ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ   作:れいが

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>'<、⊦ ̄、⊦ 絆

 ダンジョン100階層。

 ナルヴィが住処としている密林地帯で鋭い風切り音と力強い女性の声、

 それに加えて打撃音が聞こえてくる。

 

 「レイ!もっと勢いよく来ていいよっ!」

 「はイ!行きまスッ!」

 

 何が起きているのか。それは、ティオナとレイが模擬戦を行って

 いるのだ。

 腕を手に入れたので拳打を身に着けたいという事を踏まえ、ベルとの

 再戦に向けての相手になれたらとレイからの申し出をティオナは

 快諾した。

 

 ずっと花の絵を描き続けているので、気分転換をしたいとの事だった。

 

 ティオナなりに腕の動かし方や重心移動と攻撃されてから受け止める

 手段をレイに教えた。

 それからすぐに実戦する事にして今に至る。

 

 キュイィィィィンッ...!

 ドゴォオンッ!!

 

 ティオナのアドバイスでレイが編み出した技は強烈な威力を持ち、

 放つ度に衝撃波が生じるほどだった。

 その技とは周囲を滑空してから急降下し、その勢いのまま相手を

 殴り付けるというもの。

 

 キングコングの門下生でレベル7相当の実力は伊達ではなく、

 音速に匹敵する速度で放たれる拳を受け止めるティオナの足が地面に

 埋め込まれる程である。

 

 その一撃を受ければ並の冒険者ではひとたまりもないだろうが、

 ティオナはそんな攻撃を平然と受け流している。

 ベルに追い付こうと我武者羅になって強さを求める、ティオナの

 本懐に触れた気がしたようにレイは思えた。

 

 暫くして、休憩する事にするとティオナはあの拳打を放つ際に

 注意すべき点を指摘する。

  

 「やっぱり慣れてないから打った時に体勢が崩れてて、ちょっと力が入ってなかったね」

 「そ、そうですカ?全力でいっていたはずなんですガ...

  わかりましタ。もっと上手になるよう、頑張ってみまス」

 「うん。よーしっ!じゃあ、あたしも書き直してみよっと!」

 

 そう言うと、ティオナはレイに岩場まで運んでもらった。

 岩場にはこれまで描いてきたであろう何十、何百もの花の絵が描かれて

 いる。

 全て失敗作なので、それを眺めるティオナは失笑する様に苦笑いを

 浮かべて溜息を吐きつつも筆を手に取って描き始める。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 絵を描いている最中のティオナの顔はとても楽しげであった。

 最初の頃はナルヴィにダメ出しをされ続け、永遠に花の絵を描き続ける

 悪夢さえも見たというのにも関わらず、鼻歌さえ歌っている。

 

 「(凄いですネ、ティオナさン...精神力が強くなっているのがわかりまス)」

 

 確実に精神力が鍛えられている事に感心しつつ、 レイもティオナから

 教わった拳打の練習をひっそりと行うのだった。

 筆先が岩肌を擦れる音、拳が空気を切る音が重なっている最中、唐突に

 ティオナが問いかけてくる。

 

 「ねぇねぇ、レイ」

 「あ、はイ?どうしましたカ?」

 「レイはさー...ベルの事、好きだったりする?あ、番になりないって感じで言うと」

 「...エ!?」

 

 レイは顔を真っ赤にして驚きの声を上げる。

 それに伴って思わず拳を樹木にぶつけてしまい、悶絶するのと同時に

 黙り込んでしまう。

 

 その間にも何故、そんな事を聞いてきたのかティオナの意思を

 汲み取ろうと何とか思考を巡らせる。

 しかし、どうにも答えが出せない。そこで、敢えてレイから問いかけて

 みた。

 

 「ど、どうしテ、その様な事ヲ...?」

 「んー?気付いたんだけどさ、ベルの話をしてる時のレイって...

