ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ   作:れいが

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>'<、⊦>'、,< オルナ

 ギャオォアアアァァ!

 グオオオオオ...!

 

 不気味な奇声が鳴り響いてくる。

 正確な位置の判明していない階層の奥地にて、無数のヴィオラスが

 蔓延っていた。

 辺りには逃げない程度に傷付けられたモンスターが捕獲されており、

 大口を開けたヴィオラスに丸呑みにされていく。

 

 ガリッ... ゴリッ ゴリッ...

 

 そんな状況の中でレヴィスは魔石を囓っていた。

 顎の力ではまず削れる事すら出来ないが、前歯を突き立てつつ

 咀嚼して飲み込んだ。

 

 食べ終わると、傍に転がしていた手足の無いバーバリアンに手を

 伸ばした時、黒いローブを被った人物が背後から現われる

 

 「【剣姫】達ハ既ニ深層へ向カッタ。ナノニ、何ヲシテイル?」

 「この体は酷く燃費が悪い。動くためには食事をする必要がある」

 「...ナラバ、何時動クツモリダ?59階層へ【剣姫】達ヨリモ先回リシナケレバナラナインダゾ」

 「勝手にしろ、私も勝手に動くだけだ。

  先に貴様らがロキ・ファミリアを追い詰めておけば【剣姫】も手間取らずに片付く。

  ...話は終わりだ。出ていけ」

 

 レヴィスをその場に置いていき、黒いフードを被った人物は

 その場を後にして去って行くのだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ダンジョン59階層。

 凍てつく程の恐ろしい極寒の冷気が漂う氷河の領域と呼ばれ、

 階層の至る所に氷河湖の水流が流れている。

 

 防寒対策を施しているタナトスは眷族を背に何かを一点に

 眺めていた。

 それは階層中央に存在する巨大な氷河湖に浸かっている、

 巨大な影。

 更にはその影を取り巻くヴィルガとヴィオラスも見えた。

 

 「しっかし、ホントここは寒い寒い...これ着てないと凍え死んでしまいそうだ。

  ...で?拘束具は暴れ出したら外せるようにしてあるの?」

 「はい。我々もロキ・ファミリアを討つ手筈は整っています」

 「上々上々...じゃ、どうなるか俺は高みの見物としますか」

 

 そう言い残し、眷族を引き連れてその場を後にするタナトス。

 準備は万全であると勝利を確信した余裕の笑みを浮かべている。

 

 しかし、眷族を含めてタナトスは気付いていなかった。

 黒く揺れるローブが岩陰から見えていた事に。

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 その頃、ダンジョン100階層に居るナルヴィは頭上を見上げていた。

 無表情であるはずなのに、どこか切なさを噛み締めているようだった。 

 

 「(感じる...この感覚はきっとそう...)」

 「ナルヴィ。どうかな?...ナルヴィ?」

  

 呼ばれたのに気付くと、頭上から視線をティオナが立っている岩肌へ

 移す。

 そこには、美しい一輪の花が咲いていた。

 ティオナの画力を知る者からすれば、信じられない程の上達具合で

 あると誰もが思う程だ。

 だが、それだけではない。

 何万回も描き続けてきたティオナの精神力の強さの表われが伝わる

 ものだった。

 

 その証拠に、ティオナはナルヴィの感想を楽しげに待っていた。

 またダメ出しされる事を厭わないといった様子である。 

 それにナルヴィは確信した様に花の絵を見つめながら、ティオナに

 言った。

 

 「とっても良いよ。誰が見ても綺麗って言ってくれるはず。

  それに...ティオナの精神力も鍛えられたってわかるよ」

 「じゃあ、また...あの光に触らせてくれる?」 

 「その覚悟があるなら...やってみよっか。ティオナ」

 

 ティオナは真剣な眼差しを向けながら対面する。

 両手を胸の前に重ね、ナルヴィが何かを呟いていると、重ねている

 両手から加護となる力の源の真っ赤に輝く光が溢れてきた。

 

 最初に触れた際に味わった苦しみ。

 それをティオナは思い出していたが恐怖心は抱いていなかった。

 それも鍛えられた精神力の賜物だろう。

 そして、ゆっくり手を伸ばせば光に触れ、何かが全身を駆け巡る。

 

