―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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8-6:「4分隊再編/その硬貨、異質につき」

 宿営地内の一角。止められた旧型小型トラックの周囲に、制刻と鳳藤。そして竹泉、多気投、策頼等、4分隊に組み込まれている各員が集まっていた。

 

「皆、揃ったか」

 

 そこへ、一度外していた河義がその場へ姿を現す。

 

「あん?」

 

 しかしそこで竹泉が微かに訝しむ声を上げた。河義の横には、もう一人別の隊員が並び歩いて来る姿があったからだ。

 

「皆、確認を始める前に紹介しておく」

 

 小型トラックの前まで到着した所で、河義は各員へ向けて口を開く。そして横に立つ隊員へ視線を向ける。河義と共に新たに現れたのは、正直言って酷く陰険で胡散臭そうな印象を与える顔立ちをした、一人の二等陸士階級の陸士であった。

 

「5分隊の超保(こえほ)か」

 

 しかし河義がその陸士を紹介する言葉を発する前に、制刻がその姿を見止めてその正体を零した。

 

「そうだ」

 

 河義はそれに続けて補足の言葉を続ける。

 異世界に飛ばされて来た第54普通科連隊、第2中隊の各分隊は、分隊ごとに飛ばされて来た人数に大きく偏りがあり、人員が揃った状態で飛ばされて来た分隊もあれば、人員を欠いた半端な状態で飛ばされて来た部隊もあった。その中には一人ないし数名だけが飛ばされて来た分隊もあり、彼――5分隊の越保もその例に該当する分隊の隊員であった。

 彼始めそういった分隊の隊員は、分屯地で待機防衛に当たるか、他分隊と一時的に合流再編成するかの対応を取っていた。5分隊の彼は前者であったが、今回矢面に立つ機会の多くなった4分隊の人員を補うために、合流する流れとなった事を河義は説明した。

 

「ウチは胡散臭ぇ見てくれの輩で、組まねぇといけねぇ規則でもあるのか?」

 

 その超保の姿を一見し、その後に周囲の各員を人眺めし、竹泉が思った事を無遠慮に発する。

 

「陰険な外観の、お前が言えた立場か」

「うるせぇガワだけプリンス」

 

 そんな竹泉の発言に鳳藤が呆れの混じった声を上げるが、それに対して竹泉は煽る言葉で返す。

 

「やめろ竹泉」

 

 そしていつもの調子の竹泉に、河義は顔を顰めて咎める声を上げる。

 

「ヘイ、ニューフェイス。この竹しゃんの言う事は、あんまり真に受けないでくれやぁ」

 

 傍ら、多気投は超保に向けてフォローの言葉を発する。しかし当の超保は返事を返す事は無く、どこか不快そうな眼で周囲の各員へ視線を流すのみであった。

 

「まったく……どうあれ、これでフルで分隊を編成できる」

 

 相も変わらず不穏な空気に事欠かない様子に、河義はため息混じりに零したが、その後に気を取り直して発する。

 

「さて、説明するぞ」

 

 そして続けて発すると、河義は地図を取り出して広げ、それを小型トラックのボンネット上に広げた。

 

「その邦人は、先日のハシアさん達と同じような勇者と呼ばれる一行に身を寄せ、旅路を進んでいるそうだ――」

 

 河義は偵察捜索行程についての詳細を話し始める。

 隊はチナーチから聞き及ぶことが出来た、その邦人と勇者の出発点と目的地から、彼女達が取ると思われるルートを予測。偵察捜索隊はそれに基づき辿り、彼女達に追いつき接触を試みる計画であった。

 

「そう簡単に行くのかねぇ?」

 

 説明を聞いた各員の中で、竹泉が訝しむ声を上げる。

 

「彼女達は徒歩での旅路だそうだ、取るルートはおのずと限られる。それを辿れば、接触できる可能性は高い」

 

 その声に、河義は説明の言葉を返した。

 

「話はずれるけどヨォ。その勇者ってのは、お前等が何度かコンタクトしたボーイ達とはちげぇのかぁ?」

 

 その後に、今度は多気投がそんな疑問の声を、制刻や鳳藤へ視線を送りながら上げた。

 

「チナーチさんによるとその勇者一行は、女の人二人組との事だ。そして同時に伺えた名や出身国も、私達が接触したハシアさん達の物ではなかった」

 

 多気投の疑問の声には河義が答える。

 

「ハシアのヤツが女と間違えられてる可能性も、最初は疑ったがな」

 

 続けて制刻が、美少女と間違えられがちであったハシアの容姿顔立ちを思い返し、少し不気味に笑いながら言葉を零した。

 

「そんなにボロボロいるモンなのかぁ、勇者ってヤツはよぉ?」

「この世界には、多数の勇者を名乗る一行が、魔王という存在を討伐するために活動していると聞く」

 

 呆れ気味に零した竹泉に、河義は以前にハシアより聞き及んだ、勇者についての情報を説明してみせた。

 

「マジでとんだ世界だぜ……」

 

 勇者そして魔王の名を、加えてこの世界の状況を再びその耳に聞き、竹泉はウンザリした様子で吐き捨てた。

 

