ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ   作:れいが

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 ̄、⊦>∟ ⊦ 信頼

 横一閃に振り抜かれようとする刃。 

 一瞬にしてレイの首に到達し、鮮血が溢れ出して...いなかった。

 寸前の所で止めたようである。

 

 もっと正しく言えば、ティオナがほんの少しだけ背鰭の武器を前に傾け、切っ先を受け止めていたのだ。

 しかし、不可解な事がある。それは...レイが全く微動だにせずにいた事だ。

 

 「...どうして、避けようとしなかったの...?」

 「私が貴女に敵意は無いト、わかってほしかったからでス」

 「死んでたかもしれないんだよ?」

 「...モンスターの憎しみヲ、私を最後として満足していただけたラ...それでもよかったのでス」

 

 レイはアイズに近寄って目の前に立つ。

 震える手のせいで、カチカチとデスペレートの刃と背鰭の武器が小刻みにぶつかって音を立てている。

 レフィーヤが駆け寄ろうとしているのを察したフィンは迂闊に動いてはいけないと、目を配らせて制止させる。

 

 レイが見据えるその金眼には怒り、恐怖、困惑、様々な感情が入り混じっているように見えた。

 そっと翼を見えるように翳すと羽を消していき、綺麗な腕へと変化させる。

 あり得ない光景を目の当たりにして、ふっと息を吞む空気が漂った。

 

 レイはその腕の先にある手を伸ばし、アイズの手に触れてデスペレートを降ろさせる。

 強引にではなく、ゆっくりと傷付けないように。ティオナも背鰭の武器を引いて一歩下がった。

 

 すると、途端に糸が切れたようにアイズは脱力して膝から崩れ落ちそうになるも、すぐにレイが抱き留めたおかげで倒れる事はなかった。

 殺すべき存在に触れられて、情けをかけられてアイズの思考はぐちゃぐちゃに掻き乱されていた。

 そんな彼女に対して、レイは優しく語り掛けるように言葉を紡ぐ。

 

 「貴女が私を殺さないと...信じまス。ですかラ、貴女も...私を信じてくださイ」

 「...無理だよ...そんな、こと...私にはっ...」

 「アイズ、さン。貴女はとても優しいと思ってます。

  私の首を刎ねようとしなかった...それが何よりの証ですヨ。

  ですかラ...貴女自身にもモ、優しくしてあげてくださイ」

 「...っ...!」

 

 レイの優しい言葉に思わず息を呑む。そして、アイズの瞳から大粒の涙が止めどなく溢れ出していた。 

 その瞳と同じぐらい美しい髪を撫でてあげながら、レイは慰めようとする。

 そんな光景を目の当たりにしてフィン達は何も言えず複雑な表情を浮かべているものの、どこか安堵しているようにも見えた。

 

 「ね、レイは優しいでしょ?だから...

  アイズ、ちょっとずつでもいいから信じてみよ?」

 「...うん...信じて...みる...

  ごめん、なさい...」

 「謝らなくてもいいですヨ。あの時はティオナさんが守ってくださると信じていましたから」

 「というかレイってそこらのモンスターより強いんだから躱してたと思うけどね」

 

 先程までの雰囲気を洗い流すような、能天気な笑い声を上げつつアイズとレイを同時に抱き締めるティオナ。

 レイはされるがままにティオナの豊満な胸に顔を埋められて、アイズは少し恥ずかしそうにしながらも受け入れていた。

 その様子を見て大丈夫だと認識すると肩の力を抜いて安堵する一同、ティオネは呆れたような表情を浮かべていた。

 それでも、やはり安堵しているのに変わりないようだった。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 アイズが落ち着いて緊迫した空気も無くなり、次の話に移る事となった。

 心配していたレフィーヤだったが、どこか角が取れた様にアイズは微笑んで大丈夫だよ、と言った。

 それを見てレフィーヤは、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。

 

