ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ 作:れいが
>∟ ⊦ 領域
「...っ...?」
「あっ...!ティオナさん、大丈夫ですカ?」
「...レイ?」
体を起こしたティオナは辺りを見渡して、そこが洞窟であると気付く。
自分が敷かれている葉っぱの上に寝かされていた事にも。
「(あれ?何があったんだっけ...?)」
記憶が曖昧になっている、ティオナがそう思っていると洞窟の入口から
誰かが入って来るのに気付く。
ナルヴィだ。あの時の様な異形の姿ではなく、最初に出会った時と
同じ姿となっている。
「起きた?大丈夫?」
「え?あ、う、うん。大丈夫だけど...
あたし、ナルヴィと勝負をしてたよね?それで...あ、そっか...」
「そう、ちょっと力加減を誤っちゃって...ごめんね?」
「...ううん。始まってからすぐに敵わないってわかってたから」
開始してから僅か5分も経過しない内に、ティオナはその圧倒的な
力の差に打ち負けたのだ。
神の分身である精霊の力を侮ってなどいなかったが、あんなにまで
吹き飛ばされるなんて、と思い返す。
しかし、ふと自身の体を見て違和感を覚えた。
どこにも傷跡が無い。それどこか洗ったかの様に綺麗となっている。
加えて疲労感も一切せず、体力が戻っているように思えた。
「もしかして、ナルヴィが治してくれたの?」
「うん。傷の手当てはお手の物だからね」
「かなり傷が酷かったのデ、ティオナさんが死んでしまうと思ってしまいましタ...」
「あはは...まぁ、あたしも途中から勝てないってわかったから、守りに入って正解だったのかもね」
――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらくしてティオナは洞窟から出ると、軽やかなフットワークで
鋭く突き出した拳打が空を切った。
体長面にも支障はないようで、これならすぐにでも動けると確信する。
しかし、ナルヴィから話があると言われて聴く事にした。
キングコングはどこかへ行っているらしく、その場には居なかった。
「ティオナ、私見として...貴女はとっても強いよ。
私の魔法を何回も耐えたんだから、それだけでもすごいと思う。
だけど...やっぱり使える力の限界を超えるのが難しいみたいだね」
「力の限界...?」
「恩恵のおかげで基本的な力は底上げされるけど、本当はもっとすごい力が人間にはあるんだよ?
他の動物には無い...人間だけに宿っている力が。
それを物にしたら、神々も知り得ない人間の可能性を超える事が出来るんだよ」
ナルヴィの言葉にティオナは疑う余地など無かった。
何故ならその目で目撃して鮮明に覚えているからだ。
「(あの時、ネフテュス様も人間の可能性を超えたって言ってたけど...
どういう意味なんだろ?)」
「ナルヴィ、超える事が出来たら斬り落とされた腕をくっ付けたり、すごい力持ちになるの?」
「うん。だけど、最も重要な真価は精神かな。
精神は人間の何もかもにとって必要不可欠で、可能性を超えた人間の精神は無限となってティオナが言った通りの事が可能になるよ。
...もしかして、見た事あるの?」
「...うん、実はね...」
ティオナはベルの事について自分が知る限りの事を話した。
話を聞いている内にナルヴィは口元に手を当て、首を傾げ始める。
「どうかしたの?」
「うーん...その子は思いっきりイレギュラーな方法で超えたんだなぁって思っただけだよ。
だって、私が話してた事は神の恩恵を授かった前提だったから...
ちょっとビックリしちゃった」
「...そう、なんだ...」
「...ティオナさン?」
俯いたティオナを見て、レイは心配そうに見つめる。
やはりベルと再戦を挑んでも今のままでは一生勝てない。
何度挑んだとしても結果は同じままだと、ティオナの頭の中は
そんな考えでいっぱいになっていた。
「(だけど...逃げたりなんてしない。
ベルに気持ちを伝えるんだって決めたんだからっ)」
それなら...と、ナルヴィに問いかける。
「ナルヴィ。あたしも...あたしも可能性を超えたい。
どうすれば超えられるの?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ナルヴィはその瞳に迷いは全く無いと理解し、徐に両手を胸の前に
重ねた。
唇を僅かに動かして何かを呟いていると重ねている両手から光が
溢れてくる。
驚くティオナとレイを余所にナルヴィはその光を手で包み込みながら
前に出し、手を広げてそれを見せた。
真っ赤に発光しており、まるで炎の様な揺らめきが見える光。
ティオナとレイはそれに釘付けになっていた。
「これは精霊が人間に与える加護となる力の源。
ティオナ、触ってみて?」
ナルヴィはに言われ、ティオナはその光に触れる。
その途端に全身を何かが駆け巡った。
但し何も感じない。熱くも冷たくも、痺れや空気抵抗で肌に何かを
感じるといった具体的なものでもない。
光に触れてから数秒もしない内に、ティオナは素早く手を離して
しまった。
激しく動いたかの様に息を荒くしつつ全身から汗を流しており、
見開かれた瞳は焦点が定まっておらず、揺れ動いている。
更には両方の鼻腔から鼻血が垂れ始める。
「んっぐ、ぁぅ...!」
「ティオナさン!?」
その場に蹲るティオナにレイは背中を擦りながら安否を気遣う。
一方でナルヴィは構わず、話し始めた。
「人間の可能性を超える...つまりは神智を超越した精神の領域へ辿り着かないといけない。
この力の源に触れる事で、貴女はその領域に少しだけ踏み込めたの」
「っ...こんな...っ、こんな...苦しいなんて...」
「そう。ティオナは耐えるのでやっとだけど、並みの冒険者ならとっくに魂の抜けた人形になってる所だよ。
ベルは死を克服して...その領域に辿り着いたんだと思うな」
ナルヴィの予想にティオナは何も言えなかった。
ベルは常識を覆して強くなったのだと頭では理解しているつもりだが、
どうすればそんな事が出来るのかが理解出来なかった。
死ぬ時は必ず死ぬ。それが普通だと思っていた事も含めて。
「ティオナ。精神を強くしましょう?
そうすれば...可能性を超える事が出来るはずだから」
「...うん。今すぐに始めよ」
ティオナは鼻血を手の甲で拭い、立ち上がってナルヴィと向き合った。
付いてくるように言われ、ティオナはレイと共にどこかへと向かうの
だった。
ここからが本編です。