―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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7-8:「保護/見慣れた物」

 それからおよそ一時間が経過し、空間の制圧がほぼほぼ完了した頃に、要請された増援部隊が森へと到着。増援部隊の車列は、先に指揮通信車も用いた、野盗達の整備したと思しき隠蔽されていた道を使用して、森の中の空間へと到着。

 89式装甲戦闘車を先頭に、次いで73式大型トラックが1輌。そして急遽編成に加えられた1トン半救急車からなる車列が、空間内へと乗り入れて各所へ停車。

 

「やれやれ。呼ばれて出動したってのに、もう終わってるとはな」

 

 89式装甲戦闘車の砲塔上でキューポラから半身を出す穏原が、すでに制圧の終わった空間を眺めながら零す。そして装甲戦闘車の後部隊員用スペースからは、普通科3分隊の隊員等が後部扉より降車し、展開を始めていた。

 

「よいしょ」

 

 そして一方、傍らに停車された1トン半救急車の助手席からは、ちょうど降りて来た出蔵の小柄な姿があった。

 

「出蔵」

 

 そんな出蔵に声が掛かり、彼女が振り向けば、駆け寄って来る河義の姿が見えた。

 

「河義三曹――無線でおおまかな事は聞いてます。その保護対象の人はどこに?」

 

 駆け寄って来た河義に、出蔵は尋ねる声を上げる。

 

「あぁ、案内する。来てくれ」

 

 河義はその出蔵に促して来た方向へと身を翻し、そして出蔵もそれに続いた。

 

 

 

 立ち並ぶ掘っ立て小屋の隙間を縫って河義と出蔵は歩き、そして件の保護対象者を発見した小屋の場所へ出る。

 小屋の前では複数の隊員が、対応行動に備えて待機している姿がある。

 

「通してくれ、衛生隊員が来た」

 

 そんな隊員等い向けて河義は促し、そしてその中へ出蔵を通す。

 

「この中ですね」

 

 小屋の前に立ち、開かれた扉から内部を覗き込む出蔵。彼女の眼は薄暗い内部の隅に、蹲り据わる一つ人影を確認した。扉を潜って内部へ踏み入り、蹲る人影に近づこうとする出蔵。

 

「……ひ!」

 

 人影が――狼の特徴を持つ少女が出蔵の気配に気づき、顔と、そして悲鳴を上げたのはその直後であった。

 

「いや……!来ないで、もう許して……!」

 

 そして恐怖に染まった顔を出蔵へと見せ、懇願の言葉を発し始める。

 

「落ち着いて。大丈夫だよー」

 

 そんな彼女に対して、出蔵は屈んで目線を合わせ、努めて柔らかい口調で促す。

 

「やだ……やだ……!」

 

 しかし彼女はその言葉も届いていないのか、怯えた声を零し続けるばかりだ。

 

「ずっとそんな調子だよ」

 

 その時出蔵の背後から声がした。振り向けば後ろに、調達隊に組み込まれていた女隊員の、祝詞が立っていた。

 

「あたしも保護を試みようとしたけど、その子、近寄る者すべてに恐怖してる。もう区別がついて無い」

 

 出蔵の到着前に部隊は一度、丁度組み込まれていた女隊員の祝詞の手により、少女を回収保護することを試みていた。しかし狼の少女は最早近寄る者すべてに怯え拒む状態であり、彼女の保護は難航していた。

 

「……ちょっと可哀そうですけど、強引な手段が必要そうですね……士長、手を貸して下さい」

 

 難しい顔で呟いた出蔵は、祝詞へ協力を促し、そして彼女に説明を始める。

 

「……あぁ、了解……」

 

 出蔵からの説明を受け、あまり気乗りしていないような声色で、了解の返事を返す祝詞。そして祝詞は出蔵の脇を抜け、狼の少女へと近寄る。

 

「ひぃ……!」

 

 近寄る祝詞に気付いた狼の少女からは、またも悲鳴が上がる。

 

「大丈夫――」

 

 しかし祝詞は発しながらも、構わずに側まで踏み込む。すかさず狼の少女の側面に周ると、彼女の身体を側面背後から抱きしめた。

 

「やぁ!やだっ、許して……ッ!」

「大丈夫――!大丈夫だからッ!――お願い!」

 

 狼の少女は半狂乱の様相で、祝詞の腕中で暴れ始める。祝詞はそんな彼女の言葉を掛けながら、懸命に彼女を抱き留め抑え込み、そして出蔵に向けて促す言葉を送る。

 羽交い絞めにされながらも、足掻く狼の少女の前に、出蔵が近寄り膝を付く。出蔵は衛生キットから鎮静剤の収められたケース、消毒液などの必要な用品を取り出し準備を整えると、藻掻き中空を揺れる狼の少女の片腕を取った。

 

「いや、いや……!」

「ゴメンね、ちょっとだけ我慢して」

 

 抵抗を見せる狼の少女に言いながらも、出蔵は手早く彼女の腕に消毒を施し、そして鎮静剤の注入された注射器の針先を、彼女の腕に刺した。

 