 「それじゃあ...ちょっと長くなるけど、あたしが何をしてたのか話すね。

  どうしてレイと出会ったのかとか...」

 

 ティオネにとってはそれが本題であった。

 心配させた分、どこで何をしていたのかをはっきりと知りたかったからだ。

 フィン達も幹部という立場上、団員の事情にはある程度は把握しておかなければならない。

 そして、ティオナが語り出すのを全員が静かに待った。 

 

 「ティオネ達と別れてから、深層に向かってたんだけど途中で横穴を見つけて入ったの。

  そうしたら足元の穴に落ちちゃって、ゼノスが住んでる隠れ里に辿り着いたからレイ達と出会ったんだよ」

 「その横穴は僕らが通ってきたのと同じ未開拓領域なのかい?」

 「はイ。我々ゼノスはそこを住処としてダンジョンを行き来しているのでス」

 「最初はビックリしたけど...それと同じぐらいビックリした事があるんだよね」

 「何よ。もったいぶらずに話しなさい」

 

 早く続きを聞かせろと急かすティオネに、ティオナは苦笑いを浮かべながら話を続ける。

  

 「ネフテュス様が、こう赤い光で自分を映してる感じでそこに居て...

  ゼノスと協定を結んでるって聞かされたんだ」

 「...なんだって?」

 「そう、私も驚いたよ。魔道具制作には心得があるのだが実に素晴らしい発明品を」

 「僕が聞き返したのはそっちではなくて後半の部分だよ」 

 「ああ、そちらか...確かに協定を結んでいる。レイの歌を気に入ってもらえたおかげでね」

 

 フェルズの言葉にフィンは驚きよりも焦りと困惑を隠せなかった。

 当然である。ベートの一件があったのにも関わらず、今度はアイズがしでかした。

 協定を結んでいるとなれば報復を求められるのが当然である。

 

 つまり...今度こそ、ネフテュス・ファミリアが潰しにかかろうと危惧したからだ。

 

 アイズも自分のせいでファミリア存亡の危機に帳面するのだと顔が青ざめている。

 一方で隣に座っているレフィーヤや他の団員達も同様に。

 

 「話せばわかってくださる女神様ですかラ、心配はないと思いまス。

  私の行いも正しくはありませんでしたのデ...皆さんだけが気に病む必要はありませんヨ」

 「...そう言ってもらえただけでも救いに思えるよ、レイ。ありがとう。

  ただ...一度ならず二度まで失態を冒してしまった事には変わりないからには、覚悟は必要かな」

 「...ごめんなさい」

 「だ、大丈夫ですヨ。私もしっかりと事情をお話しますかラ」

 

 すっかり気力もなく落ち込んでしまったアイズを慰めようと慌てるレイ。

 こればかりは今ここでどうにかなるという話ではないため、気が気ではなくなっているもののティオナの話に戻る事とした。

 

 「ベートが悪口を言ったせいでネフテュス・ファミリアは関わらないって事になってるよね。 

  でも...私は条件を満たしていたから協力関係になってほしいって申言われたの」

 「その条件とはなんじゃ?」

 「ベ...捕食者と初めて出会った時、他のミノタウロスを倒して強いって認めてもらえてた事。

  だけど...あたしはそれがどうしても納得出来なくて、捕食者と勝負する事にしてもらったんだ」

 「...やっぱりアンタそういう事だったのね。で?大双刀をぶっ壊された挙句、ボコボコに負けたの?」

 「あははは...うん。スキルは発動してたけど全然力負けして...最後は首を絞められて気絶しちゃったみたい。

  あっ!でもちょっとだけこれで反撃は出来たよ!」

 

 ティオナは自慢気にコの字の物体を見せながらティオネに説明する。

 それを見たティオネはそんな武器を何時から持っていたのかと思ったが、ティオナがスキルを使ってでも勝てなかった捕食者の実力に改めて驚かされた。

 

 尚、同じくボコボコにされたベートは反撃したというそれが、期待外れもいい所だったのでフンっと鼻を鳴らした。

  

