―異質― 日本国の有事防衛組織、その異世界を巡る叙事詩《邂逅の編》   作:えぴっくにごつ

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9-5:「Push Up――押し上げよ」

 82式指揮通信車以外の車輛を置き、偵察捜索分隊は村の南側より内部に踏み込んだ。

 指揮通信車を先頭に立て、普通科4分隊の7名と増強戦闘分隊の一組4名は、それぞれ陣形を組んで指揮通信車の後ろを周囲に警戒の目を向けながら進む。

 

「ヒデェな」

 

 増強戦闘分隊に組み込まれている武器科隊員、門試(かどためし)一士が進んでいる道の脇に視線を送りながら呟く。

 とうに日は落ちたと言うのに、村内は各所に上がる火の手により、明るく照らされている。

 

「倒れているのは、集落の人間か?」

 

 続いて増強戦闘分隊の一組の組長を務める、威末が零す。進みゆく道を見渡せば、所々にこの村の住人と思われる者の、亡骸が横たわっていた。

 地上を行く各員が凄惨な光景に顔を顰める一方、先頭を行く指揮通信車のターレット上では、車長の矢万が周囲に目を光らせていた。

 

《車長、車内に入って下さい》

 

 しかしそんな折、矢万の着けるインカムにそんな声が届く。相手は操縦手の鬼奈落だ。次に何が襲い来るかも分からぬ状況で、矢万が車上で身を晒す事を不安視しての進言であった。

 

「気が進まねぇな。車内からじゃ見通しが悪くなる」

《攻撃を受けて何かあっては事です》

 

 矢万は警戒の目が狭くなる事を懸念し、渋る声を上げるが、そんな矢万に鬼奈落からは言い聞かせるような進言の言葉が続き返される。

 

「あぁ、分かったよ」

 

 そんな鬼奈落の言葉を矢万は渋々といった様子で承諾。最後に一度周囲を見渡してから、ターレットハッチを潜り車内へ降りようとする。

 そんな矢万が、視界の端に何か瞬く物を見たのはその時だった。

 

「――あ?」

 

 そちらへ視線を向けた矢万は、次の瞬間自身の目に飛び込んで来た物に、思わず素っ頓狂な声を上げた。彼の目に映ったのは、灯る一つの炎。

 最初それをあちこちの建物から上がっている火の手の一つかと思った矢万。しかしその炎が宙空を飛び、こちらに迫って来る物だと気付いたのは、その直後であった。

 

「――ッ!?」

 

 それを認識すると同時に、矢万はターレットハッチを潜りその身を車内へと引き込む。飛び来た炎――炎球が指揮通信車の車体へ直撃したのは、その瞬間であった。

 

「ヅッ!」

「ッ!」

 

 直撃した炎球は指揮通信車の車体前面に直撃。燃え上がりその装甲表面を焦がした。幸いそれまでに留まり炎球は直後にはその勢いを大幅に減じたが、矢万と鬼奈落は突然のその事態に、車内で顔を顰め声を零した。

 

「うぇ!?」

「なんぞぉッ!?」

 

 その光景は後続の各員の眼にも届いていた。突然の現象に、竹泉や多気投を始め各員から驚く声が上がる。だが事態はそれに留まらなかった。

 次の瞬間には、何らかの多数の物体が飛来。指揮通信車の装甲を叩き、そしてその後ろに展開していた各員の周囲や足元に降り注いだ。

 

「うぁ……ッ!?」

「ッ――身を隠せッ!」

 

 鳳藤の狼狽える声と、河義の指示の言葉が同時に上がる。同時に各員は飛ぶように陣形を解いて散会し、指揮通信車の後ろ、あるいは周囲に存在する家屋建物の影へと飛び込み身を隠した。

 

「ッ――これは」

 

 家屋の一つに身を隠した河義が、顔を顰め声を零す。

 

「こ、攻撃かと思います!」

「見りゃ分かるわッ!」

 

