ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ 作:れいが
道中、様々な困難が待ち構えていたが、ロキ・ファミリアは遂に
59階層へ突入した。
情報通り、サラマンダー・ウールが無ければ一瞬して全身が
凍り付いて心停止する様な極寒地。
ラウルがくしゃみをすると、一瞬にして飛び散った唾液の飛沫が
氷の粒となってしまう程だった。
「ベート、アンタお腹冷やさないようにしなさいよ?」
「包帯巻いときますか?」
「要らねぇよ。つーか、お前に言われたかねぇな...」
自覚が無いのか首を傾げるティオネにフィンは苦笑いを
浮かべていたが、瞬時に顔を強張らせる。
親指の疼きがかつてない程に感じ取れたからだ。
その時、何かを見つけたレフィーヤが指を指しながら
叫んだ。
全員がその先を見ると、巨大な氷河湖の中に黒い影が
佇んでいるのがわかった。
それが何なのか確かめようと警戒しながらフィン達は近付いて
行った。
冷気による霧でよく見えないため、最初は単に盛り上がった
氷山だと思われていた。
しかし、30Mの距離まで近付いた所でその大きな黒い影が
動いたのを見てフィン達に緊張が走る。
「...!?。総員後退っ!」
フィンはすぐに戦闘準備の号令を掛けようとしたが、不意に
足元から聞こえてくる地鳴りを察知して咄嗟に後退する指示を
出した。
バゴオォオオオンッ!
フィンの指示通り、背後へ飛び退いた瞬間に地面を覆っていた
氷雪を突き破り、無数のヴィオラスが出現する。
ブ シャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア !!
「食人花!?どうしてここに...!?」
「それだけじゃないぞ...あそこだ!」
ド ド ド ド ド ド ド ドッ...!
クルスが見ている先からも群がるヴィルガが雪を土煙の様に
巻き上げながら迫って来ているのが見えた。
この異常事態の最中、アイズは黒い影が振り向いて自身を
見ている事に気付く。
アイズが訝っていると冷気の霧が晴れていき、その全貌が
明らかとなった。
「なっ...何だっていうのよ、アレ...!?」
「パワー・ブル...ではなさそうじゃな...」
巨体と見合った2本の角を持ち、首周りが体毛に覆われた
その姿はガレスの発言したパワー・ブルと酷似している。
但し、頭部には本来見られないものがあった。
それは、短髪の美しい女性の上半身だ。
「アリア...」
それに加えて言葉を発した。
以前にも聞いたその名前を言った事に驚き、レフィーヤは
アイズを見る。
そのアイズは瞳孔を開き、驚愕の余り足元が覚束なくなって
いた。
「ア、アイズさん?」
「...うそ...まさか...そんな...」
「...アイズ、あれが何か知っているのか?」
「...精霊...でも、でも違う...」
リヴェリアの問いかけに答えるアイズは今も尚、信じられず
動揺していた。
アイズの返答にリヴェリア達も驚愕して、フィンは精霊と
呼ばれた異形の怪物を凝視する。
「(精霊...けれど、アイズが違うと言っているのは...
あの下半身が理由なのか...?)」
「フィン!あそこに人が居るぞ!」
「!」
フィンが思考を巡らせていると今度は椿が、氷山の頂上から
見下ろしている人物を指して叫ぶ。
常人からすればその距離から顔を認識する事は不可能だが、
恩恵により肉体を強化された上級冒険者であれば視認する事は
可能なのだ。
そのため、動揺していたアイズも振り向き、その人物を見る事が
出来た。
見下ろしていたのは、レヴィスだった。
赤黒く禍々しい剣を携えており、以前とは異なる赤い装いを
している。
フィン、レフィーヤ、リヴェリアも顔を知っているため、
何故、ここに居るのか驚愕しているとレヴィスは高く
跳び上がった。
ロキ・ファミリアのメンバーが居る10M先に着地し、
立ち上がるとレヴィスはアイズを睨み付ける。
「やっと来たか、アリア。随分と待たせてくれる」
「...私はアリアじゃない。アリアは...私のお母さん」
「世迷い言を抜かすな。アリアに子がいるはずがない。
そうだ...など...」
「...え...?」
「...!」
レヴィスが呟いた最後の言葉をアイズとフィンだけが
聞き取れた。
リヴェリアとガレスはそれに気付き、問いかけようとするも
レヴィスが禍々しい剣を振るった際の音に阻まれる。
それと同時に、どこからともなく白装飾を纏ったイヴィルスの使者達が
ゾロゾロと姿を現わす。
ざっとその数は100人を超えており、全員の手には奇抜さが目立つ
刀身が捻れたナイフを持っている。
「イヴィルスの使者!?じゃが、何故こんな階層まで!?」
「...考えたくもないけど、ダンジョンの抜け穴を全て把握しているのかもしれないな」
「抜け穴...未開拓領域か...!」
リヴェリアが考察して答えると、フィンは頷いて肯定する。
イヴィルスの使者達がレヴィスの背後に並び立つと、レヴィスは
禍々しい剣を突き出した。
その切っ先は間違いなくアイズに向けられている。
「マリアは私が相手をする。残りの奴らを殺せ」
「ふん...同志よ!我らが悲願のため刃を突き立てっ!
