HETEROGENEOUS ―有事組織〝日本国隊〟、異世界に降り立つ―   作:SKY STORY

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8-4:「不思議で、歪で、胡散臭い」

 チナーチからもたらされた情報は、この世界に日本国の民間人が存在している事実を発覚させた。そしてチナーチから得られた情報からその民間人は、自分等とは違い単身この異世界に飛ばされて来た事。当人の話していたという状況から鑑みるに、それが当人も意図しない突発的な物であった事。迷い込んだ彼女は危険な状況に陥った所を、〝勇者〟一行に救われ、今はその者達に身を寄せて同行しているらしき事等が明らかになった。

 そして今現在、宿営地内で指揮所として使用されている業務用天幕内では、各陸曹が集っていた。各員の視線は長机上に置かれ、天幕天井から吊るされた光源に照らされる、この世界で入手された地図に落とされている。

 

「ここが今日、調達隊が訪れた星橋の街。そして越境してすぐの所にある風精の町――この町がそのチナーチさんが、おそらく邦人と思われるその人と別れた町か」

 

 地図上に記された各町を指し示しながら、長沼の発する言葉が響く。

 邦人の存在――それもその人物がこの世界に迷い込んだらしき事が発覚した以上、隊はそれを放っておくわけには行かなかった。

 少なくとも一度接触する必要があり、今現在はその邦人の足取りを予測すべく、陸曹等はそのために地図を睨んでいる最中であった。

 

「その先の細かい行路までは、チナーチさんにも分からないとの事だったな?」

「えぇ」

 

 長沼の問いかけの声に、河義が返す。

 チナーチによると、その勇者一行はいくつかの町を経由して、紅の国の北に存在する〝笑癒の公国〟という国を目指すと話していたそうであった。しかしそこまでにどの町にどの程度滞在するかまでは流石に不明との事であった。

 

「これは、少し厄介ですね……どんな行路を取り、今どの辺りを進んでいるのか……」

 

 河義は情報の不足に、その邦人の辿るルートの割り出しが、困難な物になりそうな事を懸念する。しかしそれに長沼は、「いや」と言葉を返した。

 

「その邦人と勇者一行は徒歩移動だそうだ。私達のように車輛での無茶は効かないはず。おそらく、近場の町や集落を結んだ経路を取るはずだ」

 

 そして発しながら、長沼は地図上に存在する町や集落を、トントンと指で指し示し結んで行く。

 

「ある程度は絞れる。それを頼りに、追いかけてみるしかないだろうな」

 

 そしてそんな旨の言葉を発した。

 

「懸念事項としましては、この紅の国という国の、内情でしょうか」

 

 そこへ河義が言葉を発する。

 現在隊が展開駐屯するこの地域の近くに存在する国境線。それを越えた先にある〝紅の国〟という名の隣国は、集められた情報によると、あまり安定した内情ではない国であるとの事であった。

 

「厄介に厄介が重なるな――赴かせる部隊には、またそれ相応の備えをさせる必要があるな」

 

 その事を聞き、思い返した長沼は重々しく呟き、そして発した。

 

 

 

 それからおよそ一時間後。場所は五森の公国内の高地野営陣地――改め五森分屯地。

 分屯地内の一角には応急的なヘリポートが設けられ、その場には航空隊のCH-47J輸送ヘリコプターが駐機鎮座している。そしてその近くには、武器や弾薬類を始めとした少なくない量の装備品が集積されており、今現在は数名の隊員が、それ等の確認作業に当たっている姿があった

 

「聞いたかね、(あだ)。この世界に、我らの同胞が迷い込んでいるかもしれないという事ではないか」

 

 そんな場の傍らから、何かおかしな言い回しの声が上がり聞こえる。

 そこには、確認作業に当たる各員とは様相の異なる、一人の隊員らしき男性の姿があった。まず目を引くのは、他の陸隊隊員の者とは異なる色合いの迷彩服であった。陸隊各員の迷彩服が緑を基調とした物であるのに対して、その隊員の纏う物は黒寄りの灰色を基調とし、そしてエンジ色や淡い灰色を用いて荒い迷彩柄を描く物だ。

 これは、日本国〝多用途隊〟の隊員に支給される物であった。

 多用途隊――。陸隊、海隊、航空隊に並ぶ日本国隊内に編成される部隊である。他三隊のいずれへの割り振りも適切でないと判断された任務、業務を担当し、隊の体制を欠落無く完璧な物に保つ事を主たる目的とする。

 