 その河義に、後ろに位置する建物に身を隠した鳳藤が狼狽えながら進言。そらにそれに、道を挟んで反対側の建物にカバーした竹泉から、荒んだ言葉が飛んでくる。

 

「また鉱物でできた摩訶不思議だな」

 

 そんなやり取りを端に聞きながら、鳳藤と同位置にカバーした制刻は、周囲の各所に目を配りながら零す。周囲の地面や建物の壁には、先にも確認した30㎝大の針状の鉱石が、いくつも突き刺さっていた。

 それらを確認した後に、建物の影から視線をわずかに出し、先の様子を覗き確認しようと試みる制刻。

 だが瞬間、再び鉱石の針の雨が襲来。それらは先に停車している指揮通信車の装甲を再び叩き、そして周囲に突き刺さった。

 

「チッ」

 

 すかさず引き込み、そして猛攻に舌打ちを打つ制刻。

 

「各員、被害報告しろ!」

 

 先の家屋の影で、同様に河義も苦い表情を作りながら、彼は各員に被害の有無を問いかける。

 

「ありません」

「えぇ、おかげさまでこっちも!」

「増強2分隊1組、無し」

《ハシント、無事です!》

 

 河義の問いかけに、各所各員から無事を報告する声や通信が上がって来る。幸いにも先の攻撃で被害を被った者はいなかった。

 

「――ハシント、矢万三曹。どこから攻撃を受けたか見えたか!?」

 

 各報告を聞いた河義は、続けて指揮通信車の矢万に、攻撃の出所の特定を要請する。

 

《炎は前方、突き当りの家屋からです!他の出元ははっきりしません!》

 

 要請に、矢万からはそんな言葉が返される。先と同様の炎球が再び飛来し、指揮通信車にまたも直撃したのはその直後であった。

 

「ッ――またかッ!」

「すぐ収まった。燃料をばら撒いて、炎上させるタイプじゃねぇな」

 

 再びの炎の襲来に、険しい顔で声を漏らす鳳藤。その傍らで制刻は、飛来した炎球の直撃から消えゆく様までを観察し、それが火炎放射器や焼夷ランチャーのように、可燃物を散布し炎を拡大させるような代物では無い事を察する。

 

「ふざけてやがるッ!」

「応戦します!」

 

 各方にいる竹泉や威末等から、悪態や応戦行動に移る旨の言葉が河義の元に上がって来る。そして指揮通信車の後ろに控える増強戦闘分隊の各員。それに建物にカバーする4分隊の竹泉や多気投等は、それぞれ遮蔽物から装備火器の銃口を突き出し、各所に向けて発砲を開始した。

 先に並ぶ各家屋へ注がれていく銃火。

 しかし敵の正確な所在の掴めぬ状況での、推測に頼る各銃撃は効果的な物とはならず、直後にはそれを物ともしないと言わんばかりの、鉱石針の雨が三度各員を襲った。

 

「ッ!」

「あぁ、畜生ッ!」

 

 襲い来たまるで散弾、あるいは機銃掃射にも似た鉱石針の雨に、各員は射撃を止めて遮蔽物に引き込み、口を鳴らしあるいは悪態を吐く。

 

「落ち着け!闇雲に撃つな!」

 

 そんな各員へ向けて、河義は無闇な射撃を控えるよう指示の声を張り上げる。

 

「そこかしこの家屋に配置しているようだな」

「外から撃ち込むだけじゃ、黙らせられねぇでしょう。中に踏み込んで、一軒一軒潰してく必要があるかと」

 

 各員に制止の声を掛けた河義は、先に見える各家屋を覗き睨みながら、敵が分散配置している事を推察。さらにそこへ制刻が後ろから、進言の言葉を飛ばす。

 

「俺等で、踏み込みましょう」

 

 そして制刻は続け、名乗り出る言葉を上げた。

 

