―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》 作:えぴっくにごつ
森の中の一角に、木々が生え揃わずに開けた空間となった場所があった。
その空間には無数の掘っ立て小屋が立ち並び、各所に得物をその身に備えた男達の姿が見える。ここはこの近辺を活動範囲とする野盗達の根城であった。
そして立ち並ぶ掘っ立て小屋の一つ。その小屋の内部の薄暗い空間に、複数の男達の姿がある。男達からは下卑た笑い声が上がり、一様に〝何か〟に視線を降ろしている。
男達の中心にいたのは、狼のような耳や尻尾を生やし、要所に体毛を生やす人狼の少女。商隊の護衛剣士、チナーチだ。
「い、嫌……もぅ、やだぁ……」
か細い声色で零すチナーチ。
彼女は一糸纏わぬ姿で、野盗の男達にその体を挟まれ、囲われている。野盗に敗れ、囚われた彼女は、昨晩から野盗達の慰み物となっていたのだ。
「なんだぁ、動きが鈍くなってきたなぁ?」
「もっと気張れよ犬っころ、オラッ!」
昨晩から休みなく野盗達を相手にし続け、チナーチの体力は限界に達そうとしていた。そんな彼女の鈍くなった動きをじれったく思ったのか、野盗達は野次を飛ばし、そしてその内の一人がチナーチの尻尾を思い切り引っ張った。
「ひぎぃッ!や、やめてぇ!尻尾痛いぃ!ちゃんと、ちゃんとやりますからぁ……!」
走った痛みに、目に涙を浮かべて懇願するチナーチ。休みなく行われた暴行強姦行為に、彼女の戦意はすでに失われていた。
「へへ、最初は生意気な口利いてたのに、すっかり従順になりやしたね」
チナーチの姿にニヤニヤとした表情を向ける野盗達。そしてその内に一人が振り向きながら発する。その野盗の視線の先、小屋の奥の中心部には、椅子に腰かける一際目立つ大男の姿がある。昨晩チナーチを屈して見せた、野盗達の頭の男であった。
すでに一番初めにチナーチを手にかけ、犯し尽くした頭の大男は、今は配下の野盗達がチナーチを犯す様子を、酒瓶を片手に愉快そうに眺めていた。
「所詮はただの雌犬だったって事だ」
配下の野盗の言葉に、下品な笑みを浮かべながら返す頭の大男。
大男はそこで酒を一舐めしてから立ち上がり、チナーチの顔の前へと立つ。
「ほぉら、コイツのためにもせっせとやりな」
そして言いながら、チナーチの顔の前に、〝何か〟をその腕からぶら下げた。
「へ……ひ、ひぃっ!?」
それが何であるかに気付き、チナーチは悲鳴を上げる。それは同じ商隊の仲間で、チナーチを庇って死んだ護衛剣士、セートの生首であった。
「あぅ、あ……セートぉ……!」
そして仲間の無惨な姿を前に、チナーチは錯乱の声を上げる。
「可哀そうになぁ、お前を庇ったがために死んじまってなぁ?」
そんなチナーチに、追い打ちを掛けるように頭の大男は言葉を続ける。
「コイツが救ってくれた命だもんなぁ?粗末にしないためにも、ちゃんと俺達に尽くしてくれないとなぁ?」
「は、はぃぃ……ちゃんと、ちゃんとやります……!ゴメンねみんな……ゴメンねセート……」
当の下手人である頭の大男からの、なんの道理も通っていない要求の言葉。
しかし最早まともな精神状態ではないチナーチは、その言葉を真に受け、うわごとの様に仲間達への謝罪を述べながら、その体で野盗達への奉仕を再開する。
「ははは、コイツいよいよぶっ壊れてきたなぁ!まぁ、ほとんどのヤツをぶっ続けで相手したからなぁ、無理もねぇや!」
「面白れぇや、ハッハッハ!」
そんなチナーチを取り巻きながら、野盗達は揃って下品な笑い声を上げる。そして下卑た宴は再開されようとした。
「お、お、お頭ぁ!」
しかしその時、小屋の扉が勢いよく開かれ、狼狽した声を共に一人の野盗が飛び込んで来た。
「あぁ、どうしたぁ?」
狼狽の声で自分を呼んだ配下に、頭の男は緩慢そうに返事を返す。
「さ、さっき話した、妙なヤツ等なんですがぁ……!」
「おぉ、ソレかぁ。ようやく片付いたのかぁ?何か妙な音が聞こえて来たがよぉ?」
配下の立て続けの言葉に、頭の大男は思い出したように発する。頭の大男の元には少し前に、森に踏み込んで来た奇妙な一団の報が届けられており、頭の男はそれに対して、応援を差し向ける旨を命じたばかりであった。
「や、奴等とんでもねぇんですッ!妙な魔法で、み、皆吹っ飛んじまったッ!」
しかし報告に来た野盗は頭の大男の質問には答えずに、青ざめた表情で捲し立てて見せた。
「あぁ?」
そんな野盗の言葉に、頭の大男を始め、その場にいた野盗達は皆、要領を得ないといった顔を作る。
「何言ってんだお前?」
そして野盗の内の一人が、報告に来た野盗に向けて口を開いた。
「ほ、本当だ!応援の連中も皆やられちまったんだ!あいつ等本当に……」
そんな仲間達に向けて、報告に来た野盗は必死に訴えようとする。――しかしそんな彼の言葉を遮るように、小屋の外部から爆音が聞こえ来たのはその時であった。
「な、なんだぁ?」
「ひ!来た……!」
聞こえ来たその音に、頭の大男は怪訝な声を発し、そして報告に来た野盗は怯えるように悲鳴を上げる。そして頭の男を始め、数名の野盗達は小屋の外へと駆け出る。
すると今度は爆音に続き、連続的に何かが破裂するような、周辺から響き聞こえて来る。そしてそれに混じり、仲間の物と思しき叫び声や悲鳴が、頭の大男達の耳に聞こえ届いた。
「どうなってやがる……ここまで踏み込まれたってのかぁ?」
聞こえ来るそれ等の音が戦いの――攻撃の物だと察しを付け、若干の困惑の声を上げる頭の大男。彼と共に出て来た野盗達は、男聞きながら困惑し立ち尽くしている。
「来やがったぁ……!あいつ等化け物なんです!に、逃げましょう……!」
そんな中で報告に来た野盗だけは、酷く怯えた様子で訴える。そして彼は、その場からいの一番に逃げ去ろうとする。
「ふざけんじゃねぇッ!」
「ぎゃッ!」
しかし次の瞬間、荒んだ声と悲鳴が同時に上がる。そして報告に来た野盗がその場に崩れ落ちる。見れば野盗の背には大きな切り傷ができ、一方の頭の大男の手中には、今しがた振り下ろされたばかりの大斧が見える。頭の大男が、逃走しようとした野盗を切り殺したのだ。
頭の大男は、自らの支配する根城に踏み込まれた事に、激昂していた。
「おめぇらぁ!何ボケっとしてやがる!吹き込んでいた奴等をぶっ殺せェッ!」
そして頭の大男は、付近で立ち尽くしていた配下の野盗達に怒声を飛ばす。
「「「へ、へいッ!」」」
怒声を受けた野盗達は飛び跳ねるように返事を返し、そして散って行った。