「まこと、この世界での出来事は、我らを退屈させてはくれないようだ」

 

 そんな多用途隊の所属である男性隊員は、何か芝居掛かった仰々しい言い回しで、近くで確認作業に当たっている一人の陸隊隊員に話しかけている。ただでさえ独自の迷彩服装で周りから目立っている彼は、その上その妙な口調と、何より不気味なまでの胡散臭さを醸し出しているその顔立ち容姿から、凄まじく悪目立ちしていた。

 

「ああ、そうか」

 

 一方、そんな彼に話しかけられている陸隊の隊員――多用途隊の彼から讐という名で呼ばれた、予勤の階級章をその襟に付ける隊員は、手元のバインダーに視線を落したまま、静かな冷たい一言を返す。

 そんな讐もまた、多用途隊の彼程ではないが周囲の他の隊員とは異なる服装を纏っている。一部の隊員の着用する1型迷彩服や、多くの隊員が用いる2、3型迷彩服とも異なるそれは、67式迷彩服と呼ばれる古い服装装備であった。

 陸軍時代の後期戦車に用いられた物に似た、緑や枯草色、土地色からなり荒い迷彩柄を描くそれは、名の示す通り1960年代後半に1型迷彩服に先んじて採用された物であり、一時期1型迷彩服と並行して陸隊に主要装備として普及した。

 現在は2及び3型迷彩の普及で1型と並んで多くは姿を消しつつあるが、〝使える物は限界まで使え〟を謳い文句とする日本国隊では、未だに一部で使用され、その姿を拝むことが出来た。

 

「聞き及ぶにその同胞の少女は、この世界の選ばれし勇なる者達と旅路を共にしているらしい。先に出会い偵察隊が共に旅したと言う勇なる少年達の噺。賊や異形なる者たちとの戦い。姫君と騎士達と共にした戦。これに続き、心躍る冒険譚をまた聞くことができそうだ――」

 

 それぞれ異なる目立つ服装に身を包む二人の会話は続く。――いや、正しくは多用途隊の彼の、芝居掛かった一方的な独白が続く。彼はこれまで発出された各隊が遭遇経験し、もたらしたこの異世界での出来事を並べ思い返し、そして物語の続きを待ち望むような様子で言葉を紡ぎ続ける。

 

「――旗上(はたうえ)、お前は一人芝居で私の邪魔をしに来たのか?」

 

 そんな多用途隊の彼――旗上という名らしい隊員の、胡散臭い口調での語りについに痺れを切らしたのか、讐は確認作業を中断。その正直極めて印象の悪い、陰湿そうな顔立ちをさらに顰めて、旗上を睨んで冷たい声で発した。

 

「――おや、不快であったかな?私は新たな物語へのワクワクを、共有したかっただけなのだが」

 

 そんな讐の言葉を受けて、旗上は独白を中断。そして悪びれもしない様子でそんな言葉を返す。

 

「面倒な作業に当たっている横で、出来の悪い語りをベラベラ聞かされて、気分を害さない訳がないだろうが」

 

 対する讐は旗上との距離を詰めて、率直な思いを言い放った。

 

「讐、こっちは終わったぞ」

 

 そんな所へ、装備の確認作業に当たっていた別の隊員から声が掛けられる。

 

「あぁ――いいだろう。お前は高機を回してこい、終わった分から積載を始める」

 

 そんな隊員へ讐は指示を返す。

 彼等が確認作業を行っていたこれらの装備は、これより高機動車に積載され、その上でさらに高機動車ごと輸送ヘリコプターに搭載される手はずであった。

 隊は燃料対策やもたらされた邦人の存在発覚の報等から、活動の場の中心が隣国――月詠湖の国になるであろう事を見越し、さらなる増援の発出を決定。今彼等が確認を行っている多数の装備も、その一部であった。

 指示を出した隊員を見送った讐は、足元に並ぶのその多量の装備に目を落とす。

 

「まったく――忌々しい」

 

 そして零す。それは自身を煩わせる多数の装備。そして何よりこの異質な世界で立て続く、面倒な事態の数々に対して吐かれた物であった。

 

「暇なのなら、お前も手を貸せ」

 

 零した後に讐は、要求の言葉と共に手にしていたバインダーを、旗上の胸元に乱暴に叩き付けて押し付け渡し、そして身を翻す。

 

「おやおや、極めて不機嫌なようだ」

 

 旗上はそんな讐の背中を見ながら、バインダーを受け取った手を掲げ、ニヒルな動作と胡散臭い口調でやれやれと呟いた。


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