―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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9-4:「車輛機動攻撃」

 イノリアを応急処置を施した後に指揮通信車へと収容した偵察捜索隊は、先に聳える小高い丘へ登り周辺を観測。丘より東方の少し先に存在する、件の物と思しき集落は容易に目に留めることが出来た。

 

「ッー……」

 

 丘の上に乗りつけた各車輛の内、小型トラック上で河義は双眼鏡を覗きながら苦い様子で口を鳴らす。

 確認した双眼鏡越しに見える集落は、その各所から火の手と煙が上がっていた。

 

「どーしてこう、行く先々で厄介ごとにぶち当たるかねぇ?」

 

 その横、降車展開している制刻等の中から、竹泉の皮肉気な悪態が上がる。

 

「でぇ、どうします?」

 

 そして制刻が河義にどう出るかを尋ねる。

 

「――少なくとも素通りするわけには行かない、邦人が滞在している可能性もある。――待機中の小隊に、追走展開の要請を送れ!」

 

 それに対して河義は返す。そして同時に、河義は事態が自分達だけでの対処は困難と判断。国境線付近で現在も待機中の呼応展開小隊に合流応援を要請すべく、指揮通信車に指示の言葉を送る。

 

「――集落の南と西の入り口付近に、それぞれ2個分隊規模か」

 

 河義は再び双眼鏡を構え、集落のそれぞれの入り口付近に視線を向け、そして零す。河義の言葉通り、先に見える集落の各入り口付近には、計2個分隊、20名弱程度の武装集団――イノリアの口からは傭兵と零された者達が、包囲警戒のためか布陣している姿が見えた。

 

「よし――当隊はこれより彼等を、民間人に害意を持つ集団と見止め、これの対応に当たる」

 

 そし河義は各員に聞こえる声で、決断の言葉を発した。

 

「はぁ?ちょーい待ち!増援を待たずに俺等だけで突っ込むって言うんでぇ?」

 

 しかしそこですかさず、皮肉気な声色で異議の声が上がる。声の主は他でも無い竹泉だ。

 

「集落は現在も襲われている、助けを求めている人がいるかもしれない。その可能性を放置し、傍観している事はできない」

 

 そんな竹泉の異議の言葉に、河義は説き言い聞かせる言葉を返す。

 

「まずは集落周りの彼等を無力化する。車輛により彼等の周辺に展開、包囲してこれを試みる。――各員いいか?」

「了」

《了解》

 

 そして発された河義の指示と確認の言葉。それに対して各員から了解の返事が返る。

 

「また面倒だぜ……!」

「よぉ竹しゃん、気合だ気合」

 

 竹泉だけは悪態を零したが、それに多気投は茶化すように言葉を掛ける。

 

「開始する。各員搭乗しろ!」

 

 河義の車輛への登場を指示する声が響く。それに応じて各員は各車輛に搭乗。そして3輌の各車はエンジンを唸らせ、斜め陣形を組んで丘を下り、傭兵隊に向けて攻撃を開始した。

 

 

 

 草風の村の西側入り口では、包囲及び警戒を任された騎兵を中心とする10名弱程の傭兵達が、布陣待機している。

 

「見張りとは、退屈な役割の振られたな」

「気を抜くな、まだ戦いの音が聞こえて来る。村の奴等、思った以上に抵抗しているようだ」

 

 その一角に、軽口を叩く傭兵と、それを咎める傭兵の姿がある。包囲及び警戒を命じられた傭兵達であったが、村への襲撃開始以降彼等が戦いに遭遇する事は無く、彼等の緊張感はいささか緩みつつあった。

 

「しかし――逃げたヤツを追った隊が戻って来ないな」

 

 そんな中で、咎める声を上げた傭兵が、続けて訝しむ言葉を上げる。少し前に、村人の一人が包囲を突破して逃走を図り、傭兵の内一隊がそれを追いかけ発していた。

 

「外周の連中と挟み撃ちできるはず……とうに戻って来てもいい頃だが」

「外周の連中と一緒にサボってるんじゃないのか?今回は、そんなに気張る仕事でもないんだしよ」

 

 追撃に向かった一隊が未だ戻らぬ事に懸念を零す傭兵。それに対して咎める声を上げた傭兵が、先と変わらぬ様子で軽口を叩く。

 

「お前は……ん?」

 

 仲間の傭兵の軽口に呆れた声を零したその傭兵は、しかしその直後、逃走者や追撃の傭兵達が発して行った、集落西側の小高い丘に向けていたその眼に、動く何かを捉えた。

 

「あれは……何だ?」

「ん?」

 

