言葉を発する。

 その疑問を解決すべく、各員は再び巨大な巣の中をライトで照らし、内部各所を観察する。

 

「――なぁ、見るにこのファミリー、身内同士で殺し合ったんじゃねぇか?」

「だろうな」

 

 観察の末に発せられた竹泉の推測の言葉に、制刻が肯定の言葉を返す。

 巣の底に落下した母蜘蛛の胴体。巣の各所に存在する子蜘蛛と思しき各個体。いずれも酷く損壊しており、中にはその胴の一部を食いちぎられたと思しき損傷を負った個体も見えた。

 

「なんでまた?」

 

 その推測に、威末が訝しむ言葉を呟く。

 

「ここの親父が話してた。この世界を騒がしてる魔王軍とやらの摩訶不思議な力に当てられて、化け物共がラリり始めてる可能性があるとな」

 

 制刻は、バルズークから聞き及んだ魔物の凶暴化についての推察を、話してみせる。

 

「それで凶暴化して、仲間同士で殺し合ったと?」

「これに関しちゃ推測の域を出ねぇそうだが、今んトコ思い当たる原因はそんくらいだな」

 

 威末の尋ねる言葉に、制刻は補填する言葉と共に返した。

 

「何にせよ、ヤベェ化け物の出所が、すでに潰れてる事が明らかになったのは、デケェ収穫だ」

 

 そして制刻は、眼下の空間を見下ろしながら、そう発して見せる。

 

「あぁ、まったくだね……!これが全部元気にウゴウゴ活動してたらと思うとゾッとするッ!記録だけ撮ってとっとと戻ろうぜ!」

 

 そして竹泉が促す言葉を乱暴に吐き捨てた。


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