ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ   作:れいが

28 / 60
>'<、⊦,、 ̄、⊦ H'anbrew

 「じゃあ、お疲れーエイナ。また今度食事にでも行こうよ」

 「もちろん。お疲れ様でした、マリス。」

 

 夕暮れを告げる鐘の音が鳴り響く中、活動記録の報告に来ていた

 マリスを見送り、エイナは終業間際を迎えた。

 

 定時退勤になる前に簡単な書類作業を片付けていると、ミーシャが

 ちょんちょんと指先で軽く突付いてきて振り返る。

 

 「何?ミーシャ?」

 「...前」

 「?。前...?...!」

 

 カカカカカカ...

 

 指を指している通り前を見ると、少し上の方で発光する2つの

 目が見えた。

 エイナは息を呑んで立ち上がると、慌てながらも書類作業を明日

 する事にして相談室へ案内した。

 

 相談室へ先に入れてから入るとすぐさまドアの鍵を閉める。

 息を整えて、落ち着きつつ振り返るとそこにはベルの姿があった。

 今まで景色と同化していた状態でしか見た事がなかったため、驚きの

 あまり呆然と立ち尽くしてしまう。

 

 そんなエイナを見つめながら、ベルは声を掛ける。

 

 『落ち着くまで深呼吸をするといい。

  心配しなくても、そうなるのはわかっていた』

 「あっ...は、はい...」

 

 ベルの言葉通りに深呼吸をして心を静めようとする。

 目の前にいる存在への緊張の方が少しだけ勝っているが、どうにか

 落ち着いた様だ。

 そうして、ベルに座るよう言ってエイナも対面する形で座った。

 

 『レックスから聞いていると思うが...改めて名乗らせてもらう。

  僕はベル・クラネルだ』

 「...私はエイナ・チュールと申します。

  その...改めて、よろしくお願いします。クラネル氏」

 

 深くお辞儀をしたエイナに対して、ベルは頷く。

 やがてエイナが顔を上げると、徐ろに接続されているパイプを

 引き抜き、ベルはヘルメットを外した。

 その行動にエイナは驚くものの、レックスから聞かされた掟の事を

 思い出して、ベルを見つめた。

 

 そして、ヘルメットに隠されていた素顔を見てより緊張感が増すも

 すぐに平常心を取り戻す。

 眼光の鋭い赤い瞳、ドレッドヘアーに束ねた白い髪、1番の特徴は

 体格とは裏腹に中性的な顔立ちをしているとエイナは思った。

 

 「(これが...クラネル氏の素顔...

  脱いだって事は私を認めてくれてるんだよね...?)」

 

 成人の儀を成し遂げる事でベルがヘルメットを外し、話せるように

 なれるとレックスに教えられた。

 但し、お喋りな性格ではないので基本的に今までと同じ対応には

 なる、と言われてもいる。

 

 一方でベルはヘルメットをテーブルの上に置くと、エイナを

 見つめながら様子を窺っていた。

 

 「...そんなに僕の顔が、珍しく見えるのか?」

 「え?あっ、い、いえ!も、申し訳ございません!

  め、珍しいという訳ではなくて...

  その、レックスさんから掟の事についてお聞きしましたが、私の事を...認めてくださったと、思ってよろしいのでしょうか?」

 「あぁ...その通りだ。エイナ、今までの対応に感謝している」

 「そ、そんな。お礼を言われる程じゃ...

  ...あの、クラネル氏。1つだけお話したい事がありまして...」

 

 おずおずとエイナはベルにある事を話した。

 それはアーディにベルの正体を教えてしまったという事である。

 レックスが他人に教えてはならないと言っていなかったため、

 アーディのネフテュス・ファミリアに対する敵愾心をこれ以上

 募らせる訳にはいかないと独断で判断した結果だった。

 

 エイナはどんな反応を示すのか不安になるものの、黙ってベルからの

 返答を待った。

 やがて、ベルは穏やかとは言い難いもののエイナを気遣ってか声色は

 そのままに答える。

 

 「彼女にはこちらから接触した者としている。なので、重大な問題になるとは思わなくていい。

  但し、全く無関係の者には話さないように頼む」

 「じゅ、重々承知致しました...」

 「それで、彼女は...アーディは僕らに対する敵意を改めてもらえたか?」

 「はい。ですが...何故か、ティオナ・ヒリュテの事を泣かしたら話は別だから、と言っていましたが...」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...その発言からして、アーディは僕がティオナに好意を抱いている

 事を知っているのか...? 

