ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ 作:れいが
ロキ・ファミリアの遠征は59階層到達という形で終了となった。
イヴィルスの襲撃により負傷者は、その場で回復して大事には至っていないものの武器の損耗が大きかったためだ。
歯痒い思いもあるが、現在オラリオに存在する探索系ファミリアの中では最高記録を成し遂げたので、ひとまずは良しとするべきだろう。
...それ以外に不満と思う点があるとすれば、今、自分達が進んでいる未開拓領域かもしれない。
あれだけ苦労していた59階層までの道のりを安全且つ短時間で野営地としている50階層にまで戻る事が出来てしまった。
今後の遠征で恥を忍んでここをを使うべきか、冒険者としてのプライドを以て見なかった事にするべきか...フィンは一度、考えるのは後にする事とした。
見張りの団員がフィン達の姿を見つけ、大声で帰還を報せた。
すると、ロキ・ファミリアとヘファイストス・ファミリアの団員達は待ってましたと言わんばかりに作業を放棄して、フィン達を拍手と歓声で出迎える。
「お帰りなさい、団長。ラウル達も...無事に、ではなさそうですけど、戻ってきてよかったです」
「ありがとう、アキ。野営地の指揮、ご苦労だったね」
「いえ、そんな...あの、ところで後ろの3人...というか、モンスターが一緒なのはどういう事ですか?」
「...長い話になるから、後で詳しく説明するよ。まずは...予備の服を持って来てくれるかい?」
「は、はい。わかりました...」
興奮気味の団員達に指示を出してアナキティは野営地に残っていた団員達を下がらせる。
そうしてフィン達はそれぞれ休息を摂り、ひと段落した所で今回の到達階層、イヴィルスの襲撃について話し始める。
焚火を囲って、真剣な面持ちでアナキティや団員達は驚き、恐怖した。
まさかイヴィルスが深層にまで潜んでいるとは考えられなかったからだ。
しかも、特殊なモンスターを引き連れ、怪物と化した精霊という存在まで有している事にも。
そして...ロキ・ファミリア間の話し合いとなるため、ヘファイストス・ファミリアの面々は控えてもらう事にした。
「...それじゃあ、ティオナ...なんだね?僕らの知る限りでは、似ても似つかないと思ってしまうんだけど」
「あははっ...そうだよ、って言ってもやっぱり簡単には信じてもらえないかー」
「当たり前でしょうが。何よこれ?私より背伸びてるし髪の毛も長いし...胸まで大きいじゃないの。
何?団長を私から奪うためにこうなったっていうの?は?いい度胸してるじゃない」
対面するように座っているティオネは自身よりも大幅に成長したティオナの姿に嫉妬しているのか、後半から苛立ちを露わにしてる。
ティオネだけでなく、仲間だと思っていた一部の女性団員達も悔しそうにしているのは言うまでもない。
「おいティオネ。最後のは明らかにおかしいぞ。何故に1人でキレとるんじゃ...」
「まぁ、ともかく...本当にティオナと認識していいんだな?」
「うん。こうなったのも理由があるから...ちゃんと話すよ。でも、その前に...」
ティオナは隣に座っているレイとフェルズに視線を移した。
フェルズはそもそも表情を伺えないので、特にレイの方を見ている。
若干緊張している様子であるレイだが、ティオナの視線に気付くと口元を締めて頷く。
「紹介するね。この子はセイレーンのレイ。59階層で助けてもらった皆は覚えてるはずだけど...
レイはゼノスっていうモンスターの...えっと...」
「説明が難しいと思うので知性と心を持ち、言葉を話すモンスターと覚えてほしい」
「そういう事!レイはね、すっごく歌が上手で、すっごく優しくてお母さんみたいなんだよ!」
「ティ、ティオナさン、それは教えなくてもいいのでハ...」
その時点まで半信半疑だったアナキティ達は、思わず本当にレイが喋った事に驚く。
59階層へ潜っていた選抜メンバーも、知っていたとはいえやはり信じられない様子であった。
アイズやベートに至っては、妙な動きを見せればすぐにでも手と足を出す姿勢を取っている。
「それから、レイの隣に居るのはフェルズで...