 「それにね、大双刀はもう作ってもらわなくてよくなったけど、ネフテュス様が頑張ったご褒美に払い終えてない分を肩代わりしてもらえる事になったんだよ?」

 「...億千ヴァリスをポンっとくれたの?」

 「うん」

 「...はぁ~~~~...」

 

 ティオネは額に手を当てながら盛大に溜息を吐いた。

 そんな大金を肩代わりしてくれる神に呆れ、同時にポンっと出してしまうネフテュスに戦慄したのだった。

 そもそもどうやって稼げばそれだけ手に入るのか...

 ティオナはああなっているティオネが次に言うのは苛立ちを含んだ愚痴なので、早々に次の経緯を話し始める。

 

 「それからキングコングししょーの所に行って、レイ達と話を通じて弟子入りしたの。レイ達が先だから私は5番目になるんだっけ?」

 「はイ、戦い方を教えてもらっていましたガ...とても大変でした...」

 「だよねー。とにかくししょーとの特訓はすっごくキツかったなぁ~。

  でも、だからこそ強くなれたんだし...まだまだ強くならないといけないんだけどね」

 「あ、あの怪物を倒すぐらいじゃ満足しないって言うんっすか...?」

 「だって、捕食者もあれぐらいなら倒せるもんね。もっと強くなって...今度こそ勝つよ」

 

 ティオナの目標はラウルが考えているものよりも遥かに上回るものだと気付かされる。

 他の団員達もそれを理解すると絶句してしまうしかなかった。

 

 精霊の成れの果てである怪物を倒せる程の強さを持ちながら、更にその上を目指すというのだから当然だ。

 

 「少し話が飛ぶけど今度はナルヴィに会ったんだ。そこに居るナルヴィじゃないよ?

  あの時、一緒に助けに来てくれた精霊のナルヴィだからね」

 「やはり...あれは精霊だったのか...」

 「で、ですが、どうして精霊がダンジョンの中に...?」

 「太古の昔、モンスターに敗れてしまったのだがキングコングが助けてくれたそうだ。

  助けた理由などは不明だが...精霊ナルヴィはその恩返しにとレイ達に言葉を教えたんだ」

 「精霊から言葉を教えてもらったなんて...とても名誉な事ですよレイさん!」

 

 アリシアは興奮気味にレイの手を取って、嬉しそうに握り締めた。

 戸惑いつつもレイはアリシアが自分に対して喜んでいると思い、頷いて微笑むのだった。

 

 ちなみにロキの眷族であるナルヴィは精霊と同じ名前だと知って恐縮するべきなのかと戸惑いを隠せないでいる。

 

 「まさかとは思うけど、ティオナ...アンタ、その精霊と戦り合ったって事ないわよね?」

 「ううん。全力でぶつかって、気が付いたら負けてたよ」

 「こんの馬鹿妹がぁあああああああああああああああああ!!」

 

 遂ぞ怒りが限界に達したティオネは立ち上がり、ティオナの脳天に拳骨を振り下ろす。

 

 だが、いつもなら鐘の音の如く響くはずの打撃音ではなく、何かが折れた音が響く。

 どうやらティオネの指から手の甲までが骨折したらしく、ティオネは悶絶してその場に蹲ってしまうのだった。

 

 幸いにも遠征出発前にアミッドから貰ったエリクサーですぐに治ったものの、ティオネは涙目で恨みがましい視線を妹送る。

 ティオナは必至に謝りながら許しを乞うという、今までに見られない光景にフィンは苦笑いを浮かべるしかなかった。




尚、デスペレの刃が当たってても掠り傷程度でした。
でもってやっぱりレイは皆のお母さん。

ポンっとの発音は「10万ドルPONっとくれたぜ」が適切。

海外の人では神様の名前をつける事はあると思うけど、神々が降臨してるダンまちの世界ではロキFのナルヴィみたいになるはず。
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