 咎める声を上げた傭兵の、何かに気付き訝しむ言葉に、軽口の傭兵もその視線を追う。二人は視線の先、薄暗い丘の斜面上に瞬く、不可解な複数の光を見止めた。

 

「な、なんだありゃ?」

「追撃隊じゃない……いや、そもそも何だあれは?」

 

 唐突に出現した正体不明の光に、二人の口から困惑の声が零れる。

 

「こっちに来るぞ……一体――」

 

 狼狽えの度合いを増し、声を発しかける軽口の傭兵。

 

「――がッ!?」

 

 しかし、その光の方向から何か爆ぜるような音が聞こえ届き、同時に軽口の傭兵から悲鳴が零れ、彼が何かに叩き飛ばされるように馬上から落馬したのは、その瞬間であった。

 

「――な!?」

 

 事態に気付き、そして驚きの声を上げる相方の傭兵。そして彼が再び丘の方向へ視線をを向ければ、唸り声を上げ光を瞬かせて接近する三つの不可解な物体が、その目に飛び込んで来た。

 

 

 

 偵察調達隊を構成する3輌の車輛は、丘を下りそして集落の南西側へと駆けこみ乗り込んだ。3輌の内、82式指揮通信車はその場で停止し、搭乗していた増強戦闘分隊の一組が降車展開。集落の南、西側両入り口に布陣する傭兵達へ、搭載の12.7㎜重機関銃とMINIMI軽機、そして各員の装備火器による、各方へ火力投射を開始した。

 同時に2輌の普通科4分隊の小型トラックは、南、西の各方へ展開。82式指揮通信車からの火力投射と合わせて十字砲火を形成すべく、各方に布陣する傭兵達の反対側側面へ回り込む事を試みる。車上の河義が出したハンドサインを合図に、両小型トラックは各方へ割れる。

 2輌の内、制刻や鳳藤等の登場する小型トラックは、南側入り口への回り込みを担当していた。入り口付近に布陣する傭兵達の前を、速い速度で大きく迂回。そして車上からは搭載のMINIMI軽機が竹泉の操作で火を吹き、走行中の車上から布陣した傭兵達へと注ぎ込まれてゆく。

 掃射の餌食となり何人かの傭兵が倒れ崩れる様子を横目に見ながら、制刻等の乗る小型トラックは布陣する傭兵達の反対側側面に到達。搭載のMINIMI軽機の掃射に加え、各員が装備火器を構えて傭兵達に向けて発砲を開始した。

 

命中(はい)った」

「一名排除!」

 

 制刻や鳳藤の用いる小銃からの発砲が、点在する傭兵達を一人一人撃ち抜き無力化して行く。

 

「FooooooWuuuuuu!」

「死んでろ!」

 

 そして竹泉の操る搭載軽機と、多気投の装備火器の軽機が、傭兵達をそれぞれ端から舐めてゆく。さらに82式指揮通信車側からの銃撃もそれに加わり、成された十字砲火に晒され傭兵達は次々に倒れてゆく。

 車輛による機動と、その上での各火器のからの攻撃を前に、各方に布陣していた傭兵達は、禄な対応を取る事もままならないまま餌食となって行き、そして程なくして無力化。周辺に動く者の姿は無くなった。

 

《――各ユニット報告してくれ》

《ハシント、アクティブな敵影無し》

《ケンタウロス2-1、同じ》

 

 無線での河義の報告を求める声に、各車各隊から同じく無線による報告が上がり聞こえる。

 

「ジャンカー4-2、全部弾いた」

 

 そして制刻もインカムに向けて、傭兵を全て無力化した旨を発し上げた。

 

《了解――南側入り口に集合してくれ。再編成する》

 

 各方からの報告を聞いた河義から、集合の指示が発せられる。そして指示の通り、各車各隊は位置取った場所を離れ移動し、集落の南側入り口付近で合流した。

 

「各員、問題無いか?」

「ナシ」

「えぇ、ありません」

 

 集合し、小型トラック上から発せられた河義の声に、指揮通信車上に身を置く矢万や、小型トラック上の制刻は被害の無い旨を報告する。

 

「ヨシ――これより集落に入る。4分隊各員は降車しろ」

 

 各員の安否を確認した河義は、4分隊各員に命じ、そして次の動きを説明する。

 集落内では狭所戦が予想される事から、車輛は装甲戦力である82式指揮通信車のみを入れ、小型トラック2輌は置いて行き、4分隊と増強戦闘分隊はこれ以降は徒歩で行動戦闘を行う事を河義は告げた。


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