―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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9-2:「遭遇」

 偵察捜索隊は、件の邦人とチナーチ達の商隊一行が別れたという風精の町を発見、通過し、現在は紅の国内を東に進路を取り行程を進めていた。

 

「日が暮れて来たな」

 

 偵察捜索隊の車列の先頭を行く小型トラック上の助手席で、河義が呟く。

 隊の観測している時間は1800に近くなり、太陽はその姿を地形の向こうに半分以上埋め、周囲は薄暗くなり始めていた。

 

「策頼、ライトを」

「は」

 

 河義の指示の声に応じた運転席の策頼が、小型トラックのライトを点灯。煌々と灯されたヘッドライトのビームが進路上を照らす。

 

「ジャンカー4ヘッドより各車。視界が悪くなってきた、警戒してくれ」

《ハシント、了解》

《ジャンカー4-2》

 

 続けて河義はインカムを用いて、後続の2輌に要警戒の旨を発報。2輌からはそれぞれ返答が返って来る。

 

「策頼、超保、お前等もな」

「了」

「了解」

 

 続けて河義は同乗している運転席の策頼と、荷台で据え付けられたMINIMI軽機に着く超保に促す。それを受けた両名からは、淡々とした返答が返ってくる。

 

「――といっても、あまり硬くもなり過ぎないようにな。もちろん、竹泉や多気投レベルにはっちゃけられるのは困るが」

 

 そこへ河義は両名に向けて口調を砕き、そんな軽口を飛ばす。必要以上に緊張しないようにと、河義なりの配慮の元での台詞であった。

 

「了」

「えぇ、了解」

 

 しかし策頼、超保の両名からは、再びそんな淡々とした業務的な返答が返って来ただけで、車上は再び沈黙。

 ここまでの道中の間、河義等の乗る小型トラック上はほぼずっと沈黙に包まれていた。時折それを解きほぐそうと河義は軽口を飛ばしたが、両名からは今の調子で淡々とした返答が返されるのみで、それ以降会話に繋がる事はなかった。

 

(……これはこれでやりにくいぞ)

 

 普段、制刻等の弾けた言動に手を焼いている河義であったが、今はそれとはまた別種の気苦労に苛まれ、河義は若干渋い顔を浮かべ、そして内心でそんな思いを浮かべた。

 

「はぁ……」

 

 河義はため息を吐きながら、胸元から地図を取り出して広げる。

 

「――もうすぐ集落が見えるな」

 

 そしてその地図に視線を落とし、言葉を零した。

 偵察捜索隊は邦人と勇者一行が辿ると思われるルートを予測し、そのルート上に存在する各町や集落をチェックポイントとしていた。河義が今確認した近づきつつある集落は、その内の一つであった。

 

「――河義三曹、9時の方向」

 

 後席で軽機に着く超保が声を上げたのは、その直後であった。

 報告の声に河義がまず反射で背後を振り向けば、荷台の超保はすでにMINIMI軽機を旋回させ、その視線と銃口を該当方向に向けている。それを追いかけ、河義も小型トラックの9時方向に視線を向ける。

 

「あれは――?」

 

 河義は該当方向の先、200m程離れた位置にいくつかのシルエットを見止めた。遠く、そして夕暮れの環境もある事から細部までは分からないが、それは数頭の馬――騎兵のシルエットと思われた。

 

「馬か?こっちに向かっている――?」

 

 シルエットを目に収め、推測の言葉を零す河義。

 ――小型トラックの側面や各所を複数の何かが叩き、金属のぶつかり合う音が響いたのはその次の瞬間であった。

 

「ヅッ!?――何だ!?」

 

 突然の事態に声を上げる河義。

 

《――4ヘッド!攻撃された、ハシントは攻撃された!》

 

 直後にインカムに通信から飛び込む。後続の82式指揮通信車の矢万からの物だ。指揮通信車にも同様の現象が襲った旨の報告であった。

 

「一体何の――ヅッ!?」

 

 現象の正体を探ろうとする河義だったが、再び先と同様の現象が襲い来る。

 

《4ヘッド、攻撃許可を》

 

 そこへ今度は最後尾の小型トラックの制刻から、要請の無線が飛び来る。

 

「ッ、待つんだ!」

 

 しかし河義はそれにそう返すと、傍に置いておいた拡声器を手に取り、声を上げた。

 

《――こちらは、日本国陸隊です!そちらとの交戦を望む者ではありません!攻撃を中止してくださいッ!》

 

 拡声器越しに、攻撃中止を相手に向けて要請する河義。

 しかし聞く耳など持たない事を示すように、次の瞬間には三度攻撃が注ぎ、小型トラックの側面を叩いた。

 

《4ヘッド》

 

 そして、再び制刻からの攻撃許可を要請する声が聞こえ来る。

 

「ッ――仕方がない、許可する!対応しろッ!」

 

 その要請に、河義は決断を下し、インカムに向けて指示の声を発する。

 各小型トラックと指揮通信車に搭載されているMINIMI軽機、そして指揮通信車のターレット搭載の12.7㎜重機関銃。それぞれの火器は、すでに現象の発生源と思われる騎兵のシルエットに、その銃口を旋回させ向けていた。

 そして河義の指示の声と同時に、各火器は一斉に唸り声を上げた。

 走行中の各車から吐き出された5.56㎜弾と12.7㎜弾は、並走しながら徐々に距離を詰めつつあった馬のシルエットの群れに注ぎ込まれる。そして各車各員の眼は、シルエットの群れが集中砲火を受けて倒れてゆく姿を見た。

 

「全車停車!全車停車しろッ!」

 

 敵性分子と思しきシルエットの無力化を確認した河義は、インカム越しに各車に向けて叫ぶ。河義の指示により、車列は速度を落して停車。

 

「各ユニット、被害報告しろ!」

《ハシント、被害ありません》

「4-2、そっちは!?」

《えぇ、無事です》

 

 河義は続いて各車に被害状況を求める言葉を叫ぶ。各車各員からは、被害の無い旨が返されて来た。

 

「了解――」

 

 脅威の排除と各方の無事の確認が取れ、ひとまずの事態は凌いだと判断し、河義は微かな安堵の声を零す。

 

「しかし、今のは一体……」

 

 そして次に河義は、今しがた自分等を襲った現象の正体を勘繰る。

 

「河義三曹、これを」

 

 そんな河義に、回答を示して見せたのは運転席の策頼だ。策頼の手には、50㎝程の長さの、黒光りするツララのような物が持たれていた。

 

「それは――」

 

 それは先に襲い来た現象の正体であり、小型トラック内に飛び込んで来た物であった。そして河義等は、そのツララのような物体に見覚えがあった。

 

《河義三曹》

 

 そこへインカムから声が割り込む。最後尾の小型トラックの制刻からだ。

 

《これは、山で賊を相手した時に出くわした、摩訶不思議でしょう》

「あぁ――」

 

 そして寄越された答えの言葉に、河義も同調の声を零す。

 この黒光りするツララ――大きな針状の鉱石は、五森の公国で隊が対応した、山賊達の中に混じっていた魔法能力者が使用して来た物と、同種の物であった。

 

《しかし、突然襲ってくるたぁ――また賊の類か?》

 

 現象の正体が発覚した所で、指揮通信車の矢万が通信に割り行って言葉を寄越し、残るもう一つの疑問について言及する。

 

「かもしれない――彼等を検分しよう。各車警戒を怠るな」

 

 そして河義は、決定を下し、指示の言葉を各車各員へ向けて発した。


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