玉木空我の家の裏にある古びた家。そこに空我は友達を誘い、肝試しをすることに。
 当日、最初こそ怖がる空我。しかし千夏のせいで怖くなくなってしまった。
 すると千夏は【開かずのカギ】という話を切りだした。
 直後、霊に襲われて逆に退治してやると空我は意気込む。しかし正体は心春だった。
 一緒に空我を怖がらせるためと千夏が暴露。帰ろうとしてカギを落としたことに気づく。
 カギを発見すると小さな扉を発見する。空我は自分では行けないからと、心春に行かせようとするが、今日もう遅いと終わった。
 次の日、空我たちは再び古びた家にやってきた。今度こそ心春に行かせる。しかし、何事もなく帰ってきた。
 家を出て母親から古びた家の真相を聞く。安心する空我だったが、三人で見た小さな扉は無いと母親に断言される。怖い話の続きを語り聞かせる母親。
 そして心春は自分のせいで霊に憑りつかれたのだと、空我と千夏は悟ってしまった。

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開かずのカギ

 恐怖は油断したその隙にやってくるらしいが、俺はそんなの感じねぇ。

 いると思うから怖いだけなんだ。テケテケとか花子さんとか、話しを知る前はなんか怖いなぁ程度で済む!

 けど怖い話ってなんかついつい調べたくなる魅力があるんだよな。もちろん俺も。

 だからこそ――

 

「俺ん家の裏手にすげぇボロ家があるだろ?」

 

 外でセミが騒ぐ小学校の教室。放課後、俺は妹の心春を連れて、友達たちを集めていた。

 俺の右隣、女子の千夏がすぐ反応した。

 

「入るなって言われてる、あの」

「うちのかーちゃん土曜になったらいつも入るんだぜ。ぜってぇ何かある」

 

 入るなっていうくせに自分は入るとか。怪しいだろ。

 あれはきっと、何か隠している。俺の勘がそう囁く!

 

「けどカギかかっているんだよね」

「それがおにいちゃん。お母さんの後をつけたみたいで」

 

 心春の言う通り、俺はそのカギを回して見せた。

 これでも苦労したんだぜ。

 でもそんなのでこの玉木《たまき》空我《くうが》様が止められるかっての。

 

「肝試しに行こうぜ! ちょうど夏休みだしさ」

 

 なんで入るなって言われているのか。

 ただ調べるだけじゃつまらないから肝試しってわけだ。

 

  *  *  *

 

 気にならない程度の小雨が降る肝試し当日。

 

「なんでお前だけなんだよ!」

「こっちが聞きたいわ!」

 

 千夏しか来なかった。

 あいつら普段は必ず付き合ってくれんのに。こういう時は度胸ねぇな。

 

「心春ちゃんは?」

「かーちゃんに怒られたくないってさ」

 

 一緒に行こうぜって無理に誘ったら、カーちゃんにチクるって。迷惑かけたくないーってよ。

 

「空我と二人きりか……。心春ちゃん来ると思ったのに」

 

 こいつ。

 ゴロゴロと空が鳴り始める。しかもざあざあぶりになってきやがった。なのに千夏の奴、呑気にスマホなんか弄ってやがる。

 俺は手に入れたカギを鍵穴に近づけ、カチャンと解錠音が響いた。

 ぎぃぃと脆い音を立てて扉が開く。ボロ家の中は暗く、そして静かだ。

 

「なに、ビビってんの?」

「ビ、ビビってねぇよ!」

 

 歩くたびに足先から軋む音が伝わる。腐った木の臭い。部屋の隅にはクモがうじゃうじゃと歩いている。

 持ってきた懐中電灯の光は非常に頼りなかった。

 ミシッ……、ミシッ……。

 何かの視線を感じて振り返るが誰もいない。隣の千夏が不思議そうに見てくる。

 パキッ!

 俺はすぐに音の鳴る方に光を向けた。

 ……でも何もいない。音が鳴りそうな物もない。暴れる心臓を無理やり抑える。

 

「こ、怖かったらいつでも俺に掴まっていいんだぜ」

「じゃ遠慮なく」

「首は止めろ!」

「うわひどっ! 掴まっていいって言ったのに!」

 

 口喧嘩をしていると、窓外からの光が俺と千夏の影を作り出す。遅れて雷が響く。

 

「キャ」

 

 千夏が俺の腕に飛びついた。

 

「ビビってんじゃん」

「違うし。幽霊が見えたからだし」

「は、はぁ? 馬鹿なこというなよ」

 

 パンッ!