  何か嬉しそうであたしと同じみたいに感じたんだ。

  だから、好きなのかなって」

 

 ティオナの事を知っている者達なら、頭を打ったか変な物を食べたかと

 上を下への大騒ぎになる程の変貌に思えるだろう。

 それはレイも同じで普段の天真爛漫な彼女とはまるで別人のように

 思えた。

 

 今までの事を思い返しながら、レイはベルの事を思い浮かべる。

 別段、何も無い...と思っていたが、次第に胸の高鳴りを感じ始めて

 自分自身でも困惑した。

 確かにリドやグロスでさえ苦戦したモンスターを相手に一騎当千で

 立ち回った時や、初めて素顔を見た時、握手を交わした時も

 胸が高鳴ったと思える。

 

 「(これガ...番を求めての好意なラ...私ハ...)」

 

 半信半疑から、確信へと変わったレイはベルに対する想いを自覚した。

 しかし、その事をティオナに伝えるべきかと迷う。

 返答次第では今までの信頼関係が崩れ去る可能性もあるに違いないと

 恐れていたからだ。

 

 「(でモ、誤魔化してしまえばそれこそティオナさんに嫌われてしまうかもしれなイ...

   それなラ...ハッキリ言ってしまいましょうっ)」

 

 意を決してティオナにレイは近付き、彼女の隣に立つ。

 そして、真剣な眼差しでティオナを見つめながらゆっくりと自分の

 胸の内を明かす。

 

 「...はイ。ベルさんの事ガ...好き、でス!」

 

 他にも色々な事を交えたかったが、それだけしか言えずにレイは

 俯いてしまった。

 花弁を描き終えた所でティオナは筆を止めて沈黙する。

 数分程度の沈黙だったが、レイにとっては数時間にも感じていた。

 

 「...っ、あははっ!」

 

 その沈黙を破る明るい笑い声。レイは顔を上げてティオナを見る。

 その顔はいつも見せてくれる笑顔を浮かべていて、レイの頬を

 グニッと両手で挟み込んだ。

 

 「ひ、ひほにゃひゃン...?」

 「じゃあさ...一緒に番になるのはどうかな?」

 「ふぇ!?ひょ、ひょうひうひみれひゅふぁ!?」

 「え?許嫁は何人でもいいんだから、レイもって思ったんだけど...

  あ、そっか。勝つのか負けるのかで決まる、しか言ってなかったっけ」

 

 あはは、と能天気に笑うティオナを見てレイは呆気に取られて

 しまった。

 一度、手を離してからティオナはヤウージャの許嫁に関する事を

 説明する。

 話を聞くに連れて、レイは困惑から驚きの顔を浮かべていき、やがて

 再び俯いてしまった。

 

 「レイ?...どうかしたの?」

 「...そノ、私ハ...ベルさんはきっと、ティオナさんだけを選ぶと思いまス。

  あの方は誠実で誇り高イ。だかラ...

  ティオナさんのお気持ちはしっかり受け取らせていただきまス。

  なので...」

 

 レイはティオナの手をそっと握り締め、微笑みかけた。

 

 「私の気持ちの分まデ、ベルさんと...お幸せになってくださイ。

  生きて、沢山子供を産んで...」

 「...っ。...うん!...ありがとう、レイ」

 

 先程までの発言を思い返し、ティオナは自分を殴りそうになった。

 しかし、それではレイを心配させるだけでなくレイ自身が自分を

 貶めるに違いない。

 だからこそ、自らの気持ちを託してくれたレイをティオナは

 抱き締めた。 

 

 そこに気まずさは無い。あるのは純粋な互いの絆だった。

 

 「...ティオナ?レイ?抱き締め合って何してるの?」

 

 キョトンとした表情で話しかけてきたナルヴィに2人は驚き、思わず

 離れてしまった。

 何とか寒かったから、と嘘でしかない言い訳を言って再び筆を掴むと

 ティオナは花を描き始めるのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、ロキ・ファミリアは50階層に設備した野営地で最後の

 打ち合わせを終え、椿から注文されていた不壊属性の武器を主力となる

 メンバーに渡されていた。 

 シリーズ・ローランと名付けられている武器は全て、フィン達の

 要望通りに作られている。

 

 「ティ、ティオネさん、ハルバードにしたんスか?」

 「まぁね。51階層からの連中相手にはこっちの方がいいかなって。

  ...椿、ティオナの武器はそれだったかしら?」

 「ああ、流石に大双刀のような獲物では全員分が間に合わなくなっていたからな」

 

 ティオネはティオナ用に作られたロングソードを受け取ると、鞘と柄を

 握り締めて椿に言った。

 