 

 いや、それは有り得ないはずだ。最後に会ってからそれ以降の事は

 知らないのだから。

 それなら、何故...。...あぁ、そうか。

 反対にティオナが僕に好意を抱いている事を知っているんだ。

 

 それで辻褄が合った。と、同時にアーディの発言に対して僕は

 誓ってそんな事はしないと思いつつ、エイナにその言葉の意味を

 伝えた。

 それに伴い、ゼノスに鍛えられている事は伏せてティオナは

 無事である事も。

 当然ながらエイナは驚き、異性の話についてあまり慣れていないのか

 顔を赤くして恥ずかしがっていた。

 

 「そ、そうだったんですか...

  あ、あの、ヴァルマ氏には私の方からお伝え致しましょうか?」

 「...いや、自分の意思で話してみよう。そちらに苦労は掛けさせられない」 

 「!。...わかりました、お気遣いいただきありがとうございます」

 

 僕の返答に少し驚きつつもエイナは微笑んでお辞儀をした。

 いつ話してみればいいのか、エイナと相談した所...

 彼女との再戦の前に言ってみる事にした。その方が説得力もある

 だろうからだ。

 

 僕は感謝の意を込めて、何かお礼の品を渡そうと何か良い物がないか

 自身の体を探り、ペンシルを見つけた。

 

 ...これでいいのか、正直自分では不満だが仕方ない。とりあえず

 渡そう。

 アスフィは喜んでいたようだったから...

 エイナにペンシルを差し出すと不思議そうな面持ちで受け取る彼女に

 僕は紙を取り出して、文字を書いてみるように促す。

 

 「これは...とても書き易くて、使い心地も素晴らしいですね」

 「遠慮せず受け取ってほしい。いくらでも持っているんだ」

 「え?あ...ありがとうございます。クラネル氏」

 「またいつか相応の物を渡すまで待ってもらえると」

 「い、いえいえ!これだけでも十分仕事が捗りそうですので...」

 

 僕はエイナの意思を尊重して、ペンシルを贈呈するだけに留める事と

 した。

 彼女はアミッドの似たように謙虚なんだろう。

 

 そうして、誰かがドアをノックしてきたので僕はヘルメットを被り、

 窓から出ようとする。

 少し狭いため、苦労したが何とか体を外へ出して別れを告げると、

 エイナは見送るために窓際へ近寄ってきていた。

 僕は腕のみを見えるようにして手を差し出し、握手を求める。

 それに気付いてくれたエイナは手を握った。

 

 『助言に感謝する、エイナ。またいつか会おう』

 「はい。お気をつけくださいね、クラネル氏」

 『ああ...それからベルと呼んでくれて構わない』

 

 そう言い残して僕は窓から出てすぐに隣接する建物の屋根へ

 跳び移る。

 

 振り返ってみるとエイナは見えてはいないので、僕が居る方向とは

 違う所に手を振っていた。

 僕はゴーグルを光らせ、居場所を伝えるとエイナはそれに気付き

 慌ててこっちに手を振った。

 それに応えるべく、僕も手を振ってそこから去るのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...そうだ。アミッドに不要な物を贈呈しないといけない。

 僕はベルトに引っ提げている袋の中身を確認して、もう間もなく

 終業となる治療院へ急いだ。

 

 以前の様に、扉の前に置いていくという手もあるが...

 出来る事なら手渡しをしてアミッドと話してみたい気持ちがあった。

 

 治療院の前にある建物の屋根からサーモグラフィーで中の様子を

 窺うと運良くアミッドが外へ出ようとしているのがわかった。

 札を掛けようとしているので、僕はその札にレーザーサイトを照射し

 気付くか試してみる事にした。

 

 すると、最初は凝視して気付いていなかったものの、ハッと後ろを

 振り返ってくれたのでゴーグルを発光させる。

 レーザーサイトをゆっくりと動かしていき、以前に僕が姿を見せた

 建物の影へ誘導して彼女がそこへ行くと、僕も跳び上がって目の前に

 着地した。

 

 クローキング機能を解除し、アミッドに姿を見せつつ近寄ると何故か

 困惑している様に見えた。

 

 「あ、あの...仮面に亀裂が入っていますが、大丈夫なのですか?」

 

 あぁ...これを気にしていたのか。

 ヒーラーのアミッドからして見れば、重傷を負う程の何かがあったの

 ではないかと勘繰ってしまうのは仕方ないか...