あたしも今日が初対面だったから、自己紹介してもらっていい?」
「構わないよ...ロキ・ファミリアの諸君、初めまして。私の名はフェルズ。
嘗てからウラノスとレイの同胞であるゼノス達の協力者だ」
「ウラノスだと...?では、ギルドの差し金か?」
「リヴェリア・リヨス・アールヴ。私の存在はギルドも知り得ていない。
加えて、私は眷族ではないよ。まぁ...言うなれば右腕という存在だ。
彼が眷族を持たないというのは周知の事実のはずだろう?」
フェルズの言葉にリヴェリアは眉を顰め、訝しむ。
供述通りならそれまでだが、明らかに存在感が人のそれとは違う事を見抜いていたからだ。
しかし、今この場で自分が異議を唱えてしまえば自身を敬う同族達が何をしでかすのかわからないため、それ以上聞こうとはしなかった。
「先にゼノスの事について話した方がいいよね?そうしたら話もスムーズになると思うから」
「確かに一理ある。では、ロキ・ファミリアの諸君...心して聞く様に。
まだ公になっていないが、いずれ訪れる日まで内密にしてもらおう」
フェルズは最古のゼノスである、キングコングの誕生から話し始める。
3000年前、大穴の光も届かない奥深くで生まれ落ちた2匹のモンスター。
それがキングコングと、もう1体居た最古のゼノスだ。
どちらもまだ幼体でありながら、その凄まじい力と凶暴性から他のモンスター達に恐れられていた。
2匹は互いを仲間と認識しており、親が居ない中で生まれたためか...種族の垣根を越えて支え合っていたという。
やがて蓋がされると、大穴はまるで独自の進化を遂げるようにダンジョンとなった。
「そうして今から凡そ800年前から次々とゼノスが誕生した。
レイも、その内の1人であって私とは同い年ぐらいなんだ」
「え?レイとフェルズってそんなに長生きなの?全然年老いてないけど...」
「はイ。私だけでなく、リドやグロスも魔石を食べ続けている事で見た目も変わらず、寿命が延びているんでス」
「私は少し特殊であるため省かせてもらうよ」
なるほど、とすんなり納得するティオナ。しかし、その回答はその場に居る全員にとって驚愕に値する内容であった。
モンスターが魔石を喰らうと強化されるというのは知られているが、寿命が延びるなどというのは誰もが知らない事だったからだ。
尤も、上級冒険者もランクアップする事で全盛期の肉体を維持するために老化を遅らせる効果があるのだが...
フィンやリヴェリア達は訝しむ視線をフェルズに向ける。
だが、そんな視線など意に介さず話は続いた。
「私も話に聞いたぐらいだが...最古のゼノス達はある切っ掛けによって反発するようになったそうだ。
長寿として永遠に生き長らえるか、寿命を以て死せるべきという相互の食い違いによって。
前者はキングコング、後者はもう一方の最古のゼノスだ」
「うーむ、解せぬのう...
何故長く生きられる手段があるというのに、両者の考えが分かれたんじゃ?」
ガレスの質問にフェルズは、ふむ...と顎に手を当てて考える素振りを見せる。
その質問には同意見であるようで、何故反発したのかと首を傾げる一同。
すると、ティオナは何かに気付いた様にハッとなる。
「もしかして...死んだ後、またゼノスとして転生するから?」
「...その通りだ。生死を繰り返す我々人間と同じく、ダンジョンの中でモンスターも生死を繰り返す。
その中で変化したモンスターこそがゼノスだ。
最古のゼノス達が何故、生まれ落ちた時から知性と心を持っていたのかは見当もつかないが...」
「それはともかくとして...
ガレスの言ったように、何故後者は死を選んだというんだ?」
「私も君も長く生きていて、思う事はないだろうか?...もう、充分だと」
「っ...それは、無いと言えば嘘になるが...」
リヴェリアはフェルズの言葉に思い当たる節があるのか、否定を示さなかった。
それがどう関係するのかイマイチわからず、ティオネが問いかけようとする。
ところが、思わぬ人物が語り始める。
ティオナだ。領域を解放しているようで両目が青と緑のオッドアイとなっている。
「生きとし生けるもの全てには終わりを迎える。
死は生の一部であり、順番が来れば有無なく受け入れるしかない...
それが自然の摂理であって、その終わりを自ら迎える事が出来るなら、それってある意味祝福じゃないかな。
だから...キングコングししょーと対立したゼノスは生き物として、それを望んでたと思うよ」
彼女を知るその場の全員が思わず絶句し、納得してしまった。
遠い未来で訪れるであろう終わりを迎えたいと思う、老いた自分自身。
そんな考えを持つモンスターが居るという事自体、想像もしていなかった故に言葉が出なかったのだ。
「キングコングししょーはその真逆でずっと生きたい事を望んだに違いないよ。
生き続けて死んだら終わり、じゃなくて...生まれてきた本当の意味を真剣に考えたから。
あたし達が生まれてきた意味があるように、ゼノスが生まれた意味もちゃんとあるはずだって...
本当の所は聞いてないからわからないけど...きっとそうだと私は思うな」
「...アンタ、何か変な物食べた?それとも、何かに取り憑かれてるの?」
「んー、どっちも違うけど...