「ちょ、おい。俺等って――」

「剱は俺と右手だ。竹泉、投、オメェ等は左手の家並みを攫えて行け」

 

 鳳藤はそこへ声を挟もうとしたが、制刻はそれを遮り、勝手にピックアップした三名に、指示の言葉を送る。

 

「いや、おい!何勝手に決めさらしてくれてんだッ!」

 

 竹泉からは文句の言葉が飛んで来たが、制刻はそれには取り合わない。

 

「やれるのか?」

「やりましょう。他は、こっから援護を」

 

 そして河義の問いかけの言葉に、制刻は端的に返し、そして要請の言葉を発した。

 

「……いいだろう。識別はそれぞれ4-2、4-3。油断と無茶はするなよ」

 

 河義は制刻のその言葉を受け入れ、無線識別を割り振りそして念を押す言葉を告げる。

 

「了解。剱、竹泉、投。備えろ」

 

 河義の言葉に制刻は端的に了解の言葉を返し、そしてピックアップした三名に準備するよう促す。

 

「はぁ、まったく……」

「最悪だ!」

「ビックらホイのお返しだなぁッ!」

 

 それに対して鳳藤はため息、竹泉は悪態を零し、多気投だけが陽気な声を張り上げた。

 

「各員、援護射撃用意!策頼、発煙筒を!」

 

 その一方、河義はその他の各員に突入支援に備えるよう指示の言葉を飛ばす。

 

「――投擲!」

 

 そして河義、策頼の手に寄り発煙筒が投擲される。先へ放り込まれた発煙筒は煙の放出を始め、やがて煙は偵察捜索隊と、その先に立ち並ぶ家屋の間に充満。立ち込めた煙は両者の間の視界を完全に遮った。

 

「行くぞ」

 

 煙幕の充満を確認すると同時に、制刻が合図を発する。そして制刻等4名はそれぞれの遮蔽物より飛び出した。

 制刻等はそのまま充満した煙幕の中に突入し、その中を駆け抜ける。

 

「くッ――」

 

 その途中、足元へまたも鉱石針の雨が襲い来た。煙幕に阻害され、おそらく目測で放たれ来たのであろうそれは、制刻等に命中する事は無かった。しかし足元を襲い傍を掠めて行った鉱石針の数々に、鳳藤は思わず声を零す。

 

「ビビるな」

「ッ、分かってる!」

 

 そんな鳳藤に、先を駆ける制刻が声を飛ばし、鳳藤は顔を苦くしながらそれに返す。

 両名の背後からは、指揮通信車搭載の12.7㎜重機関銃や各員の装備火器の射撃音が聞こえ届く。

 自分等を援護するために開始されたそれ等を背後に聞きながら、制刻等はものの数秒で煙幕の中を駆け抜け、その先に建つ家屋を見止めてその側面へと駆け込んだ。

 壁際に張り付き、一度周囲を見渡す制刻と鳳藤。

 道を挟んだ向こう側の家屋には、同様に煙幕を抜けてその壁際に駆け込み張り付いた、竹泉と多気投の姿が確認できた。

 向こう側の竹泉と多気投は、駆け込んで早々に家屋の窓を破り、内部に突入する様子を見せる。

 

「おし、俺等も行くぞ」

「あぁ……!」

 

 制刻と鳳藤は家屋の壁の端に設けられた、裏口と思しき扉を見止める。その裏口扉の両端に張り付き、突入に備える。

 

「いいか?」

「あぁ」

「おぉし――やれ」

 

 言葉を交わし、タイミングを揃える両名。そして制刻が合図の声を発すると同時に、鳳藤は裏口扉を後ろ蹴りで蹴り飛ばし、強引にこじ開ける。

 突入口が解放されると共に、制刻は小銃を構えて内部へ突入した。

 踏み込んだ先、家屋内部の台所と思しきその室内には、数名の人間の姿があった。まず外の道に面する窓の際に一人。さらに部屋の真ん中で横倒しになったテーブルの向こうに二人。先に交戦した傭兵と同様の出で立ちをしており、皆一様にその目を剥き、侵入者である制刻にその視線を集中させる。