 全ての始まりは漆黒の闇から生まれた光。

 概念、空間、時、それらも光と共に生まれてきた。

 神々の手によってではない。誰の意思でもなくそれは生まれた。

 

 無限に広がり、渦巻く光と光が弾け合って更なる光が生まれた。

 光の欠片は別の欠片とぶつかり、またぶつかって粉々になると

 混ざり合う事で歪な赤い光となる。

 

 その赤い光に大小と大きさの異なる様々な光が長い年月もの間、

 降り注ぎ、次第に海で覆われる。

 

 太陽の光が届かない地下の奥深くで、シャボン玉の様な虹色の泡に

 小さな命が包まれた。

 それこそが生命の歴史の始まりである。

 

 小さな泡が1つとなり、その中で細く2本の糸が絡み合った。

 進化は続いていき、様々な個の有していった事で1つの生命が手と足を

 獲得。

 

 緑の大地へ踏み出す。

 それから幾度も訪れる過酷な環境変化に対応しながら更なる進化を

 遂げていき、哺乳類から霊長類に至った。

 

 霊長類の1つが2つの種に分かれ、その1つが現在にまで生存する

 6つの種族に分かれた人類の祖先となった。

 

1本の木が落雷によって焼かれ、人類の祖先は火を見つけ出した。

 その火を使い、灯された洞窟の中で絵を描いた。

 やがて、人類の祖先の画期的な進化は農業と牧畜を発明した事で

 驚異的な人口増加を促した。

 

 様々な文明や文化が始まり、その文明間で争いが繰り返されて人類の

 誰もが強さを求めた。

  力、知力、武器、未知なる概念として魔法を獲得するまでに。

 そんな人類は神という崇めるべき存在を認知する。

 

 次第に人類に勝る生物は居ないと思われていたのが、新たな脅威が

 生み出され、人類に危機が迫る。

 

 突如として大穴が開き、モンスターが誕生したのだ。

 人を襲い、食らい、殺戮する存在の出現により人々は恐れ慄いた。

 

 人類は知識を振り絞り、武器や道具を駆使して対抗していく。

 それでも人類は圧倒的な力の間に為す術が無く、追い込まれた。

 嘆き、諦め、世界の終わりを待つしかないと絶望していた。

 

 だが、どんな悲惨で残酷な運命に見舞われた時でも、万能の力を司る

 神に幾多の人類は救いを求める事はなかった。

 何故なら、絶望を自らの力で切り開くものだと信じていたからだ。

 そして、絶望を打ち砕く英雄が生まれた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...そっか...ずっと、ずっと昔から人は自分で強くなってきてたんだ...」

 「そうよ。今でこそ神の力に頼ってばかりだけど...

  古き時代の者達は己の力を信じて、戦い続けた」

 「すごいね...ん?...え?」

  

 ナルヴィに話しかけられたと思っていたティオナ。

 だが、声が違っていて、レイの声でもない事に気付くとその声の主を

 見るべく振り向く。

 

 そこに居たのはティオナと瓜二つの女性。

 服装以外の相違点としては大人びた雰囲気、長髪の結っている箇所、

 身長差、胸の膨らみ加減だった。

 

 「あ、あたし...?」

 「そう思っても仕方ないでしょうね...

  でも、違うわ。私は貴女ではない...とも言い切れないか」

 「ど、どういう事?...あっ、もしかして...」

 

 これまで見てきた人類の進化の過程から、ティオナはその正体を察して

 息を呑んだ。

 対してティオナと瓜二つの女性は細く笑みを浮かべる。

 

 「意外と察しが良いみたいね、ティオナ。

  そうよ、私は貴女の祖先...というより、前世の貴女よ」

 「やっぱり!?じゃ、じゃあ、名前は?名前は何て言うの?」

 「私はオルナティア・ラクリオス。オルナと言えば伝わるかしら」

 「オルナ?...語り部のオルナ!?古代三大詩人の!?あたしの前世が!?」

 「一々驚く必要ないでしょうに...

  まぁ、純粋な貴女だから仕方がないわね」

 

 剰りに驚き過ぎたせいで思考回路が停止しているティオナだったが、

 オルナに呼び掛けられてハッと我に返った。

 呆れた表情だったオルナだが、息を吐いてティオナを見詰めながら

 口を開く。

 

 「ティオナ。私が貴女の前に現われたのは...

  貴女が受け入れようとしている力を正しく使える様にするため。

  これから先も、強さを求め続けるのであれば...