領域に踏み込んでから色んな事を考えられるようになったからかな?」
ティオネにそう答えるとオッドアイが両目とも琥珀色に戻る。
それと同時に雰囲気もいつもの彼女と変わらないものとなって、ロキ・ファミリアの面々は顔を見合わせて余計に頭が混乱しそうになる。
そんな中、ティオナの言っていた事は的を得ているとフィンは思った。
モンスターが何故生まれ落ちるのか...それは神以外に知り得ない事柄であり、学者の様々な憶測が飛び交っている程に謎だ。
そんな謎多き存在の中から更にイレギュラーが遥か昔より存在していたという事を踏まえてフィンは考える。
これまでの歴史上、モンスターは完全なる悪と位置付けられていた。
だからこそ、悪を倒した者は英雄となり、正義が勝ち、悪が滅びる物語が綴られてきた。
しかし、今、仲間の隣に座っているゼノスはどうだろう?
一部を除いて容姿は間違いなくモンスターであるが、ティオナと会話をし、笑みを浮かべて感情豊かに振る舞っている。
人間と同じ知性と心を持つモンスター。...否、或いは違う生き物ではないかという答えに導かれる。
「それから、どうなったんじゃ?その最古のゼノス達は分かり合えたのか?」
「...己の信念という王座を懸け、一騎討ちを挑んだ。
どちらも譲らぬ戦いが丸58年続き...決着はキングコングの勝利で幕を閉じたそうだ。
転生を受け入れていたゼノスは魔石をほとんど喰らわず、老体であったのが勝敗を分けたとされる」
「後で説明するけど...そのゼノスからドロップされた背鰭を武器にしたのが、これ。
キングコングししょーのはもっとでっかい斧を作ってたよ」
「随分と原始的に作ってると思ったら本当に原始的にだったのね...
というかアンタ、大双刀は...って聞くだけ野暮よね...」
両手で頭を抱えるティオネ、申し訳なさそうに謝るティオナ。
久方ぶりに見慣れた光景を目の当たりにしてフィンは苦笑を浮かべる。リヴェリアとガレスも同様だった。
すると、唐突にアイズが前に出て問いかけてきた。
「その...生まれてきた意味って...何かわかったの...?
「うん。これも聞いてないけど、ゼノスの皆が掲げてる目標だからね。
ゼノスが生まれてきた意味...それは、あたし達と一緒に外で生きる事だよ」
「...共存、という事か?人間とモンスターが...」
モンスターと人間の共存。
それは、テイムされたモンスターが人間に従うという括りではなく、モンスターが自分の意思で行動するという事になる。
そんな夢物語を成し遂げる可能性をゼノスは持っているのかと、フィンはそう思わずにはいられなかった。
尤も、アイズはそれ以前の問題で...デスペレートに手を掛けてしまっている。
「...ふざけないで」
「...アイズがモンスターを嫌ってる理由はわからないけど、ふざけてなんかないよ。
ゼノスには...レイにはあたし達と同じ心がある生き物なんだから、こうして話してる。
あたしがこうして無事でいられたのも...レイのおかげなんだよ?」
「っ...!でも!」
ティオナの言葉に強く反対しようとするアイズ。しかし、それをリヴェリアによって止められた。
フェルズはレイの安否を気遣い、前に出ようとしたがレイに止められて驚く。
周囲の団員達はティオナの言っている共存は正しいのか、アイズが思っているように間違っているのか判断が揺らいでいた。
フィンはこれ以上は収拾がつかなくなると思い、落ち着かせようとした時だった。
「私は共存を望みます。ティオナさんを信じていますし...
何より、助けていただいた恩を仇で返すなんて事はしたくありません」
アリシアは公然と、ティオナを支持すると全員が驚愕した。
モンスターを擁護する発言をするなんて思いもしなかったからだ。フィンもリヴェリアですら目を見開いている。
フェルズは顔が見えないためわからないが...
「...どうして...?モンスターは絶対に消さないといけないのに!どうして!?」
「アイズさん。こう考えてみてはいかがでしょうか?
モンスターはモンスター、ゼノスはゼノスという新たな種という位置付けにすればいいんです。
この2つは似て非なるもので決して混合してはならない。
そう考えれば...共存という理想も不可能ではないと思います」
アリシアはアイズを諭すように語りかけるが、それでも彼女は納得できない様子だった。
リヴェリアもアリシアの言葉は正当とは思い難いものの、一理あると感じており、難しい表情を浮かべている。
しかし、その時だった。ふとアイズが手に掛けていたデスペレートを離して力を抜きながら下がろうとした。
落ち着いたのかとは到底思えないリヴェリアだが、話し合おうと思わず肩を掴んでいた手の力を緩めた、その瞬間。
「おいリヴェリア!?」
ベートが叫んだ時には、アイズはデスペレートを鞘から引き抜き、レイに向かって行く。
しまった、と迂闊に離してしまったリヴェリアの蟀谷から冷や汗が流れ、アリシアとフェルズは慌ててアイズを止めようとするが...
遅かったようだ。
58年戦ってたのは、キンゴジからゴジコンが制作されるまで空いてた期間が由来。
魔石を食べたら長生きして逆に食べなかったら衰えてるっていうのはBLACK SUNの怪人の設定を拝借。