 制刻はその計三人の傭兵の存在を、視線を流して一瞬で掌握。そして最初に窓際の一人に照準を合わせて引き金を引いた。至近距離であったため、一発分の発砲音が響くとほぼ同時に窓際の傭兵は撃ち抜かれて崩れ落ちた。

 一人目が崩れた時には、制刻はすでに次の傭兵へと照準を移していた。その向こうに映る、驚愕の表情を見せている傭兵に向けて制刻は引き金を再度引き、発砲音と同時に二人目が崩れ落ちる。

 そしてほぼ同時に、制刻の背後から別の発砲音が響く。制刻に続いて突入した鳳藤が、構えた小銃を制刻の肩越しに突き出している。響いた発砲音はそこからの物であり、鳳藤の小銃から放たれた5.56㎜弾は、最後に残った傭兵を屠った。

 

「――クリア!」

「あぁ、クリアだ」

 

 室内にそれ以上の傭兵の姿が無い事を確認し、両名はクリアの声を上げて交わす。

 突入からここまでの時間は、わずか5秒にも満たない物であった。

 

「……酷く荒されている……略奪か?」

 

 その一室の内部は、あらゆる家具や棚類が開け放たれ、ひっくり返され、荒された様子が見て取れた。それ等を目にし、推測の言葉を上げる鳳藤。

 

「あるいは、なんぞ探してんのか――」

 

 そしてそれに別の推察を続ける制刻。

 しかしそんな二人の耳が、家屋の外から何か金属同士がぶつかり弾けるような音を、微かに聞く。それが敵の攻撃の物である事は、容易に判別が付いた。

 

「考察は後だ。奴等を先に、静かにさせる必要がある」

「あぁ……」

 

 まずは敵の無力化の優先を促す制刻。そして二人は家屋内を制圧すべく、行動を再開した。

 

 

 

 制刻と鳳藤が踏み込んだ家屋の上階。その内の一室には、また三名程の傭兵の姿があった。男傭兵が二人、女傭兵が一人。

 

「く……一体なんなんだ……!?」

 

 そんな傭兵達の内の一人、リーダー格らしきから零される声。

 傭兵達は皆、窓際で身を屈めて隠れ、時折窓から視線だけを覗かせ、眼下の様子を伺っている。

 

「フィルエ・ベイルもスティア・ニューヅも効いた様子が無かった……あれは一体……?」

「あいつ等からの攻撃も、何なのか分からない……!」

 

 他の二人の男女の傭兵も、続けて困惑の言葉を上げる。先程から彼等は、異様な事態の連続を目の当りにしていた。

 突然姿を現した、馬車とも知れぬ不可解な物体の、それに伴う謎の一派。

 この草風の村の〝口封じ〟の役割を請け負っていた傭兵達は、まず間違いなく味方ではないその侵入者を、村人達同様に排除すべき存在とみなして攻撃を敢行。

 しかし現れた不可解な物体は、信じられぬ事に炎をぶつけようとも鉱石の針を浴びせようとも、それ等を物ともしない姿を見せた。そして物体と侵入者は、針とも鏃とも知れぬ何らかを数多に、それも苛烈に放ち返して来て傭兵達を殺傷。さらに煙を炊いて上げ、傭兵達の視界を阻害。

 これ等の得体の知れない現象の数々に、傭兵達は狼狽え、そして動きを鈍らせていた。

 

「村が雇い入れた用心棒か何かか……?にしてもどこから……」

「南の入り口の方から来た……村を包囲している隊はどうしたの……?」

「突破されたか、あるいはやられたか……」

 

 推測の言葉を交わし合う男女の傭兵。

 

「どうであれ、あれは排除しなければならない……!」

 