愚か者どもに死を!!」
「死を!!」 「死を!!」 「死を!!」 「死を!!」
捻れたナイフを掲げてイヴィルスの使者達は声を揃えて
叫ぶ。
異様な光景を目にしてフィンは戦闘準備の号令を掛け、
役割分担を伝える。
ヴィルガやヴィオラスの対処をベートとレフィーヤが。
イヴィルスの使者は椿、ラウル、クルス、アリシア、ナルヴィが。
異形の怪物はガレス、リヴェリア、ティオネが。
そして、レヴィスにはフィンとアイズで挑む事にしようとした。
だが、その時アイズから待ったを掛けられてフィンは横目で
見ながらどうしたのかと問いかける。
「あの人は...私に任せて。もう負けたりはしないから」
「...それなら、アイズ。無茶かもしれないが...捕縛するんだ。
アリアについて...知っている情報を聞き出そう」
「...うん」
「全員、気を引き締めるんだっ!行くぞっ!!」
アイズが先陣を切ると、レヴィスも同時に攻め込んできた。
遅れてイヴィルスの勢力とロキ・ファミリアのメンバーも戦闘を
開始する。
レヴィスの斬撃を跳び上がって回避し、頭上から鋭い刺突を
繰り出しながら後方へ着地する。
着地の瞬間までお互いに背を向けていたが、同時に背後をアイズと
レヴィスは振り向いて得物をぶつけ合った。
ガキィッ!
火花が衝撃波で飛び散る中、アイズは力を込めて押し返そうとするも
レヴィスの足蹴りが迫って来るのに気付く。
その足に自身の左腕を乗せると、下半身のみを浮かせる様にして
仕返しとばかりにドロップキックでレヴィスを押し退けた。
そこから怒濤の追撃により、レヴィスは守りに徹した。
禍々しい剣で受け止める度に痺れる程の衝撃が走り、最後の
重い一撃により突き飛ばされたレヴィスは氷山へ叩き付けられる。
頭上から氷の欠片が降り注ぐ中、以前とは比べ物にならない
アイズの強さにある予感が過ぎった。
「お前...まさか...」
「貴女に負けたくなかった...それだけ」
そう答えたアイズに舌打ちをするレヴィス。
両手で禍々しい剣を構え直し、足元の氷雪を砕きながら
跳び上がった。
守りどころか回避すらも捨てた渾身の一撃を繰り出そうと
している。
アイズは一切その場から動かず、中段の構えのまま静かに
デスペレートの剣先を添わせ、振り下ろされてくる斬撃を
僅かにズラした。
ボ ギャッ...!