「こぼれ話はここまでにしよう。注意事項として、私達がこれより入る〝紅の国〟という国は、どうにも不安定な情勢の中にあるようだ――」

 

 河義は隣国についての情勢に触れ、その上で隊は不測の事態に備え、偵察捜索隊とは別途に小隊規模の部隊を編成し待機させる旨を説明。呼応展開小隊と呼称されるこの小隊は、この月詠湖の国と紅の国の国境線付近に待機し、偵察捜索隊が単体では手に余る事態に遭遇した場合に、これに追走合流、展開し事態の対処に当たる事を告げた。

 

「そんな事態がねぇ事を祈りたいね」

「こんな所だろう――何か質問は?」

 

 竹泉は気だるげに言葉を吐くが、河義はそれには取り合わずに、その他の各員に向けて尋ねる。

 

「特には」

「無し」

「ありません」

 

 各員からは特段それ以上の疑問点は無い旨の返答が返される。

 

「よし。行程は1300から開始される。各員装備を整え、再集合するように――かかれ」

 

 それを受けた河義はその上で必要事項を告げ、指示する。そして掛けられた号令と共に各員は解散、各々準備に掛かって行った。

 

 

 

 武器弾薬を始めとする各装備類が集積されている天幕内で、4分隊の各員は各々補充のための弾薬装備を受け取り、それらを適切に整え身に着ける作業に当たっている。

 

「――ったく、邦人たぁまた妙な事になったモンだなぁ」

 

 そんな中で竹泉の呟く声が上がる。自身の護身火器である9mm拳銃に弾倉を装填し、弾帯のホルスターに収める竹泉。

 それを最後に担当する装備火器の準備着装をいの一番に終えた彼は、その背後、天幕内の真ん中に置かれ、いくつかの装備品が上に積まれた長机に振り返った。

 

「これを見つけたせいで、余計な面倒が増えたぜ」

 

 そして長机の端に、その他の装備とは別に避けて置かれた、ビニールケースに収められたある物を摘まみ上げる。それは野盗の根城で竹泉自身が発見した100円硬貨であった。

 その場に保管されていた、邦人の存在発覚をもたらしたそれを若干忌々し気に眺めながら呟く竹泉。

 

「――あん?」

 

 しかし直後、竹泉はその硬貨が妙な部分を持つことに気付いた。

 

「どうした?」

 

 そんな竹泉の上げた声と、様子の変化に気付いたのだろう、横から制刻が現れ声を掛ける。

 

「おい――これを見てみろや」

 

 そんな制刻の視線の先に、竹泉はおもむろにそのビニールケースに収められた硬貨を翳す。そしてその硬貨の、刻印された製造年をもう片方の手の指先で指し示して見せた。

 

「あ?」

 

 訝しむ声を零し、示された部分を睨む制刻。そして程なくして制刻は、その硬貨が異質な物である事に気付いた。

――平〝生〟元年――

 硬貨の製造年を示す部分には、そんな文字が刻印されていた。

 

「……それだけじゃねぇな」

 

 さらにそれ以外にも異なる箇所に気付き、竹泉はその異質な硬貨を机上に置くと、自身の財布からまた別の100円硬貨を取り出し、二つを並べ置く。

 

「どうしたんだ?」

「今度は何の発見だぁ」

 

 そこへ様子の変化に気付いた鳳藤や多気投等も集まり覗き込んでくる。

 

「見て見ろ」

 

 そんな各員へ、竹泉は並べ置いた二つの硬貨を指し示し、促して見せる。

 

「……なんだこれ……年号の字が違ってる?」

 

 鳳藤等も、硬貨の年号の刻印が自分達が知る物と異なるそれである事に気付き、声を零す。

 

「どういうこっちゃ?」

「誤印か?」

 

 疑問、そして推測の声を上げる多気投や鳳藤。

 

「こんな誤印は流石に発生しねぇだろ。それに、年号以外にもデザインに違いがある」

 

 竹泉は鳳藤の言葉を否定し、そしてその異質な硬貨を再び指し示し説明する。言う通り、その硬貨は竹泉等が知る物と違い、桜の数や配置、刻印された字の字体等、細かい部分が異なっていた。

 

「では偽造された物……?」

「だとしたらアホな間違いが多すぎるし、変な方向に手間もかかり過ぎてる」

 

 鳳藤はまた別の可能性を上げるが、竹泉は再びそれを否定する。

 

「つまり、どういう事だぁ?」

「これもこのファンタジー世界同様、得体の知れねぇ世界のブツの可能性があるって事だ――そして、今から追っかけに行くその邦人とやらもなぁ」

 

 疑問の声を上げた多気投に、竹泉はそう可能性を説いた。

 

「まさか……」

「俺等が実際この奇妙奇天烈なワールドに飛ばされて来てんだ。考えられねぇ話じゃねぇ」

 

 鳳藤の零した信じられないと言う様子の言葉に、竹泉は自分等を例に挙げて、それが起こり得る事態である事を発する。

 

「だろ?」

 

 そして最後に竹泉は、制刻に振り向き問いかける。

 

「あぁ。――まぁどうにせよ、答えはコレの持ち主を見つけてみりゃ判明するだろ」

 

 それを受けた制刻は、置かれた硬貨に視線を落としながら、淡々と発した。


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