 

「うわっ!」

 

 千夏が手を合わせてた。しかもにやにや笑っていやがる!

 

「はいビビったぁ!」

「千夏ぅ!」

 

 そんな風にして互いにふざけ合いながらも、俺達は部屋を周っていく。

 って、千夏の奴なんかスマホ弄ってるし。

 

「何だよ。ぜんっ、ぜん怖くねぇ」

 

 振り返っても何も見えない。出てきたら俺が撃退してやるのによ。

 

「じゃあさ、こんな話があるんだけど」

「なんだよ」

「【開かずのカギ】」

「知らねぇな。そんな話」

 

 千夏がニヤリと笑った。

 

「幽霊の話しをしていると、霊が自分を救うカギだって思いこんじゃうの」

 

 いやそんな明るい口調で言われても。怖くねぇし。

 

「でさ。彼らは石や木とかに姿を変えるんだって」

「何のためにだよ」

「見つけてもらうために」

 

 千夏が不気味な笑みを漏らした。

 ……ピトッ。

 何かが俺の背中を触った。

 それは手だった。

 遅れて冷たい風が俺の背中をなぞる! 

 クソッ! やられるくらいならこっちからやってやる!

 俺は振り返り、霊の正体を殴ろうとして――、

 

「空我!」

 

 千夏が俺の名を叫んだ。なんだよ今っ!

 

「心春だよ!」

 

 ……心春?

 視線を下ろすと、しゃがんで泣いている心春がいた。

 

「なんでいんだよ。怒られたくないって」

 

 唖然とする俺を置いて千夏が口を開いた。

 

「いつも威張ってばっかだから、少しは怖い目を見せようって心春と計画してたんだよ」

 

 心春が食い気味に頷いた。

 

「うん、いつも巻き込むから」

 

 心春に見せてもらったスマホ。そこには確かに千夏の指示が書いてあった。

 

「お前ら!」

 

 千夏と心春は手を合わせて謝ってくる。

 結局、この家には何もなかったのか。マジかよ。

 ボロ家の玄関まで来ると、千夏が自分のポケットを漁りだし、驚きの声を出す。

 

「……カギ落とした」

「はぁ? いつだよ」

「多分、空我に抱き着いた時かな」

 

 もじもじと視線を逸らして千夏が言う。

 

「じゃ、探しに行くぞ」

「いいの?」

「ばれたら俺も怒られんだよ」

 

 俺たちは千夏に抱き着かれた場所に行くと、確かに黄色いカギが落ちてあった。

 千夏はしゃがんでカギに手を伸ばすと、「あれ何?」と声を漏らした。

 その場所に明りを照らすと、小さな扉が見えた。暗かったから見落としていたのか。

 俺はドアノブに手をやる。カギがかかっている。

 千夏もやってみるが開かなかった。最後に心春がドアノブに手をやると、カチャンという解錠音がした。

 開けた先に暗い道が続いていた。

 俺じゃ頭がぶつかり入れそうにない。

 

「もしかして霊が化けた姿かもよ?」

 

 千夏がここぞとばかりに言う。

 

「面白れぇ。誰か入れそうか?」

 

 俺の言葉に千夏が身体をねじ込もうとするが無理だった。

 次に心春がやると……、ギリ入り込めた。

 

「心春」

「ヤダヤダ暗いし怖いもん!」

「俺だけ脅かされんのは不公平だろ! 行けっ!」

「ヤダヤダ‼」

 

 何度も行けと命令する俺の肩を、千夏が強く叩いた。

 

「何だよいてぇな!」

「今日は暗いんだから、明日の放課後でいいでしょ!」

「今の方がふいんき出るだろ!」

 

 言い合いをする俺と千夏。事態は心春が泣き出す始末となり、あえなく俺が折れることとなった。

 

「じゃあ明日な。今日は解散!」

 

 不服さを前面に出して手を叩く俺。今日はこれで肝試しは終わったのだった。

 

  *  *  *

 

 学校終わりの放課後。

 

「ねぇ……、本当にやるの?」

 