凄まじい突風が一面の積雪を吹き飛ばし、アイズとレヴィスの
姿を明確に晒した。
レヴィスの渾身の一撃はアイズのアーマーに掠ってもおらず、
一方でアイズの突き出したデスペレートの刃がレヴィスの頬に
一筋の裂傷を刻んでいた。
瞳孔を開き、信じられないといった表情のレヴィスにアイズは
自信を込めて短く述べた。
「風は使わない。私は...私自身の力を信じてるから
「...嘗めるなァッ!!」
目の前でピンが引き抜かれ、ラウルは咄嗟にイヴィルスの使者を
蹴飛ばした。
背中から地面に転がって数秒もしない内にイヴィルスの使者は
自身の体に巻き付けていた火炎石が爆発した事で絶命する。
構えていた盾を退かしたラウルは跡形も無く吹き飛ぶ死に様を
見て、過去の記憶が鮮明に蘇ってしまう。
急な吐き気に襲われてその場から動けなくなるが、そんな事など
お構いなしにイヴィルスの使者は再び自爆特攻を仕掛けてくる。
「怯むな!確実に仕留めろ!」
だが、ラウルに接近しようとしていたイヴィルスの使者をフィンが
薙ぎ払って事なきを得る。
椿も自爆させる前に刀で喉笛を掻っ捌き、ラウルと同様に蹴り付けて
爆発に巻き込まれない距離まで下がるといった戦法を取っていた。
「ナイフの使い方が碌になっていない。
自爆してこようが、その盾で防げば問題なかろう」
「椿の言う通りだ。さっきの対処は見事だったよ、ラウル」
「...は、はいっ!後方は団長と椿さんに!自分らは前方に集中するっす!」
「おう!」
「了解!」
「次期団長らしさ、ちょっとは出てきたわね!」
アリシアに言われ、照れ笑いを浮かべるラウル。
それにフィンは微笑んだが、それも一瞬だけだ。
イヴィルスの使者は前後左右から襲い掛かって来る上に
ベートとレフィーヤが対処しているヴィルガとヴィオラスとは
別の所から出現した個体も現れてきた。
しかし、フィンは異変に気付く。
しかし、異常な光景を目の当たりにしてフィンは眉間に皺を寄せた。
敵陣営であるはずのヴィオラスが通り掛かったイヴィルスの使者に
襲い掛かり、大口を開けて喰らい付いた。
血肉と骨が飛び散って人体の原型が無くなる程に貪り食われる。
「(見境なしに襲っている...つまり、そういう事か!)」
「フィン!この気色悪い花が食人花だな!?
何故に彼奴らを襲っているんだ!?」
「どうやら、あの時のテイマーの様な芸当が出来ないからだろうね。
...椿。敵の武器を使う事は卑怯な手だと思うかい?」
「む?...いや、武器は手にした者によって変わる。
それならば、お主の考えている思惑通りにするのも1つの手だろう」
「そう言ってもらえてよかったよ」
フィンはフォルテイア・スピアをローラン・スピアと一緒に
左手で持ってラウルの元へ駆け寄る。
その足音に気付いたラウルが振り返ったと同時に、フィンは
聞こえるように叫んだ。
「ラウル!魔剣を貸してくれ!」
「は、はいっす!」
「各自一箇所に集まって魔剣を用意するんだ!」
通り際にそう指示を出して、魔剣を受け取ったフィンは
頭上に掲げて魔力を収束させる。
それに反応して無数のヴィオラスはフィンに狙いを定めて
後を追いかけて行った。
追いかけて来るのを確認し、前方に居るイヴィルスの使者の
間をフィンがすり抜けて行くと、ヴィオラスはそのまま
イヴィルスの使者に衝突していき、次々と巻き添えにする。
更に他のイヴィルスの使者達へも突っ込んでいき、やがて
その行動パターンを見抜いたのか1人が近付いてくるフィンの
タイミングを見計らい自爆しようとした。
ところが、突然方向転換して自身から離れていくイヴィルスの使者は
呆然としたまま既にピンを引き抜いていたので無駄死にとなる。
イヴィルスの使者の数は半数以下まで激減し、頃合いと見たフィンは
ラウル達が指示通りに集まっている位置を確認する。
そうして、遠回りをして一直線に向かって行った。
向かって来るのに気付いたラウル達は魔剣を翳し、フィンが指示を
出すのを待つ。
そして、フィンが魔剣を頭上へ放り投げるとヴィオラスの群れが
その方へ向かって行った。
ギュオ ォ オ オ オ オ オ オ オッ!!
正確に狙いを定めると同時に魔剣から一斉に炎や雷が放たれ、ヴィオラスの
群れを跡形も無く焼き尽くす。
少し離れた所で立ち止まったフィンは作戦が成功したのを確認していると、
背後から一気に近付いて来る足音に気付いてフォルテイア・スピアを構える。
「フィィイインッ!!」
「ヴァレッタ・グレーデ...!」
ガギィイッ!!
血に染まった様な赤い剣を受け止め、フィンは力押しで弾き返した。