 しかしそこへ断ずる言葉を上げるリーダー格の傭兵。今回、彼等の仕事中に自分達以外の味方が現れる予定はない。そして今回の仕事の特性上、村人はもちろんの事、第三者であってもこの場を目撃された以上、見逃す選択肢は無かった。

 

「じき、他の隊が応援に来る。スティア・ニューヅを放ち続け、足止めを続けろ!」

「了解……!岩よ、鋼よ、鏃となりて――」

 

 リーダー格の傭兵が女傭兵に命じ、女傭兵はそれに答える。女傭兵は、鉱石針による攻撃魔法を扱う魔導士の一人であった。返答の後に、女傭兵は魔法詠唱を唱えようとする。

 ――バン、と。

 室内、傭兵達の背後から異音が響いたのはその瞬間であった。

 

 

 

 突入時の交戦以降それ以上の接敵は無く、家屋一階のクリアリングを難なく完了。そして階段を上がり家屋の二階へと踏み込んだ制刻と鳳藤。

 

「いいか?」

「ヨシ」

 

 両名は上がってすぐの所にあった扉を見止め、その傍で突入準備態勢を取る。そして鳳藤が再び扉を蹴破り、解放された出入り口を潜って制刻が突入した。

 突入した制刻は、室内に先と同様三名の傭兵の姿を見止める。傭兵達は皆、突然踏み入って来た制刻に驚き目を剥く様子を見せていた。

 

「ッ!」

 

 しかし直後、内の一人――リーダー格の傭兵が、反応し行動に移る。彼は窓際足元の壁を蹴り、飛び出すと同時に抜剣。侵入者である制刻に向けて飛び、切りかかって来る。

 だが抜かれ、振り上げられた彼の剣が届く前に、制刻の構えた小銃から発砲音が鳴り響く。そして撃ち出された5.56㎜弾が、リーダー格の傭兵の胸部を貫いた。

 

「ゴ――!?」

 

 リーダー格の傭兵は襲い来たそれに目を見開き、声を零す。そして衝撃により彼の身は、退けられるように脇へ反れながら、崩れ落ちた。

 

「な――あ゛!」

 

 ほぼ同時に、背後窓際にいた男傭兵が鈍い悲鳴を上げ、襲い来た衝撃に壁に叩き付けられ、崩れる。

 制刻に続き突入した鳳藤の射撃によるものだ。

 

「ッ――岩よ、鋼よ、鏃と成りて牙を剥――」

 

 仲間が次々に倒れる中、女傭兵はその両腕を制刻等に伸ばして向け、詠唱の言葉を紡ぐ。制刻等に向けて、鉱石針の魔法攻撃を放つ腹積もりだ。

 

「――げッ!?」

 

 だが詠唱完了の瞬間、彼女の最後の一言は、濁ったそれへと変わった。制刻の続けての射撃が、彼女の眉間を貫いたのだ。

 眉間に生々しい弾痕を作り、もんどり打つ彼女。が、最後の濁ってしまった詠唱は、しかしどうやら完成した物と認識されたらしい。倒れ行く最中の彼女の周囲宙空に、十本以上の鉱石針が浮かび形成され、それらは次の瞬間、勢いよく一斉に打ち出された。

 

「ッ!」

「とぉ」

 

 だが虚しくも、彼女の最期のそれが功を成す事は無かった。もんどり打ち、倒れ行く瞬間であった彼女の狙いは制刻等を反れ、打ち出された鉱石針の群れは制刻等の真上、壁や天井付近を叩き突き刺さる。

 制刻等に被害はなく、両名は少しの驚きの言葉を零すのみであった。

 

「――こんだけか」

「クリア……!」

 

 敵傭兵達の見せた足掻きの攻撃に驚きつつも、両名はそれ以上の脅威が室内に無い事を確認し、クリアの声を上げる。

 

「もちっとズレてたら、やばかったな」

「ッー……」

 