 僕は心配させないようにヘルメットを外す事にした。

 

 頭部全体が覆われていたので冷たい空気が流れ込んできて心地良い。

 一方、アミッドは僕の素顔を見て少し驚いた様子を見せた。

 

 ...もう、この顔は誰が見ても珍しいんだと思いながら話しかける。

 

 「ある儀式でヘルメットは破損しているが...見ての通り、怪我はない」

 「!...その様ですね。それなら、安心しました。

  ...ところで、お顔を見せていますが...」

 「ああ...先程言った、儀式を成し遂げる事が出来て外す事を許された。

  改めて名乗らせてもらう。ベル・クラネルだ」

 「私はアミッド・テアサナーレと申します。

  その儀式とはどういったものかわかりませんが...

  貴方とまたこうしてお会い出来て、お名前を教えてくださった事を嬉しく思います」

 

 そう言って頭を下げるアミッド。僕は彼女の謙虚さに改めて感服した。

 一歩近寄ると贈呈する物が入った袋を差し出して、彼女にそれを

 受け取ってもらう。

 アミッドは受け取ると、僕に微笑みかけてお礼を述べた。

 

 直接感謝の意を伝えられて少しむず痒く感じるが...悪くない。

 

 「クラネルさん。以前にお話しした件ですが...

  まだ要望はありませんか?」

 「...そうだな。それ以前に...見てくれた方が早いか」

 

 首を傾げるアミッドを余所に、僕はリスト・ブレイドを伸ばして腕の

 中央辺りに浅く刃を突き刺した。

 浅くと言っても僕の基準なので、血が溢れ出てくる程度には刺さって

 いる。

 

 「な、何を...!?」

 

 アミッドは動揺しているが、僕は構わず続ける。

 

 リスト・ブレイドを引き抜き、少しだけ覚醒を呼び覚ますと細胞分裂を

 促して傷口を急速に塞いでいく。

 

 完治まで3秒足らずと言ったところだ。

 予想通りの反応を見せてくれるアミッドだが、やはり新鮮味があって

 面白いと思った。

  

 僕はナァーザにさせていたように触診させようと腕を差し出す。

 戸惑いながらも、恐る恐るといった様子でアミッドは腕に触ってきて

 僕はされるがままになった。

 

 流血した血が付着しているだけで傷跡は一切残っていない。

 それに驚くアミッドは暫くの間、動かなくなっていた。

 

 「...これは、魔法でもスキルでもなく...

  自力で治したと見て、よろしいのでしょうか...?」

 「少し違う...覚醒という力を手に入れた事で治癒した。

  そちらが混乱するだろうから、詳しい説明は省く」

 「そうですか...あの、クラネルさん。失礼を承知でお願いしたいのですが...

  血液採取をさせて頂いてもよろしいですか?

  覚醒という力によって血液中でどのような変化が起こっているか...

  どうしても確かめてみたいんです」

 

 ...恐らく、分析をしたとしても意味はないとすぐに結論付けた。

 何故なら覚醒している時でないと血液中の成分は活発化しないからだ。

 

 しかし、アミッドの真剣な眼差しに僕は彼女の意思を踏み躙る様な

 事はしたくないと思い、トラッキング・シリンジを手にしてケースから

 血液採取用の針へ交換しながら答える。

 

 「構わない。僕に出来る事であれば協力しよう」

 「クラネルさん...あ、ありがとうございます...!」

 

 なるべく多く取れるよう、肘動脈から採血する事にした。

 

 覚醒しているため動脈の位置を正確に捉え、針を動脈に刺すと

 トラッキング・シリンジが血液を採取して後部のカプセルに鮮血が

 溜まっていく。

 

 「...あの、動脈採血は大抵の方は痛がるのですが...」

 「痛みには慣れてる。尤も、治療の痛みには耐え切れないが」

 「...お察しします」

 

 そうしてカプセルに十分な量の血液を採取し終えて、それをアミッドに

 渡した。

 別の何かを見つけられるといいが...それは彼女自身の運と観察眼に

 任せるしかない。 

 

 「では、ありがたく調べさせていただきます。

  重ね重ねお礼申し上げます」

 「いいんだ。そちらの向上心に見合った成果が出る事を祈ろう」

 

 僕が手を差し出すと、アミッドは握手に応えてくれて頷いた。

 握手を終えてそろそろマザーシップへ戻ろうと思い、僕は

 アミッドに別れを告げて姿を消すとその場から去る。

 

 恐らく、見送っているアミッドは頭を下げていただろう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。