 昨日の小さな扉の前に、俺と千夏、心春は集合していた。

 心春はしばらく駄々をこねていたが、このままだとかーちゃんが帰ってくると言い聞かせると、入ることにしたようだ。

 やっぱりひとりで行かせるのは可哀そうだと、千夏は何度も入ろうとしたけどダメだった。

 ってか、俺は可哀そうじゃないのな。

 心春が奥に進んでいった。

 最初こそ力のない鼻歌が聞こえたが、途中から何も聞こえなくなった。

 声をかけても返事はない。隣で千夏が「大丈夫かな、大丈夫かな」と心配して止まない。

 空はそろそろ夕暮れを過ぎようと行ったところだった。

 心春が戻ってきた。

 千夏は出てきた心春をすぐに抱き締める。そして何度も「ごめん、ごめんね」と謝罪の言葉を口にしていた。

 俺には蹴りを入れながら。

 心春からも、ただ一言、「ごめん」という言葉だけが帰ってきた。

 そしてボロ家を抜けだすと、俺たちを待っていたのはかーちゃんだった。

 

「入るなって言ったでしょ!」

 

 パンッ!

 鬼の形相と化したかーちゃんにビンタされた音が高らかに響いた。

 けどすぐに、「良かった」と涙を流して俺たちを抱き締める。

 なんだか悪いことをしたなって気分でいっぱいになった。

 

「この家。母さんとお父さん、おじいちゃんとおばあちゃんが住んでいた家なの。けどみんな亡くなっちゃって」

 

 帰り道。かーちゃんはそんなことを言っていた。

 

「ボロボロになって。それでも思い出を忘れられなくて。本当は教えなかったこっちこそ謝るべきなのに」

 

 いつ崩れてもおかしくないから、今度こそもう二度と入らない様にとくぎを刺された。

 

「今回は深く反省する。私のせいで、心春に怖い思いさせちゃったし」

「怖い思いってどんな?」

 

 千夏は頭を下げると、なぜか興味深そうに聞いてくるかーちゃん。

 

「千夏も入れないくらいちっちぇ道があってよ。そこに心春が入ったんだ」

「入らせたの間違いでしょ! バカ」

 

 というか今回千夏は完全に無傷だからな。しかもスマホでかーちゃん呼んで。

 俺と心春だけが被害食って。

 

「おかしいわね。あの家にそんな扉はないはずだけど」

「はぁ? あったんだよ!」

「冗談じゃなく、あの家にそんな扉はないわ。第一、玄関以外の扉は撤去したはずだもの」

 

 パキンと世界にひびが入った気がした。

 恐らくそれは、千夏も一緒。固まっている。千夏と俺は顔を見合わせていた。

 

「そういえば霊が自分を救うカギって思い込む話は確か……」

「それ、【開かずのカギ】よね。かなり有名だったのよ」

 

 どういうことだよ。何を言っているのかさっぱりわかんねぇ。分かんねぇよ。

 

「千夏!」

「ごめん。く、空我を怖がらせようと、怪談で検索しただけで」

 

 頭が真っ白になっていくのを感じていた。

 かーちゃんが得意げに開いてほしくない口を開く。

 

「子どもにしか見えず、開けられないのよね」

 

 もう聞きたくなかった。もう知りたくなかった。なのに俺の口は意思に反した。

 

「……それで」

「その場のいる最年少の子どもしか入れないの。好奇心旺盛で、まだ個を確立できていないから」

 

 そしてかーちゃんは、俺たちにとって何よりも呪いの言葉を口にした。

 

「必ず憑りつけるように」

 

 夏の夕暮れ風が、俺の体を冷やしていく。

 千夏と俺は一言もしゃべらずにいた。かーちゃんは無視して笑う。

 

「といっても、母さんがまだ子ども。まだ学校が木造の頃の話しよ」

 

 ふと、後ろから視線を感じたような気がした。

 世界から音と色が消える。

 振り返りたくなかった。けど俺の身体は勝手に動く。

 

「そんなつもりじゃ……。私、そんなつもりじゃ」

 

 千夏は膝からがっくりと崩れ落ちた。それは俺も同じだった。

 笑うように立っていた心春は、明らかにいつもと違う邪悪な笑みを浮かべていて。

 そして、ゆっくりと口を動かしてこう言った。

 

「おれのカギになってくれてありがとう」


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