 そして両名は、天井付近に突き刺さった鉱石の針を一瞥して、それぞれ言葉を零す。鳳藤に関しては、一歩違えば身が針山となっていたかもしれないそれに、顔を少し青くする。

 しかし一方で、自分等の足元で死体となった傭兵達に目を落とし、また別の理由で優れない顔を作った。

 

「こちらジャンカー4-2。こっちはまず、一軒目を攫えた」

 

 そんな鳳藤をよそに制刻は、各方各員に向けてインカムを用いて報告を上げる。

 

《4-3だ、こっちもちょーど一軒目を抑えた》

 

 それに便乗するように竹泉の声が続き聞こえる。

 

「4ヘッド、そっちはどうです?」

 

 そして4ヘッド――指揮官である河義に、制刻は尋ねる言葉を送る。

 

《4-2、4-3、了解だ。だがこちらは依然として、少なくない攻撃を受けている》

 

 制刻の尋ねる言葉に、河義からはまず了解の返事を返し、そして現在も偵察捜索隊本隊に攻撃が行われている事が告げられる。

 

「了解。こっちは、次を叩きに――」

 

 制刻はそれを了解し、次の行動に移る旨を発そうとする。

 ビシッ――と、音が室内に響いてそれを遮ったのは、その瞬間であった。

 音の発生源は一室の窓側。制刻と鳳藤が反応し目を向ければ、そこにあるガラス窓に、大きな亀裂が入っている様子が見える。

 それを見たのも束の間、次の瞬間、ガラス窓は音を立てて砕け飛び散った。

 

「っと」

「ッ!?」

 

 ガラス窓を破ったのは、件の鉱石針の攻撃だ。

 砕けたガラスの破片が室内に飛び散り、そして飛び込んで来た鉱石針は室内の各所に音を立てて突き刺さる。幸いにして制刻と鳳藤に被害は無かったが、襲い来たそれ等に制刻は顔を顰め、鳳藤は思わず身を縮込める。

 だが息吐く間もなく制刻等の眼は、今度は窓の外がぼわりと赤く発光する様子を見る。

 ――直後、割り開かれた窓から、今度は火球が飛び込み現れた。

 

「うわッ!?」

 

 飛び込んで来た火球は一室の壁にぶつかり、燃え上がり室内の一角を焼く。伝わり来たその熱に、鳳藤は顔を歪めて声を漏らす。

 

「チッ、こっちを狙って来たか」

 

 一方制刻は、それ等の襲い来た攻撃から、敵が攻撃対象を自分等に移した事を察し、そして舌打ちを打つ。

 

《4-2、無事か!?》

 

 火球が窓を越え飛び込んだ様子は外からも見えていたのだろう、地上の河義から安否を問う声が、インカム越しに飛び込んで来る。

 

「えぇ、問題ありません。奴等、狙いを俺等に移したようです」

 

 少し焦った様子の河義の声に、しかし制刻は淡々と返す。

 

《冗談じゃねぇ、一歩違やサボテンになっちまうッ!》

 

 そこへ竹泉の声が割り込む。どうやら竹泉等の方にも、同様の攻撃が襲い来たようだ。

 そんな通信の直後、再び窓から鉱石針が飛び込み、室内の各所へ突き刺さる。

 

「ぅッ!?」

「ッ――とにかく、俺等は次の家屋の抑えます」

 

 再び顔を顰め声を漏らす鳳藤。その一方で制刻は、次の行動の報告を上げる。

 

《行けるのか?》

「モタついても、釘付けにされるだけです。行動を続けます」

 

 河義は、敵の攻撃下にある制刻等からの制圧続行の報告に、懸念の声を寄越す。しかし制刻はそれに端的に答えた。

 

《分かった。無茶はするなよ》

「了解――剱、行くぞ」

 

 河義の忠告に答え、そして制刻と鳳藤は一室を飛び出した。


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