「ひ!」

 

 走った痛覚に狼の少女から悲鳴が上がり、彼女の一層の抵抗の気配を見せるが、出蔵はそんな彼女の腕を抑え込んで鎮静剤を注入し切り、そしてどうにか無事投与を完了させる。

 

「いや!いや……!や……ぁ……」

 

 終始恐怖の色と、力なき抵抗を見せ続けていた狼の少女だったが、程なくして鎮静剤の効果が表れ、彼女は眠るように気を失った。

 

「……オッケーですね」

「はぁ……」

 

 出蔵が鎮静剤の効果を確認して言葉を発し、それを聞いた祝詞は、気を失い脱力した狼の少女を支えながらも、ため息を吐いた。

 

「お願いします」

 

 出蔵は備えていた毛布を狼の少女の体に掛けつつ、小屋の外に向けて声を上げる。小屋の外に待機していた隊員等が担架を手に入っていて、出蔵等の側で担架を展開させる。

 

「この子はアンビまでお願いします」

 

 狼の少女は祝詞の手により担架に寝かされ、隊員等の手により小屋から運び出される。そんな隊員等へ、狼の娘をアンビ――1トン半救急車へ運んでもらうよう求めながら、出蔵はその手で何かを持ち上げている。

 それは狼の少女が抱いていた、切断された人の頭部であった。

 顔立ちからおそらく若い青年の物と思われる頭部。出蔵は光を失った瞳に目を落とし、そして開いたままのその瞼を手で閉じる。

 

「――ゴメンね、到着が遅くなって」

 

 そして青年の頭部を持ち上げて、その額を己の額と静かに突き合わせ、詫びる言葉を紡いだ。

 

 

 

「――行け」

 

 制刻が小屋の扉を後ろ蹴りで蹴り破ると同時に発し、そして備えていた竹泉が小銃を構えて扉を潜り、内部に突入。続いて制刻も小屋内に押し入り、即座に内部各方へと視線を走らせる。

 

「――クリア」

「――あぁ、クリアだ」

 

 内部に敵性存在が潜んでいない事を確認し、竹泉と制刻はそれぞれ声を上げた。

 

「……あぁ、やっと終わった!」

 

 そして小銃を構えた姿勢を維持しながらも、竹泉がそんな言葉を上げる。

 発見された保護対象の保護回収が行われる一方で、並行してクリアリング作業は継続されていた。策頼が抜けた代わりに竹泉は制刻と組み直し、残る小屋を一つ一つ安全化して行く、そして今しがた突入制圧したこの小屋を持って、全ての小屋の安全化が完了した所であった。

 

「隅までよく探せ」

 

 悪態を吐く竹泉の一方、制刻はライトを手に周囲を照らし見渡しながら、促す声を発する。先の狼の少女のような要保護対象者が他にも存在する可能性を鑑み、クリアリングを担当する各員には、安全化だけではなくその上での念入りな調査が要求されていた。

 

「へぇへぇ」

 

 制刻の言葉に適当に返しながら、竹泉もライトを取り出して周囲を調べ始める。

 

「あー――こりゃ奴等の強奪品か?」

 

 内部を照らし見渡した竹泉は、その途中で一角に置かれたテーブルへ目を留める。近づき見れば、その上にはおそらく強奪品と思われる装飾品類や貨幣類。他、高価な物と思われる品々が、雑多に並び置かれていた。

 

「またしこたま集めたモンだな」

 

 呆れの混じった口調で零しながら、竹泉はテーブル上ライトで照らし、視線を落として並ぶ物品を眺める。

 

「――あ?」

 

 竹泉の視線が、何かを見止め声を上げた。

 

「どうした?」

 

 竹泉の上げた訝しむ声に気付き、制刻が声を掛ける。

 

「よぉ自由。一応聞くが……おめぇ小銭とか落としてねぇよな?」

「あぁ?」

 

 しかし竹泉から返って来たのは、そんな尋ねる言葉だった。竹泉からの言葉に、今度は制刻が訝しむ声を上げながら、制刻は竹泉の横へと立つ。

 

「これを見ろ」

 

 竹泉は横に立った制刻に言葉で促しながら、ライトの光でテーブル上の一点照らし、示して見せる。

 

「こりゃぁ――」

 

 示されたそれに、声を零す制刻。

 照らし出されたのはテーブル上に散らばった、多数のこの世界の物と思しき硬貨の中に混じった一枚。

 それは制刻等もよく見知った、日本で広く流通している100円硬貨であった。

 

「どういう事だと思うよ?」

 

 見慣れぬ異世界の硬貨の中で、唯一異質に目立つ見知った硬貨。それが異世界であるこの場に存在している事実に、竹泉は怪訝な表情を作って制刻に投げかける。

 

「さぁな――だが、愉快な発見じゃねぇか」

 

 そんな言葉に、制刻は返して見せる。

 

「とりあえずは、持ち主に聞いてみるとしようぜ」

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