ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ 作:れいが
一週間と4日続いた修練もいよいよ大詰めとなった。
飲まず食わずの状態で戦い続けても全く疲労どころか隙さえも見せないエルダー様に、僕はある種尊敬より恐怖の念すら覚えていた。
僕は足元の土俵を強く蹴った後、右腕を大きく振りかぶってストレートを繰り出すがエルダー様はそれを躱しながら距離を詰めてくる。
それから僕の顔面目掛けて拳を振るってきたので左腕を突き出して受け流し、その腕を掴む。
投げ飛ばすという手もあるが...このまま距離を空けず、密着した状態で僕は膝蹴りでエルダー様の腹部を狙う。
当然、掴まれていない方の手で受け止められた。...だが、狙い通りだ。
片足立ちの体勢を保つために支えている足を素早くエルダー様の右脚に絡め、自身の体重を後方へかけながらエルダー様を押し倒す。
背中が土俵についた事で膝蹴りを叩き込もうとしていた曲げている膝が、その勢いによってエルダー様の鳩尾にめり込んだ。
手で防いでいるのに変わりないため僅かなダメージしか与えられなかったが...呻き声が微かに聞こえた。
まずは...一撃、当てる事が出来た。次は確実に...!
エルダー様の腕は掴んだまま、前に押すようにして体を捻らせると下半身を引き抜く。
膝立ちになり、自由に動けるようになった僕はエルダー様の側頭部目掛けてフックを繰り出した。
けれど上体を反らして躱された上にカウンターで膝を掴んでいた手による拳が胸部に叩き込まれる。
その反動で掴んでいた手を離してしまい、後転するように転がってからすぐさま立ち上がる。
エルダー様も立ち上がっていて4本の牙を開きながら闘争心を剥き出しにしていた。
やはり、この方は桁外れに...強い。
僕がどれだけ獲物を狩り続けても、覚醒という力を手に入れたとしても...敵わないと思い知らされる。
...それでも、挑むしかないんだ。エルダー様にまだ一撃も届いていないじゃないか。
だから今、この場では余計な事は考えるな。ただ、目の前の戦いに集中しろ。
技量も力量も...何もかもの差を考えるのは捨て、エルダー様の様に闘争心と本能に身を委ねるんだ。
目を瞑りながら呼吸を整え、神経を研ぎ澄ませる。
船内のコンピューター回路の作動音。ここには居ないヤウージャ達の気配。微かに揺れる空気の音。
そして...エルダー様の呼吸と...僕自身の呼吸...
...そうか。エルダー様は最初から僕の動きを、呼吸で把握していたんだ。
拳を突き出し振るう時も、素早く動いて死角を突こうとした時も...
それなら...僕もそうすれば、勝機を見出せるはずだ。
僕は目を開き、両腕を構えてジリジリと近付いて行く。すると、エルダー様は息を吐いて呼吸音が聞こえない程静かになった。
どうやら見抜かれたようだ。僕も呼吸を止め、エルダー様の動きを察知する事だけに集中する。
距離にして1Mは近付いている。拳を突き出せば顔面にも鳩尾にも届く距離だ。
どちらの呼吸音も聞こえない中、僕の耳に入ってきたのはお互いの鼓動だ。
...これが僕だけに聞こえているなら...
そう考え、僕は攻撃を仕掛ける動作を見せた。エルダー様はその動作に合わせて攻撃と防御の構えになり、前蹴りを繰り出してくる。
回避しつつも聞こえてくる鼓動を把握し、僕は即座に膝蹴りを繰り出した。
エルダー様がそれを防御するのと同時に、息を吐き出して肺に空気を送り込む。
その瞬間にエルダー様は肘打ちを受け止めている脚に叩き込んで体勢を崩させた。...いや、僕が攻撃を繰り出せる体勢とさせてくれた。
防御していない...今だっ!
「ヴオ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!」
バギィイッ!!
曲げている膝を伸ばしながら、全身のバネを総動員させてエルダー様の顔目掛けて右拳を全力で振り抜いた。
手応えはあった。正真正銘、一撃が届いたんだ。
並大抵の相手ならこれで地に伏せるが...相手はあのエルダー様だ。
案の定、数歩だけ蹌踉めいただけで留まっていた。
僕はすぐに構え直し、エルダー様が態勢を整えるのをじっと待つ。
...しかし、エルダー様は掌を見せて構えを解けと言った。
「W'err donwe, you've grownw so much, you're nwo ronwger Younwgbrood.
Y'ou have acquyled the powel anwd status befyttynwg a readel.
I'f you ale nwow...you wyll be abre to read youl cranw members」
...カカカカカカ...
勿体なきお言葉を受け、僕は眉間に拳を当てながら感謝の意を込めて鳴き声を出す。
そうして、僕とエルダー様は装備を身に付け直すと我が主神の元へ向かった。
玉座に座って待っていらした我が主神の前に跪き、準備が整った事をお伝えした。
「それじゃあ、私はアストレアとバベルに行ってアポロンを処罰しに行ってくるから...
そうね、せっかくの盛り上がるイベントになるのだからマザー・シップで向かって?」
...つまり、オラリオの住人に僕らの存在を知らしめる時が来たんだ。
エルダー様は先に立ち会がるとマントを翻して操舵室へ向かう。
僕も立ち上がって自室に戻り、使用する装備の最終チェックを行う事にした。