ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうかⅡ 作:れいが
『戦闘終了ぉぉお~~~~!今回の戦争遊戯の勝者はネフテュス・ファミリアだぁ~~~っ!
多勢に無勢と思われていましたが...なんと僅か1時間弱で100人近くの敵を倒してしまうとは!
正に圧倒的な力!これほどまでに強いファミリアが存在していたのに驚きを隠せません!』
オラリオ中で大金を手に入れられたという歓声と反対に大金を失う絶叫がそこかしこから響き渡った。
当然と言えば当然だろう。3日間も姿を現さず、このままアポロン・ファミリアの不戦勝になると誰もが思っていたからだ。
加えてイブリが興奮気味に伝えている通り、見応えのある戦いを見せてくれたネフテュス・ファミリアに対する称賛も含めているように思える。
但し、20人がそう思っている中で5人は困惑している。言わずとも、ダフネの変貌やルアーノが顔の皮を剥いだ事への反応だろう。
ギルドでも隣で大はしゃぎしているミィシャを余所に、この後何が起きるのかわかっているためエイナも浮かれない表情となっている。
しかし、それ以外の人々は全く気にせず思い思いに賭け金を受け取ったり自棄酒を煽って後悔するのだった。
「ちくしょう!いきなりツキが落ちるなんてあんまりだろぉ~~!」
「まぁ、賭けなんてのはそういうもんだ。遠慮なくいただいていくぜ」
「終わった後、喧嘩を売るなという約束を忘れたなどと言わせないぞ」
「ぐぅ...!とっとと持ってけ!おい姉ちゃん!酒持ってこい!」
はーい、と語尾に音符が付いていそうな返事をするシルに続いて、リューも相次ぐ酒の注文に安堵する暇もなく動き始めた。
戦争遊戯の勝敗は酒場にとって最も稼ぎ時にもなる。そのため、豊穣の女主人で働くシル達も忙しなくなるのだ。
大金の入った袋をライラ達はそれぞれ手にすると、顔を見合わせて笑い合った。
一方、リリルカも大金を手にする事となったのだが...それよりも頭の中はルアーノの事でいっぱいになっている。
尤もアポロン・ファミリアはともかく、自分自身まで騙していた事への怒りとも悲しみとも言えない感情が込み上げてきた。
すぐにでもルアーノに会って話したいと思うものの...無理なのはわかっていた。やり切れない思いで頭の中が白くなり始めた時、ヘスティアに声を掛けられる。
「リリ君!すごいじゃないか!エスペル君じゃないや、...ルアーノ君があんなにも強かったなんて!」
「...そう、ですね。リリも驚いています...」
ヘスティアにそう応えるリリルカは少し引き攣った笑みを浮かべていた。
今考えても仕方がない、明日必ず会って話そうと心に決めてルアーノを見つめる。
イブリとガネーシャが締めの言葉で終わろうとしたすると、頭をペコペコと下げながらメモ用紙を手渡すエイナの様子が映った。
『えぇー、それではこれにて実況も...ん?え?
...あ、まだ続きがあるそうですので、皆さん少々お待ちください!』
続きがある、という今までにない展開に冒険者や一般市民がザワついている頃、アポロンは顔面蒼白のまま尋常でない汗を流していた。
それを見て煽るような事を神々は一切しなかった。自業自得でしかないのもあるが、何よりもとばっちりを受けたくないからだ。
僅かに声を漏らしながら、アポロンはどうすれば今の現状から逃れられるのか必死に考える。
しかし、背後から感じる冷気に身の毛がよだつ。息を殺して、ゆっくり振り向くと...微笑んでいるネフテュスが立っていた。
思わず悲鳴を上げてアポロンは階段から足を踏み外し、一番下まで転がり落ちてしまう。
「ふふ...そんなに怖がって、どうしたのかしら?アポロン」
「ま、ま、ま、待ってくれ、ネフテュス。わ、私は本気でお前の事を愛しているから」
「しー...」
少しだけ尖らせた唇に人差し指を添えながら吐息を零すようにしてアポロンを黙らせるネフテュス。
薄ら笑みを浮かべていた口が下へ垂れ下がり、端から唾液を垂らして恐怖に慄くその姿は狼に狙われている子羊そのものだった。
そんなアポロンの様子を見つめながら、ネフテュスは1歩前に出てどこからか取り出した羊皮紙を指で弾き、ヒラヒラと羽ペンと一緒にアポロンの目の前に落とした。
「それに署名しなさい」
「こ、これは何だ...?二度と近寄るなと言う契約書か?そ、そんな冷たいじゃないか、ネフテュス」
「それに署名しなさい。ね?」
三度目の返答は無いと言った声色で署名を求めるネフテュスに、言い逃れはできないとアポロンは歯を食いしばって乱雑に自身の神名を書く。
書き終えると、怒りの形相を浮かべながらネフテュスに何か言おうとした瞬間...突風が吹き荒れて羊皮紙が上空へと舞っていった。
アポロンは自らを守ろうと手で顔を隠して、突風が止むと恐る恐る手を下ろす。
...ボトッ... ボトボトッ...
背後から、何か粘液質な物が落ちてくる不気味な音。その音の最後にグジュとまた違った音が聞こえてきた。
それが足音だとアポロンは察知し、振り返ると...そこに立っていたのは裸足の男だった。
紳士のようなスーツとズボンを白色に統一しているが、眉の無い顔や手などから肌まで真っ白だとわかる。
足も靴を履いていないため、白いのだと思われるが真っ黒なタールを滴らせており床を汚していた。
アポロンだけでなく神々の誰もが、その男のただならぬ気配に息を呑んだ。
「あら、ルー。随分と早くきたのね」
「やぁ~、ネフテュ~ス。あぁぁ~ネフテュス...
お前の頼みなら...いつでも来てやると言っただろう?んふふふふ」
「そうみたいね」
ルーと呼ばれる男は段差に座って小さく拍手をしながら、タールまみれの足も動かしてベチャベチャと鳴らす。
その様子にネフテュスも笑みを浮かべているものの、決して近寄ろうとする気はないのが伺えた。
ネフテュスがその男と親し気に話しているのを見て、神々は一体誰なのかと幾神かで集まりヒソヒソと話す。
あんな神が天界に居たとなれば一度は見覚えがあるし何より噂が広まっているはずなのだが、誰も知らない様子だった。
そんな中、しびれを切らしたロキが数歩離れた距離でネフテュスに問いかける。
「あの、ネフテュス先輩?こいつは...」
「あら...もしかして皆、彼とは初対面かしら...?」
「そないですね。うちも知らん神やさかい...」
「はっ...俺のどこをどうみて神って決めつけてるんだ?まな板の女神様よ」
ビキッと青筋を立てるロキだが、ネフテュスの手前反論する事はしなかった。
何とか深呼吸をして怒りを鎮めるとネフテュスが名前を明かした。その名前を聞き、普段から糸目のロキが目を見開いて心底恐怖しただろう。
「彼の名前はルシファー。またの名を地獄の王、サタンね」
「よろしく~、クソッタレの神々共」
映画「コンスタンティン」に出てくる今は亡き野沢那智さんバージョンのルシファーです。
エンドオブデイズのサタンも捨てがたいんですが、やっぱりあのビジュアルで飄々とした風格が最高なんです。