 「私に使わせてくれない?あの馬鹿がもし見つかったらこれで頭真っ二つにしてやるから」

 「くふっ、はっはっはっは!ああ、持って行くといい。

  しかし、道中も見つからないとは...お前の妹はどこで何をやっているんだろうな」

 「知ったこっちゃないわよ。ただとにかく怒鳴り散らしてやるんだから...」

 

 怒りを込めながら顔を顰めるティオネだが、それだけでなく少しばかり

 寂しげにも見えた。

 尚、椿が言っていたその道中の各階層でティオネは妹の名前を

 あらん限りの声量で叫んだりしていたのだが、モンスター以外に

 反応はなく、結局、ティオナは50階層に来るまで見つかる事は

 なかったのだった。

 

 その後、パーティーに選ばれたメンバーは解散して各自で明日に

 備える事にした。

 ティオネはハルバードとロングソードを使ってみる事にしようとしたが

 フィンに呼び止められる。

 

 「少しレフィーヤの様子を見に行ってあげてもらえないかな?」

 「え?あの子がどうかしたんですか?」

 「恐らく...ラウル同様に以前の事を思い返してテントの隅で丸くなっているはずなんだ。

  リヴェリアはラウルの方を任せているから、君に任せようと思ってね」

 「そういう事ですか...わかりました。お任せください」

 

 そう言ってティオネは一度、ハルバードとロングソードを置いて

 レフィーヤが入っていったテントへと向かった。

 案の定、テントの隅でレフィーヤは三角座りのままブツブツと顔を

 真っ青になりながら何かを呟いている。

 短く溜息を吐いてティオネはレフィーヤに近寄り、肩にポンと

 手を置いて声を掛けた。

 

 「ひゃあ!?ティ、ティオネさん!?いつの間に!?」

 「あのねぇ...(団長に言われて来てみてよかったわ...)

  まぁ、いいわ。それより何ブツブツ言ってたの?」

 「あっ、その...前回の様な失敗を明日はしないように、って瞑想を...」

 

 そう言って目を逸らしていくレフィーヤの頬を両手で掴むと、

 ティオネは真っ直ぐにその青い瞳を見つめる。

 突然の事に驚くレフィーヤだが、ティオネに呼ばれてすぐに返事を

 した。

 

 「レフィーヤは私達が守る。余裕もってふんぞり返ってなさい。

  それで、今度はレフィーヤが何を以て助けてくれるの?」

 「...私の、魔法でひゅ...!」

 

 レフィーヤの瞳から動揺の色が消え、ティオネを見つめ返した。

 それを見てもう大丈夫だと確信し、ティオネはパッと頬から手を離す。

 

 「あ、あの、そう言えば...ティオナさんの武器を使うそうですけど...」

 「ん?ええ、それがどうかしたの?」

 「...実は、心配で堪らないって、思ってたり...しませんか...?」

 

 レフィーヤの問い掛けにティオネはキョトンとした表情を浮かべた後、

 ぷっと吹き出して笑い出した。

 一頻り笑った後、涙を拭いながら困惑するレフィーヤに答える。

 

 「まぁ...そうね。たった1人の妹なんだもの。

  あの時言ったのは...照れ隠し、かしらね」

 「や、やっぱりそうだったんですか...」

 「...死んでは絶対にない、って思ってるけど...

  どこかで苦しんでいるんじゃないかっとか、どこぞの誰かに捕まったとか色々考えたりしちゃってるのよね...」

 

 苦笑を浮かべながらそう言っているティオネにレフィーヤは何か

 出来る事はないかと考える。

 そうして、思い切ってこう言った。

 

 「あ、あの、ティオネさん。もし...もしよかったら...

  一緒に寝てあげますよ?」

 「え...?」

 「その、心細い思いをしているのに何もしてあげられないなんて...

  同じファミリアの仲間として私に出来る事をさせてくださいっ」

 「レフィーヤ...」

 

 レフィーヤが冗談で言っている訳がないので、ティオネは少し

 照れ臭そうに微笑みを浮かべて頷いた。

 そして、ある提案を言った。

 

 「何だったら団長のテントに忍び込んでみる?

  団長を抱き枕にして寝たら明日は絶好調で戦える気がするのよね~」

 「そ...それは、ちょっと...」

 「でしょうね。ま...ありがとう、レフィーヤ。

  明日は頼りにしてるわよ」

 「はいっ。必ず...皆さんをサポートしてみせます」

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