  私を受け入れる覚悟を決めなさい」

 「受け入れるって...どうすれば良いの?」

 

 ティオナの問いかけにオルナが両手を差し出してきたので、その両手を

 握った。

 すると、握っていた両手から光が溢れてきて、2人の全身を包み込む。

 その光は熱くて苦しいものではなく、温かく優しいものだった。

 

 「この光には私の想い、記憶が込められているの。

  光をその身に宿す事で...私の全てを知る事が出来る。

  それが、私を受け入れた証となるわ。

  さっきも言ったけど、力を受け入れようしているなら相応の魂の器が必要になる。

  貴女はその力に耐えられるだけの肉体と精神力を既に手に入れている。

  後は、私を受け入れて...しっかりと自覚する事が大事よ。

  そして、力に溺れず、屈せず、飲み込まれる事もしない。

  それこそが、真の強さ。貴女の得るべきもの...」

 「...オルナが、消える事はないの...?」

 「大丈夫、消えたりなんかしない。ずっと貴女のそばに居るもの。

  だから...安心しなさい。ティオナ」

 「わかった。...じゃあ、オルナ。想いと記憶、受け取ってみるね」

 「ええ。でも、生半可に思わない事よ。

  しっかり受け取りなさい」

 

 ティオナは頷いて目を瞑ると、深呼吸をしてそれからオルナの手を

 より強く握り締め、心の内で呟いた。

 全てを受け入れる、と。

 

 「...っ」

 

 オルナから溢れ出た光がティオナの体へと伝わっていき、やがて

 全ての光が収束される。

 

 その瞬間にティオナの頭の中に膨大な量の記憶が流れ込む。

 それはオルナの生きた時代や世界、そこで起きた出来事など多岐に

 渡るものであった。

 

 その中でティオナの目に止まった記憶の一部。

 

 それは、ベルにそっくりな青年と過した日々の思い出。

 誰かなのかオルナに問いかける必要もない。

 何故なら、それが誰なのかわかるのだからだ。

 

 そして最後の最後までオルナの記憶を見続け、ティオナは瞑っていた

 目を開く。

 オルナの体が粒子となっていき、足元から消えていくのが見えた。

 

 「確かに預けたわよ、私の全てを...。

  託したからには大事にしてもらいたいわ」

 「...もちろん。ずっと...ずっと忘れたりなんかしないから」

 「...ありがとう。ティオナ」

 「こっちこそ、ありがとう...オルナ」

 

 2人は互いに微笑み合って、オルナの方から抱き締めてくると

 ティオナも抱き締め返した。

 そして、オルナの姿が消える。

 

 オルナの居なくなった場所を見詰めていたティオナだったが、不意に

 ティオナの視界が暗転したかと思えば、目の前に花の絵が描かれている

 岩場に変わる。

 

 ゴフ...

 

 「ティオナさン...?」

 「...ししょー、レイ、ナルヴィ...」

 

 呼び掛けられた方を見ると、キングコングとレイ、ナルヴィの姿が

 あった。

 

 レイはティオナの事を心配そうに見ており、キングコングとナルヴィは

 どこか嬉しそうに微笑みを浮かべている。

 

 ティオナは自身の右手を見詰めて、握り締めるとナルヴィに近寄ると

 再戦を申し入れた。

 しかし、ナルヴィは首を横に振って拒否するのにティオナは予想だに

 していなかったので驚く。

 

 「ティオナ、それはまた今度にしましょう。

  今、私の同胞が苦しんでいるの。だから、助けに行かないと」

 「ナルヴィの同胞って...精霊がダンジョンに居るの?」

 

 ナルヴィが頷こうとした時、背後から感じる気配に気付いてティオナは

 思わず身構えた。

 そこに居たのはフェルズだった。

 

 「あ...えっと、フェルズだっけ?レイやリド達から聞いたけど...」

 「ああ、そうだ。ティオナ・ヒリュテ、私の事を知っているなら率直に伝えよう」

 「え?何を?」

 

 首を傾げるティオナにフェルズは衝撃的な事態を告げる。

 

 「ロキ・ファミリアが襲撃されたようだ」

 「え...!?」




モノリスで進化した事したという没案もありました。

ところでオルナさんの胸ってあの服装でよくわからないですけど子孫同様にあんまりないですよね?

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